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1・演技と憑依 3ヶ月前の2月17日、 イ・ビョンホン主演の「甘い人生」を観た。 それが私のイ・ビョンホンとの出会い……。 柏のツタヤへ行ったとき韓国映画コーナーで見て、 謳い文句はラブ・ストーリーだったが、 ジャケットが私の好きなアクション映画のようだったので借りたのだ。 ただし初めてイ・ビョンホンの映画を観たのは「JSA」。 3、4年前のことで、そのときは映画全体に感動して、 ことさらイ・ビョンホンに注目するということはなかった。 物語は多少荒唐無稽なところもあったが、 静謐さの中に暴力を秘めたイ・ビョンホンの演技にすっかり魅了された。 好きになると徹底して観ないと気がすまない性質なので、 わりと短期間の間にとりあえず手に入る作品は観て短文を書いてきた。 といっても新鮮さを保つため、間にほかの映画を観たりしながらだが……。 おかげで、イ・ビョンホン・ファンからブログのカウントを稼ぐためだろう、なんてコメントもあったりして、 「はあ?」とマジ目が丸くなったりしたが……(笑)。 キム・ギドクは徹底して芸術を志向する監督である。 それに比してイ・ビョンホン出演の映画は どちらかというとエンターテイメント系の作品が多く、 うまくいっているとは思えないものも中にはあったが、 俳優イ・ビョンホンに関するかぎりいつも堪能できた。 改めて私が言う必要などないだろうが、 ほんとうにすばらしい俳優だとおもう。 私の俳優にたいする最大の賞賛は「きれいだ」という言葉だが、 スクリーンの中に立つ(イタの上に立つ)イ・ビョンホンの姿は ほんとうにきれいなのである。 一点の打算も曇りもない……。 つねに全身全霊で物語を、映画を生きている……。 映画、演劇、俳優が好きな私は なによりもかれのそうした姿にひどくこころうたれ、こころ洗われるのだ。 イ・ビョンホン・ファンの多くが私と似た想いではないかと思っているが……。 そこでイ・ビョンホンへの返礼の意を込めて、 その演技とカリスマ性の秘密について私なりにすこし書き留めておきたい。 急がば回れなので、俳優とはなにかについてすこし触れる。 俳優の起源は「巫」(みこ)にあるといわれている。 ミコとは巫女のことだが、男性のミコもいるので、ここでは「巫」と書く。 巫とは、折口信夫的な言い方をすれば、 神への諮問者であり、どうじに託神者である。 「二重身」者である……。 村が災いにあったとする。 と、村人たちは、村の外にいる異装した巫を村に招き、 災いにあった理由を知ろうとする。 招かれた巫は村人に代わって「祭壇」へ、神の降りる場所へと上がり、 神(自然神)にお伺いをたて、神の声を聞く(諮問者)。 あとで述べる「イタコ」の例でいえば、神を祭壇に「口寄せ」するのだ。 そして自分が聞いた神の声を、 こんどは神に代わって祭壇の上からじかに村人たちに伝える。 「神語」を、災いにあった理由を村人たちに物語ってきかせるのである。 その場合、巫は神に憑依され、神の声を発したと考えられている。 つまり神そのものとして語りはじめたのだ(託神者)。 これはいまふうに言えば神に憑依された状態……、 「狐憑き」あるいは「神がかり」的な状態ということになる。 折口信夫によれば、その神のことばは、「村人が平穏無事に暮らせるように」とか、 「農作物が豊かであるように」とか、村人の願いをそのまま表したお決まりのことばだったという。 そうなるのは、神はとうぜん村人の願いを知っていなければならないからだと考えられる。 巫のそうしたあり方はいまの俳優にも痕跡を残している。 観客は俳優にこうあってほしいとこころの片隅で願っている。 そう願うのは村人同様、自分がそうあることができないからだが、 そのため現在でも俳優は、観客(村人)の願いを実現せざるをえないところがある。 観客の願望や期待の実現を完全に切り捨てることはできないのだ。 また俳優がそれを実現してくれるので、観客はそうあることができない自分を 「補償」することができるのだ。 お決まりの物語なのに、「水戸黄門」などが好まれたりするのはそのせいである。 巫のそうした名残りはいまも たとえば下北半島・恐山の「イタコ」等にみられる。 イタコはまず客(村人)に誰を、どの死者を、 あるいはどの行方不明者を呼び寄せたいのかと尋ねる。 そしてその死者や行方不明者についての情報を客から得たのち、 呪文(祭文)を唱える。 死者や行方不明者を「口寄せ」するのだ。 と、やがてそのイタコに死者や行方不明者の霊が降りる。 死者や行方不明者の霊に憑依されるのだ。 そして自らが口寄せした死者・行方不明者となり、 客とじかに話をはじめる……。 「憑依」に疑いをもつひとも多いかもしれない。実際、私も以前は半信半疑だったが、 知り合いの女性が目の前で突然、男性に憑依され、うわごとのように、低い、震えるような唸り声で 喋りはじめたのを目撃したことがある。それも数回にわたって。 憑依が解けたあと彼女に聞くと……、 憑依されていても自分の意識はある、別の人間(魂、霊)に憑依されていることもわかっている、 でも自分ではどうすることもできない、 憑依した人間が自分の口を通してしゃべったことばも覚えている、姿形も見えて覚えている、 ということだった。 そこで私は、そのことばを思い出させ、メモさせ、憑依した男性の顔・姿形をスケッチさせた。 はじめ彼女はその人物にはまるで覚えがない、と言っていたが、数回の憑依と、 メモ・スケッチを繰り返したのち、彼女に憑依した男性がだれか判明した。 二十数年会っていない、彼女の小学校時代の友人だった。 この現象をどう考えたらよいのか、私なりの考えはあるが、 以来、人間には時としてこうした「憑依」現象が起こりうると私は確信している。 巫のそうしたありようが、 そのまま俳優のありようであることは誰もが容易に想像がつく。 俳優はまず台本を読む。 作者のことばを聞くのである。 ちょうど巫が神のことばを聞いたように……。 そしてそのことばに、書かれた物語に憑依され、 客(村人)たちの前で自らが(物語の人物として)語りはじめるのだ。 ちょうど巫が村人に神語を自ら語りはじめたように……。 「イタコ」が呼び出してほしい人間の情報を客から聞き出すのは、 得た情報によってその人物の物語を自分でまず書き(台本を書き)、 その書かれた物語、あるいは人物に憑依され、自らがその人物として客とじかに話をするためだ。 その意味ではイタコは作家であり、演出家であり、同時に俳優なのである。 イ・ビョンホンは間違いなく、 こうした巫的な資質を誰よりも深く秘めた稀有な俳優のひとりである。 すこし言いかえると、 憑依とは、書かれた物語(フィクション)を、 この現実を生きるのと同じように、リアルに生きるということである。 そしてその能力は人間なら誰だって備えている……。 たとえば、いい映画を観ると私たちは それは創りもの(フィクション)であるにもかかわらず、 いまほんとうに眼前で出来事が起きているかのように、 その出来事をいま目撃しているかのように観ている。 あるいは俳優をやったことがあるひとは、 自分たちがやっているのは物語(フィクション)であるにもかかわらず、 稽古を重ねるにしたがって、その物語を この現実を生きるのとおなじように生きはじめていることを 多少なりとも体験したはずだ。 それが憑依現象だと考えるとわかりやすい。 人間にはほんらいそうした憑依能力が備わっている。 ふだんは忘れているが、この現実もじつは創りもの(虚構)である。 その虚構を人間はたしかなものであるかのように生きているのだ。 そこが人間と動物の決定的な違いである。動物は自然の中でそのまま生きることができる。 しかし人間は自然に手を加えることでしか、自然を加工する(フィクション化する)ことでしか 生きていけないのだ。 人間が文化を生きるとはそのことを指している。 ただイ・ビョンホンの場合、 その憑依能力が私たちと違い、格段に秀でているのである。 私の知っている俳優で、その憑依能力が並外れていたのは木内みどりさんだ。 ほとんどの俳優は書かれた物語に憑依するのに、それ相当の稽古期間を要する。 稽古を重ねるにしたがって少しずつ劇世界にからだが入っていくのである。 しかし木内みどりさんはほんとうに短時間に、ほとんど瞬時にと言っていいほど、 書かれた人物や物語に憑依できる女優なのである。少なくとも私とやる時はそうだった。 ただその代償として、と言うべきなのだろうか、 こちら側の現実へ戻るのに相当時間もかかったように思う。 かれは「BRAVE L.B.H 」の中で示唆的なことを語っている。 「(時々)自分は誰だろうと考えてしまう」 「自分の性格を聞かれたら、昔は答えられたが、 いまは素の自分に戻っているときに聞かれたら答えに詰まってしまう」 「自意識がありすぎると他の人物になりきるのがむつかしくなる」 これらのことばは言うまでもなく、 かれが新しい物語を演じるたびに、その物語や 自分の役(人物)に憑依されていることを物語っている。 俳優にとってシナリオを読む時間はとても大切だ、 ほかの仕事の片手間に読むのはやめたほうがいい、とも語っているが、 かれがシナリオを読む時間を徹底して大切にするのは、 その物語や自分の役(人物)に憑依するためである。 そのことばから想像すると、たぶん 部屋に閉じこもったり、自分に閉じこもったりしながら、 いいかえるとこの現実をシャットアウトすることによって、 シナリオの物語世界や人物に自分の心身を、全身を入れていっているのだ。 この現実を生きるのと同じように、その劇世界や人物を生きようとしているのだ。 結果、「素」に戻った時の自分がいったい何者なのか、 自分でも混乱してよくわからなくなる……。 すこし言いかえると、 フィクションであるシナリオの物語世界のほうが、 かれにとってはすでにより生々しい現実となってしまい、 「素」に戻ったときに取り囲んでいる現実のほうが 色褪せてかんじられてしまっているのである……。 かれはその戸惑いを伝えようとしているのだ。 いい俳優、憑依能力の強い俳優ほど、こうしたことはよく起こる。 仕事が終わり日常生活に戻ると、そうした俳優はしばしば魂の抜け殻のようになる。 そしてそのことが図らずも かれの憑依の深度を物語っているようにおもう……。 イ・ビョンホン・ファンが、 「千の顔」をもつ男だとかれに驚嘆するのもそのせいだ。 つねに演じる物語や人物、場面に即して憑依している状態なのだから、 物語の数だけ、人物や場面の数だけ、かれは「顔」をもつことになる……。 しかし、ここまでは誰にでもわかる。 問題はたぶんその先だ。 (2に続く) ---------------------------------------------------------- ●みやさん お読みいただいてありがとうございます。 ●アマポーラ 「俳優になる方法」をお読みいただいたそうですが、 ブログでしょうか? それとも単行本でしょうか……? 「巫論」は単行本のほうに書いていることなのですが……。 ●yorumuさん よい俳優が仕事が終わったとたん、しばらく魂の抜け殻になってしまうのは 仕方がないとおもいます。ということは、それほど仕事をしているときは 充実感があったということですが……。 映画と写真集の撮影はまったく別物だと考えたほうがいいと思うのですが……。 ●cyogori33さん お読みいただいてありがとうございます。 ●ゆう お読みいただいてありがとうございます。 ●ライラック お読みいただいてありがとうございます。 ●うすゆき草さん 岩下志麻さんが? そうですか。私のほうが遅かったですね……(笑)。 ●youkoさん 仕事をしているときは俳優に限らず誰もが辛いんじゃないでしょうか(笑)。 ただいい仕事をすればそのぶん喜びは100倍にも1000倍にもなって 返ってくるわけで……(笑) ●つばきさん イ・ビョンホン映画のファンはけっこう目が高いんじゃないでしょうかね(笑)。 ●アジアの瞳さん きれいというのは見える姿形のことじゃありません。 心がきれいだということです。その心が舞台(映画)の立ち姿に よく表れている……、ということです。 ●スクリーンさん いつもコメントありがとうございます。 ●lee_milkyさん エドはるみですか(笑)。 この際ですから「そうよ」とお答えになるのも……(笑)。 ●risamarieさん サロンでは、音楽の話をお聞きするの忘れてました。 ●ポプラさん キム・ジウン監督、理詰めの面白さがわかってないのかな……?(笑) ●スクリーンさん ブログでも、読んでいただければとりあえずいいのではないかと……(笑)。 ●hisuさん 二つとも今年公開されるんですね? 公開日が決まったら教えていただけるとありがたいのですが……(笑)。 本業と仕事が忙しくてなかなか映画情報を見る時間もなくて……。 ありがとうございました。 |
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| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
山崎様おはようございます。 |
みや 2008/05/12 07:54 |
山崎さん、おはようございます。 |
アマポーラ 2008/05/12 09:11 |
山崎 哲様 |
yorumu 2008/05/12 09:59 |
すみません、続きです。 |
yorumu 2008/05/12 10:00 |
山崎様 |
cyogori33 2008/05/12 10:23 |
山崎さん こんにちは |
ゆう 2008/05/12 12:24 |
山崎さん、こんにちは。 |
ライラック 2008/05/12 13:38 |
(続きです) |
ライラック 2008/05/12 13:39 |
山崎さんこんにちは!! |
うすゆき草 2008/05/12 14:05 |
山崎さん こんにちは |
youko 2008/05/12 16:33 |
山崎様 |
つばき 2008/05/12 17:29 |
山崎さん、こんばんは。 |
アジアの瞳 2008/05/12 23:48 |
山崎様 |
スクリーン 2008/05/13 00:04 |
キャ〜、山崎さん♪ |
lee_milky 2008/05/13 00:07 |
山崎さん、遅ればせながら、今晩は。 |
risamarie 2008/05/13 20:46 |
山崎様 はじめまして。 |
ポプラ 2008/05/14 01:24 |
山崎様 こんばんは |
スクリーン 2008/05/16 23:24 |
続きです。 |
スクリーン 2008/05/16 23:26 |
山崎さん、初めまして。 |
hisu 2009/01/07 00:20 |
続き・・・ |
hisu 2009/01/07 01:03 |
続き・・・ |
hisu 2009/01/07 01:10 |
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