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zoom RSS 噂の女_2 (1954) 日本

<<   作成日時 : 2016/01/24 12:25   >>

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[1194]溝口健二と田中絹代がコンビを組んだ最後の作品は絶品だよ(^^♪

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馴染みの客に呼ばれて階下へ降りると
病に斃れた太夫・薄雲の妹の姿があった。
「千代子さん、よう来たわね。元気?」
雪子が声を掛けると千代子は頭を下げて頼んだ。
「お嬢さん、やっぱりここへ置いて貰いに参りました。
どうぞ、太夫さんにして下さい。そうして貰わんと
もう父ちゃんの病気も治す事ができないんです」

若女将の顔が曇った。
「ちょっと待ってて頂戴。お話は後で聞きますからね」
雪子はそう言い残して座敷へと向かう。

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身支度を整えた太夫たちが現れた。
ある者たちは二階の座敷へ、ある者たちは他の座敷へと
今夜も向かう。
その姿を眺める少女・千代子は、
まだ何も知らなかった頃の初子であり、雪子である。

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太夫たちは千代子に気づいて声をかける。
「まあ、お千代ちゃんやないか。よう出て来なはったな。
京都見物か」「父ちゃんの病気どうえ」
「おおきに。ここへ置いて貰うようお願いに来たんです。
皆さんたちからもよう頼んで下さい」
「そんな事止めておき」 叱る声が飛んだ。

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「わてらみたいな者、いつになったらないようになるんやろ」
呟きを残して彼女たちは井筒屋の玄関を出、
呼ばれた座敷へと向かった。

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物語は母初子と娘雪子を軸に描かれて行くのだが、
最後はその後景にあった遊女たちが前面に現れて幕を閉じる。

漱石「道草」の主人公・健三は
「この世に解決できるものなど何一つありゃしない」と
吐いたが、その健三の言葉が私の中に蘇ってきた(^^♪

溝口は初め川口松太郎のこの原作が気に喰わなかった。
小学時代の同級生・川口が「俺だって溝口のものだと思うから
忙しい中書いているんだ」と言うと、溝口は
「しかし、あなたは世界的文豪じゃないでしょう」などと
例によっていかにも溝口らしい暴言を吐いたらしいが、

さては溝口、盟友・川口の凡作に我慢がならず、
戦友・依田義賢らと一緒になって名作に仕上げたな。
自分が世界的監督である事を立証するために。
と私は妄想したくなる(笑)。

舞台を井筒屋1本に絞ったのも良かった。
他は北白河と能楽堂のみで物語の集中が巧く行っている。
人物も郭の世界以外には「千代子」のみ。
表の世界からやって来たこの少女が郭=裏の世界を
実に鮮やかに浮上させる事になる。

そうした舞台構成の下に宮川一夫のカメラがまあ、
冴えること冴えること。
ずいぶん久しぶりに観たのだが、こんなに凄かったっけと
改めて驚いたよ(^^♪

例によって溝口演出の基本は1シーン1カットだが、
いつもと少し違ってカメラのパンが少なめで
フィックス(固定)に徹している。

溝口がパンを多用するのは「絵巻物」のように撮りたい
からのようだが、フィックスの方が、
そこにモノがあり、人間がある事がよく分かる。
そのぶんスタッフの創造力、俳優の演技力が問われる訳だが、
俳優・スタッフ共々その要求によく応えている。
早い話、全員の力が見事に溶け合って名作になった!
という事かな(^^♪

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田中絹代について一言。
私同様、映画大好きの蓮見重彦はこう書いている。

「これまた青二才のくせによくそんな態度がとれたと
思うのですが、国際的な評価の高まりにもかかわらず、
自分は1950年代の溝口健二の作品に心から
のめりこむことができないと広言していた時期があります。
理由は、溝口健二が何度か主演女優として迎えた
田中絹代という女優が、ミスキャストのように思えて
ならなかったからです。

勿論、『西鶴一代女』(1952)の彼女は文句なしに素晴らしい。
だが、『お遊さま』(1951)でも、『武蔵野夫人』(1951)でも、
『噂の女』(1954)でも、田中絹代の存在が、年齢的にも、
また演技の質において、どうもしっくりこない。
『山椒太夫』(1954)の最後にフランスの監督たちが
熱狂していたときも、彼らには田中絹代の訛のある台詞まわしが
わからないからだといい続けていました」と。

註) 「あなたに映画を愛しているとは言わせない 山田五十鈴讃」

蓮見さんは山田五十鈴をベタ誉めしたい余りに
田中絹代をダシにしている訳だが、オッと蓮見さん、
あなたは田中絹代の良さがまったく分かってないよ。
それで私は映画を分かっていると思ったら大間違いだよ、
と私はこの際、天下の蓮見さんにはっきり言っておきたい(^^♪

蓮見さんは、田中絹代はいつも物語上の役の人物と
違和感があると言っている訳である。
演技的にどう観ても下手だ。
比してと山田五十鈴の何と巧い事かと。

さすが蓮見さんは良く観ている。そして正しい。
が、その正しさは実に凡庸なる正しさで間違っている(^^♪

一言で言うと、
蓮見さんが観たがっているのは「芸」なのである。
芸の上から行くと確かに山田五十鈴は巧いし、
田中絹代はお世辞にも巧いとは言えない。むしろ下手である。
どこまでも素人臭いと言っても良い。

だが私が田中絹代に観たがっているのは
芸なんかじゃありゃしない。田中絹代という人間なのである。
芸などどう足掻いても決して巧くやれない田中絹代という人間。

これも一言で言うが、
人間は所詮、何事も決して巧くやれない。
「神」ではないのだから。
決して巧くやる事が出来ないから人間は絶望し、
全知全能の神を発明し、何事にも限界的な自分を
補償して貰おうとして来たのである。

田中絹代はそうした人間を実に見事に表現している。
いつも決して巧く芸を、演技をやれない事によって。
永遠に素人である事によって。
私が田中絹代に求め、そしていつも観たがっているのは
それなのである。

また田中絹代はそれを表現できるからこそ私は
田中絹代は何と巧いのだろうと誉め称えてきたのだ。
言っておくが、芸の巧い山田五十鈴にはそれがない。
巧すぎるが故に人間としての感動も田中絹代より薄い。

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溝口健二も生きていれば私と同じ事を言ったと
私は確信している。溝口が俳優に求めたのは芸でなく
人間だったからである。物語を、出来事を人間として
リアルに生きる事だったからである。
田中絹代にはそれが出来た。
いつも決して巧くやる事が出来ずに必死にやる人だった。
その田中絹代に溝口は人間を見、自分を見、
そうして田中絹代を心底愛したのである(^^♪

もう少し言っておけば、
田中絹代は山田五十鈴と違って映画や映画の世界に対して、
あるいは他人やこの現実に対して馴染めない自分を
抱えていたのである。異和感を抱え込んでいた。

その事は田中絹代が終生を「--で御座います」といった
言葉を他人に対して使っていた事、
清水宏と同居生活をするも二年で別れ、
その後一生独身を通した事などからも容易に想像できる。

経歴からしてその異和感はすでに幼少期に育まれただろう
と私は思っているが。

ともあれ私たちは何故時に、
巧い俳優より何故下手な俳優に思い入れをしたりするのか
考えた方が良い。

最後にもうひとつ。
溝口はこの作品を最後に田中絹代と組んでいない。
この後4本の作品を撮る訳だが、新藤兼人によればどうも、
田中絹代が監督を始めたのが気に喰わなかったようだ。
何故か。監督などやられると自分の手元にいつも
置いておけなかったかららしい(笑)。

子供・溝口、わが師唐十郎とそっくりである(^^♪


※「噂の女_1」
※「噂の女_2」


■83分 日本 ドラマ
監督 ................  溝口健二
脚本 ................  依田義賢 成沢昌茂
撮影 ................  宮川一夫
音楽 ................  黛敏郎
美術 ................  水谷浩
装置 ................  山本卯一郎

出演
馬淵初子 ................  田中絹代
的場謙三 ................  大谷友右衛門
馬淵雪子 ................  久我美子
原田安市 ................  進藤英太郎
お咲 ..........................  浪花千栄子
千代 .........................  峰幸子
桐生太夫 ................  阿井三千子
薄雲太夫 ................  橘公子
美車太夫 ................  小柳圭子
玉琴太夫 ................  若杉曜子
如月太夫 ................  長谷川照容
尾上太夫 ................  大美輝子

京都の祇園と並ぶ花街・島原を舞台に、一人の男をめぐって複雑に絡み合う母と娘の情念を描く。夫亡き後、女手ひとつで島原唯一の置屋とお茶屋を兼ねた井筒屋を経営する初子の一人娘・雪子が、恋人に婚約を破棄され自殺をはかる。初子は、将来結婚したいと思っている医師・的場に雪子の診察を頼むが、このことが雪子と的場が親しくなるきっかけとなり…。田中絹代の溝口作品最後の出演作。

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