父ありき (1942)

[048] 小津映画の中で私がもっとも好きな作品、と言ってもいいかなあ……。

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よく言われることだけど、
小津の物語作りのいちばんの特徴はやっぱり、
進行する物語にできるだけさざなみを立てないようにする、
ということなんだろうな。

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わかりやすく言えば、
物語をけしてドラマチックには作らない、
人と人との対立や葛藤は描かない、描いても最小限にする、
出来事はみんなひたすらに「淡々と」描くということ。

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この作品でいうと、
修学旅行中に教え子がボートに乗って死んだり、
それに責任を感じて先生を辞職したり、
信州に帰ったり、東京に出たりなんてのは、
ほんとうはものすごく劇的なことなはずなんだけど、
けしてそういうふうには撮らない。

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ラストの父・周平(笠智衆)の臨終のシーンですらそう。
死ぬことが、もう、川で釣りをするのとほとんど同じ
みたいな感じでしか描かない。

同じことなんだけど、
小津はけして人間のいやなところ、見たくないところも描かない。
その意味では恐ろしく
人間をイノセントに描きつづけた作家……。

この作品もそう。
いや、この作品がそれをたぶんいちばん徹底してやってて、
それで私もいちばん好きなのかもしれない。

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でも、なんでそんな創り方したんだろう?

それが小津の資質に合ってるからだ
と言えばまあそうなんだろうけど、
物語をドラマチックにしたり、
人間のいやなところを撮ったりすると(描いたりすると)、
「写真が乱れる」と思ってたんじゃないかなあ……、
と私は疑ってる。

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この映画でいうと、それがいちばんはっきり表れてるのは、
金沢の家、信州の家、東京の家と、場面は変わるはずなんだけど、
もうどこもまったく同じ室内、同じ構図。
(もちろん若干は違えてその差異を表現してはいるんだけど)
違ってるのは、室内の向こうの様子だけ。

寄宿舎や温泉宿までほとんど同じで、
もうほんとびっくりして卒倒しちゃいたいくらいなんだけど、
そうすることで映画全体の写真作りが
ものすごく安定したものになってるんだよなあ。

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ところで笠智衆。
日本の俳優の中で私がいちばん好きな俳優なんだけど、
いいよなあ。ほんといい。いつ観ても痺れる。
このとき38歳くらい? すげえよなあ。

本人によると、
「私は下手だから、セリフはいつも
小津さんに口移しさせられた」というんだけど、
あの熊本弁がすこし残った
訥々(とつとつ)とした喋りかたにゾクゾクしちゃうんだよね。

昔の言い方すれば、
典型的な「下手うま」ってやつなんだろうけど、
でも下手だからいいんだよ。

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あの「下手さ」が、
人間はけしてうまく喋れない存在なんだ、
うまく喋れないのが人間なんだ、神様じゃないんだからさ。
という真実?を見事に表現してみせるんだよね。
ほんと、そこがたまらなくいい。

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戦前の小津映画を支えた坂本武も大好き。
ああ、ぜひ観てください。
あの顔と体型から漂うペーソスはもう
マンガでも絶対描けませんから…。

■94分 日本 ドラマ
監督: 小津安二郎
脚本: 池田忠雄 柳井隆雄 小津安二郎
撮影: 厚田雄治
美術監督: 浜田辰雄
衣裳: 斎藤耐三
編集: 浜村義康
音楽: 彩木暁一
音響効果: 斎藤六三郎
出演
笠智衆 堀川周平
佐野周二 良平
津田晴彦 少年時代
佐分利信 黒川保太郎
坂本武 平田真琴
水戸光子 ふみ
大塚正義 清一
日守新一 内田実
西村青児 和尚さん
谷麗光 漢文の先生

中学教諭の堀川周平(笠智衆)は、妻の亡き後、男手一つで息子の良平を育ててきた。つましいながらも幸せな生活を送っていたが、突如、トラブルに見舞われる。修学旅行の引率で箱根の芦ノ湖を訪れていた時、ボートが転覆して生徒の命が失われてしまったのだ。責任を取って辞職した周平は、生まれ故郷の信州に退く。豊かな自然の中での新しい生活。幼い良平とって、父親と連れ立って釣りに出掛ける事が一番の楽しみになった。
時代に戦争の影が差していた。徴兵検査を無事通った坊主頭の息子の姿を見て、周平は妻の仏前に手を合わせる。良平は立派に成長し、縁談話もまとまった。もはや思い残す事もない。引退して、これからは親子一緒の平穏な暮らしが送れると思っていたのだが・・・。

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