鰐 (1996)

漢江はキム・ギドクの原郷だ……?

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キム・ギドク監督のデビュー作をやっと観れた……。

音楽の使い方とか、ストーリーの展開の仕方とか、
粗を探そうと思えばまあいろいろあるんだろうけど、
それでも、デビュー作でこれかあ、やっぱりすごいよなあ……、
と感心しちゃった……。

舞台は、漢江に架かる橋の下。水辺……。

そこにワニと呼ばれる浮浪者の男ヨンペと、
少年と、少年におじいちゃんと呼ばれる男が……、
3人がひとつ家族みたいに暮らしている。

すぐわかるけど、足りないのは女性……。

で、ある日、入水自殺しようとして橋から飛び降りた
若い女をヨンペが助けたのが縁で?
その女もそこで暮らしはじめるんだよね……。

あとの物語は実際に観ていただくとして、
ああ、やっぱりここかあ、キム・ギドクは水辺から始めたんだあ……、
と思ったんだよね。

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ちょっと脇道にそれるけど、
子どものころ、なにか悪さをするとよく親に、
「おまえは橋の下で拾ってきたんだ。橋の下に返すぞ」
なんて怒られたんだよね。
同じようなこと言われたひと多いんじゃないかと思うけど……。

日本には、子どもが生まれたら
カゴかなにかに入れていったん家の前に捨てて(置いて)、
隣家のひとがその子見つけてその家に届けて、
それからその家のひとたち(夫婦)は、
ようやくその子を自分たちの子として育てはじめる……、
みたいな風習があったと言われてるよね。

民俗学的には、
そうするのは子どもを神さまからの贈りものとして育てるためだ、
と言われてるみたいなんだけど、
「橋の下で拾ってきた」というのは、その変型なんじゃないかなと思うのよ。

でも、どうして「橋の下」なの?
どうしてそれが「橋の下」になっちゃうの?
と、ずっと不思議に思ってた……。

だれか民族学者が解いてるのかもしれないけど、
私が「ハッ」と思ったのは、解剖学者・三木成夫さんの本読んだとき。

人間はもともと海の中に棲んでいた。お魚だった……。
そのお魚が陸に上陸して、爬虫類になり、
動物になり、おサルさんになり、そして人間になった。

人間はそういう進化を遂げてきたんだけど、じつは上陸したとき、
そのまま陸に居座ったものと、また海の中へ帰ってしまったものがいる……、
と言ってるのよ、三木成夫さん。

「あ~っ!!」なんて思うのは私だけ……?

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橋の下って、言ってみれば、水と陸の「間」。境界域。
人間が水から上陸した最初の場所。
そういうイメージだよね。

ということは、
「橋の下から拾ってきた」「橋の下に捨てるぞ」
という親の脅しは、
ちゃんとしないとまた水の中に返しちゃうぞ、
人間以前のお魚さんに戻しちゃうぞ……、
ってことなんじゃない?

転じて、羊水の中に……、
おかあさんのお腹ん中に戻しちゃうぞ、ってことなんだろうけど……。

ま、それはともかく三木成夫さんが、
上陸したんだけど、海に戻ってしまったものがいる……、
と言ってることにものすごく引っかかっちゃうんだよね。
せっかく上陸したのになんでまた戻っちゃったのよって。

答えはたぶん簡単。
陸にどうしても馴染めなかったから、慣れなかったからだと思う……。

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そこでようやくキム・ギドク。

キム・ギドクも
そういうひとなんじゃないかなあって思うのよ。
陸になじめないひと、慣れることができないひと……。

すこし言いかえると、
現実にすごくつよい「異和」を抱え込んでいるひと。
そのため人間の原郷である水の中へ、
海の中へ戻りたがっているひと……。
上陸したあとまた海へ戻ったお魚さんたちみたいに……。

それで水辺を舞台にしてるんじゃないか、
キム・ギドクが水や海に親和を抱いてるのもそのせいじゃないか、
なんて思っちゃったんだよね……。

ヨンペのことで言うと、自分の大過去の「鰐」に戻りたかった……。

そういう意味で言うと、
この作品のラストシーンは、キム・ギドクの
無意識の願いをものすごくよく表してるような気がする。

ヨンペは、心中するというより、
漢江の川の底に拵えた部屋で女と暮らしたいと思ってるわけで……。
ほんと、水の底で苦しむヨンベの姿は、
人間が「鰐」に戻るときの苦しみなわけで……?
はやく「鰐」に戻りたいと思ってたから橋の下(水辺)に棲んでたわけで……。

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一言いっておくと、
現実にたいしてつよく異和を感じるのは、
本人が自分にたいしてつよく異和を感じているからなんだけどね……。

余談……。
キム・ギドクは映画「漢江の怪物」にイチャモンつけたらしいんだけど、
で、それがどういうイチャモンなのか私はよくは知らないんだけど、
その話聞いたとき、そりゃ怒るんじゃないの? 
だって、キム・ギドクにとって漢江は「聖地」じゃない……、
なんて勝手に思っちゃったんだけどね……。


●ジュノさん
「苦手と思ってるキム・ギドク監督作品が気になってしまって」
私のせいだとしたらものすごくうれしいのですが……(笑)。
ヨンペはヒョンジュンが入水自殺するよう仕向けたのかも……、
2人で川底で暮らしたいと思って……。
キム・ギドクならそんなこと考えかねませんよね。
私もここ何十年か映画観てもあまり話す相手がいなかったので
みなさんにとても感謝してます……!

●チェブさん
「キム・ギドクって…
自分の中にため込んでる言いようのないもどかしい何かを
吐き出すように映画をつくってる?」
私もほんとにそう思います。ですから映画を観ると、
ギドクというひとりの人間の生命になにか直接触れたような気がして
私はとても好きになるんだと思います。

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■102分 韓国 ドラマ

監督: キム・ギドク
脚本: キム・ギドク
撮影: イ・ドンサム
出演
チョ・ジェヒョン
ウ・ユンギョン
チョン・ムソン
アン・ジェホン

「鰐」と呼ばれる浮浪者ヨンペは、漢江に架かる橋の下に住み、川に投身自殺した人間が息絶えてから死体を引き揚げて、金品をかすめ取る卑劣で粗暴な男だ。ある日、川に身を投げたヒョンジョンを助けたヨンペは、彼女をレイプし、自分の慰みものにする。同じ橋の下で暮らす老人と孤児の少年は、そんなヨンペからヒョンジョンを守ろうとし、ヨンペもいつしかヒョンジョンに人間的な愛情を感じはじめるのだが…。

この記事へのコメント

ジュノ
2008年05月04日 20:41
こんばんは!

苦手と思ってるキム・ギドク監督作品が気になってしまって・・・・・

ヨンペはヒョンジュンが男に騙された事を暴露しますが、それを知った彼女が本当に自殺する事になると彼は分かっていたのでしょうか?

ラストでヨンペが持ってきた絵と投げた椅子の部屋として(?)主人公の二人がとても綺麗に映し出されたシ-ンとても私のお気に入りです!

山崎さんの「橋の下から拾って来た」に凄く反応した私ですよ(笑い)

この作品も”リアル・フィクション”もやはり絵を描く
シ-ンが登場ですよね。

ビョンホンファンになったお陰で山崎さんのブログを知り、映画大好きな私がこのようにお話出来るなんて本当に感謝です♪

”受取人不明”を観たいと思っているのに、私の近くのビデオ店には置いてなくて残念です。
チェブ
2008年05月16日 20:40
山崎さんお久しぶりです
お忙しくお過ごしのことと思います
さて、やっと鰐を鑑賞しましたキム・ギドクって…
自分の中にため込んでる言いようのないもどかしい何かを吐き出すように映画をつくってる?
それは怒りだったり喜びだったり戸惑いだったり
一気にはきだしてスクリーンというキャンパスにかきなぐっていく・・・
ヨンペは陸上の赤や青のドロっとした世界には希望も居場所もなくて・・・自分が造ったさらさらした清らかな水の中の部屋でずっと彼女と二人…きっと幸せですね
そうそう人間は海から来たのですよね。水族館にいくと落ち着くのはそのせいでしょうか。

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