KIKA キカ (1993)

[119]ああ、人間ってどうしてこうも愛しいんだろう……?

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登場人物はいずれも倒錯者というか偏執者というか……。
まあ、そこがおもしろくて
なんだかペドロ・アルモドバルの作品が癖になりそう……。

主人公のキカ(ヴェロニカ・フォルケ)はメイクアップ・アーティスト。
おひとよしなんだけど、とにかくまあ
いつも機関銃みたいに喋りまくってないと気がすまない女性なの。

おまけに作家ニコラス(ピーター・コヨーテ)に恋したのはいいんだけど、
ニコラスが旅行中に、かれの義理の息子の
ラモンともできちゃって同棲はじめちゃうわけ。
でもニコラスが旅行から帰ってくると
ニコラスとも関係つづけちゃうんだよねえ、
それも同じ屋根の下で、まったく悪気なく、天使みたいに……?

そのニコラスがなんだかよくわからない。
アメリカ人作家で外見はなかなかイカス中年男なんだけど、
もう誰とでも寝ちゃうんだよねえ……。
いやいや、寝るだけじゃすまなくて、殺して、
その事の顛末をいつも小説に書いちゃったりするわけ。

まあ、セックスする、殺す、書く……、
その3点セットが射精になってるというのか、そんなやつ。
それしかやることがないみたいな作家……?

映画はニコラスの妻が自殺したシーンから始まるんだけどさ、
これもじつはニコラスが殺しちゃってるんだよね。
でも動機がなんなのか、観てても最後までさっぱり不明……(笑)。

自分の行状がばれちゃったから……?
殺して、その顛末を小説に書くため……?
どっちにしてもとにかく変、こいつ。

最後は殺されちゃうんだけど、息を引き取る直前、
キカに「これを本にしろ。絶対ベストセラーになるから」なんて
ご丁寧にも自分が書いた小説渡しちゃったりして……。

いいひとなのか悪いひとなのか、
なに考えてんのか、なにも考えてないのか、全然わかんない。
絶対、ヘンなアメリカ人……(笑)。

義理の息子のラモンもねえ。
キカが義理の父親ともセックスしてることを知っても、
べつに怒るでもなく妬くでもなく、
「捨てないでえ~」みたいに寄ってくだけ……。
全然自分がないっていうの……?

その一方でじつは、
仕事部屋として称して家の前のマンションの一室借りて、
その部屋から覗きやってんだよね、しかもわが家の……。
で、キカが強姦魔の脱獄犯に犯されるのも覗いてたりしちゃって……。

その脱獄犯、
じつはニコラスの家で働いてるメイド・フアナの実弟で、
弟がキカを強姦するのを手伝って……。

ピカソの絵からそのまま抜け出してきたような鷲鼻のファナは
同性愛者で、なんとなくキカに気があったり……、
キカはキカで、強姦されても
そんなに嫌がってるふうにもみえなかったり……(笑)。

で、最高の傑作人物はなんたって、
TV番組『今日の最悪事件』の、顔に傷をもつ
女性レポーター・アンドレア(ビクトリア・アブリル)……?

衣装がすごいのよ。(写真参照)
あのジャン=ポール・ゴルチェがデザインしたらしいんだけど、
黒の奇抜な衣装で、あたまにはカメラを設置。

その格好でスタジオはおろか
街にまで出てとことん犯罪者を追っかけまわしてんの。
ほとんど追跡妄想者……。

もともと精神分析医でラモンと愛し合ってたんだけど、
ラモンに振られたのが縁で壊れちゃった……?

おいおい、どうなってのよ、みんなって、
呆気にとられてただもう笑っちゃうしかないみたいな、
物語とは裏腹にカラッとした映画なの。

でも、ほんと不思議……。
性的にも倫理的にも壊れちゃってるやつばかりなんだけど、
ぜんぜん嫌な感じがしないんだよねえ。
どころか、みんな、めちゃいいやつだよなあ。
どうしようもない連中でかえって愛しくなっちゃうよなあ、
みたいな……?

理由はたぶんはっきりしてる。
みんな、「悪意」のカケラもないからだよな、心に……。

悪意がないから、困ったことに、関係がづるづる繋がって、
どこか一個が壊れるとみんなドンドン壊れてしまうというか……。

そのあたりのことをペドロ・アルモドバルは
誇張しながら、みごとに描いてみせてるんだよねえ。

もちょっと言うと、
人間どっちに転んだってたいしたことないんだよ、
生きてること自体がすげえんだよみたいな、
そういう視線で物語を描くっていうのかなあ……。

そこに反骨精神旺盛なペドロ・アルモドバルの
人間にたいするものすごいやさしさを感じて、
ほんといいなあって思っちゃうんだよねえ……。

徹底して原色を生かした映像も見どころ……。

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115分 スペイン ドラマ/アート

監督: ペドロ・アルモドバル
製作総指揮: アグスティン・アルモドバル
脚本: ペドロ・アルモドバル
撮影: アルフレッド・メイヨ
衣装デザイン: ジャン=ポール・ゴルチェ
編集: ホセ・サルセド
音楽: ペレス・プラド

出演
ヴェロニカ・フォルケ
ピーター・コヨーテ
ヴィクトリア・アブリル
アレックス・カサノヴァス
ロッシ・デ・パルマ
サンティアゴ・ラフスティシア

メイクアップ・アーティストのキカ(ヴェロニカ・フォルケ)は仕事を通してアメリカ人の作家ニコラス(ピーター・コヨーテ)に出会い、関係を持ち始める。彼の妻は数年前に自殺し、彼は彼女の残した大きな家で義理の息子ラモン(アレックス・カサノヴァス)と暮らしていた。キカは、その後年下でハンサムな人気カメラマンであるラモンと同棲し始めるが、南米の放浪の旅から再びスペインに戻ってきたニコラスとも秘かに密会を行っていた。ある晩、メイドのフアナ(ロッシ・デ・パルマ)は、スキャンダルをスクープする話題のTV番組『今日の最悪事件』を見ていた。女性レポーターのアンドレア(ビクトリア・アブリル)は常に奇抜な服装で頭にカメラを設置して町中を駆け回る。彼女はラモンが母の自殺を苦にしていた時の元精神分析医兼恋人で、彼に振られたことを未だに憎んでいた。そんなある日、そのTV番組でも話題にしていたポルノ男優で強姦魔のポール(サンティアゴ・ラフスティシア)が姉であるフアナに会いに来て、キカをレイプしてしまう。アンドレアは、それをスクープし、倒錯的な性嗜好のラモンまで遠くからその現場を見ていたことを知ったキカは、悲しみに暮れ彼の元を去る。その事件をきっかけに殺人者としてのニコラスの姿が浮き彫りにされていく。アンドレアは必死で真実を言わせようとニコラスと血みどろの戦いになり、結局2人とも息絶えてしまう。キカはしかしそうしたドラマに動揺はみせながらも、ラモンからも遠ざかり、新しい人生に向けて歩んでいく。

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