笛吹川 (1960)

[122]木下恵介はモノクロ写真になぜ色をつけたのか……?

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「凄いねえ木下恵介って監督は。
なに考えてんだかさっぱりわかんない(笑)。

この映画シロクロで撮ってあるんだけど、
写真(映像)に時どき色がつけてあるの。カラータッチ。
空の一部に青、篝火の炎のところだけ赤、ゴザのところだけ橙色とかみたく。

普通そんなことしないでしょ。
監督にとって写真は命より大事なものなはずだもん。
しかもみんないい写真なんだよ。そんな細工しなくたってすごい映画なんだよ。

あ~あ、なに考えてんだろう、おらが木下さん、色なんかつけちゃったりして。
天才のやることは凡人にはさっぱりわからん、と悩んじゃうよねえ(笑)。

反骨精神の旺盛な木下さん、
ただ深沢七郎撮ったってつまんないぜ、とばかりにそんなこと
しちゃったのかなあ。
ほかにあまり意味ないように思えるんだけど。

しかし凄い映画だとは思うんだけど、途中で眠くて眠くて。
眠いの我慢して観たせいもあるんだろうけど、俳優さんたち、
ほとんど何なに喋ってんだかわかんないもんだからさ(笑)。

ちゃんと聞こえるのは若き日の染五郎くらい?
うん、さすがって言いたいところなんだけど、
百姓上がりの侍に全然見えなくてちょっと浮いちゃったりして(笑)。

そういう意味じゃ
セリフの聞こえない田村高広 や高峰秀子のほうがいい?
慣れない百姓や方言、一生懸命やってて、らしくは見えるもんなあ。
う~ん、困っちゃうよなあ。
みなさん、深沢七郎に敬意払いすぎてんじゃないの、なんて思っちゃったよ。

この映画、封切当時、映画館で観てるずなんだけどさっぱり憶えてなかった。
もしかしたらその時もセリフ聞こえなくて椅子のうえで寝てたのかも(笑)。

なんて言いながらも観ちゃうんだよねえ、最後まで。
観終わるとさすがわれらが木下恵介って拍手したくなっちゃうんだよねえ。
なにがすごいかって、その一貫した冷徹な視線。

合戦に次ぐ合戦。
虫けらのように殺し合い、虫けらのように死んでいく百姓上がりの侍たち。

その合戦の描き方がいいの。
武士というにはあまりにもほど遠い、ど素人の合戦みたいで、
鍬を振りまわす百姓同士のケンカみたいで凄くリアルなの。

実際、突然カメラが超ロングになったりして、
人間が自然の中の虫ケラみたいに見えたりするんだよな。

止めは、ラスト。
合戦に負けた武田側の坊主と武士を寺の二階に閉じ込め、
敵方が火を放って寺ごと焼き殺すんだけど、
木下恵介まったく動じず、てな感じなんだよね。

まったく…、
行く川の流れは絶えずして、ああ、笛吹川の諸行無常
てなもんだよな。

あ、そうか。モノクロに時折カラータッチてのは、
「人間の営みはすべて無常、夢のごとく」って意味なんだ
と突然悟りが訪れちゃったりして(笑)。
色は現実(こっちの世界)、モノクロは夢(あっちの世界)。

ひとつだけ。
流れる川の中から見た舞台の農家をせめて一度くらいは観たかった。

退屈だけど、超おすすめだよん(笑)。

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●cloverさん
貴重なコメントをほんとうにありがとうございました。
松竹が独断でやった加工だとはまったく知りませんでした。
こんな加工をしてしかも上映するなんて
松竹側の監督や参加者にたいする悪意しか感じられません。
悲しくなります。
ただこういう形であれ私たちが観れたことは一筋の僥倖です。
とてもすばらしい作品だと思います……。

ありがとうございました。

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123分 日本 時代劇

監督: 木下恵介
製作: 細谷辰雄
原作: 深沢七郎
脚本: 木下恵介
撮影: 楠田浩之
美術: 伊藤憙朔 江崎孝坪
音楽: 木下忠司
出演
田村高広
高峰秀子
市川染五郎
岩下志麻
川津祐介
中村万之助
渡辺文雄
中村勘三郎
加藤嘉
織田政雄
松本幸四郎
山岡久乃

戦国時代、甲斐の国・笛吹川に架かる橋の下に住む貧しい農民の一家。農家を嫌う若者は、褒美と出世のために戦に出ようとするが、息子だけでなく娘まで戦争によって奪われる母親は必死に引きとめようとする…。甲斐の武田家の興亡を背景に、笛吹川の橋のたもとに住む貧しい農民の一家が生きていく姿を5代にわたって描く。

この記事へのコメント

clover
2008年12月28日 16:52
私の父は、この映画に出演していた人物です。
父が言うには、それは木下監督自身が望んで施された加工などではなくて、製作中に松竹と木下監督との方向性の食い違いによって、松竹が独断で施してしまった『加工』の結果なのだそうです。
実際、この映画を試写した際、木下監督を含む出演者たちはみな心底落胆の色を隠せなかったようです。

製作中、大作と期待を受けていた作品だっただけに、この映画をきっかけに大舞台を夢見ていた若い役者さんたちは涙をぬぐうことしかできなかったそうです。

内部にいた関係者しか知らない事実のようですが、父はよく当時の話をしています。

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