上意討ち 拝領妻始末 (1967)

[130]人間は雑音として生きている……?

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会津松平藩士・笹原伊三郎(三船敏郎)は、
主君松平正容の側室・お市(司葉子)の方を
自分の長男・与五郎(加藤剛)の妻にせよと命じられる。

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伊三郎は話を断ろうとする。
婿養子としてこれまで肩身の狭い思いをしてきたからだ。

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が、藩の命令に背くこともできずお市を受け入れることにする。

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予想に反してお市は従順で、やがて可愛い孫娘にも恵まれる。

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だが正容の嫡子・正甫が急死したことから、
その次の世継候補である菊千代を産んだお市を返上せよ
との命令が下る…、というお話。

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単純明快なストーリー、
洗練されたむだのない映像、
厚みのある俳優陣、
どれひとつとっても文句なく、
最後までいっきに見せてしまうのだが、
観終わったあと、もうひとつ
心の奥に突き刺さってこないのは
なんでなのかなあ……?

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物語の底が浅いから?かもしんないなあ。

すこし言いかえると、
登場する人間たちの「雑音」が消えちゃってるから。
書いたばっかりの韓国映画「クライング・フィスト」と比べるとよくわかる。

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人間は生きてるときもっと「雑音」を抱えてるというか、
「雑音」を発してるものなんだよね。
自分がいま抱えている問題とは直接的にはなんの関係もない、
一見ほんとどうでもいい瑣末な問題や事柄…。

このタクアン、まずいなあとか、
蚊に刺されて足がかゆいなあとか(笑)。

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「クライング・フィスト」の俳優たちは
そういう瑣末なものを全部抱えこみながら
物語の第一の主題を生きてるんだけど、
この映画では人間が否応なく抱え込んでる
そういう雑音がほとんど消えちゃってるんだよね。

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物語的にも演出的にもなんだけど、
そうなるとなんか人間の半面しか表れてこなくて、
心の深いところまで届いてこなくなる。

実際、物語や映像を純化する方向で撮ってしまうと、
しばしばそういうことが起きて、
逆につまんなくなってしまうことが多いんだけどね。

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そこが黒澤明の映画なんかと
決定的に違うところかもしんない。

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黒澤も次第に映像美のほうへ映画を純化していくんだけど、
だからといって人間の抱え込んでいるそういう「雑音」を
消してしまうわけじゃないんだよね。
小津安なんかもそうなんだけどさ。
人間が雑音として生きてることをよく知ってるからなんだろうけど。

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そういう意味で言うと、三船敏郎は別格として……、
別格というのは、三船敏郎は
存在そのものが雑音ってかんじのひとだからなんだけど(笑)、

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市原悦子さんがもう抜群にいい。
農家の?若い乳母役でちょっとしか出てこないんだけど、
人間のもつ雑音をひそかにずっと発しつづける演技してて。

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あ、若いころからやっぱりすごい俳優さんだったんだなあって
感動する。

しかし、まあ、
山形勲、神山繁、三島雅夫、浜村純、佐々木孝丸、松村達雄、
若き日の加藤剛、大塚道子、司葉子、山岡久乃…、
と、懐かしいステキな俳優さんたちがいっぱい出てて、
昔からの邦画ファンには堪えられない一本であることは間違いない。

昔は日本にもいい俳優さん、いっぱいいたんだよねえ。
あ、これ、40年ぶりに観たことになる。(^^♪


●minmiさん
「これがあたりまえって、どれくらい貴重な時代だったんだろって、
いまさらに思います」
いやあ、まったくおっしゃる通りだとおもいます。
私たち人間ってバカだから、失ってからでないと
それがわからないんですよねえ。困ったもんです……。
笛木優子(ユミン)、そういう事情を抱えた俳優さんだったんですか。
じゃあ、ぜひがんばってほしいと思います……。

●sinoさん
「覚えやすい様に覚える癖があるもので」
ハハハ、人間ってそんなものですよね。もちろん私もそうで……(笑)。
「クルベット天から舞い降りる」は観てませんが、
この映画に出てたころ、じつは市原さんの舞台は結構観てるんです。
ブレヒトの作品が多かったんですが、すごくチャーミングで、
当時の若い女優さんでは私のいちばんのお気に入りでした……(笑)。
不思議な女優さんで、彼女が出てると、
どんなに暗い物語でもなんか救われちゃうんですよね。
こころがとても豊かだからだろうなあと思いますが……。

●sinoさん
はははははは、ははははははって、
ひとりで大笑いさせていただきましたあ……。
「みっみっみっ みなつぁんには ないしょだよ」ですよね。
しかし、このフレーズ、私も憶えているんですけど、
出典は市原悦子さんだったんですねえ……。
「家政婦はみた」、いまでこそあまり観ませんが、
はじまりのころはずっと観てましたねえ。
市原さんのあの喋りかたがなんとも言えず好きで……。

ありがとうございました。

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■128分 東宝 時代劇
監督: 小林正樹
製作: 田中友幸
原作: 滝口康彦
脚本: 橋本忍
撮影: 山田一夫
美術: 村木与四郎
編集: 相良久
音楽: 武満徹
出演
三船敏郎 笹原伊三郎(馬廻り三百石藩士)
加藤剛 笹原与五郎(長男)
江原達怡 笹原文蔵(次男)
大塚道子 笹原すが(伊三郎の妻)
司葉子 笹原いち
仲代達矢 浅野帯刀(国廻り支配)
松村達雄 松平正容(藩主)
三島雅夫 柳瀬三左兵衛(家老)
神山繁 高橋外記(側用人)
山形勲 土屋庄兵衛(馬廻組組長)
浜村純 塩見兵右衛門
山田恵美 塩見兵右衛門の妻
佐々木孝丸 笹原監物(笹原家の最長老)
福原秀雄 佐平(笹原家の老僕)
川尻則子 ぬい(笹原家の下女)
市原悦子 きく
小林哲子 お玉(正容の新しい側室)
山岡久乃 笠井三之丞の母
日塔智子 吉野(おいちの方つきの老女)
青木義郎 小宮隆蔵(奏者番)

滝口康彦の『拝領妻始末』をもとに「白い巨塔」の橋本忍が脚本を書き「怪談」の小林正樹が監督した時代劇。撮影は「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」の山田一夫、美術は「狸の休日」の村木与四郎、音楽は「伊豆の踊子」の武満徹がそれぞれ担当した。三船敏郎が武家社会のルールに翻弄され、ついには怒りを爆発させる武士を好演。
会津松平藩士の笹原伊三郎は、主君松平正容の側室であるお市の方を、自分の長男である与五郎の妻にせよと命じられた。婿養子として肩身の狭い思いをしてきた伊三郎はこの話を断ろうとするが、藩の命令に背くこともできず、お市を受け入れることにした。だが予想に反しお市は従順で、やがて可愛い孫娘にも恵まれる。しかし正容の嫡子である正甫が急死したことから、その次の世継候補である菊千代を産んだお市を返上せよとの命令が下った。

この記事へのコメント

minmi
2008年08月18日 18:43
本当に豪華キャストですね。
今見ると、ため息が出てしまうようです。
でも、昔は、この映画のキャストを見たときは、ちっとも魅力に感じませんでした。
その頃は、あたりまえみたいなキャストに思えたんです。
これがあたりまえって、どれくらい貴重な時代だったんだろって、いまさらに思います。
ところで「オールイン」のところで、笛木優子(ユミン)のことを「顔と目だけで演技している」と書かれていましたが、彼女は、韓国でのドラマデビュー時、韓国語が上手ではなかったので、聾唖者役でデビューし、その役で人気をつかんだ女優さんなのです。
たぶん、そういう事情もあってのことじゃないかな、という気がしました。
今はかなり上手になって、普通に韓国語で喋ることができるようになったらしいですが。
(日本での再デビューは、どうも成功しなかったみたいですけど)
minmi
2008年08月18日 19:16
(上記ユミンについての蛇足です)
私は、男優より女優のほうが好きということもあるのですが、単身韓国に渡り、まだ反日意識の強かった頃のあの国で、日本人であることを隠しながら女優の仕事をし、韓国アイドルとのスキャンダルにあっては、アイドルファンから叩かれたりもし、根性でそうした逆境を克服してきた女優さんでもあります。
そんなわけで、言葉の通じない異国で、一人頑張ってきた彼女を尊敬してもいるので、余計なことかなと思いつつ、書かせていただきました。
sino
2008年08月19日 22:45
今晩は~
あのー、市原悦子さんを褒めてたので、ちょっとお邪魔しまーす。
かなり昔、市原さん主演の舞台、たしか・・・「クルベット天から舞い降りる」だったかなぁ、テレビで観ました。素晴らしかったんです。自在で、輝いていました。話しも出来の良いコメディで、たしか・・・加藤剛さん、井上順さんも出ていたと思います。このお二人の演技も印象に残っています。適役だったと思います。  山崎さんはご覧になりましたか?
( 題名は正確かどうか自信ありません。覚えやすい様に覚える癖があるもので・・・でも、きっと近い線です。いつもこんな調子ですみません。)
sino
2008年08月19日 22:58
あっ、そうです!
劇中、彼女の決めゼリフがありました!

「とっとっとっ お父つぁんには ないしょだよ」と云うものなのですが・・・・・・。
失礼をばいたしました。 
sino
2008年08月21日 17:08
山崎さん、私の話も40年も昔の事だったんですね! ショック! 知らない間に歳を・・・!
でも、私はとても幼くして観ていたという事を強調しておかなくては(笑)  本当に、豆粒のように幼かったんです! 今は亡き父と一緒に、市原さんが「とっとっとっ お父つぁんには ないしょだよ」と言うのを、笑って観ていたのです。
市原さんを検索すると、「家政婦はみた」 ばかりが出てきますが、舞台での彼女は、おっしゃる通り本当にチャーミングでした。柔らかで華やぎのある空気を纏っていますね。 題名は間違いなかったようです。記憶に残っていたんだ。と、しみじみ。

 

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