子猫をお願い (2001)

[155]飛翔と落下のあいだに垣間見える韓国の現在……?


画像     監督のチョン・ジェウンは女性で、
     これが長編のデビュー作らしいんだけど、
     いや、まいったわ。

     カット割りとか音楽の使い方に
     多少難を感じないでもないけど、

     そんなん大した問題じゃないっ。
     いいっ。文句なしの逸品っ!
                    て、拍手するしかないよお……。

舞台は、ソウルから西へ
電車で約1時間のところにあるインチョン(仁川)市。

韓国ではソウル、プサンについで大きな街らしいんだけど、
高校で大の仲良しだった女の子たち5人の卒業後のお話……。

その5人とは、
父親の仕事を手伝いながら障害者のボランティア活動をやっている
テヒ(ペ・ドゥナ)。

ソウルの証券会社に就職し、都会の生活を満喫しようとする
ヘジュ(イ・ヨウォン )。

成績はよかったけど両親がいないため就職できず、
タルトンネ(月の村)のいまにも倒壊しそうな借家で
寝たきりの祖父、祖母と暮らしつづける
ジヨン(オク・ジヨン)。

そして
中国系の双子姉妹で、中国人街の露天でものを売っている
ピリュとオンジョ。

この5人の卒業後の交流を、
インチョンの古い街並みや、新興地、極貧のタルトンネ、
そして最先端をいく「夢のような街」ソウルなどを背景に描いていくの。

その街の風景がいいの。ものすごくいいの……。

1970年前後、日本の
映画や写真の世界で一時「風景論」が流行ったことがあるんだけどさ。

一言でいえば、都市の風景の中に
日本や日本人の心の「現在」を視ようという考え方、やり方なんだけど、
この映画、みごとにそれをやってみせてるのよ。

高校を出て、現実を突きつけられて、
そして次第に閉塞していく女の子たちのこころを
先にあげたような都市の風景を切り取ることで描いてみせてるの……。

圧巻はやっぱりジヨンが暮らしているタルトンネの風景……。

ジヨンと連絡が取れなくなって、
テヒがひとりタルトンネを尋ねていくシーンがあるの。

路地とも言えないような、
すぐにでも壊れそうな家と家の間を縫うように歩いていって、
ようやくジヨンの家にたどりつく。

ジヨンはまだ帰ってないんだけど、祖母が出てきて、
「ジヨンの友だちがここに来てくれたのは初めてだ」って、
ごちそうに饅頭?を出し、テヒに食べさせる……。

テヒは、ことばがなくて、ただ黙々と饅頭を食べる。
見つめる祖母のささやかな喜びに満ちた表情……。

てっせんさんが、タルトンネの
「胸を衝かれるような暮らしぶり」だって書いてらしたんだけど、

ほんと、ただ「胸を衝かれる」という言葉以外、
なんか言い表しようがないシーンなんだよね……。


物語が動き始めるのは、終盤……。

ジヨンがみんなと夜を過ごして家へ帰ると、
家が倒壊して祖父と祖母が下敷きになって死んでるの。

ひとり生き残ったジヨンは警察で事情を聞かれるんだけど、
厄介者を片付けたんじゃないのか? 
みたいな捜査員の言葉に完全にこころを閉ざしてしまい、
結局、院に収容されるわけ。

しかもジヨンの面会に訪れるのはもはやテヒのみ……。

そしてジヨンが出所する日、
テヒは父親の金庫から自分が働いた1年分の金をだまってもらいうけ、
ジヨンを迎えに行く。

それから空港へ行き、ジヨンと一緒に飛行機に乗り、
どことはわからないんだけど、旅立つんだよね……。

「4人の食卓」でイ・スヨン監督が、高層住宅の
地下深くに眠るタルトンネへ女たちを「落下」させたとすれば、
チョン・ジェウン監督は、
この二人の女の子をここではないどこかへと「飛翔」させたのよね。

その飛翔はなにを意味するのか……?

なんて、言葉がえらく硬くなっちゃって申し訳ないんだけどさ(笑)、

生まれ育ったインチョンも、タルトンネも、そしてソウルも
もはや彼女たちの根拠地(=アイデンティティー)にはならない、
できないってことなんじゃないかなあ……。

この映画と「4人の食卓」観てものすごく嬉しかったのは、
私の大好きなキム・ギドクは
韓国内で孤立してるようなイメージがずっとあったんだけどさ、

仲間いるじゃん!
イ・スヨン監督もチョン・ジェウン監督もいるじゃん!
しかも、なんでか2人ともギドクが大好きな女性じゃん!(笑)
と、わかったことなのよ。

キム・ギドクも「春夏秋冬そして春」の前まで、
自分が生まれ育った?ような街を背景に描いてきたんだよね。
そしてその町を自分の「根拠地=アイデンテイティー」にしてきた。
することができた……、と思うんだけど、

この映画になると、
同じように生まれ育った街を背景に生きながら、
ギドクと違って、もうその街を自分たちの根拠地にすることができない、
というか、根拠地にすることを拒否する……、というのか、

そういう若い世代が出てきたってことを表しているんじゃないのかなあ……。

チョン・ジェウン監督とイ・スヨン監督が
期せずして描いてみせた「飛翔」と「落下」……。

その間に韓国の「現在」を垣間見るのは私だけ……?

あっ、テヒを演じてるペ・ドゥナ、むちゃくちゃいい。
世阿弥は、演技の真髄は「秘するが花」だ、
ほんとうにほんとうのことは隠せ、外(顔)にむやみに出すな、
と一言で言ったけど、
ペ・ドゥナ、みごとにそれやってみせてるんだよね、あの若さで……。

いや、ほんとは若さなんて関係ないんだけどさ(笑)、
表情から喜怒哀楽を消した、能面のような表情がじつにいい。
ああいう表情が人間のほんとうのこころを映し出すんだね。

「ほえる犬は噛まない」でもいいとは思ってたけど、
絶賛したいよね。

しかし、ヒザイ(ミズキ)、彼女、おまえにそっくりだぞ!
(注)ヒザイミズキ=新転位・21公演「僕と僕」で酒鬼薔薇聖斗を好演した若い女優さんです。

これも必見の映画ですねえ。

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●てっせんさん
なるほど、華僑と韓国、そんな関係にあったんですか。
双子の姉妹が祖父の家を訪ねたときの祖父の反応、それで納得しました。
ペ・ドゥナですが、あえて誤解されやすい言い方をしますと、
彼女は身障者というか、ある種の障害者なんだとおもいます。
まあ、人間は多かれ少なかれ身障者であり障害者だというのが
私の持論ではあるんですけど、彼女、心身がピッタリ一致していない、
心と体がすこし齟齬をきたしているんですよね。
すこし言いかえると、心身が現実(空間)につねに「異和」をかんじている
状態なんだとおもいます。実際にそうなのか、
演技として意図的にそれをやっているのか、それはわかりませんが、
それがあのからだのギクシャクとした感じになって出ているんだと思います。
ふつう俳優は心身をピタッと一致させようとしがちですなんですけど、
それは間違いだとおもいます。というのも、どこかで心と体が
多少なりとも齟齬をきたしているのが人間だからです。
その意味で彼女の演技、イタの上の立ち方はひじょうにリアルですよね。
すごいと思います……。
で、日本に限って言うと、いま彼女みたいな心身のひと、
めちゃくちゃ多いんですよねえ。彼女みたいに演技はできないんですが(笑)。
この作品すすめていただいてホントにありがとうございました。
「情け容赦なし」も探しているんですが、いまだ未発見です(泣)。

●テプンさん
ペ・ドゥナ、とてもいいですよね。
「小柄な体からあふれる少しエキセントリックなエネルギーが
バンバンこっちに伝わってくる」
とてもよくわかります。ほかの映画でもそんな感じです……。
ほんとに韓国じゃモデルから俳優になるひと、
モデルやりながら俳優もやってるひと多いですよねえ。
しかもみんないい演技します。びっくりします……。

●てっせんさん
移民が多いとは聞いていましたが毎年2万人もですか。
やっぱり北米が中心なんですかね……?
「Never Forever」、こんど探してみます。

●テプンさん
そうなんですか。韓国の様子、よくわかりました。
とてもいい意味で芸能界がまだ細分化されていないようですね。
日本にも「同じ釜のメシを食う」ということばがあります。
私の知っているところでは石橋蓮司さんの劇団第七病棟は
それが徹底しています。
文字通り、稽古の三ヶ月間は、みんな寝食をともにしながら
稽古するんです。すごいところです(笑)。
「〇〇は△△と同じ釜の飯を食うことになった」という韓国での表現には、
「チング」というニュアンスが込められているような気もしますが……。

●てっせんさん
「キムチを売る女」、以前からずっと
妙に気になっていたタイトルの映画でした(笑)。
これで安心して借りて観れます……(笑)。

ありがとうございました。

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■112分 韓国 ドラマ/青春

監督: チョン・ジェウン
脚本: チョン・ジェウン
撮影: チェ・ヨンファン

出演
ペ・ドゥナ テヒ
イ・ヨウォン ヘジュ
オク・ジヨン ジヨン
イ・ウンシル
イ・ウンジュ

高校を卒業し別々の道を歩み出した女の子の仲良し5人組が、社会の中で不安や悩みを抱えながら懸命にそれぞれの生き方を見つけていく姿をみずみずしい感性でビターかつ爽やかに描いた青春群像。主演は「ほえる犬は噛まない」が日本でも評判を呼んだ韓国の人気アクトレス、ぺ・ドゥナ。監督は、これが長編デビューとなる女性監督チョン・ジェウン。
ヘジュ、テヒ、ジヨンと双子のピリュ、オンジョの5人は高校時代を一緒に過ごした親友同士。高校を卒業して1年が過ぎた今でも事あるごとに集まる仲だった。しかし、次第に互いの立場や考え方にも違いが見えてきて、最近はちょっとずつ距離が開き始めていた。上昇志向のヘジュは証券会社に就職し、グループの出世頭。そんな優越感が態度にも表われてしまい、無職のジヨンの反発を買ってしまう。一方、5人の友情をなんとか守ろうとしているテヒは、家業を手伝う日々だったが、女性に理解を示さない父親への不満を日増しに募らせていた…。


この記事へのコメント

てっせん
2008年09月25日 22:43
華僑が、世界で唯一成功しなかった国が韓国だという笑えないジョークがあるようですが、双子の姉妹の暮らしぶりからも、そんな雰囲気が伝わってきますね。もっとも、現在は彼ら華僑の立場も改善されて、仁川の中華街もすっかりリニューアルされたらしいですが。
ぺ・ドゥナについてですが、彼女は歩き方や走り方に特徴がありますね。ギクシャクとしてて・・・。なんでだろって、ちょっと気になります。というのは、山崎さんがチャ・テヒョンを評して仰った名言「韓国の熱い地べたから一センチくらい浮いてる・・」というのが、彼女にこそあてはまるような感じがしたり、キンちゃん走りにも見えたり、能とかの歩き方にももしかしたら偶然にも通じちゃってるのかなあとか・・(笑)。
彼女、向田邦子さんが生きていらっしゃったらぜひ観て欲しかったなあとも・・・。
それから、日本の映画「リンダリンダリンダ」にも出演していて、独特の味を出しています。
(ヒザイミズキさん、すかさずしっかと覚えさせて戴きました・笑)
テプン
2008年09月26日 21:56
山崎様、こんばんは。

ペ・ドゥナは私も好きな女優の1人です。俳優はビョンホンのみなので(笑)

ドラマ『威風堂々な彼女』で彼女を知ったのですが、可愛いと言うよりキュート、個性的ですね。あの大きな目がいいです。ドラマの役では男に捨てられて私生児を育てているのですが、生活のために必死に戦う彼女はかっこよかったです。

ちょっと池脇千鶴に似た雰囲気を持っている気がするのですが、いかがでしょうか?小柄な体からあふれる少しエキセントリックなエネルギーがバンバンこっちに伝わってくるんです。

彼女は確か両親とも演劇に関係していて二世で、お母さんは舞台女優のはずです。彼女はモデルから女優にシフトしています。韓国ではモデルから俳優や女優になる人が多いです。

これから、どんな役を演じて私たちを楽しませてくれるのでしょうか。
てっせん
2008年09月26日 23:26
今晩は
あの二人が飛行機で向かう先はどこなのか・・・ロスのコリアンタウンかわれらが新大久保(笑)かなんて・・・。というのも、韓国は移民が多いんですね。在米韓国人は200万人近くにもなるらしいですし、現在も毎年二万人以上が北米を中心に移民していると、何かで読んだ覚えがあります。
なんでそんなに韓国の外へ出たがるのか、理由は様々なのでしょうが、その一つがこの映画を観るとわかるような気がします。山崎さんがご指摘のように、「根拠地」として拒否せざるを得ない、どうにもならない閉塞感・・・。
ちょっと話は転じますが、近年在米韓国人の若い映画人も育っているらしく、そうした人々の、監督もしくは俳優としての作品もよく報道されます。例えば、在米二世の女性監督による米韓合作映画でハ・ジョンウとヴェラ・ファーミガが共演した「Never Forever」という作品があり、なかなか好評だったようです。
かように、ことは韓国内におさまらず、世界のあちこちで「物語」が生まれているんですね。ますます、時間が足りなくなります(笑)。
なお、このヴェラ・ファーミガ、写真を見ていっぺんに惹かれちゃいました(笑)
てっせん
2008年09月26日 23:32
追伸です
「情け容赦なし」はだいぶ以前(韓流ブームが来る前)、都内某所のビデオ屋で海○版の(笑)、画質の低いビデオを借りて観たっきりなんです。現在は「NOWHERE 情け容赦なし」というタイトルでDVDが出ているようですが、私もなかなか見つけられなくて・・・
テプン
2008年09月28日 16:13
山崎さま、こんにちは。

韓国には日本のようにモデル専門の事務所はなく、俳優やタレントが所属する事務所に籍をおいています。そのため事務所がモデルだけの仕事を取ってくるわけではないので自然と演技をするようになるそうです。

俳優を目指しているんだけど、そのステップとしてまずモデルになる人も多いようです。

また、日本のようにずっと1つの事務所に籍をおくことはありません。契約期間満了が近くなると、どこに移籍するのか話題になります。今の事務所より良い条件を提示してくれる所に移るのが当たり前、と考えられています。でも期間満了前に辞めたり独立するとメディアに叩かれます。ビョンホンも期間満了前に個人事務所を設立して叩かれました。

また、移籍が決まると〇〇は△△と同じ釜の飯を食うことになった、が報道される時の常套句です。どうしてこう表現するのか不思議です。

てっせん
2008年09月30日 22:01
今晩は。
この映画のラストシーンと、比較したくなるような作品があります。中国朝鮮族の若いシングルマザーが主人公の「キムチを売る女」という映画です。中国北部のさびれきった地方都市が舞台なんですが、そこでの朝鮮族母子の生活の孤独感が、せつせつと胸に迫ってきます。中国内陸部の、果てしなく続く大地そのものに閉じ込められてしまったような息苦しさ・・・「子猫・・」の場合とは違う、こういう営み、こういう閉塞感もあったんだなあと、感じさせられました。

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