長江哀歌(エレジー) (2006)

[230]地とはなにか、生きるとはどういうことか、この映画をごらんあれ……。

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山西省の炭鉱夫ハン・サンミンが、
16年前に家を出て行った妻と娘を探すために、
ダム(三峡ダム)建設中の古都・奉節(フォンジェ)を訪れる。

しかし、いるはずの地はすでに長江に水没している…。

親戚筋の男を探して訊ねると、
いま働きに出ていてしばらく戻らないと言われる。

ハン・サンミンは逗留し、
ビル壊しの仕事をしながら妻の帰りを待つ…。

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シェン・ホンという女がやはり山西省から夫を訪ねてくる。
夫は2年前からこの街で働いているのだが、音信不通である。

知人を介して夫を探し、翌日、再会するが、交わす言葉もない。
シェン・ホンは一言、
「すきなひとがいるので離婚したい」と言って夫のもとを去る…。

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ハン・サンミンはようやく戻ってきた妻に会い、
娘に会いたい、山西省に戻らないか、と言う。

この地で妻と暮らしている男が、
連れて行きたいなら、この女の兄に貸した金を払え、と言う…。

翌日、ハン・サンミンは、
取り壊し中の廃墟のようなビルの一室で成長した娘に会う。
その最中、街中のビルが取り壊しのため爆破される…。

そのあとハン・サンミンは、
一緒に働いてきた工夫たちに送られ、ひとり帰郷する…。

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物語はただそれだけである。
ハン・サンミンとシェン・ホンが交錯することもない。
なにごとかがシカと語られるわけでもない。

カメラがただ淡々と、この二人の人物を追い、
この二人が見るダム建設中の長江や、やがて水没する定めの
古都(奉節)のようすを映し出していくだけである…。

それもまるでゆっくりゆっくり流れていく
長江の流れをおもわせるかのようなリズムで…。

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悲劇的ともいえる巨大ダム建設の渦中にありながら、
それも悠久の歴史の1コマにすぎないかのように、
ゆっくりゆっくりといまを生きていく人々の命の速度で…。

そうして
筆舌に尽くしがたいほど美しく愛おしい映像が、
次から次に生まれては積み重ねられていく…。

観ていると
全身がこの映画が生み出す映像に浸されていく。

そうして感じている。
地とはなにか…、
地で人間が生きるとはどういうことなのか…。

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観ている最中にすぐに思い出したのは、
チェン・カイコー監督の名作「黄色い大地」である。

あの、黄色い大地とそこで生きる人々の
ちょっと想像を絶するほどの深い命の呼吸である。

この映画は、あの「黄色い大地」の呼吸に
まっすぐ折り重ねられている…。

と思って観終わったあとすぐに
監督のジャ・ジャンクーについて調べたら、
やはり「黄色い大地」を見て北京電影学院に入学したのだという。

しかも1970年生まれとじつに若い…!

いうまでもなく傑作だ。

この映画が
「黄色い大地」や「初恋のきた道」同様、
たくさんの人々に観られることを祈りたい…。


■113分 中国 ドラマ

監督: ジャ・ジャンクー
脚本: ジャ・ジャンクー
撮影: ユー・リクウァイ
音楽: リン・チャン

出演
チャオ・タオ シェン・ホン
ハン・サンミン ハン・サンミン
ワン・ホンウェイ ワン・トンミン
リー・チュウビン グォ・ビン
マー・リーチェン ヤオメイ
チョウ・リン マーク
ホァン・ヨン 歌う少年

2009年の完成に向けて着々と工事が進む長江の三峡ダム建設プロジェクト。万里の長城以来とも言われる中国の一大国家事業により水没する運命にある古都・奉節(フォンジェ)を舞台に、「プラットホーム」「青の稲妻」のジャ・ジャンクー監督が、時代の大きなうねりの中で繰り広げられる名も無き人々のかけがえのない人生を見つめた感動ドラマ。それぞれに愛する人を捜してこの街にやってきた2人の男女の物語を軸に、移住を強いられ困難に直面してもなお、たくましく懸命に生きる市井の人々の暮らしを詩情豊かに綴る。2006年のヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞作。
三峡ダム建設が進む街、奉節。山西省の炭鉱夫ハン・サンミンは、16年前に別れた妻子を捜してこの街にやってきた。しかし昔妻が住んでいた場所はすでに水に沈んでいた。サンミンは安宿に寝泊まりしながら、妻子の行方を捜すことにするが…。同じ頃、こちらも山西省からやってきた女、シェン・ホンが、三峡の工場に働きに出て2年間も音信不通の夫グォ・ビンを捜していた。夫はすでに工場にはいなかった。彼女は夫の友人ワン・トンミンを訪ねて協力を仰ぎ、一緒に夫を捜してもらうのだったが…。

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