ペパーミント・キャンディー (1999) 韓国

※この記事は「テーマ」設定の事情により重複しています。

[138]韓国の小説の力、映画の力……。

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ああ……、と、深く息を吐く。
いい映画だなあ……。
ソル・ギョング……、すごい……。
もうことばがない……。

鉄道がモチーフに使われていたせいもあり、
なんとなく
好きな寺山修司さんの詩、
思い出しちゃった……。

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「地下鉄の鉄骨にも」

地下鉄の鉄骨にも
一本の電柱にも
流れている血がある
そこでは
血は立ったまま眠っている

窓のない素人下宿の
吐しゃ物で洗った小さな洗面器よ
アフリカの夢よ
わびしい心が汽笛を鳴らすとき
おれはいったい
どの土地を歌えばいい?

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物語は、
主人公のヨンホ(ソル・ギョング)が
鉄橋の下の河原で催されている20年ぶりのピクニック(同窓会)会場に
姿を現わすところから始まる。

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あとでわかることだが、かれにはピクニックの通知は送られていない。
誰もかれの居所をつかんでいなかったからだが、
ヨンホは、ラジオの視聴者参加番組で偶然知り、やってきたのだ。

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みんな喜んで迎えるが、ヨンホの様子がおかしい。
急に怒鳴りつけたり、ひとり歌い出したり、川の中へ入ったり……。

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そして気がつくと、すこし離れた鉄橋の上に立っている。
同窓生のひとりがあわてて駆けつけ、列車が来るから降りろと懇願する。
(この俳優がさだまさし似だけどステキだ……)

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けれどヨンホは降りない。降りずになにかわめいている。
「なぜだ…、なぜおれは…、戻りたい…」

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トンネルの向こうから列車が走ってくる。
ヨンホはその爆走する列車を止めるかのように手を広げ、叫ぶ。
「帰りたい…!」と。

ヨンホはどこへ帰りたかったのか……?

物語はそこを求めて現在から過去へ、過去へと戻りつづける。

ネタバレだが、
20年前、同じ河原で行われたピクニックへ……、
そこではじめてことばを交わした初恋の女スニム(ムン・ソリ)との時間へ……。

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ヨンホの人生が狂い始めたのは1発の銃弾だ。

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兵役に行く。
お菓子工場で働いているスニムから時々手紙がくる。
その手紙の中にはいつも「ペハーミント・キャンディー」が入っている。
ヨンホは食べずにそれを貯めていく、愛を貯めるかのように……。

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ある日、スニムが兵舎に面会にやってくる。
だが非常事態なので面会はできないと断られ、
ヨンホも銃を手に車で出動していく。
途中、帰り道を歩いているスニムの姿を目撃する。

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薄闇の中、ヨンホら兵士が逃げる人々を追う。
説明はなにもないがたぶん赤狩りだとおもう(後註)。

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流れ弾がヨンホの足にあたり、走れなくなって仲間にはぐれる。
うずくまっていると、貨車の向こうに誰かいる。
女のようで、ヨンホは一瞬スニムかとおもう。

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だが現われたのは年恰好は同じでも村の女子高生で、
近くの家へ帰る途中なので「帰してほしい」と懇願する。
仲間の兵士たちが戻ってくる足音がする。
ヨンホは「早く行け」と言うのだが彼女は怖くて動けない。

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銃で脅せば動くだろうと思い、薄暗がりの中で銃を放つ。
1発、2発……。その弾が偶然あたり、女は死ぬ……。

女はついに家へ「帰ることができなかった」のだ、
ヨンホが放った銃弾のため……。

そして事件を境にヨンホも二度と帰らなくなる、愛するスニムのもとへ…。

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兵役を終えたのちヨンホは刑事になる。
ある日、スニムの住む町へ事件解決に向かう。

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偶然、若い女のやっている食堂に入る。
女にこんな街に何をしに来たのかと問われる。
初恋の女が住んでいるので来たが、居場所がわからないので会えないと言う。
「その女の名前は?」「スニム…」

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その夜、ヨンホは誘われるまま女の部屋へ行き、寝る。
女はコトが終わると、ヨンホに
「私をその女スニムだと思い、思いのたけを言いなさい」と言う。
ヨンホは口を開く。「スニム……、スニム……」と。

このあたりは寺山的修辞学そのものだ。

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ヨンホはその女と結婚し、子どもをもうける。
だが、ヨンホはその家庭に安住できず、家を出る。
刑事もやめる。なにをやってもうまくいかない……。
死のうと思い拳銃を闇で手に入れる。

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そこへひとりの男が現われる。
ヨンホが「誰だ、何をしに来た」と尋ねると、
スニムという女を知っているはずだ、
私は彼女の夫だ、スニムが会いたがっているので会ってほしい、
彼女はいま病気で入院している……、と訳を語る。

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ヨンホはその男に連れられて病院へ向かう。
そしてすでに意識のないベッドの上のスニムに語りかける。

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途中で買ったペパーミント・キャンディーを、
むかしおまえが俺に送ってくれたペパーミント・キャンディーだと
見せながら……。

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最後はすでに言ったように、
ヨンホがはじめてスニムとことばを交わしたピクニックの河原で終わる。

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花の話をしたあとヨンホがあたりを眺め、言う。
「不思議だ。この河原、はじめて来たはずなのに、
前から知っているような気がする…」

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河原でみんなで輪になって歌う。
「どうすればいいんだ 君に去られたら…」
じつはトップシーンでヨンホが急に歌いだしたのはこの歌だった。

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ヨンホは輪を離れ、鉄橋の下へ行く。
横になり、名もない花を見、それから鉄橋を見上げる。
列車が近づき、鉄橋を渡る。
喜びとも悲しみともつかぬままヨンホの目に涙が滲む。

既視感…。

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一時期、私も事件を舞台化するときこの手法を多用したが、
はじめての場所にもかかわらず
ヨンホがそこを知っているような気がしたのは、
ヨンホが20年後、この河原へまたピクニックに来るからだ、
そして鉄橋に上がり、列車にはねられて死ぬからだ。

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言いかえると、20年前ヨンホは、
ここへ来て鉄橋で列車にはねられる20年後の自分の姿を
覗いてしまったのだ。

あの時へ戻りたい。
戻ってもう一度自分の人生をやり直したい。
誰でもそう思ったことは一度や二度は必ずあるだろうけど、
そうした人間の深い願いと悲しみを
ソル・ギョグはことば少なくみごとに表現してみせる。

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つくづく「淡い」(中間)を表現するのが、
ことばにできない複雑な心を表現するのがうまい俳優だと
感動する。

物語もさすがに元小説家?というだけあって
イ・チャンドンはじつに巧みに仕掛けてくる。

まあ、章を繋ぐ「レール」は余計かなとおもうが、
「オアシス」のときと同じく……(笑)。

いやいや、
こういうすばらしい映画に文句言う資格なんか
私にはありませんでした……(笑)。

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余談だけど、
むかしNHKの「週刊ブックレビュー」の司会をやってたころ、
ゲストが薦める韓国の小説をけっこう読んだことがあるんだよね。

内容まではあまり事細かに覚えてないんだけど、
えっ、いいなあ、力があるなって感じたんだよね。
初期の中上健次みたいな力技をもった小説家がけっこういるなって……。

その中にイ・チャンドンの小説があったかどうか記憶にないんだけど、
いい韓国映画観るたびに、1980、90年代の韓国小説の力が
そのまま映画にも表れているような感じをずっと抱いていたんだけど、

イ・チャンドンの映画を観ると、
そうかあ、イ・チャンドンみたいな作家が
小説と映画を繋いでいったのかもと、なんか分かったような気がして……。

といってもまだ直感だけでものを言っているので
あまり信用しないでほしいんだけどさ……(笑)。

必見の名作です。

あ、この作品探してわざわざ送ってくれた友人のKさん、
ほんとうにありがとう……。

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追記)
上の友人Kさんが射殺シーンについて
注釈をメールしてくれたのでほぼそのまま再録します。
あ、そうか、と目からウロコでした……。感謝。

 ソル・ギョングが
 女子学生を射殺してしまったシーンは1980年5月の光州事件です。
 朴大統領の暗殺後、クーデターで政権を握った
 チョン・ドゥファン大統領の時代に起こった、韓国現代史の中でも
 最も悲劇的だといわれる事件。
 この時にたまたま兵役についてデモを鎮圧していた青年と、
 民主化デモを行っていた青年達は同世代でした。
 光州(クァンジュ)は韓半島の南の方の都市で、
 木甫より少し内陸にあります。去年、コンサートで行きました。
 会場は「金大中コンベンションセンター」、そうです、
 光州は金大中氏の出身地なんです。
 それだけ、弾圧も抵抗も激しかったのでしょう。

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●Leeさん
はい、念願かなってやっと観ることができました。
DVDが見つからないとブログで騒いでいたら、旧い友人が
探して届けてくれました。騒いでみるものですね……(笑)。
しかし、ほんとうにすばらしい作品ですよね。
ずっと心の奥深くまでしみいってきます。
物語を素描することでそのことを伝えようとしたのですが、
深くまで立ち入って書くと、また泣きそうになるので、
抑えるのに苦労しました……(笑)。
私の中でも韓国映画ベスト3に入るかなあと思っています。
しかし、みなさんにたくさんよい作品を教えていただいて
このブログ初めてよかったなあと感謝しています……。

●てっせんさん
またまた示唆的な助言、ありがとうございます!
でも研究者はだめですねえ、怠け者が多いですから(笑)。
てっせんさんにやっていただいた方がうんと早そうなんですが……(笑)。
「われらの歪んだ英雄」は私も読んでいますが、
映画になっているんですか……?
「グリーン・フィッシュ」も前から探しているのですが見つからないですね。
はじめの頃の作品はどうも処分されているのではないかと
いまひじょうに疑心暗鬼になっています(笑)。
「桑の葉」「風の丘を越えて~西便制」もチェックしておきます。

●Leeさん
「山崎さんの記事を読んで手に取ったDVDがいっぱいあるんですよ」
いえいえ、韓国映画に関してはもうビョンホンとみなさんのおかげで、
私のほうがぜんぜん幸をいただいています……(笑)。
いい映画があったらぜひまた教えてください……。

●ライラックさん
「韓国の背負った歴史無しに語れませんね」
私も友人の指摘で作品の味わいが一段と深くなったような気がします。

●てっせんさん
記憶違いのほうが時に物事を新たに展開させていきますから、
どうぞお気になさらないで……(笑)。
「パイラン」、チョックしておきます。
「光州5・18」、私もずっと気になってます。はやくDVDにしてほしいです。
「砂時計」、これもすぐチェックですが、てっせんさんを虜にするなんて
う~ん、韓国、ドラマも質が高いんですねえ……。

ありがとうございました。

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129分 韓国/日本 ドラマ/ロマンス

監督: イ・チャンドン
製作: ミヨン・ケナム 上田信
原作: イ・チャンドン
脚本: イ・チャンドン
撮影: キム・ヒョング
美術: パク・イルヒョン
音楽: イ・ジェジン

出演
ソル・ギョング
キム・ヨジン
ムン・ソリ
パク・セボム
ソ・ジョン
キム・ギョンイク

1999年春。鉄道の高架下で男ヨンホは全てを失ったいま、過去を振り返っていた。3日前、ヨンホは危篤状態にある初恋の相手、スニムを見舞う。数年前には行きずりのバーのホステスにスニムの面影を見る。さらに3年前、新米刑事のヨンホのもとにスニムがやって来るが、彼はそっけなく追い返してしまう。その4年前には兵役についたヨンホを訪ねたスニムだが面会許可がおりなかった。そしてその1年前、青年ヨンホはスニムとこの高架下で互いの将来を語り合っていた。

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