乱れる (1964)

[433]積み上げてきた「戦後」が一瞬にして瓦解した…?


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高峰秀子は、監督や俳優ら
映画人にもっとも好かれた女優だと言われてるけど、
私も好きだったなあ。

日本の女優で誰がいちばん好きかと聞かれたら、
すぐに高峰秀子!って答えるくらい。
でも口に出せなかったなあ、恥かしくて(笑)。

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なんで…?
国民的女優で、平凡すぎてつまんないから?
自分のおふくろを好きだっていう感じになっちゃうから?
うん、そっちかもな(笑)。
まあ、それくらい歳が違ってたってことなんだけどさ。

これ、その高峰秀子を見たくて観たんだけどね。

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ついでに言っておくと、
成瀬巳喜男を観るのは高峰秀子を観たいから。
成瀬は高峰秀子をよく使ってくれた監督だったから。
つうてもいいくらい…(笑)。

実際、子どものころ、
私は高峰秀子って成瀬の奥さんなんだろうなあ
って思ってたくらいだもん。
木下恵介の奥さんかなとも思ってたけど。

それがずいぶん後になって松山善三と結婚して「…?」となった。
おとなの世界は信じられないって…(笑)。

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この映画の高峰秀子もいいよねえ。
ほんとにいい。なんべん観ても飽きない。

礼子(高峰秀子)は夫が戦死したあと、
義理の母親、義理の弟・幸司(加山雄三)と三人で暮らし、
酒屋を切り盛りしてる。

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幸司は礼子のためにその酒屋を
時勢のスーパーマーケットにしようとする。
と同時に、嫂・礼子に自分の気持ちを告白する。

が、姉二人が、
スーパーマーケットにすること自体には賛成だが、
これを機に礼子にはそろそろ家を出てほしいと言う。

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この姉二人を
草笛光子と絶世の美女・白川由美がやってるんだから
すごいというか怖いというか(笑)。

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礼子は
この家にはもう自分のいる場所はないと、義母へ別れを告げ、
実家へ帰ろうとする。

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その列車の中。
ここからがすごいのよ。

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じつは幸司が同列車にこっそり乗り込んでて、
礼子に「家まで送る」って言うの。

最初は混んでて、
礼子はシートに座ってるんだけど、幸司は立ってる。

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時間が経ち、
幸司も座ってるんだけど礼子の席とは離れてる。

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また時間が経ち、
幸司は礼子の近くに座ってる。

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さらに時間が経ち、
幸司はといに礼子と向かい合って座ってる。

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そのうち夜がしらじらと明けてくる。

この間、二人はほとんど無言で、
かなり長い時間、車内のようすが映しだされてるんだけど、

そうやって
幸司の礼子にたいする距離の縮めかたっていうか、
好きになっていった時間の経過を
成瀬はそこに再現してみせてるんだよね。

もうみごとな映像手法で、
観てるこっちまでなんだかドキドキしちゃう。
この列車、二人をどこへ連れて行くんだろう?
っていう感じでさ…(笑)。

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で、自分の目の前でウトウトしてる幸司を見て、
礼子の頬を涙が伝う。

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幸司が目を覚まして
「どうしたの、義姉さん?」と移動して
ついに(笑)礼子の隣に並んで座る。

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と、礼子は
「次の駅で降りましょう」と言って、
次の駅で降りてそのまま鄙びた温泉街の旅館に入る。

いやあ、もうそうするしかないないよねえ(笑)。

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で、告白する。

私も女よ。
あなたに好きだって言われてうれしかった。
あの日から、あなたが目の前にいないと、
私の目はあなたを探していた。
目の前にいたらいたで、どうしていいかわからなかった
みたいなことを…。

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若い幸司は礼子を抱きしめてキスをする。

が、礼子はやはり、幸司は夫の弟なのだ、
自分と幸司は嫂・義弟なのだ
という一線を越えることができない。

幸司は部屋を出て、ひとり小さな居酒屋に入り、酒を飲む。

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その居酒屋の女主人が私のまた大好きな、浦辺粂子さん。
見よ、この贅沢…!
もうなんぼでもお釣りがくるよねえ(笑)。

で、幸司は旅館の礼子に電話して、
「もう義姉さんを追わない、
自分は今夜ほかの旅館に泊まるから…」と言う。

さすが加山雄三、明るいよ(笑)。

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その翌朝、礼子は
旅館の目の前の路地をタンカーで運ばれていく者を見る。

布が被されているところを見ると死体のようだ。
次の瞬間、愕然とする。
布からダランとはみ出してる手の指に、
自分が幸司の指に結んだお守り(?)が見えるからだ。

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礼子が慌てて旅館を出ると、旅館の番頭に言われる。
「大変です。夕べ、あなたの
お連れの方が崖から足を踏み外されたみたいです」と。

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礼子はタンカーの後を必死に追う。

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が、やがて立ち止まり、
タンカーの運ばれていく後ろ姿を見やる。
そのときの高峰秀子の表情がこれ…。

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いいよねえ。
なんだかこの物語のすべてが語られてるみたい。

夫が戦死したあと、つまり「戦後」、
自分はすべてを森田酒店に賭けて生きてきた。
死んだ夫のため、残された義母、義弟、そして自分のために。

でもそれが一瞬にして瓦解した?
自分が「女」だったために…。

自分は懸命に女を殺してきたはずなのに、
勝手に、しかもすべて、
自分の中の「女」に裏切られてしまった。

「女」というイキモノが一瞬のうちに
すべてを瓦解させてしまった…?

その瓦解した光景を見せられて言葉を失ってる礼子
って感じ?

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そこに高度経済成長時代に入って、
日本の「戦後」が瓦解したイメージが込められて見える。

しかもさ、
そこで突然終わっちゃって、
観てるこっちの気持ちも宙吊りにされちゃうのよ。

その意味では、あのルネ・クレマンの
「禁じられた遊び」にあまりにも似てるもんだから、
あれ真似したのかなあって思わないでもないんだけどさ、

それを差っ引いても、
う~ん…、さすが成瀬巳喜男、高峰秀子!って、
ただただ唸るしかないよね。

高峰秀子、若き日の加山雄三っていう、
年齢さのある、ある意味違和感のある義姉と弟(笑)っていう
キャスティングもめちゃ生きてるし…。

うん、必見の映画だよ。

あ、つうても成瀬巳喜男の中で
私がいちばん好きなのはこの映画じゃないからね(笑)。

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ちなみに左の美女は、
私も共演させていただいたことのある浜美枝さん♬
きれいだろう(^^♪


●てっせんさん
「三四郎」にそんなシーンありましたっけ…?
いやあ、二十歳前後に読んだきりなので
すっかり忘れちゃっていますねえ…(笑)。
「赤い殺意」のほうはよく憶えてます。
私の大好きな映画なものですから…。
春川ますみさん、最高ですねえ。
あの優しさも、色気も、そしてふてぶてしさも…。
そのあたり今村昌平は、小津も成瀬も「赦さねえ」って感じで
撮ってたんじゃないでしょうか…(笑)。
汽車のシーンはどんな映画でもいいですよねえ。
人間の移動する感覚、他国・異郷にたいする想像など、
とてもドラマになりますもんね。
そのへん、ヒコーキになるとてんで駄目ですねえ。
宇宙まで行ったり、戦闘したり、パニック起こしたりしない限り、
全然ドラマになりませんから…。
ヒコーキが映画をだめにしたんだ!
なんて怒りたくなるくらいです…(笑)。

●月見草さん
わざわざこちらへお越しいただいてありがとうございます(笑)。
え~っ、月見草さん、青森!?
しかもわたしとほぼ同世代!?って、嬉しくなっちゃいました!(笑)
この映画、2年前にはじめて十和田湖を訪れて感激して以来、
以前よりめちゃくちゃお気に入りになっちゃいました…(笑)。
加山雄三、わたしも高校生のころずいぶん観ましたが、
おっしゃるように私もいいのは「赤ひげ」「乱れる」「乱れ雲」だと
思ってます…。
高峰さんの著作を全部…! すごい!
じゃ、「美しい彼女」が終わったら、高峰作品をまた
何本かやろうかなあ。
そのときぜひ、いろいろと話を聞かせてくださいな…(笑)。

ありがとうございました。

クリッとしていただけると嬉しいです!
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■98分 日本 ドラマ/ロマンス
監督: 成瀬巳喜男
製作: 藤本真澄 成瀬巳喜男
脚本: 松山善三
撮影: 安本淳
美術: 中古智
編集: 大井英史
音楽: 斎藤一郎
出演
高峰秀子 森田礼子
加山雄三 義弟・幸司
草笛光子 義妹・久子
白川由美 義妹・孝子
三益愛子 義母・しず
浜美枝 幸司の恋人
藤木悠 清水屋店員・野溝
北村和夫 久子の夫・森園
十朱久雄 岡本薬局主人
柳谷寛 加賀食料品店主人
佐田豊 村田呉服店主人
中北千枝子 加賀の妻・道子
浦辺粂子 温泉場のおかみ

静岡は清水の酒屋に嫁いだ礼子(高峰秀子)は、戦争で夫をとうに亡くした後もけなげに女手ひとつで店や家を切り盛りしていた。姑と義理の弟、幸司(加山雄三)の三人暮らし。幸司は定職につかず、ぶらぶら飲み歩いたり、麻雀やパチンコにあけくれている。幸司が自堕落な生活をするのには訳があった。実はずっと前から礼子のことが好きで、苦しんでいたのだ。やがて、行動を礼子にせめられ、苦しい胸のうちを白状する。そんな中、すでにこの家から出て家庭を持つ娘たちから店をスーパーに変え、幸司を社長に・・という意見が。礼子の居場所がなくなりつつあった。礼子は幸司のためにも、家を出る決意をする。
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この記事へのコメント

てっせん
2009年12月26日 00:25
列車の中、そして温泉街のある駅で降りて・・・という一連のシーン、エロチックですよねえ。
漱石の「三四郎」にも、同じような挿話がありましたね。東海道線で東京に向かう三四郎が、たまたま同席した女と途中の名古屋で降りて同宿するという・・・。もっとも小説の方は、この映画のようにエロチックではありませんでしたが。脚本の松山善三、漱石から無意識かもしれませんが、ヒントを得ていたんじゃないでしょうか。

それと、同じ年につくられた「赤い殺意」と較べてみるのも面白いかもしれませんね。こっちの女も、何かを「瓦解」させましたが、結局、何事もなかったかのようにふてぶてしく新しい日常を生きていくということになっていたかと記憶しているんですが・・・。そしてやはり、女の住む家が線路際だったり、列車の中でのサスペンスがあったりと、両方の映画とも列車がなかなか重要な役割をしていて・・・(笑)
月見草
2010年08月02日 14:35
山崎さん
「美しい彼女」観ている最中と思います。
山崎さんの高峰秀子大好きに反応して、今成瀬巳喜男監督のお部屋にお邪魔しました。
乱れ雲二番目に好きな作品とはとても嬉しいです。
高校2年の時見てとても感動しました。当時加山フアンだったので観にいったのですが、出演俳優がみんな素晴らしく今の映画に無い崇高な感じさえします。
特に十和田湖の映像が美しく青森に住んでいる者として
成瀬監督が益々好きになりました。
小坂の庚楽館での加山さんの古希コンサートで十和田ロケが長くて、すっかり津軽弁マスターしたとのことで、津軽弁ぺらぺらでしたよ。
加山さんの作品では赤ひげと乱れると乱れ雲が良かったと思います。
山崎さんの言うように演技の必要がない地そのもののぶっきらぼうな演技で良かったからだと思います。
ビョンホンさんと加山さん真逆ですよね。
最近高峰秀子にはまって彼女の著書すべて読破しましたが、表面はぶっきらぼうでも心の底は深いですね。
ビョンホンさんもシムウナさんも深い深い谷底です。

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