雨月物語 (1953)

[475]溝口健二のこの名作のウラにはやっぱり女がいた…?

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えっ? 溝口健二の「雨月物語」、観たことないの…?!

と、またまた目の玉が引っくり返るほどびっくりして、
演劇学校の生徒たちと一緒に観たの。
自慢の100インチ大画面でね…(笑)。

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考えるとそうだよねえ。
君たちが生まれるもうず~っと前の映画だもんねえ。
こういう映画があることすら知らないかもね…。

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え、聞いたことはある?
じゃ、レンタル屋さんに置いてないの…?

置いてある?
じゃ、じゃ、なんで観ないのよ…!

考えると無理ないかもねえ。
聞いたことあるなあ、目の前にあるなあ、と思っても、
こういう映画でさ、面白いよ~って近くのやつが言ってくれないと、
ひとりじゃなかなか手にとって観ようって気にはならないかもね…。

まあ、豊かな現代に生まれ育った君たちの
いわば大悲劇つうかさ…。

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大悲劇はオーバー…?
そうかなあ。わたしゃ大悲劇だと思うんだけどなあ。
ロミ・ジュリに勝るとも劣らぬ…。

で、どうだったのよ、観て、ほら…? と聞いたら、
みんな、口も開かず、ただ呆然とスクリーン見てやがんの。

いやあ、わたしゃなんかさ、
めちゃくちゃ溜飲が下がった思いだったよ、生徒諸君。
ありがとね…(笑)。

ストーりーはいま観たばっかりだから書かないよ(笑)。
思い出せないひとは下の解説見てね…。

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しかし、凄いよね、めちゃくちゃ面白いよね。
始まったらもう最後まで一気だよね、ピューッと一気。
ドンドコドンドコ、息継ぐ暇もなく、流れるように一気にすすんで、
はい、終わり。はい、エンド…。

おまえたちはさ、
おれの芝居(舞台)のテンポとリズム、速すぎて、
ついていくのが大変だっていつも泣いてるけど、
おれの芝居どころじゃないだろ?

もうカール・ルイスみたいだろ…?
ルイス知ってるよね、アメリカの元陸上の…?
知ってる? いかったあ…(笑)。

一度さ、東京オリンピックスタジアムの
目の前で見たことあんだけどさ、凄かったよお、ルイス。
あ…、と思ったら、もうゴールの遥か彼方だったもんね…(笑)。

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この流れるようなスピードにはもちろん根拠があるんだよ。
いや、ルイスじゃなくてこの映画の、「雨月物語」の…。

用意、スタート、ピューッ、ヒューッ、はい、終わり…!

そうやってこの主人公たち…、
源十郎(森雅之)、宮木(田中絹代)、
藤兵衛(小沢栄太郎)、阿浜(水戸光子) の身に起きた出来事を、
いわば一瞬のスピードで描いてみせることで、
人間の一生はこんなふうに束の間の夢のようなものだよ
って言ってみせてんだよね、溝口は…。

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人間たちのとり憑かれる物欲、愛欲、出世欲…。

ああ、何十年ぶりだろね、こういう言葉使ったの?
物欲、愛欲、出世欲…、いいよねえ、めちゃ人間らしいよねえ。
おまえたちもさ、この源十郎や藤兵衛みたいに、
もっと物欲愛欲出世欲しなよ。

いちおうじゃなくてさ、
もっともっともっともっともっとだよ…!
とさ、ああいう栄華の世界が目の前に現れるかもよ。
陶然として、身も心もとろけちゃうしかないような世界が…。

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しかし、きれいだよねえ、いいよねえ、京マチ子…。
そう、朽木屋敷の姫…、若狭…、京マチ子っていう女優さんだよ。
しっかり憶えとくんだよ。

あの眉毛が怖い…?
あ、あのな、美女は怖いもんだろ? 
怖くなくちゃ美女じゃねえだろ?
だからああやって怖くしてんだよ、ばか言ってんじゃないの。

く、苦しい、若いもんといると…。
ひとり言だから気にしないの…(笑)。

え、あの栄華の世界は、源十郎の物欲や愛欲が
たぐり寄せた夢…?
嬉しいなあ、わかってんじゃないか、若いくせに…。

ま、亡霊だあ~、亡霊が出たあ~って、
単純にとってくれたほうが、ほんとは怖くて面白いんだけどね…(笑)。

亡霊の執念? 女亡霊の肉欲…?
わっ、人間って凄げえなあ。
亡霊になると、こんどはこの世を、現実を欲望しちゃうんだ。
女は亡霊になっても男を欲しがるんだ…、っていうかさ。
あ、女だけじゃなくて男もだね、男は女を…、ごめん…(笑)。

で、ああやって、
この世とあの世の境で…、生と死の狭間でまぐわってる…?

それこそああなっちゃうとさ、
夢か現かまぼろしかみたいなもんでさ…、
この世はどこまでが夢か現実かわかんなくなるじゃない…?

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え? それ、おれの書いてる芝居…?
「雨月物語」観てわかった…?
や、や、やっとわかってくれたあ、う、嬉しいよお…(泣)。

そうだよ、だからおれは平気で
生きてる人間と死んでる人間を喋らせたり、
過去と現在と未来を同居させたりしてんだよ…?

いや、この「雨月物語」にならったというより、
能や歌舞伎の方法にならってるだけなんだけどさ…。

そうかあ、「雨月物語」観てちょっとわかったくれたんだ?
もっとはよ観せるべきだったね、ごめん…。
じゃ、これからはもうバンバンいい芝居できるね…。

下向くなよ、顔上げろよ、胸張れって。
この「雨月物語」に感動するちゅうことはさ、
おまえたちの中にもこういうものが
おまえたちの中に眠ってるちゅうことなんだよ。

眠ってるから反応してんだよ。

つうことは、
溝口に負けない才能がおまえたちの中に眠ってる
ちゅうことなんだよ。
こういう栄華や舞台つくれるちゅうことなんだよ…?

いつも言ってるだろ?
人間、才能の差なんてないのよ。あってもチョボチョボなのよ。
そんな差、取るに足りないのよ…?

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しかし宮川一夫、凄いよねえ。
あ、カメラマン、この作品撮ってる…。
宮川一夫ってひとなの、世界一のカメラマンなんだよ。
おれはそう思ってるんだけどね、むかしから…。

ず~っと、こう…、ほんと、流れるように、
100分をさ、もう一息で撮ってみせてるもんねえ…。
凄いよねえ…。

だから登場人物四人の出来事が
束の間の夢のように思えちゃうんだよね、観てるほうに…。

いつかみんなに観せたことあんじゃない、
「ベルリン・天使の詩」 って映画…、
そ、ヴィム・ヴェンダースって監督の…。

あの時、みんな感動してたじゃん、カメラに。
ず~っと流れるように撮ってて、ほんときれいだったって…。

「雨月物語」も同じ感じしないか…?
あの映画みたいに
そんなにカメラで目の前を舐めていくわけじゃないんだけど、
なんか左からから右にず~っと目の前のものが流れていく感じ…。

するよね。
そうやって、この世の無常感を表現してみせてんだよね。
そこがなんか凄いっていうの…?

また、溝口健二って監督は、
役者の演技をブツ切れにするのが嫌いだったのね。
だから、長まわしするひとだったんだけど、
溝口のそういう演出と、宮川一夫の呼吸とがもうピッタリ合ってる…?

そういうの観ると、おれ、めちゃくちゃ嬉しくなるっていうかさ…(泣)。

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あ、みんな、最後…、あ、これは亡霊だって気づいた…?
そう、源十郎がようやく家に帰って、女房の宮木がいたとき…。

そうか、嬉しいね、ちゃんと観てたんだな。
故郷に帰る途中、宮木、落ち武者に槍で殺されたもんね…。

あの宮木、めちゃ美しかったよねえ。
源十郎を子どものそばに寝かせて、
そのあと、いろりのそばに座って、縫いものをはじめるとさ、
急にボーッと光り輝いたじゃん…。

凄かったよね、きれいで、
京マチ子の若狭なんかもうぶっ飛んじゃうくらい…!
あれ、なんでああしたかわかる、溝口…?

亡霊だから…? 亡霊はボーッと光輝くものだから…?
あ、まあね、まあ、そういうのもあるだろね…(笑)。

待ってる女房の心が美しいから…?
お、美しいこと言うねえ。だろうね。それもあるだろね…。
ほかには…? わかんない…?
窓から月光が差し込んだから…?
おまえなあ…、あ、そうだね…、ほかには…?(笑)

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うん、ほかにもあるんだよ。あれはね…、
あの宮木って女房やってた女優さんは田中絹代なんだけどさ。

そう、初めて観た、田中絹代?
いい女優さんだろう。
そんなに美人って訳じゃないんだけどさ、ほんと、うまいよね。
声がいいよね、喋り方がめちゃくちゃステキだよね。
京マチ子も、水戸光子も、毛利菊枝も…。

あのひと、ほら、若狭の乳母やってた女優さん、
あのひとが毛利菊枝さんね。

で、ほら、源十郎に「おまえには死相が現れておる」と言って、
源十郎のからだに経文書いてくれた修験僧いたじゃない。
あのひとが青山杉作さんといって、演劇の…。

あ、いいのいいの、喋ると空しくなっちゃうから…(笑)。

あれはね、じつは溝口健二が好きだったからなんだよね。

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え? なに言ってんだよ、青山杉作じゃなくて田中絹代。
いま田中絹代の話してんじゃねえか、ばか…。
紛らわしい喋り方すな? ごめん…(笑)。

そうなんだよねえ。
溝口健二、もう田中絹代にぞっこんだったわけよ。
女優になるともうボロクソ言うひとだったらしいんだけどさ、
田中絹代は別なの…、も、ぞっこん…(笑)。

だからさ…、あ、これはおれの想像なんだけどさ。
宮木という女房をあんなに美しく描いたのも、
ラスト、あんなにきれいに撮ったのも、
田中絹代のためだったんじゃないかと思ってるんだよねえ…。

世界に名立たるこの「雨月物語」もさ、
溝口にすれば、ただただ
惚れ抜いてた田中絹代を美しく撮りたいためにだけ撮った…?

そんなことあるのかって…?

あるのよお~。
芸術家っていうと偉そうだけどさ、
だいたいみんなそんなもんなんだよ…?

とくに男なんて、好きな女のためにやってるようなもんなんだよ?
女ほど偉大なイキモノっていないんだよ…?
よかったね、人生勉強にもなって…(笑)。

はい、きょうは終わり。
はやくしないと電車なくなっちゃうぞ~…。


●ひらいさん
そうなんですか。
「ベルリン天使の詩」を撮ったカメラマン、
宮川一夫に会いに来てた…!
はじめて「ベルリン…」観たとき、もしかしたらこの映像、
「雨月物語」から来てるんじゃないかなあ、と
ずっと思ってたんですよねえ。でも、わたしは
ほとんど作品の周辺情報読まないタチなものですから、
自信なくてこれまで黙ってきたんです…。
上の記事も、「ベルリン…」の映像は「雨月…」から
来てるんだよ、と、ホントは書きたかったんですが、
根拠がなかったもんだからグッと堪えまして…(笑)。
いやあ、長年の懸念がとれてほっとしました。
同時に、ものすごくうれしかったですねえ、
そうやっておいに影響されあいながら仕事してるのが
わかって…。
いまはわたしのイ・ウンジェの作品を…?(笑)
彼女の名前聞くだけで切なくなるんですが…。
困ったもんです…(笑)。

ありがとうございました。

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■97分 日本 ドラマ/時代劇

監督: 溝口健二
製作: 永田雅一
企画: 辻久一
原作: 上田秋成
脚本: 川口松太郎 依田義賢
撮影: 宮川一夫
美術: 伊藤熹朔
編集: 宮田味津三
作詞: 吉井勇
音楽: 早坂文雄
助監督: 田中徳三

出演
京マチ子 若狭
水戸光子 阿浜
田中絹代 宮木
森雅之 源十郎
小沢栄太郎 藤兵衛
青山杉作 老僧
羅門光三郎 丹羽方の部将
香川良介 村名主
上田吉二郎 衣服屋の主人
毛利菊枝 右近

以下あらすじは「懐かしの映画館近松座」からの引用です。感謝。
ここで当時の「予告編」(You Tube)がごらんになれますよ。

天正十一年。戦国時代のある早春。
近江国琵琶湖の北岸に貧しい二軒の家があった。陶工の源十郎(森雅之)の家族と彼の義弟藤兵衛(小沢栄)夫婦である。
源十郎が荷車に陶器を積み、町へ売りに出かけようとしていると、藤兵衛が「連れて行ってくれ」とついて来た。彼は武士になりたくて仕方がないのだ。
やがて、源十郎は陶器が売り切れ、大金を手に帰ってきた。
妻の宮木(田中絹代)や息子源市に小袖や様々な食べ物を買って来てやった。
一方、分かれた藤兵衛は長浜で武士になりたいと、丹羽方の武将に直訴するが、「具足と槍を持って来い」と追い返され、悄然と家にもどった彼は、妻の阿浜(水戸光子)に罵倒されるのだった。
「もっと働くぞ」大金を手にし、幸せは金で買えると思う源十郎は、陶器づくりに励む。妻や弟夫婦も手伝った。しかし、宮木は家族が平和に暮らせさえすればよいと思っていた。
だが、戦乱はこの寒村にもやって来た。柴田の軍勢が農家を襲い、源十郎たちも着の身着のまま逃げ回る。
源十郎は逃げながらも焼いている最中の陶器が気になって仕方がない。軍勢が去って、家に戻ると、陶器が素晴らしい仕上がりに出来上がっていた。
源十郎の家族と藤兵衛夫婦5人は、小舟に陶器を積み込み、琵琶湖に漕ぎ出した。
阿浜が舟を漕いでいると、霧の中を一艘の舟が漂っていた。中に瀕死の船頭が一人。「海賊にやられた」と言って息絶えた。源十郎は舟を一旦戻し、宮木と息子源市を置いて再び大溝へと向かった。
大溝城下の市で、陶器を並べると、次々と売れた。その時、源十郎の前に市来笠を冠った美しい女が付き人の老女を伴って現れた。大量に買い込み、「山陰の朽木屋敷に届けてくれますか、お金はその時に・・・」と命ずるように言うのだった。
藤兵衛は通りかかった武士の行列を見ていたたまれず、売上金を持って具足屋に飛び込んだ。そして鎧に身を包み槍を持った。
一方、藤兵衛を見失った阿浜は、侍たちに襲われ犯された。
再び大金を手にした源十郎が妻への着物を物色していると、先ほどの美しい女若狭(京マチ子)と老女右近(毛利菊枝)が現れた。「朽木屋敷案内しましょう」
朽木屋敷は、荒れた庭の中の大きな屋敷だった。やがて若狭が衣裳を替えて現れた。源十郎の作った陶器に酒肴を乗せ、酒宴が始まる。
「どうしてあのような美しいものができるのか、お会いしてお聞きしたかったのです」若狭が言った。
「貴方様のような美しいお方に使っていただくとは、陶器も幸せ者です」
「貴方様の腕は、貧しい片田舎にうずもれて終わるものではありません」
「では、どうしたら良いのでしょう」源十郎が言った時、右近が答えた。「若狭さまとお契りなされたら良い」 若狭が源十郎に迫り抱き寄せた。うろたえる源十郎。しかし、若狭の魅力には勝てなかった。
右近が鼓を打ち、若狭が舞う。源十郎は、右近から織田信長に滅ぼされた朽木一族の話を聞かされ、若狭と右近のみが生き残ったことを知る。
そして、源十郎はいつしか若狭の虜となっていった。
一方、残された宮木は、源一を背負い、武士たちから逃げ回っていたが、家に帰る途中、落武者に槍で突かれ死んだ。
藤兵衛は、ひょんなことから敵将の首を奪い、それを届けたことから出世の道を掴んだ。
そして、十数人の家来を持った藤兵衛が、部下の慰労のために立ち寄った遊女屋で、皮肉にも今や遊女に落ちぶれた妻阿浜に出会うのだった。
「お前さんが出世する間に、私はこうなったんだよ」阿浜の言葉は藤兵衛の耳をつんざく。
朽木屋敷で過ごしていた源十郎が、町の着物屋で衣裳を買った。
「少し足りないが、朽木屋敷まで来てくれれば、払う・・・」と、源十郎が言うと、着物屋の主人(上田吉二郎)は、「朽木屋敷!?」と、急に怯えだした。
帰り道、源十郎を呼び止めた老僧がいた。「お前の顔には、死相が出ておる」
朽木屋敷にいる若狭と右近は死霊であると、老僧から聞かされる源十郎。
朽木屋敷に帰った源十郎は、若狭に買って来た着物を見せる。喜んだ若狭は、源十郎にこの世を捨て、自分たちの黄泉の国へと誘うのだったが、はたして、源十郎の体には、老僧によって魔よけの梵字が書きめぐらされていたのだ。
若狭と右近はそれを見て狼狽し、源十郎を責め苛む。
「お許しください、私には、妻と子が・・・」 源十郎は、二人を突き放し、傍らの太刀を振りかざして斬りかかった。そして、庭に踊り出て、そのまま気を失った。
神官、土地の目付けたちが源十郎を引き起こす。源十郎は朽ち果てた朽木屋敷の廃墟に横たわっていたのだった。
疲れ果てた源十郎が家に戻ると、宮木が囲炉裏端に座っていた。源市は傍らに寝ている。
源十郎は、源市を抱きしめた。そして、欲に溺れた自分を宮木に詫びるのだった。
翌朝、源十郎は村の名主(香川良介)から、宮木はすでに落武者により殺されたことを知らされたのだ。では、あれは・・・宮木の亡霊だったのか。
一方、藤兵衛も阿浜と真っ当な生活に戻ろうと決意し、具足を捨てた。
源十郎は、宮木の墓に供養し、陶器作りに精を出すのだった。

溝口健二監督が、上田秋成の「雨月物語」の中の「蛇性の婬」と「浅茅ヶ宿」から材を得て映画化した溝口映画の最高峰。
「蛇性の婬」は愛欲の妄執を端的に強烈に描いており、「浅茅ヶ宿」は人間のいのちのはかなさ、無常というものを描いています。
この二つの話を、それぞれの主題を主張しながら一つの映画にまとめられないかというのが、溝口の考えでした。
井原西鶴のいう、色欲ニ道でいえば、「蛇性の婬」では愛欲に溺れていく男を、「浅茅ヶ宿」では、物欲や出世欲に目のくらんだ男を描いているのです。
そしてこの物語は、欲望にかられた男たちの陰で犠牲になった女たちの物語でもあります。
画面は宮川一夫のカメラの冴えが加わり、見事な幻想世界が私たちを魅了します。
霧に包まれた琵琶湖を行く小舟のシーンの幽玄な美しさ。
朽木屋敷の中で繰り広げられる奇怪なドラマ。幽霊話の哀調さ。
宮川のカメラ演出はモノクロ画面の芸術です。

この記事へのコメント

ひらい
2010年03月02日 23:32
こんばんは

ごぶさたしております。

山崎さんの記事でもありますように撮影の宮川一夫氏に『ベルリン天使の詩』の撮影をしたアンリ・アルカン氏が日本に会いに来ています。
十数年前に雑誌で読みました。当然ながらアンリ・アルカン氏は『雨月物語』を観ていました。
うーん、山崎さんの鋭い考察に感嘆します。

最近、イ・ジョンジェに一段落ついたあとイ・ウンジェの作品を観返しております。もうこの世界に彼女がいないと思うと悲しくて・・・・・・。

失礼しました。

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