山椒太夫 (1954)

[561]厨子王を佐渡にいる母へと導く安寿の「妹の力」
★★★★★☆

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告白すると、
わたしは溝口健二とはあまり相性がよくない…。

「雨月物語」などの例外はいくつかあるが、
溝口の作品ならなんでも好き!とはとてもいかない。

観るには観るのだが、
どちらかと言うと苦手な作品が多いのである。
好き嫌いの少ないわたしにしては珍しい監督かもしれない。

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理由はおぼろげながらわかっている。
女を描いた作品…、能の世界で言えば「鬘物」?
そういう作品が多いのだが、
溝口の描く女性像がどうも肌にしっくりこないのだ。

う~ん、生理的な好みなので、
これはもうしょうがないのだろうなあと諦めている…。

この作品は好きなほうでけっこうなんどか観ている。
でも先に言っておくと、観ても観てもじつは違和感がある。

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森鴎外の小説では、安寿は姉で厨子王は弟なのだが、
溝口作品では安寿が妹で、厨子王が兄になっている。

なんでわざわざ逆にする必要があったのだろう?
それがわたしにはなんど観てもわからんのだあ~…(笑)。
溝口が生きていたら文句をつけたいところである。

というのも、
この作品を繰り返し観てるのはじつは、
安寿をやっている香川京子が、
わたしはもうめちゃめちゃ好きだからである。

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で、困ったことに、なんど観ても、
私の聖なる姉=香川京子の安寿のほうが
花柳喜章の厨子王より年上に…、姉に見えてしまうのだ。

年齢の問題ではない。
心が「姉」に見えてしまうのである。

この作品を観たひとはどうなんだろう?
厨子王のほうが兄に見えるのだろうか…?
わたしだけなのだろうか、安寿が姉に見えるのは…?

と、じつはそれが知りたくなって、
改めて観て、いまこうやって書いているのだ。
ごらんになってる方がいたらぜひ教えてほしいなあ…(笑)。

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しかし、ほんと、なんど観ても素晴らしい、香川京子は。
顔を見てるだけでわたしの胸はギュツと押しつぶされそうになる。
これは理屈じゃない。
理屈ではもうどうにもならん事態なのである…。

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白眉のシーンはなんといっても、
安寿が厨子王を山椒大夫の館から逃がしたあと、
池に入水するシーンだ。

鴎外の原作ではたしか、
厨子王を逃がしたあと山椒大夫の館で居所を言えと拷問を受ける。
溝口作品では、
拷問を受けると苦痛で居所を告白するにちがいないと思い、
捕まる前にこうやって入水自殺をしてしまう。

うん、さすが溝口、この書き換えはすばらしい…!
わたしだって香川京子が拷問を受けるシーンなど見たくない(笑)。

しかし、ああ、なんて美しいんだろう、安寿の…、
香川京子のこのうしろ姿…!
神々しいとさえ言える。

うん、わたしは瞼を濡らしながらもうっとりしてしまう…。

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安寿の仲間のおばあさんは入水した安寿に手を合わせる
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やっぱり気になる。
入水するこの安寿はどう見たって「姉」の姿じゃないかあ…!(笑)

これが妹だと、たぶん悲しいとか可愛そうだとか哀れだとか、
そういうふうにしか感じないはずなのだ。
美しさや神々しさを感じるのは姉だからなのだ…。

はっきり言おう(笑)。

安寿が死ぬのは、
厨子王を逃がして、佐渡にいる母に会いに行かせるためである。
自分が死んで母へと導くためだ…。

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実際、最後、厨子王は
安寿のおかげで佐渡へ行き、こうやって母親に会えるのだが、
厨子王を母へと導く安寿の力は、
かの柳田国男のことばで言えばまさに「妹の力」なのだ。

女性のもつ呪術の力…。

この「妹」とは、生物学上の、社会学上の妹のことではない。
同族の近しい女性のことである。
そして一般には年上の女性、姉のことを指している。

古来、日本では
姉が祭祀を司り、弟が政治を司ってきたといわれるが、
その「姉」の力である。
鴎外が安寿を姉にしたのもたぶんにその含みがあったのだ。

安寿は、自分の「死」という呪術の力で
厨子王を生き別れて佐渡にいる母へと導いた…。

物語的にどうしてもそう見えるから、
わたしには安寿が姉に思えてしまうのだ。

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溝口は、
安寿を入水死させるという見事な書き換えをやっておきながら、
安寿を妹にしてしまうというミスを犯した、
としかわたしにはどうしても思えないのだが…(笑)。

あ、そうだ。
わたしの師である唐十郎もこの山椒大夫の話が大好きで、
小説を書いたりドラマにしたりしているので、
こんどお会いしたらそのあたりのことをちゃんと聞いとこ…(笑)。

この作品にはじつはもうひとり、
わたしの大好きな俳優が出ている。
そのひとに会えるのがまた無性に嬉しくて繰り返し観るのだ。

誰あろう、このお方である…。

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進藤英太郎さんなのだあ…!

ああ、自分でも思わずびっくりした。
レビュー開始以来、初めて大文字を使ってしまったよ…(笑)。

進藤英太郎さん、もう死ぬほど好き…!

子供のころはもう
憎たらしくて憎たらしくてしょうがないひとだったのに、
その憎たらしさが嵩じていつのまにか
すっかり愛に変わってしまったんだよねえ…(笑)。

そういう俳優さん後にも先にもわたしには進藤さんだけかも…(笑)。
まいるよねえ、凄いひとだよねえ。

いいんだよねえ、相変わらず冴えてるんだよねえ、
悪者、進藤英太郎節…(笑)。

悪を悪としてこんなにみごとに類型化してみせてくれたの、
進藤英太郎だけじゃないかと思う。
金子信雄さんもよかったけどそこまでは行けなかった…?

小声でブツクサ言うところなど、ほんとにもう最高。
嬉しくて嬉しくて、腹抱えて大笑いしちゃった…!
あ、ちなみに山椒大夫さんの役です…(笑)。

物語的にはちょっと単線すぎるかなとは思うが、
ほんとにいい映画。
ラスト、田中絹代の演技にも涙々だ…。

■124分 大映 ドラマ
監督 溝口健二
撮影 宮川一夫
原作 森鴎外
出演
田中絹代
香川京子
花柳喜章
進藤英太郎 他

平安朝末期。安寿と厨子王の父は国司を失脚して地方に流される。母と乳母と安寿と厨子王の4人が父を追って旅に出るが、途中由良川(?)付近で人買いに騙されて、母子が離別してしまう。兄妹は荘園を任されている山椒太夫の下に農奴として売られる。過酷な労働。母は遊女として佐渡へ売られる。母が歌う「安寿恋しやほうやれほ、厨子王恋しやようやれほ」…。
1954年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞。


●kotarouさん
返信が遅くなって申し訳ありません。
溝口が安寿を妹にしたのは、「美しさや神々しさ」など感じてもらっては
困るから、というご意見、ああ、なるほどな、と思いました。
宮崎俊、そんなことを…! し、失礼な…!(笑)
私はもう女性像はともかく映画は断然、宮崎より
溝口、小津なんですが…(笑)。

ありがとうございました。


 
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この記事へのコメント

kotarou
2011年08月09日 17:23
私も、不思議でした。
なぜ、香川京子を妹にする必要があったのか?
見た目で姉に設定するのは無理とかならわかりますが
ご指摘のように、私にも彼女は姉に見えますし姉という事でも全く問題ないでしょう。
安寿はやはりこの物語では「姉」でなくてはならないし
「妹」だと入水の意味合いが変わってきてしまうというのも全くその通りだと思います。
溝口が妹に変えたのは彼の女性観のせいではないかと
私は睨んでいるのですが。
kotarou
2011年08月09日 17:51
安寿に「美しさや神々しさ」など感じてもらっては困るからでしょう。
宮崎駿が女性の描き方が気に入らないから、溝口や小津よりも黒澤が好きと言ってましたから、溝口の女性観に違和感を感じる人は私も含めて意外に多いのではと思います。

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