ふたりの人魚__前 (2000) 中国

[706]マス・イメージから逃走するためにロウ・イエが取った映画技法とは
★★★★★★

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「天安門 恋人たち」を撮ったロウ・イエの作品。
2000年ロッテルダム国際映画祭のグランプリ受賞作。

久しぶりに観た。
やっぱり素晴らしい映画、大好き映画…(笑)。

観たのは訳がある。
最近の韓国映画、
マス・イメージに晒されはじめたのではないか、
と「愛の運命-暴風前夜」で書いた。

じゃあ、それと反対の映画ってどんな映画なのか、
これ観てもらうのが、
紹介するのが一番いいんじゃないかなあと思って…(笑)。
ま、「天安門 恋人たち」でもいいんだけどね。

主人公は「僕」。
僕は、ビデオ撮影屋さん。
頼まれればどんなビデオでも撮ります、というなんでも屋さん(笑)。

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物語は、その僕が撮った上海の河口(蘇州河)の紹介(?)から始まる。

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河では多くの人が暮らし、生計を立て、ここで一生を終える。
こうやって写真を撮っていると、それが見えてくる。
河は、当然、ひどく汚い…、と僕は言う(笑)。

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そして、少女が河に飛び込むのを見た。
若い恋人たちの心中遺体も見た。
人魚を見たこともある…、と(笑)。

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写真(映像)は映画のセットではない、実写である。
なので蘇州河口は現実そのままに汚い(笑)。
「汚い」のは、実際にそこで人間たちが生きている証拠。

これらの風景には人々の記憶が眠っている。
そこから人々の生きた記憶が溢れ出てくる…。

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現実の上海河口…。
にもかかわらず「僕」は「人魚」を見たことがあると言う。
うそつけ、そんなもんいるか! と思うが(笑)、

「僕」はそう言ってみせることで実は、
現実をすでに映画(フィクション)の背景として取り込んでみせている
ことになる。
じつに見事なヌーベルバーグ手法だ…。

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しかし、まあ、ほんとに素晴らしい。
イントロのこの映像を観てるだけで私のからだは震えてくる。
生きている、あるいは死んだ人間たちの
息遣いや、鼓動、記憶が映像から押し寄せてくるからだ…。

「僕」は…、ロウ・イエはと言ってもいいが、
そこからひとつの物語を…、
人魚になった少女と恋人の話を仮構してみせる…。

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ある日、仕事が入った。
依頼してきたのはBAR「開心館」のオーナーだ。
この男…。

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男はなんでこっちを…、レンズを見てるのか?
レンズのこっちに…、手前に、ビデオ屋の「僕」がいるからだ。
つまり、彼は僕と喋ってるのだ。

そして映像は最初から最後まで、「僕」が撮ったもので、
登場人物は僕と喋る場合、
こうやってこのオーナーのようにレンズを見て喋ることになる。

僕のほうは当然、画面には登場しない。
撮影をしてるからで、登場したくても登場できないわけだ(笑)。
なので登場してもせいぜい片手が登場するくらい…(笑)。

このカメラの意味は…?

映画の場合、登場人物がカメラを観るのはタブーとされている。
なぜなら登場人物には、レンズはむろん、
撮っている人間も見えないものとされているからだ。

見えないもの、でもすべてを見ているものとは、「神」。
つまり映画の映像は、
世界のすべてを見通す「神」が撮っていることになっている訳だ。

でも、この映画では、
撮っているのは神様ではなく「僕」です、
ビデオ屋の僕が撮っているのです。

神様ではなく、一介の人間に過ぎない僕が撮っているのだから、
間違うこともあるし、ウソをつくこともあります、
と、あらかじめ断っていることになる…(笑)。

つまりは、映画を神聖なる神のものから、
愚かな、でも愚かだからこそ愛しい人間のものへと
引きずり下ろしているわけだ。
そう、徹底したヌーベルバーグ的手法ってこと…。

あ、断っておくね。

こうやってスチール写真にすると、
いかにも映画らしい、すごい写真(映像)のように見えるけど、
実際には、ド素人が家庭ビデオカメラで撮ったような
ブレまくりの、ひどい映像なんだからね。

ひどいように見えるけど、実はすごい映像。
「愛の運命」をはじめとする最近の韓国映画とは、
真逆の映像…(笑)。

物語に戻る。
開心館のオーナーの依頼は、人魚ショーを撮ってくれ、
店の宣伝に使うので、というもの…。

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店内の水槽を見て僕は、人魚はたしかにいた、と語る。

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その人魚はこの娘…、名はメイメイ(ジョウ・シュン)。
僕は彼女に一目惚れし、すぐにアタックし、付き合いはじめる(笑)。

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彼女はふだんは明るくて陽気な娘。
が、時々沈むことがある。

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理由はわからない、言わない。
過去についても喋らないし、僕も聞かない。

そして時々、数日、僕の前から姿を消すことも。
そんな時、もう戻ってこないのかもしれないと、
僕は不安になる…。

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なので僕は、彼女が僕の部屋を出て行くと、
こうやってすぐに部屋の中から、雑踏の中の彼女を探す。
そして彼女の姿を見つけては安心している…。

彼女は飲んで酔うと必ず僕にこう聞く。
「私が戻らなかったら、マーダー(馬達)のように私を探す?」

「マーダって?」と聞くと彼女はこう物語る。
「バイクの運び屋で、愛する娘を探し続けた男」だと…。

僕は思う、
そんな恋物語はどこにだって転がっていると。

そして「僕が作るなら…」と、
架空のマーダーの物語をはじめる…、
作って、観客に語りはじめるのだ。

その僕の物語の作り方はこうだ。
例によってカメラで部屋の窓から上海の街角を眺め下ろし、
マーダーに相応しい男を見つける。

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あ、いた。こいつだ、こいつにしよう、
バイクに乗ってるし、運び屋みたいだし…(笑)。
で、相手は…。

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あ、この娘にしよう、可愛いし、メイメイ似だし…(笑)。
なぜメイメイ似でないといけないのか、
それは僕の物語を聞くうちにわかってくる。

ひとつだけ言っておくと、
僕がマーダーの物語を作り、語りはじめるのは、
メイメイがけして語らない彼女の過去と、
彼女が僕の前から時々姿を消してなにをしているのか、

その「空白」の時間を、
僕自身が妄想的に作って、納得するためだ。
安心するため…(笑)。
それがすべてではないが…。

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マーダー(ジア・ホンシュン)。
荷物の運び屋さん、バイク便屋さん、年齢26、7歳。
過去は…、ええと…、そう。

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学校を中退し、河辺でプラプラしていた。
ある日、仲間がバイクを盗んできた。
そのバイクが気に入ったので買い、運び屋をはじめた。

上海は運び屋だらけだが、彼はハンサムでもてた。
顧客も多い。

ある日、お得意様の女シャオホンから仕事を頼まれた。
今回の荷物はちょっと変わっている。
少女を運んでくれというのだ。

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この子を(笑)…、叔母さの家へ…。

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名前はムーダン(ジョウ・シュン、二役)。

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何度も送り届けるうちに二人は互いに惹かれあった。
しかし、まあ、この子、超かわいいんだわさ(笑)。

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ムーダンの誕生日、マーダーは人魚の人形をプレゼントした。
二人は、ムーダンが父親からくすねたズブロッカを飲み、
酔っ払った。

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ムーダンは世界一幸せそうだった…。

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それから…、もちろん、二人は恋に落ち、
ムーダンはマーダーのアパートで時を過ごすこともあった。
が、事はそう単純にはいかない…。

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ムーダン運びの仕事を依頼してきたシャオホンとラオBは、
じつは犯罪組織の連中で、あることを企んでいた。
ムーダンを誘拐して、父親から身代金をせしめること。
その誘拐のために、
マーダーにムーダンを手なずけさせていたのだ…!

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父親はズブロッカを密輸入し儲けていた。
で、毎週水曜日に女を家に呼びセックスを楽しんでいた。
なので水曜日は、娘ムーダンを叔母に預けていたのだ!
ムッ、ゲゲッ…! だよねえ、まったく…(笑)。

企みを聞かされたマーダーは、慌ててムーダンと会うのをやめた。

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と、ある大雨の日、ムーダンがズブ濡れで尋ねてきて、
机にあったズブロッカを飲み、叫んだ。
「酔えば追い返されない!」と…(泣)。

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マーダーはムーダンを抱きしめた…。

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決行の日が迫った。
マーダーは断ろうとしたが、ラオBに脅され、
仕方なくムーダンを廃ビルに拉致し、二人で一夜を過ごした。

翌日、シャオホンとラオBは父親から身代金をせしめた。
ラオBはいかにも犯罪組織の男らしく、
シャホランを殺害し、金をひとり占めして逃げた。

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マーダーがムーダンを解放し、家へ送り届けようとすると、
ムーダンが聞いた、「私の値段はいくらだったの?」と。

マーダーが「45万」と答えると、
「たったそれだけ? 私、そんなに安いの?」と叫び、
走りはじめた。

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そして蘇州河に架かる橋の欄干を超え、
追ってきたマーダーに、

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 うそつき。好きなフリして。
 こんど会うときは私は人魚になってるわ。

と言い、

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そのまま河に身を投げた。

上海はしばらくこの事件の話題で持ちきりになった。
河で人魚を見たという者も現れた。

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河で働く船員たちは全員が見たと言った(笑)。
ジャン…!

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ん? オレはいまなにか見たな。なにを見たんだろう…?(笑)
いいよねえ。私、こういう話大好き…!(笑)

あ、誤解しないでね。
これは私の話じゃなくて、「僕」の話だから。
あくまでビデオ撮影屋の僕の作り話…。

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マーダーは捕まり、服役した。
出所すると、都市をあちこち渡り歩き、
上海に戻ってきた。

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そしてまたバイクで運び屋をやりながら、
愛するムーダンを探しはじめた…。

ところで、ここからこの映画はこれまでと違い大きく飛躍する。
ほかでもない。
ここまでは僕が語ってきたのだが、
ここから先はマーダー本人に語らせよう、と
「僕」が語るのをやめてしまうのだ。

この飛躍は一言でいえば、小説から劇への飛躍である。
「僕」の書いていた作中人物が、
直接舞台に現れて喋り、行動していくわけだ…。

じゃあ、「僕」の手を完全に離れたのというと、そうではない。
離れたのだとすれば、
「僕」はもうマーダーを撮れるわけないんだもん…(笑)。

マーダーはまだ僕(作者)の手中にある。
だから僕は彼をカメラで撮れるわけだよね。

もうひとつ注意しておきたいことがある。
「僕」がマーダーとムーダンの架空の物語を語りはじめてから、
二人は、メイメイや、「開心館」のオーナーみたいに、
レンズのほうを…、「僕」を見ることはなかったということ。

つまり…、
二人は「僕」が作り出した架空の世界の人間、
「僕」は架空ではなくて現実世界の人間…。
住む世界が違うわけで、二人には「僕」は見えない、
「僕」の存在すら知らない。

なので当然、レンズのほうを…、「僕」を見ることはありえない
ということなんだよね。

その意味ではこの間、映画はごく普通の撮りかたをしてる
と言ってもいい。

物語に戻ろう…。

「ふたりの人魚」(後)に続く。


■83分 中国/ドイツ/日本ドラマ ロマンス
監督:ロウ・イエ
製作:ナイ・アン フィリップ・ボバー
脚本:ロウ・イエ
撮影:ワン・ユー
出演
ジョウ・シュン
ジア・ホンシュン
ナイ・アン
ヤオ・アンリェン

2000年ロッテルダム国際映画祭のグランプリ受賞作。中国の新鋭ロウ・イエ監督が、現代の上海を舞台に描く切ない恋の物語。上海でビデオの出張撮影の仕事をしている男。仕事は順調とはいえず暇をもてあまし気味。ある日、撮影先で人魚のように美しい水中ダンサーのメイメイにひと目ぼれする。ふたりはつきあい始めるが、彼女には謎めいた行動が多かった。しかもある日、彼女のことを自分の恋人のムーダンだと言い張る男まで現われて……。

 

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