元禄忠臣蔵 1 (1941・42) 松竹

[742]この映画を超える映画はもう生まれないかもしれないなあ
★★★★★★

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昔、年末になると必ず上映された定番ものと言えば、
そうです、「忠臣蔵」…。

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昨今は年始年末の風景が消えて味気ないので、
政府はそろそろこの「忠臣蔵」放映、上映、鑑賞を
義務づけたらどうだろう、関係会社、国民に…(笑)。

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と提案するにはまず年末に自分で観てみないと、
と昨年末に観た「忠臣蔵」…(笑)。

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ごらんのように、「情報局国民映画参加作品」。
1941年に前編が、そして翌42年に後編が上映された。
監督はかの溝口健二…。

溝口が、監督を引き受けるにあたり、
「原作は真山青果。俳優陣は前進座。でなきゃやらない」
と注文をつけた曰くつきの作品。

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映画はこのカットからはじまる。
江戸城である…。

ゴダールは、あるインタビューで、
世界で3人だけ監督をあげるとすれば誰をあげるか
と聞かれたとき、
「ミゾグチ」「ミゾグチ」「ミゾグチ」と溝口の名を連呼した。
口泡を飛ばしたかどうか知らないが…(笑)。

この作品を観ると、
ゴダールがなぜ「ミゾグチ」の名を連呼したのか、
誰もが納得するかもしれない。

私も…、う~ん、
この映画を超える映画は未来永劫現れないかも、
と、ひそかに思っている。

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2つ目のカット…。

カメラはここから全景を舐めながら、
右へ右へとゆっくり移動し、
廊下で浅野内匠頭の悪口を言っている吉良上野介を捉え、
内匠頭が追いかけて上野介に刃傷に及ぶシーンを撮っている。

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斬りつけた内匠頭を留守居番梶川頼照が背後から止める。
と、カメラは切り返し、ようやく3カット目に移る。

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この間、約2分35秒…、長回しである。

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内匠頭が切腹に向かうシーン。
これも1カットで、約1分45秒である。

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もうひとつ紹介しよう…、前編のラストシーン。
内蔵助の妻・おりくは、夫に離縁を申し出て、
下の子ども2人を連れ、山科から丹波へと去る。

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内蔵助は時来たりと、江戸へ上り、吉良を討つことにした。
おりくは、死に赴く夫のためにも、
まだ幼い下の二人の子を育てるのが自分の務めだ
と思ったのである。
夫の気持ちを読んだのである。

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主税は、去り行く母と妹たちを追い、見送った。

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内蔵助も左のほうから…、
居のほうから現れ、やぶの中の小道を去る妻と子を見送る。

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内蔵助は主税の心中を思いやった…。

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そしてこの哀しく、
はかない別れのシーンで前編が閉じられるのだが、
ここも1カット、約3分27秒…。

全編こんな感じ…、長回しの連続なのである。

こうも長回しをやられると、
俳優は相当な集中力と演技力を要求される。
溝口は、それに応えられるのは舞台を経験している俳優だと、
前進座の俳優陣にこだわったのだろう。

「忠臣蔵」は歌舞伎・人形浄瑠璃台本でもある。

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夫の内匠頭が切腹する時刻、
妻の瑤泉院は、女性の命といわれる自分の髪を切った…。

「集中」に関してはエピソードがある。

建築監督を務めた新藤兼人が、
「この映画は実寸主義だった。
江戸城松の廊下とその周辺をそのまま再現しただけでなく、
あらゆる装置、道具に高い水準を求められた」
と述懐している。

内蔵助を演じた河原崎長十郎も、
「毎日が美術の勉強だった」と語っている。

じつは吉良邸のセットも実寸で創られていたのだが、
こっちは撮影に使われなかった。
「忠臣蔵」と言えば、
誰もが吉良邸への討ち入りを期待するのだろうが、
溝口がその吉良邸討ち入りのシーンを撮らなかったからだ。

この「元禄忠臣蔵」には肝心の討ち入りシーンはない(笑)。
そのことについてはまたあとで触れる。

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赤穂城内…、内蔵助は、家臣を前に、
江戸から届いた主君内匠頭の辞世の句を読んだ。

松の廊下の寸法が、
実寸と1寸違おうが1尺違おうが、映画の大勢に影響はない。
そんなことは溝口だって百も承知だ。
演出家の私が言うのだから間違いない(笑)。

だが溝口は徹底して実寸にこだわった。
主役の河原崎長十郎も、
役そっちのけで、実寸の勉強に励まなければいけないほど(笑)。

考えられる理由はひとつだ。
溝口は、
スタッフから俳優まで徹底して実寸にこだわらせることで、
映画つくりに集中させたかったのである。

時は戦時下である。
国民の生活の隅々までが
戦争に侵食されていた時なのである。
翼賛映画以外、映画などほとんど撮れなくなっていた時代
なのである。

ちょっと油断すると気はそぞろとなり、時代を向く。

そこで溝口は自分をも含め、
実寸にこだわることで映画つくりに集中したかったのだ。
と同時に情報局に…、戦争に抵抗したかった…?

なぜならこの映画も…、「忠臣蔵」も
かっこうの翼賛映画として撮らされていたからである。

実際、先の河原崎も述懐している、
「ひたすら芸術に没頭することは、戦争からの逃避であり、
または戦争へのささやかな抵抗だった」と。

が、これらは長回しの理由の半分でしかない。

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元赤穂藩の家臣で、
内蔵助の竹馬の友でもある井関徳兵衛は、
友の心も知らず、倅とともに元主君の後を追った…。

溝口が長回しをするのは、
じつはカメラを動かしたいからである。
観ているものにカメラの動きを見せたいからである。

カメラを動かすために、
カメラの動きを見せるために
わざわざ2分も3分も5分も長回しする必要はないように
思えるかもしれないが、溝口の場合はそうはいかない。

溝口のカメラの動きは、
これ以上は無理というほど「遅い」からだ。
異常なほどゆっくり動いていくからだ。

時々、その鈍さに、
おまえはナメクジか!と怒鳴りたくならないでもないが(笑)、

あまりにもゆっくりゆっくり動いていくので…、
緩慢なので、
俳優たちに長いこと演技をしてもらわないと、
「カメラが動いてる!」ということを、
観る側になかなか気づいてもらえないのである(笑)。

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山科へ隠居した内蔵助は、
主君の無念などはや忘れたかのように、
祇園や島原で遊蕩三昧の日々を過ごした…。

これはもう映画を観てもらうしかないのだが、
そのひじょうに緩慢な…、
緩慢でありながらひじょうに自在なカメラの動きこそ、
溝口を溝口たらしめている。

小津安二郎のカメラは動かない。
人物を、風景や景色を、外界を追わない。
外側からカメラに…、目に入ってきたものを写し撮る。

溝口健二のカメラは動く。動いていく。
人物を追う。
外界をゆっくり、ゆっくりと眺めるように追う。
追っていく…、右から左へ、時には上から下へと…。

対象に近づきもせず、離れもせず、
しかもゆっくりと、すこしのブレもなく追う…、
そのカメラの美しさは世界的にも比類がない。

が…、この目は…、溝口の目はいったい何なのだろうと、
わたしはいつも深く囚われている。

囚われるとは言っても気分はすこしも悪くない。
いや、むしろ上々…、どころか極上なのだ(笑)。

そしていつもある結論に達している。
この目は…、
つかず離れずひとや世界を追うこの溝口の目は、物の怪?(笑)
死者のたましい…? と…。

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お家再興の願いが幕府に取り下げられたことを知ると、
内蔵助は浪士たちに時が来たことを告げる…。

溝口は、
死者の世界からこっちを…、生者たちの世界を見ている。
それが溝口のカメラの「気配」の正体なのではないか
と思う。

カメラだけでなく「音」を聞いていてもそう思う。

溝口映画は「無音」の世界だ。
無音の世界にいるものが、
こっち側の…、生者の世界の声や物音を拾っている、
聞いている。

溝口映画の発している音は、そうとしか思えない音なのである…。


■前編112分 後編112分 日本 時代劇
総監督:白井信太郎
監督:溝口健二
脚色:原健一郎、依田義賢
撮影:杉山公平
音楽監督:深井史郎
美術監督:水谷浩
建築監督:新藤兼人
演奏:新交響楽団(現・NHK交響楽団)
指揮:山田和男
武家建築考証:大熊喜邦
言語風俗考証:潁原退蔵
民家建築考証:藤田元春
時代一般考証:江馬務
能考証:初世金剛巌
史実考証:内海定治郎
風俗考証:甲斐庄楠音
造園考証:小川治兵衛

キャスト
「赤穂藩関係者」
大石内蔵助:四代目河原崎長十郎
富森助右衛門:三代目中村翫右衛門
磯貝十郎左衛門:五代目河原崎國太郎
浅野内匠頭:五代目嵐芳三郎
瑤泉院:三浦光子
大石りく:山岸しづ江
大石吉千代:四代目中村梅之助
大石くう:三井康子
原惣右衛門:坂東調右衛門
吉田忠左衛門:助高屋助蔵
大高源吾:六代目瀬川菊之丞
堀部弥兵衛:市川笑太郎
武林唯七:市川莚司(加東大介)
片岡源五右衛門:市川菊之助
大石瀬左衛門:河野秋武(山崎進蔵)
大石主税:市川扇升
瀬尾孫左衛門:市川章次
早水藤左衛門:市川岩五郎
潮田又之丞:市川進三郎
井関紋左衛門:坂東春之助
生瀬十左衛門:中村公三郎
大塚藤兵衛:坂東みのる
岸佐左衛門:坂東銀次郎
奥野将監:六代目嵐徳三郎
大野九郎兵衛:筒井徳二郎
小野寺十内:加藤清一
岡島八十右衛門:川浪良太郎
堀部安兵衛:海江田譲二
萱野三平:大内弘
近松勘六:大川六郎
奥田孫太夫:大河内龍
赤埴源蔵:橘小三郎
井関徳兵衛:羅門光三郎
落合与左衛門:風間宗六
間喜兵衛:和田宗右衛門
矢田五郎右衛門:竹内容一
間瀬九太夫:梅田菊蔵
間十次郎:中村時三郎
老女・うめ:岡田和子
潮田の妻・お遊:京町みち代
戸田局:梅村蓉子

「その他」
吉良上野介:三桝万豊
多門伝八郎:小杉勇
加藤越中守:清水将夫
進藤筑後守:坪井哲
梶川与惣兵衛:山路義人
深見宗左衛門:玉島愛造
近藤平八郎:南光明
久留十左衛門:井上晴夫
大久保権右衛門:大友富右衛門
田村右京大夫:賀川清
稲垣対馬守:久米譲
徳川綱豊:市川右太衛門
お喜世:山路ふみ子
中臈お古牟:大原英子
細川越中守:河津清三郎
細川内記:生島喜五郎
堀内伝右衛門:4代目中村鶴蔵
久永内記:松永博(後の綾小路絃三郎)
荒木十左衛門:浅田健三
新井白石:島田敬一
祐筆江島:山本貞子
関久和:沢村千代太郎
津久井九太夫:中村進五郎
登川得也:嵐敏夫
石井良伯:市川勝一郎
浮橋太夫:滝見すが子
村井源兵衛:中村進五郎
林兵助:市川章次
諸井左太夫:征木欣之助
渋川五太夫:荒木忍
うめ:岡田和子
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