元禄忠臣蔵 2 (1941・42) 松竹

[742]溝口はなぜ吉良邸討ち入りのシーンを描かなかったのか
★★★★★★

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後編は、徳川綱豊の屋敷から始まる。

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綱豊は、関白の浅野大学に、
浅野家再興の願いを将軍に願い出るようにと頼まれ、
苦慮していた。
大学は内蔵助を召し抱えたかったのだ。

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赤穂浪士の富森助右衛門は、上野介を探索していた。
この日も上野介が当家に現れることを知り、訪れていた。

綱豊は、見なれぬ男が当家に仕える腰元の兄で、
赤穂の浪士だと知ると、
男を…、助右衛門を呼び、胸のうちを聞こうとした。

直情的な助右衛門は綱豊に噛みついた。
あなた様は武士の鑑と評判の高いお方。
なのになぜこのたびの沙汰は片手落ちだと
将軍家に意義申し立てをなさらぬ。
そんな方がいまさら武士道などとは片腹痛いわ、と。

綱豊は謝った。
すまぬ、おまえの言う通りだ。
明日は登城するので、将軍に浅野家再興を願うとしよう。
だが助右衛門、内蔵助は、
再興が叶うと仇討ちの名目を失うことになるのだぞ、と…。

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綱豊の言葉は助右衛門を狂わせた。
もはやこれまで、ひとりで上野介を討つほかはないと、
その夜、妹の手引きで上野介の命を狙った…。

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だが上野介だと狙った相手は綱豊だった。




綱豊は言った。
お家再興を願い出たばかりに上野介を討てない
内蔵助のジクジクたる想いが、哀しい心がなぜわからぬ。
おまえの振る舞いは
ますます内蔵助を窮地に追い込むのだぞ、と。

助右衛門はガクリと膝をつく。
と、囃しの音が聞こえ、綱豊は舞台へ急いだ…。

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冒頭から緊迫感に溢れたすさまじいドラマが展開される。
むろん長回し。
ちなみに上の廊下と庭でのタテのシーンは、
2カットで、約6分28秒…。

綱豊を演じているのは、
私が子供のころ時代劇のヒーローだった市川右太衛門で、
このとき34歳。
助右衛門は、三代目中村翫右衛門。

上野介の前でまう
美しくも鬼気迫る舞いは、義経の舞い。

綱豊が演じる義経は、
遺恨を晴らさぬまま無念に死んでいった内匠頭の、
さながら怨霊のようにも見える。

折口は、
死者と生者とが織り成す能の世界を、
ここでも見事な筆致で描いてみせている…。

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元禄15年(1702)12月15日…、内匠頭の命日。
その日は、雪…、瑤泉院と戸田局。

瑤泉院を演じているのは三浦光子、このとき24歳。
韓国の女優はすごいが、
この頃の日本の女優は一歩も引けをとらない。
力説しておかないとね(笑)。

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江戸へ入った内蔵助は瑤泉院を訪れる。
瑤泉院と戸田局はいよいよ仇討ちかと期待するのだが、
血気にはやる浪士たちを抑えるのが大変ですと、
内蔵助にはその気配がない。

内蔵助が主君へのご焼香を願い出ると、瑤泉院は断る。
いまの内蔵助の焼香を内匠頭も喜ばないだろう、と…。

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翌未明…、葉に積もった雪が地面に落ちる。

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瑤泉院は、昨日のらしからぬ内蔵助が気になり、
眠れずに夜を過ごした。

そこへ戸田局が訪れる、
私も内蔵助の言動が気になり眠れませんでした、と。
そして帰りに内蔵助から預かった包みを解く。

綴じられた冊子だった。
めくると、そこには浪士たちの連名があり、
瑤泉院と戸田局はもしやと思った。

と、そのとき…、

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仕える女たちが慌しく部屋へ入ってきた。
今しがた、異様な出で立ちをした者が門をドンドンと叩き、
この書状を投げ入れて行きました、と。

戸田局が書状を見ると、
元赤穂家臣・吉田忠左衛門からの書状で、
何事かと読むと、
そこには吉良邸へ討ち入り、上野介を討ち取った様子が
事細かに書かれていた…。




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シーンはそのまま、内蔵助ら47志士が、
討ち取った上野介の首を
泉岳寺の内匠頭の墓前に捧げるシーンになる。

これがこの映画の討ち入りのシーンである。

吉良邸への討ち入りのシーンはない。
内蔵助の陣太鼓が雪の中で響くシーンも、
清水一角の壮絶なチャンバラのシーンもない。

庭の木の葉に降り積もった雪が地面に落ちた。
あれは上野介の首は落ちたという知らせなのかと、
あとでわかるようになっているだけである。

すでに実寸の吉良邸が造られていたのだから、
溝口は吉良邸討ち入りを撮るつもりでいたのかもしれない。
しかし撮らなかった。

なぜ?
金を無駄遣いしたかったのだろうか。
そうかもしれない(笑)。
贅沢は敵だと戒められた戦時下である。
贅沢をすることで「ささやかな抵抗」をしたのかもしれない。
繰り返すが、この映画は、
「情報局国民映画参加作品」として撮らされていたのだ。

笑ってはいるが私は本気で言っている(笑)。
溝口は「実寸」問題同様、
無駄金を湯水のごとく使うことで「ささやかな抵抗」をしたのだ。

内匠頭は胸のうちを語らないまま死んでいった。
結果、ひとびとの様々な憶測を呼ぶことになった。
同様に、溝口も真意を語らなかったので
後世、様々に憶測されることになったのだが、

撮影途中で迷ったのではなく、
溝口にははじめから
吉良邸討ち入りを撮るつもりはなかったのだ、
と私は思う。

理由はあとに譲るが、
かくて映画は予算をはるかに超える膨大な金を浪費し、
製作者の首は次々に飛んでいった…。

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討ち入り後、内蔵助は、
本懐を果たしたと割腹を望むものたちを諭し、幕府に届け出た。
結果、沙汰が下るまで、47人の浪士たちは4家屋敷に
分散して預けられた。

内蔵助はどこまでも公儀と、武士道に従おうとしたのである。

内蔵助が預けられた細川越中守の下屋敷に、
瑤泉院から花が届けられた、内蔵助ら元家臣たちにと。
公儀の沙汰が下ったのだ、切腹という…。

細川は志士たちに告げることができず、
花を渡すことで内蔵助に沙汰を伝えた。
その任についたのは堀内伝右衛門である。

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瑤泉院から贈られてきた花を見て浪士たちは喜んだ。
別れの花であり、祝いの花だと察し…。

沙汰は切腹。
が、その沙汰は、浪士たちを義士として認めるというものだ。
義士たちはすぐに謡い、舞い、互いに寿いた。

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このシーンの、
カラリとした浪士たちの笑い声は観るものをひときわ涙へ誘う。
強烈に「死」を感じさせるからだ。

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まだ歳若い磯貝十郎左衛門の横笛に、
伝右衛門はたまらず隣席へ立った。

伝右衛門は心中を察した。
浪士たちの…、磯貝十郎左衛門の…、
そしてひとりの若い女の…。

こうしてドラマは大詰めを迎える、
溝口が描きたかった最後のドラマを…。


●sinoさん
はい、助右衛門をやってるのは中村翫右衛門です。
「人情紙風船」に負けず劣らずこれでも見せてくれます。
歌右衛門もタジタジです(笑)。
月見草さんのブログ拝見しました。
私のいないところで映画の話で盛り上がってましたね(笑)。
ちなみに月見草さんとは同世代だけあって、
見てきた映画ほとんど同じかも…(笑)。
「道」は、私もいまもたまに観てるんですよ。
こんど書かないとまずいですね…(笑)。

ありがとうございました。


■前編112分 後編112分 日本 時代劇
総監督:白井信太郎
監督:溝口健二
脚色:原健一郎、依田義賢
撮影:杉山公平
音楽監督:深井史郎
美術監督:水谷浩
建築監督:新藤兼人
演奏:新交響楽団(現・NHK交響楽団)
指揮:山田和男
武家建築考証:大熊喜邦
言語風俗考証:潁原退蔵
民家建築考証:藤田元春
時代一般考証:江馬務
能考証:初世金剛巌
史実考証:内海定治郎
風俗考証:甲斐庄楠音
造園考証:小川治兵衛

キャスト
「赤穂藩関係者」
大石内蔵助:四代目河原崎長十郎
富森助右衛門:三代目中村翫右衛門
磯貝十郎左衛門:五代目河原崎國太郎
浅野内匠頭:五代目嵐芳三郎
瑤泉院:三浦光子
大石りく:山岸しづ江
大石吉千代:四代目中村梅之助
大石くう:三井康子
原惣右衛門:坂東調右衛門
吉田忠左衛門:助高屋助蔵
大高源吾:六代目瀬川菊之丞
堀部弥兵衛:市川笑太郎
武林唯七:市川莚司(加東大介)
片岡源五右衛門:市川菊之助
大石瀬左衛門:河野秋武(山崎進蔵)
大石主税:市川扇升
瀬尾孫左衛門:市川章次
早水藤左衛門:市川岩五郎
潮田又之丞:市川進三郎
井関紋左衛門:坂東春之助
生瀬十左衛門:中村公三郎
大塚藤兵衛:坂東みのる
岸佐左衛門:坂東銀次郎
奥野将監:六代目嵐徳三郎
大野九郎兵衛:筒井徳二郎
小野寺十内:加藤清一
岡島八十右衛門:川浪良太郎
堀部安兵衛:海江田譲二
萱野三平:大内弘
近松勘六:大川六郎
奥田孫太夫:大河内龍
赤埴源蔵:橘小三郎
井関徳兵衛:羅門光三郎
落合与左衛門:風間宗六
間喜兵衛:和田宗右衛門
矢田五郎右衛門:竹内容一
間瀬九太夫:梅田菊蔵
間十次郎:中村時三郎
老女・うめ:岡田和子
潮田の妻・お遊:京町みち代
戸田局:梅村蓉子

「その他」
吉良上野介:三桝万豊
多門伝八郎:小杉勇
加藤越中守:清水将夫
進藤筑後守:坪井哲
梶川与惣兵衛:山路義人
深見宗左衛門:玉島愛造
近藤平八郎:南光明
久留十左衛門:井上晴夫
大久保権右衛門:大友富右衛門
田村右京大夫:賀川清
稲垣対馬守:久米譲
徳川綱豊:市川右太衛門
お喜世:山路ふみ子
中臈お古牟:大原英子
細川越中守:河津清三郎
細川内記:生島喜五郎
堀内伝右衛門:4代目中村鶴蔵
久永内記:松永博(後の綾小路絃三郎)
荒木十左衛門:浅田健三
新井白石:島田敬一
祐筆江島:山本貞子
関久和:沢村千代太郎
津久井九太夫:中村進五郎
登川得也:嵐敏夫
石井良伯:市川勝一郎
浮橋太夫:滝見すが子
村井源兵衛:中村進五郎
林兵助:市川章次
諸井左太夫:征木欣之助
渋川五太夫:荒木忍
うめ:岡田和子
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この記事へのコメント

sino
2012年02月16日 22:28
山崎さんこんばんは!

上から2枚目の画像の方は助右衛門役の三代目中村翫右衛門さんですか?
「人情紙風船」で印象的な役を演じてカッコ良かったあの方ですよね?。
(こんな事聞いて、そうだよorちがうよ、としか言いよう無いじゃん!)申し訳ない。

お手隙の時で結構ですので、月見草宅へお越し頂ければ幸いでございます。

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