海洋天堂 (2010) 中国

[848]ジェット・リーの心がそのまま表れている秀作
★★★★★☆

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脚本が気に入り、
ぜひ出演させてほしい、ギャラはいらない
とジェット・リーが申し出たという作品である。

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水族館に勤めるワン・シンチョン(ジェット・リー)は、
ある日、21歳の息子・ターフー(ウェン・ジャン)を海へ連れて行き、
心中を図る。

ターフーは自閉症、しかも重度の知的障害。
自分も末期ガンに冒されていて、
自分が死んだら生きていけないだろうと悲観したのだ。

が、心中は未遂に終わる。
泳ぎだけは特別にうまいターフーに救出されたのだ。

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ターフーが泳ぎがうまいのは、
父親の働いている水族館で小さい頃からお魚さんたちと
一緒に泳いできたからである。

ワンは、この失敗を契機に
自分が死んでも生きていけるようにターフーをどこか
施設に預けようと考える。

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そうして電話をしたり訪問したりして
いろんな施設に当たるのだが、
受け入れてくれるところはなかなか見つからない。
安心して預けられるところも…。

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その一方で、食事の作り方やバスの乗り方、
買い物の仕方、掃除の仕方などをターフーに教えていくのだが、
どこまで覚えられのかと、
毎日がくじけそうになる心との格闘である。

そんな親子を心から見守っているひとたちがいる。

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ひとりは向かいで雑貨屋を営んでいる女性チャイである。
彼女はいまのターフーをそのまま受け入れる。
ターフーにひたすらやさしい。
彼女がいるおかげでワンは
自分のくじけそうになる心と闘えると言っていいほどである。

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一方で彼女はワンを愛している。
ワンも彼女を愛していると言ってもいい。
けれど一緒になったら彼女に負担をかけてしまうと思い、
彼女の愛に気づかないふりをする。
自分も心を見せないようにする。

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もうひとりは水族館の館長である。
ワンが末期ガンで苦しんでいることも、
ターフーの将来を考えていることもすべて理解している。
なのでそばでワンの体調を見守り、
また仕事の時間の便宜を適宜はかってやったりしてやる。

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そんな中、ターフーは
水族館に巡業に来たサーカス団の女の子の
リンリンと仲良くなっていく。

彼女もチャイ同様、ありのままのターフーを受け入れる。
ターフーに無限にやさしい。
幼くして両親に捨てられ、
サーカス小屋で「ピエロ」として生きてきたので、
ターフーの心がわかるのだろう。

二人はまるで姉弟のようでもあり、
初恋の恋人同士のようにも見えて、甘く、切なく、胸をうつ。

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ようやく念願の施設が見つかった。
ターフーが幼少のころに世話になっていた
養護学校の校長先生がやっている民間施設である。

だがはじめての一人暮らしでターフーは狂いそうになる。
ワンは同宿しながら生活の仕方を教えていく。

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やがてリンリンはサーカス団とともに街を去り、
ワンの死期も近づいてきた。

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だがワンには最後にもうひとつだけ、
ターフーに教えておかなければならないことがあった。
それは…。

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「文部科学省選定」に相応しい、
いかにもイノセントに満ちた作品である。

が、それだけでは収まらないものが
この作品には隠されている。

ワンが最後に見つけた施設は民間施設である。
ワンとターフーを支えているひとたちも、
国家とは離れたところで暮らしている民間人である。
民間の個人のチカラが二人を支えているのだ。

それを描くことでこの作品は
じつは国家というものを自ずと炙り出してみせているのである。

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ジェット・リーがノーギャラでもこの作品をやりたかった理由も
よくわかる。

この作品に表れている心は、
まさにジェット・リーの心そのものだからである。

かれは「少林寺」でアクション・スターとしてデビューしたが、
心はデビュー当時となにも変わっていない。
どこまでも美しい。

そのことに較べたら、
作品の出来不出来など私には瑣末な問題に思えてくる。
「ジェット・リー、万歳」である…。

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ターフーを演じているウェン・ジャンも秀逸だ。
「マラソン」でやはり自閉症を演じたチョ・スンウと
重なって見えたなあ。


●月見草さん
観ていない韓国映画が少なくなってきたので、
あちこちポツリポツリと拾いながら書いています。
と、どういわけか、やはり人間のドラマがしっかり描かれた
映画を自然に選んじゃっていますねえ(笑)。
まだお互いに相手を…、
人間を信じることができた時代の映画、と言っても
よいかもしれませんが…。
そういう映画を観たくなるのはやはり、
現実がそうでなくなってるからだろうなあと思います。
以前、私の敬愛する故・吉本隆明さんが、
「人類の歴史はどんどんひどくなっていくのだと思います」
みたいなことをおっしゃってドキリとしたことがあるんですが、
齢をとったのかいまになって胸にひどく応えてます。
この映画、ジェット・リーも泣きながらやってたんじゃないかなあ
と思いますねえ…。

ありがとございました。


■98分 中国 ドラマ
監督:シュエ・シャオルー
製作:ビル・コン
脚本:シュエ・シャオルー
撮影:クリストファー・ドイル
美術:イー・チュンマン
編集:ウィリアム・チャン ヤン・ホンユー
音楽:久石譲
出演
ジェット・リー ワン・シンチョン
ウェン・ジャン ターフー
グイ・ルンメイ リンリン
ジュー・ユアンユアン チャイ
カオ・ユアンユアン ターフーの母
ドン・ヨン 水族館館長

「HERO」「エクスペンダブルズ」の世界的アクション・スター、ジェット・リーがアクションを封印し、わが子を想うごく普通の父親を好演した感動のヒューマン・ドラマ。
自閉症の息子を男手ひとつで育ててきた父親が、自分の余命がわずかと知り、残される息子にひとりで生きる術を教えていく姿をユーモアを織り交ぜ、優しいまなざしで描き出していく。監督は、「北京ヴァイオリン」などの脚本を手がけ、長年自閉症施設で行ってきたボランティア活動での経験を基に書き上げた脚本で監督デビューを飾ったシュエ・シャオルー。
中国、チンタオ。水族館で働くシンチョンは、妻に先立たれて以来、自閉症の息子ターフーを男手ひとつで育ててきた。ところがシンチョンに癌が見つかり余命がわずかと判明してしまう。これまではターフーの面倒をつきっきりで見てきたシンチョン。しかし、息子の将来を案じた彼は、ターフーがひとりで生きていけるよう、食事の作り方やバスの乗り方、買い物の仕方を一つひとつ教え込んでいく。そんな中、ターフーは水族館に巡業に来たサーカス団の女ピエロ、リンリンと仲良くなっていくのだが…。

この記事へのコメント

月見草
2012年10月24日 19:15
てつさん、こんばんは!
海洋天堂のブログ読んでるだけでなんか涙がこぼれてきました。切なくて、やさしくて、温かくて・・・・
最近の暗い日本の事件は目を覆うばかりです。
子供や孫の行く末を考えると眠れなくなることがあります。還暦過ぎの月見草はもう先が見えてるけど、これから先どんな世の中になるんでしょうね。
どんな映画に出ていてもジェット・リーの眼差しはやさしくて、オーラがあって中国ではトニーレオンとふたり大好きな役者さんですが、少林寺でない普通のお父さんのジェット・リーさんもきっと素敵なんでしょうね。
心のあったかい、懐のひろい、優れた俳優さんに出合うとほんとに嬉しくなりますね。
どこもここもゆるくなって(笑)特に今日はてつさんのブログで涙腺が緩みっぱなしです。
最近紹介の映画はみんな観たくなります。
「ナバロンの要塞」もいいなあ~
ありがとうございました。

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