現代好色伝 テロルの季節 (1969) 日本

[854]テロリスト彦弥が美しいのは自分をただ「ブツ」として差し出しているからだ
★★★★★☆

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全共闘運動がピークに達した1969年、
若松孝二監督はなんと6本もの映画を撮っている。

このエネルギーは、
当時の学生運動の総エネルギーにゆうに匹敵する
と言っていいかもしれない。(笑)

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舞台は、1969年の、とある団地である。
この団地もまた当時の「風景」だ…。

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この団地に二人の公安刑事がやってくる。
過激派のリーダーで学生の彦弥が、
この団地に身を隠しているという情報を入手したのである。
逮捕して締め上げた過激派学生のクチから…。

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その彦弥…、演じているのは、
やはり当時の若松映画を担った俳優のひとり、吉沢健である。
いや、呼び捨てはまずい、吉沢健さん。

公人の場合、呼び捨てにするのが礼儀である。
呼び捨てがそのまま尊称になっているのだが、

いかんせん吉沢健さんは、私が若い時分にいた劇団…、
唐十郎主宰の劇団「状況劇場」の大先輩なのである。

となると、私の心中はなかなか複雑だよねえ、
はたして呼び捨てにすべきなのか
「さん」付けにすべきなのか。(笑)

ファンとしては当然、
「ヨッ、吉沢健!」…、と声をかけたいのだが。

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刑事は、彦弥の潜伏先だという
団地のOL美代子(江島裕子)の部屋に盗聴器を仕込み、

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真向かいの団地部屋から彦弥を監視しはじめる。
中央は、その部屋の持ち主の団地妻。(笑)

もちろん一介の民間人なのだが、
過激派は怖い、市民として捜査に協力すべきだと考えている
女性である。

で、積極的にお茶を差し入れたり、
食事を差し入れたりするのだが、
この刑事二人は「うざい」と言って敬遠している。
気持ちはわからないではないが、私はひとでなしだと思う。(笑)

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泊り込みで盗聴を開始した刑事二人は、
OL美代子の部屋にもうひとり女が住んでいることを知る。
「ん?美代子の妹かな?」と思っていると、

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夜になって
三人が突然セックスを始めたので頭がすこし混乱する。(笑)

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しかも事が終わると、
女二人はご丁寧にタオルで彦弥のからだを拭いてあげている
ようなのである。

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それだけではない。
朝、彦弥がトイレに入ると新聞を持っていってやり、
トイレから出てくると、トイレへ入り、
彦弥のウンチを水で流してやっているようなのである。(笑)

ちなみにもうひとりの女の名前は千恵子(佐原知美)と言い、
やはりOLをやっている。

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政治犯彦弥を追っている二人の頭はますます混乱する。
「ヒモ野郎だと思っていたが、どうもただのヒモじゃないな。
まるで殿様ヒモだなあ。どうなってるんでしょ、先輩?」(笑)

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しかし、首相が日米安保条約の批准にでかける日が
まじかに迫っている。
やつもそろそろ動きはじめるだろうと二人は期待するのだが、

われらが彦弥はまったく動く気配がない。
同棲相手の二人の女が出勤すると、
こうやってたまにベランダに出て外の空気を吸ったり、

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タバコを吸ったりと、1日中ただ部屋の中でゴロゴロして、
女たちの帰りを待っているだけである。

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そして女たちが仕事から帰ってくると、
三人でなにやらイチャイチャしながらメシを食い、
メシを食い終わると、
そのイチャイチャが本格的な3P快楽へと移っていく。(笑)

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刑事二人は、結局、
夜毎夜毎、その女たちの喘ぎ声を盗聴させられるという
事態に追い込まれ、溜息をつきながら慰めあうしかなくなる。

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「こんな団地に住んでると、
アレしかやることがないんでしょうなあ」(笑)

思わず私も「ご苦労様です」と声をかけたくなる。

この映画の凄いところは、
こうした団地内の三人の退屈な生活の日々を
ただひたすらじっと我慢して繰り返し撮っていることである。

実際、映画も退屈である。(笑)
3Pといういささか異常とも思えるセックスシーンが
目の前でかなりの時間繰り広げられているのだが、

観ていてもちっとも性的な興奮を覚えないし、
そこに異常なものを感じることも一切ない。
普通だと、女性が裸になるだけで
観てるほうはなにかしら生理的興奮を感じるはずなのに…。

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しかし断っておくが、この退屈さは捨てたものじゃない。
不思議に思われるかも知れないが、
むしろ観ていて私にはもの凄く気持ちがいいのである。

冒頭の文脈で言えば、
目の前に差し出されるものがすべて「風景」だからである。
私の言葉で言えば、「ブツ(物)」だからである。

若松映画では、人間さえが「ブツ(物)」として差し出される。
神が創った「ブツ」とでも言うしかないような。

そうした「ブツ」の前では、
人間のやること、言葉、感情、そうしたものがすべて
つまらないものに見えてくる。
信じるに足りないものに見えてくる。

「ブツ」としての人間のほうが全然美しく、
そしてすごいものに見えてくるのである。

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物語の後半、
彦弥の同志とも言うべき過激派学生が尋ねてきて、
いつ運動に、組織に復帰するのだと問う。

彦弥は「おれはもう戻らない、運動はやめた、どうでもいい」と言う。
尋ねてきた学生は「なんだと、おれたちを扇動しといて」と怒り、
彦弥を殴りつけて去る。

盗聴を通して彦弥を監視しつづけてきた刑事二人も、
かれはどうやら本気で戦線を離脱したようだと思う。

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彦弥は、女たちに
たまには出かけて映画でも観てきたらと奨められ、街へ出る。

刑事たちがもしかしてと思い尾行すると、
かれは誰とも接触する様子がなく、
ただ歌舞伎町に出て、映画を観て、そして団地へ帰り、
メシを食い、女たちとまたセックスをしている。

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翌日…、首相が安保条約批准のため
羽田空港からアメリカへ向けて出発する日である。
彦弥が相変わらず動く気配を見せないので、
刑事たちは本署にその旨を伝え、監視を解く。

そして団地を後にするのだが…、

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毎日、トイレでひとり新聞を読み、
首相・政治家や過激派グループの動向を追ってきた彦弥は…。

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と思ったら、突然、このパートカラーである。
若松節である。(笑)

日の丸と星条旗が風に揺れながらまさに合体しようとする。
あるいは合体しとる。(笑)

で、その向こうでは、
彦弥がOL美代子、OL千恵子と3P合戦を繰り広げていて、
この映像がまた長々と続くのである。(笑)

出たあ、われらがセヴンティーンだあ!
と私は思わず快やをあげる。

もちろん性と政治を主題に描かれた
大江健三郎のあの短編「セブンティーン」のことである。

若松映画の原像のひとつに
あの大江健三郎の「セブンティーン」があるはずだと
私は思っている。

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トイレを出ると彦弥は爆弾を自分の腹に巻き、
その上からコートを着て、
刑事二人がすでに立ち去った団地をひとり後にする。

この爆弾、ひとによっては腹腹時計を連想するだろう。(笑)

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そしてタクシーで一路、羽田へ向かう。

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ヨッ、待ってました、健さん!である(笑)。

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テロリスト彦弥を演じる吉沢健がそのまま
花田秀次郎演じる高倉健と二重写しになってくるのである。

まあ、団地の狭い部屋でひたすら時をじっと耐えて待つ彦弥が
すでに花田秀次郎だと言えるんだろうけど…。(笑)

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かれはひとり表情も変えず、空港内へ入る。

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そして管制塔を自分とともに吹き飛ばし、

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映画は終わる。

私はこのラストシーンになると、ひとり、ツ、ツと涙を禁じえない。
別にこの孤独なテロリストを悲しく思うからではない。
自分を「ブツ」として性や政治の前に差し出すこの彦弥を、
俳優・吉沢健をとても美しくかんじるからである。

その美しさについ涙がポロリと零れてしまうのだ。

彦弥が尋ねてきた仲間に、
もう組織に戻るつもりも、運動をやるつもりもないと言ったのは、
自分のこの日の行動を仲間にさえ知られたくなかったからだろう。

だがけしてそれだけではない。

自分をただ「ブツ」として政治の前に差し出そうとする自分と、
過激派グループとの間にはもう超えがたい溝を
感じていたからだと思う。

そして繰り返しておけば、
自分を「ブツ」として差し出すこの彦弥の在り方は
まさにそのまま若松映画の方法なのである。


■78分 日本 若松プロ ドラマ/エロティック
監督:若松孝二
企画:若松プロ
脚本:小水一男
脚本名義:出口出
撮影:伊東英男
照明:磯貝一
出演
吉沢健
江島裕子
佐原智美
須磨ひとみ
春田浩将
今泉洋
神田満

街では、70年安保反対を叫ぶ学生デモ隊と機動隊の激しい攻防が続いていた。そんなおり行方をくらませていた過激派学生彦弥(吉沢健)が、OL美代子(江島裕子)の住む団地の一室に潜伏しているとの情報を得た公安刑事(今泉洋・神田満)は、美代子の部屋に盗聴器をしかけ向かいの部屋から監視をはじめた。やがて、部屋にはもう一人千恵子(佐原知美)という女が同居していることが判明。女たちは彦弥に従女のようにかしずき、3人は日ごと夜ごと激しく肉体を重ね交わり合うのだった。刑事たちはその声を、時の総理佐藤栄作が訪米のため羽田を発つ日まで聞き続けることになる。

 

この記事へのコメント

k
2015年09月20日 20:21
勉強になります!
てつ
2015年09月20日 23:42
ありがと(^^♪ 2年前、「漱石の道草」をやった時、吉沢健さん、谷川俊之さん、中嶋夏さんと、初期の大先輩方が観にきてくれてヒビりました(^^♪

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