無言歌 (2010) 中国

[945]俳優のからだに国家という巨大な権力の「風景」が見えてくる
★★★★★★

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百花斉放百家争鳴…。

1956年から1957年にかけて毛沢東中国で行われた
「中国共産党に対する批判を歓迎する」
という政治運動である。

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運動の発端は、
スターリンの後継者だったフルシチョフがスターリン批判をはじめた
からだったと言われている。

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そのため毛沢東は、砕けて言えば、
中国共産党はスターリンのような独裁体制ではありませんよ、
批判もちゃんと受けれいれますよ、
言いたいことは遠慮なくどんどん言ってください、
という運動をはじめたのである。

フルシチョフ・ソ連との軋轢を避けるために。

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知識人たちは毛沢東と共産党のにの呼びかけに徐々に応じ、
それも次第にはげしさを増していった。

と、毛沢東は一転、
「右派分子が社会主義を攻撃している」と人民日報に書き、
以来、こんどは「反右派闘争」が展開されるようになった。
批判した知識人たちを右派とみなし、粛清しはじめたのである。

そのため「百花斉放百家争鳴」はもともと、
毛沢東が右派を炙り出すために行った運動だったとみなす
ひともいる。

この映画は、
その右派分子とみなされたひとたちの、強制収容所での姿と
運命を描いている。

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1960年、中国西部のゴミ砂漠にある「労働教育農場」。

要は、強制労働を課すことで
思想的な再教育をしようという強制収容所である。

収容された右派分子に課せられた労働…。

みんなして広大な砂漠のど真ん中に
農業用水路を作ろうとしているかのようにみえるが、
たぶん何の目的もない無益な労働を
ひたすらに課されているだけである。

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監視人たちは、疲労で倒れているものを見つけると、
こうやって抱え起こして作業を強制する。
ちなみにこの男性はすでに死亡している。

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砂漠の地下に掘られた壕。
収容されているひとたちはここで寝起きをしている。

ここから出て作業をし、終わるとここへ帰り、食し、寝る。
それがかれらの1日のすべてである。

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与えられる食事。
ほとんどスープに近いお粥が器に1杯だけ。
強制労働者たちの大半はその場ですぐにのどに流し込む。
空腹の度合いがわかる。

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食事を残したまま倒れているものを見つけたりすると、
こうやってすばやくかれの食事を自分の腹に流し込む者もいる。
かれはたぶんもう死んでいる。

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強制労働者に与えられているのは、
毛布1枚と、畳1畳ぶんの広さ。
右の男性は上海から連行されたドンさん。
上海には妻がいる。

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飢えと疲労と劣悪な環境の中でかれらは次々に死んでいく。
それも就寝中にそのままといった者が多い。

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ちなみにこれが砂漠のど真ん中の、かれらの墓場。
といっても遺体には砂がかぶせてあるだけである。

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この映画にはさほど物語といえるものはない。

右派分子の烙印を押されて
労働教育農場へ連行収容されたかれらの暮らしと姿が、
ドキュメントタッチで、
それこそ「無言歌」として映し撮られていくだけである。

それも大半は、かれらの飢えと、その先にある死の姿だ。

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背景には、
中国社会全体が食料不足に陥っていたこともあるのだが、

慢性的な飢餓状態に陥った労働者たちはやがて、
草や木の実を採取し、ネズミを捕獲し、
飢えを凌ぎはじめる。

そうしてついには、
死んだ者の肉をそぎ落として食いはじめるものも…。

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心的なタフさには相応の自信をもってる私でさえ(笑)、
観ているとそうとう腹に堪えてくるので、
誰にでもオススメという訳にはいかないかもしれないが、

地獄としか言いようのない収容所と、
強制労働者の姿を、
それこそ時代の、人間の「風景」として一途に描いてみせる
カメラの力には驚嘆せざるをえない。

まして日本映画「戦争と一人の女」のレビューを
書いたあとだけに(笑)。

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彼女は、上海から夫のドンさんに面会にやってきた妻。
が、このときドンさんはすでに死に、
遺体の一部は餓えたひとに食い荒らされていた。
まわりも死体の山…。

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ドンさんの友人はせめて彼女のためにと、
こうやってドンさんの遺体を掘り返し、火で焼く…。

坂口安吾も、戦後、この光景の中を歩いた。
累々と横たわる死体の群れの中を。
星降るような焼夷弾と、火と、煙の中を。
廃墟の中を。
そうしてかれの絶望はついには突き抜けて
明るい「青空」として現れた。

と安吾は書いているのだが、
「戦争と一人の女」に登場する人物の中には誰ひとり
そんな青空は見えてないよねえ(笑)。
ひたすらノー天気だよねえ。

ということを、
この映画を観ているとほんとに思い知らされる(笑)。

俳優もすごい。

おそらくほとんどのひとが
芝居などやったことのない素人だと思われるが、
芝居など知らないし、できないから、ただそこにいるだけ
といった感じなのである。

ブツとして、
限りなく死体に近い人間としてただそこにいる?

なのでそこに、そのからだに
国家という巨大な権力の「風景」が見えてきて圧倒されるのだ、
観ていると。

凄いなあ、と、ほとほと感心するしかないよね、私は…。

映画や舞台を観て、
俳優は凄いよなあと思われるひとも多いかもしれないが、
また事実、すごい俳優もたまにいるが、

それでも私は、
ほんとに凄いのは、いちばん凄いのはじつはあなたなんです、
芝居などやったことのない素人がいちばん、
そして真に凄いんです!

ということを知ってもらいたい(笑)。


■109分 香港/フランス/ベルギー ドラマ
監督: ワン・ビン
原作: ヤン・シエンホイ
撮影: ルー・ション
編集: マリー=エレーヌ・ドゾ
出演
ルウ・イエ リー・ミンハン
ヤン・ハオユー ドン・シェンイー
シュー・ツェンツー グー
リャン・レンジュン
チョン・ジェンウー

「鉄西区」「鳳鳴―中国の記憶」で山形国際ドキュメンタリー映画祭のグランプリを2度受賞するなどドキュメンタリー作家として世界的な評価を得ているワン・ビン監督が、自身初の長編劇映画として撮り上げた渾身のヒューマン・ドラマ。ヤン・シエンホイ(楊顕恵)の小説『告別夾辺溝』を基に、文化大革命前夜に起きた“反右派闘争”による悲劇を、入念なリサーチから紡がれた衝撃のエピソードと圧倒的な映像美で描き出していく。
1949年に中華人民共和国を建国した毛沢東は着々と独裁体制を確立していくが、1956年、ソ連でのスターリン批判を教訓に、共産党に対する批判を歓迎する“百花斉放百家争鳴”を提唱した。しかしほどなく方針を一転させ、批判した知識人たちを“右派分子”として粛正、辺境の再教育収容所へと送り、劣悪な環境の中で多くの死者を出すこととなった。そんな中、中国西部の辺境の地、ゴビ砂漠の収容所“夾辺溝”では、過酷な労働を強いられた人々が飢えと疲労で次々と命を落としていく地獄の様相を呈していた。そこへ、収容されている夫を訪ねてひとりの女がやってくるが…。

 

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