少年と自転車 (2011) ベルギー

[971]ダルデンヌ兄弟が日本での実話をヒントに描いた傑作。少年とセシル・ドゥ・フランスに拍手喝采だよ! ★★★★★★

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ダルデンヌ兄弟(ベルギー)の名品。

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シリル少年(11歳)は、
父親に1月という約束で施設に預けられる。

その後、父親は会いにも来なければ、電話もしてこない。
アパートに電話しても「この番号は現在使われていない」と告げられ、
管理人にも引っ越したと言われるばかりだ。

そんなはずはない、とシリルは信じない。
頑なに信じようとしない。

ある日、学校から抜け出し、
父親と住んでいた街のアパートを訪れる。
そこへ施設の職員たちが探しにやって来ると、
団地の診療室に逃げ込む。

職員たちが発見して連れ戻そうとすると、
「父はいる。僕の自転車があるはずだ」と言って
たまたま診療に訪れていた見知らぬ女性にしがみつく。

が、管理人に空き室になっている部屋を見せられ、
父親が引っ越したことを認めざるをえなくなる。

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翌日(?)、
診療室にいた女サマンサが、施設にシリルの自転車を届けにくる。
事情を察し、シリルの父親が売り払ったものを身銭を切って
所有者から買い戻してやったのだ。

が、シリルは、父が売ったのではない、そいつが盗んだのだ
と言い張る。

シリルは父親に買ってもらった自転車で、
戻ってきた自転車で、サマンサに曲乗りを披露してみせる。
曲乗りもたぶん父親に教わったのだろう。

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そして帰るサマンサを自転車で追いかけ、
週末だけ里親になってくれと頼む。

サマンサが
「いいわ。いまは仕事だからあとで施設の院長に電話する」と言うと
シリルは「どうせ電話しないんだろ」と返す。
かれが周囲に対して、おとなに対して
徹底して不信感を抱いていることがわかる。

が、サマンサは約束通り里親になり、
週末になると、美容院の自宅にかれを里帰りさせる。

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自由な時間を手に入れたシリルは自転車で父親を探しまわる、
以前、父親と訪れたことのある店などを尋ねながら。

サマンサが週末だけの里親を引き受けたのも、
シリルにその時間を作ってやるためだったのである。

車の修理屋を尋ねると、
そこに父親の書いた貼り紙があり、
自分の自転車は
ほんとうに父親がバイクと一緒に売りに出したのだと知る。

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サマンサの家へ帰ると、かれは
美容室の洗面器にしがみつき、蛇口の水をひたすら流し続ける。
ショックのあまり涙も出ないので、
代わりに蛇口に自分の涙を流させたのだろう。

サマンサも一緒に父親の居所を探してやる。
訪ねたある女性の口からようやく居所がわかり、
シリルはレストランで働いている父親ギイを訪ねる。

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ギイは数分ことばを交わすと、
開店前で忙しいからもう帰れとシリルを外に出す。

そして週末だけの里親だと名乗るサマンサに、
母親も倒れたし、自分にはもう引き取るチカラがない。
子供がいると再就職の邪魔にもなる、あんたに任せる、
息子にもそう伝えてくれと言う。

サマンサは自分の口で伝えろと返す。
かれが「言えない」と言うと、
シリルを連れてきて、強引にギイの口から直接伝えさせる。

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「会いに来るな。ホームにいる方がいい。電話もしない」…。

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その帰りの車の中…、
これまで頑なに認めまいとしてきた現実を突きつけられ、
シリルは突然、自分を傷つけはじめる。
サマンサはそれを必死に止める。

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シリルはその後もサマンサの家で週末を過ごす。

ある日、
かれの自転車を盗もうとした少年を執拗に追いかけ、まかす。
それを見ていた団地の少年ウェスは、シリルが気に入り、自宅に誘う。

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ウェスは札付きの不良少年なのだが、
シリルはかれの部屋で遅くまで一緒にすごす。
途中、なんどかサマンサから携帯に電話が入るが、
ウェスに切れと言われると素直に従う。

帰宅するシリルをウェスが送っていく途中、
心配して探しまわっているサマンサとその恋人ギルに遭遇する。

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ギルは度重なるシリルの行状に根を上げ、
シリルを取るかおれを取るかどっかにしろ、と
シリルの目の前でサマンサに迫る。

サマンサは、シリルを取る、と答える。
ギルは少年シリルの心を読めない男だと見切りをつけたのだと
おらは思う。

一方、ウェスはシリルをある計画に巻き込む。
書店の店主を襲撃し、金を奪う計画だ。

その日の夜がやって来る。
サマンサが出かけようとするシリルを止める。
またウェスに会うのだろうと思ったからだが、
シリルは、止めるサマンサを傷つけ、家を脱出する。

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シリルはウェスの指示通り、書店主をバットで殴り、金を奪うが、
想定外のことが起こる。
店主の息子が現れて顔を見られてしまったのである。

その息子マルタンもバットで殴り倒したが、
顔を見られたことで、
ウェスは、自分は要らないというシリルに金を握らせ、
ばれてもおれの名を出すな、出したら殺すと脅して別れる。

シリルが
サマンサを傷つけてまでウェスとの約束を守ったのは、
言うまでもなく、孤独に生きてきた自分に初めて声をかけてくれた
少年だったからだ。

周囲に見捨てられているウェスに自分を見たからだ。

強奪計画に加わったのも金ほしさではなく、
そんなウェスのチカラになれればと思ったのである。
が、そのチェスに捨てられた…。

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一方、サマンサはシリルが家を出て行ったあと、
施設に連絡の電話を入れる。

サマンサを演じているのは、
ダルデンヌ兄弟の映画には欠かせないセシル・ドゥ・フランスだが、
このシーンの演技は身震いがするほど凄い。

彼女は一瞬、胸が震えて泣いてしまう。

シリルを制止できなかった自分の無力さ、シリルへの想い、
様々な感情が押し寄せてきたんだろうけど、

この瞬間、
ああ、彼女はもうすっかりシリルを愛する母親だよなあって
観てるこっちも胸がつまってしまう。

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思わぬ大金を手にしたシリルは
自転車で一目散に父親のところへ向かい、金を渡そうとする。

この金があれば父親も助かり、
また一緒に暮らせるかもしれないと思ったのだろうが、
父親のギイは、おれまで巻き添えにするつもりかと金を投げ捨て、
押し返す。

父親にも完全に捨てられていることがわかり、
シリルは、投げ返された金を拾いもせず、サマンサの家へ向かう。

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帰ってきたシリルにサマンサは警察が来たことを伝え、
出頭しようと言う。

シリルは、傷つけたことを謝り、「一緒に住みたい、ずっと」と言う。
サマンサに「いいわ。キスして」と言われ、シリルはキスをする。
シリルは、彼女の愛情にようやく気づいたのだ。

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被害者の店主が示談に応じてくれた。
ウェスはすでに逮捕され、収容されてしまった。

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いつもひとりで自転車を走らせていたシリルの隣で、
サマンサが自転車を走らせている。

シリルは何も言わないが、
これが自転車に乗せていたかれの「夢」だったはずだ。
父親ともかつてこうやって走っていた時期があったかも知れない。

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ピクニックのお弁当を食べるふたり。
寡黙に黙々と食べるシリルを見てサマンサはクスリと笑う。
私も笑う。
シリルはなぜ笑われているのかわからない。

サマンサは、今夜は友だちを呼んでバーベキューをしようと言い、
友だちに電話をする。

夕方すこし前、ふたりは買い物に出かけるが、
スーパーの炭が切れていたので、
シリルはサマンサと別れてひとり団地近くの店へ炭を買いにいく。

その店を出ると、襲撃したあの店主親子にばったり遭遇する。

怒りのまだ収まっていない息子マルタンが
父親の制止も聞かず、シリルに襲いかかる。

これまでのシリルだったらすぐに反撃したはずだが、
かれは逃れて森に入り、木に登る。
マルタンは地面の石を拾い、そのシリルに投げつける。

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その石がシリルを直撃し、シリルは木から落下する。

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ピクリとも動かぬシリルを見て、死んでしまったのでは
とマルタンは蒼ざめる。

そこへ父親が現れ、
シリルが勝手に落ちたことにするんだと息子に言い聞かせ、
救急車を呼ぼうとする。

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と、シリルが意識を取り戻し、ゆっくりと立ち上がる。

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救急車を呼ぼうと言う父親にセシルは「大丈夫」と言い、
自転車に戻ると、炭を拾い、帰りを待っているサマンサの家へ向かう。

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いや、サマンサと自分が暮らすわが家へと向かう。

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このラストもじつに見事である。

理屈を言ってもつまらないが、
シリルは木から落ちて一度間違いなく死んだのだ。
で、のち復活した(笑)。
つまりかれは生を「再生」したっていう愈を描いてる訳だ。

シリル少年を軸に、ダルデンヌ兄弟が
例によってドキュメントタッチで描いてみせるじつに素晴らしい作品だ。

シリル役のトマ・ドレ君はオーディションで選ばれたらしいのだが、
きっと…、あ、こんなふうに自転車を乗り回せるトマ君だったら
絶対に期待に応えてくれると思ったんじゃないかなあ。

ずっと硬直していた身体と表情が、
最後、見事にストンと脱力して、柔らか~くなる。
観てて、この子、間違いなく天才だと思ったよねえ!

セシル・ドゥ・フランスもじつにいい。天才!
物語を完璧にリアルに生きてるもんねえ。

こういう素晴らしい俳優と作品をここ何本か立て続けに見せられると、
かつて世界の頂点に立っていたはずの日本映画が、
いまや世界最低のどん底に落ちてしまったことをいやと言うほど
思い知らされる(笑)。

別にいいんだけどさ。
素晴らしい映画は軽く国境を越えて私の前に現れてくれるからさ。

もう1個ある。
物語を最後まですこし追ってきたのは、じつはコレ、
実話を下敷きにしていたからだ。

ベルギーの話かって?
なんのなんの、日本の話。日本で実際にあったお話だべ(笑)。

ダルデンヌ兄弟が
2003年に日本で開催された少年犯罪のシンポジウムで耳にした
「育児放棄」の実話からヒントを得て作った作品なのだ。

私は知ってて観たが、
仮に知らずに観たとしても、たぶん途中ですぐに気づいたんじゃないか
と思う。

長いこと事件や犯罪を追っかけてきたってこともあるが、
これに近い話、私はもう腐るほど知ってるからねえ。
観て、まさにこれこそ「日本」の隠された姿じゃないかとすぐに思うよね。

ただ1個だけ言っておきたいのは、
この物語では父親が貧しさから育児放棄をしたってことになってるが、
日本での育児放棄が深刻化したのはむしろ、
80代、生活がひじょうに豊かになった頃からである。

そういう意味で言うと、
この父親みたいに貧しくて子供を施設に入れたってのは
むしろ健康的だと私は思っている(笑)。

その証拠にと言うと変だが、このシリル少年、心は病んでいないもの。
たとえ強奪事件起こしたところで、心はまっすぐだもの、
すごく人間的で、健康だもの。

ひきかえ豊かさの中で育児放棄にあった子供たちの大半は、
心がひじょうに深く病んでしまっている。
その病にどうしようもなく苦しめられている。

そしてそれがじつは
日本社会が抱えている最大の問題なはずなのに、
ケタケタと笑ってしまうくらいみんな素通りしている(笑)。

こんな映画、誰も撮らない。撮れない。笑うしかないよね。

それはともかくまだ観てない方がいたらぜひごらんくださいな。
映画としてもほんとに素晴らしいから…。


■87分 ベルギー/フランス/イタリア ドラマ
監督: ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ
製作: ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ ドゥニ・フロイド
製作総指揮: デルフィーヌ・トムソン
脚本: ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ
撮影: アラン・マルコァン
美術: イゴール・ガブリエル
編集: マリー=エレーヌ・ドゾ

出演
セシル・ドゥ・フランス サマンサ
トマ・ドレ シリル
ジェレミー・レニエ シリルの父
ファブリツィオ・ロンジョーネ 書店の店主
エゴン・ディ・マテオ ウェス
オリヴィエ・グルメ 居酒屋の主人

「息子のまなざし」「ある子供」の名匠ダルデンヌ兄弟が贈る感動のヒューマン・ドラマ。
愛する父親に拒絶された現実を受け入れられず、心を閉ざしてしまう少年が、偶然出会った若い女性の献身的な愛によって壊れかけた心を回復させていくさまをリアルかつ丁寧な筆致で綴る。
主演の少年役はオーディションで選ばれた新人トマ・ドレ、共演に「ハイテンション」「ヒア アフター」のセシル・ドゥ・フランス、「ある子供」のジェレミー・レニエ。
もうすぐ12歳になる少年シリル。父親は彼を児童養護施設に預けたまま行方知れずに。シリルは自分が捨てられたとは露とも思わず、父親を必死で捜し続ける。そんな中、美容師のサマンサと出会う。彼女は、なくなった大切な自転車を取り戻してくれた。そしてシリルは、サマンサに週末だけの里親になってくれと頼み、2人で父親捜しを続ける。やがて、ようやく父親を見つけ出し、再会を果たしたシリル。ところが父親は喜ぶどころか、シリルをすげなく拒絶してしまう。サマンサはシリルを心配し、それまで以上に彼の世話を焼くようになるのだが…。

 

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