ブエノスアイレス (1997) 香港

[965]レスリー・チャンの魔性とも言うべき身体表現にみんなで悩殺されようぜ ★★★★★★

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もう観れないのかな、
と半ば諦めかけていたレスリー・チャンの作品。

数ヶ月ぶりにツ○ヤへ行ったら復刻版が出てたよ。
それだけで感激しちまったなあ。
こら、もっと早よ出さんかい

監督は、
当時ニューウェーブともてはやされていたウォン・カーウァイ。
レスリー・チャンの相手役はトニー・レオン。
しかも二人の同性愛を描いた作品。
舞台は香港の地球の裏側、ブエノスアイレス。

どう? 凄いだろ。
聞いただけで訳もわからず卒倒したくならないかい?

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撮影はとうぜん波乱万丈。
最初に話があったとき、トニーは同性愛の役は嫌だと断った。

で、ウォン・カーウァイは、台本書き直したよ、
君が亡き父親の恋人をブエノスアイレスに探しにいく話にしたよ、
行こ行こブエノスアイレス、観光気分で行こ、と騙して連れてったのさ(笑)。

撮影がはじまると、なんのことはない。
断ったはずなのに、真っ向からの同性愛映画。
しかも脚本なし。ほとんど即興劇。

一方、おらがレスリー・チャンはコンサートを組んでいて、
ああ忙し、ああ忙し! と、香港とブエノスアイレスを行ったり来たり。
撮影は遅延につぐ遅延で、しまいにはウォンとレスリーが大喧嘩。

ウォン、とうとう頭にきて、急遽、
台湾の俳優チャン・チェンを呼びよせ、強引に撮影続行。
おかげでストーリーは途中からほとんど支離滅裂。

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映画は日本でも大ヒットしたが、
レスリーの演技に圧倒され、ほんとに同性愛者じゃないの?
とファンの間から疑惑の声が続出。

と、おらがレスリーはのらりくらりと
思わせぶりな発言をばら撒くばかりだったのじゃあ!

…という舞台裏がそのまま画面に叩き込まれたおかげで、
中国映画史上、稀に見る大傑作になっちまった作品なんだよ~ん(笑)。
シチュエーション(舞台裏)がいかに大事かってことが
よくわかるよね。

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ファイ(ニー・レオン)とウィン(レスリー・チャン )は同性愛の仲。
が、くっついたり、喧嘩して離れたりの繰り返し。

ある日、ウィンが「やり直そう」と言い、
ファイは一緒に異国アルゼンチンのブエノスアイレスへと旅に出る。

この「旅」という設定がそのまま60年代から70年代にかけての
アメリカン・ニュー・シネマを彷彿させる仕掛けになってる訳ね。

ブエノスアイレスから二人は車でイグアスの滝を見にでかけるが、
車が故障し、道に迷う。
で、いらだちまた喧嘩、結局、ウィンが「別れよう」 と言い出し
またまたファイのもとを去る。

上の写真はその冒頭。

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二人が向かうはずだった(映画の中の)イグアスの滝。

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こっちは
アルゼンチンとブラジルの国境いにある、観光用のイグアスの滝。
ワタシ、相変カワラズ親切アルヨ(笑)。
しかし観光用とはいえすごいねえ。私も一度は見てみたかったアル。

映画の主題は、先の写真がすでに物語っている。
暗闇の中でほとばしり落ちていく滝の水。
立ち込める水霧でそこはもはやどことも掴みきれない…。

それがウィンとファイの心。
いや、このころのウォンの、レスリーの、トニーの「心」だった!
…ということが分かれば、あとは適当でもおらは全然文句ないやね(笑)。

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街に戻ったファイは
金がないのでタンゴ・バーのドアマンとして働きはじめる。
と、そこへウィンが愛人らしき白人の男を連れて現れるようになる。
ファイのこころは嫉妬でかき乱れる。

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見透かしたかのようにウィンがファイに近づき、復縁を迫りはじめる。
が、ファイはウィンを寄せつけない。
仲を戻したところでまたウィンの気まぐれな心に振りまわされることが
目に見えているからだ。
どこまで行ってもただその繰り返し…。

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が、ある日、
ウィンが愛人に怪我を負わされ、ウィンの部屋に転がりこんでくる。
ファイは仕方なく面倒をみはじめる。
面倒なやつだが、ウィンといると気持ちがやすらぐ。
かれを愛していることを認めざるをえない。

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が、怪我が治るとまたウィンの病気が出る。
ファイの留守中にフラリと外に出歩くようになったのだ。
また男たちと遊んでいるにちがいないと思い、
ファイはウィンのパスポートを隠す。
自分からウィンが離れられないようにするためだ。

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このころファイは中華料理店のキッチンで働きはじめる。
そしてそこで働いている台湾からやってきた旅行者
チャン(チャン・チェン)と親しくなる。

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チャンはウィンと違い、他人ときちんと距離がとれる。
ウィンと違い、振りまわされなくてすむ。
二人の関係に気づいたウィンはファイの元を去る。

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チャンは、ファイにあなたの悲しみを南米の最南端に捨ててきますと
ファイにテープレコーダーを渡す。
そして金ができるとひとりその南米の最先端に向かう。
そこでテープレコーダーを聞くのだが、機械のまわる音だけで
ファイの言葉はなにも入っていない。

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一方、ファイも稼ぎのいい食肉工場で働き、
金が溜まると、ウィンと見るはずだったあのイグアスの滝へ向かう。
そしてそのあと、ひとり帰国の途につく。

途中、台湾に寄り、チャンの両親に会う。
両親は屋台をやっているのだが、
そこにはチャンが送ってきた写真が何枚か飾られていて、
ファイはその一枚をこっそり手にして故郷の香港へと向かう…。

というのが凡そのストーリー。

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物語はフェイの語りですすめられていくが、
誰がどう観たって物語の主人公はウィンだよね。

にもかかわらずウィンは中途に消えて、
結はフェイとチャンのお話になってしまっている。
なんなんだあ、これは~!と思うが、事情はすでに述べた通り。
おらが代わりに謝りたい。許してけろ

ま、フェイだけじゃなく監督のウォン・カーウァイも、
現れては消えるウィンに…、おらがレスリーに
とことん引っ掻き回されてどうにも収拾がつかなくなっちまった
ということさね(笑)。

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しかしレスリー・チャンが凄い。圧倒的。異才。天才。
狂おしく、そして限りなく愛おしくならざるをえないよね。

はげしく愛を求め、
そうしてそれが成就しそうになると、いたたまれずに仔細なことで喧嘩し、
そこを立ち去る。
べつの男を愛し、そのかれとも同じことを繰り返し、
そうしてまたフェイのところへ戻ってくる。

ひたすらその繰り返しの中で、身と心をすり切らしていく…。

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自分がどうしてそれを繰り返すのか、自分でもよくわからない。
自分の身体=心なのに、自分でもよくわからない。
自分が自分に、自分の身体=心に翻弄されているのだ。

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まさにこのイグアスの滝そのもの。

理屈で言うのは簡単だ。
ウィンは「関係の安定」に慣れていないのだ。

関係が安定してくると、身の置き所をなくして逃げ出さざるをえない。
かといって孤独でいることにも耐えられない。
身体=心がいわば勝手に愛を、対の相手を求めてしまうのだ。
それをいやが上にも繰り返してしまう。

このままでは身が滅びる。死ぬしかない。
だから「やり直したい」「やり直そう」、と思う。
身体を、心を修復しなくちゃ、と思う。
が、自分ではどうしようもない自分の身体に、心に
自分の思いを裏切られてしまうのだ。

そのリフレイン…、繰り返し…。

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原因もわかっている。
乳幼児期に母親(養育者)との関係に失敗したからだ。

母はいる。目の前にいる。ずっと一緒に暮らしてきた。
愛されなかった、という記憶もない。
にもかかわらずウィンのような状態に追い込まれるとすれば、
かれが母親に、家族に捨てられていたからだというしかない。

家族がありながら、
かれは生まれた時から「孤児」だったのだ、と。
ほかに理由はない。

ガタリは家族がなければ人間にはn個の性があるだけだと言ったが、
ひとはウィンのように
n個の性(かれの場合は同性愛)を生きるしかないのだ。

悲しいかな。
ひとはただ自分の身体に埋め込まれた生の様式を生きるしかない。
その生の様式から逃れることも、それを変えることもできない…。

レスリーはそれを見事に演じてみせている。
これ以上にそれを演じてみせた俳優もいないかもしれない。
いや、演じたというより、この作品で自分を曝け出してみせた
と言ったほうがいいかのかもしれないが…。

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これはウィンが愛人に怪我をさせられ、
ファイの部屋に転がりこんだ後である。
両手を使えないかれはこうやってファイに身体を洗ってもらう。

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ごはんを食べさせてもらう。

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ファイの身体に身を預けて眠り、

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うしろからファイに抱きついてその首筋にキスをする。

これ、みんな、
幼児期の子がおかあさんにやってもらってることだよね。

私なんかすぐ疑っちゃうぜい。
おい、ウィン、おまえ愛人に両手を潰されたって転がりこんできたけど、
その両手、自分で潰したんじゃねえの?
ファイに…、おかあさんにそんなことしてもらいたくて、と(笑)。

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これは、ファイにパスポートを返せと暴れて
部屋の中をめちゃめちゃにしてしまうシーン。
これもまだ全能感が壊れていない幼児のよくやる手(笑)。

このあたり、幼児期の問題と同性愛の問題とが
あまりにも見事に表現されているので、
ひょっとしたらこういうシーンはレスリーがウォンに提案したのかも、
なんてこれまた疑っちゃうよねえ。

ともあれ、この映画でレスリーの資質が全開し、
名作「さらば、わが愛/覇王別姫」を生み出したんだと思う。

これを観ずしてレスリーを語ったり、
同性愛の問題を語ったりしてはいけないとおらは思う。

まあ、とにかく観ちくれ。
おらがレスリーに痺れちくれ。


■98分 香港/日本 青春/ドラマ
監督: ウォン・カーウァイ
製作: ウォン・カーウァイ
脚本: ウォン・カーウァイ
撮影: クリストファー・ドイル
美術: ウィリアム・チャン
音楽: ダニー・チャン
出演
レスリー・チャン ウィン
トニー・レオン ファイ
チャン・チェン チャン

香港映画界の鬼才、ウォン・カーウァイ監督が男同士の切ない愛を描いた恋愛ドラマ。惹かれ合いながらも、傷つける事しかできない男と男の刹那的な愛を綴ってゆく。徹底的に突き放した視点で彼等を捉える事で、より深い感情の揺れ動きを捉える手腕は流石。またアルゼンチンの雄大な自然美や、アストル・ピアソラの切ないメロディが映画を効果的に彩る。トニー・レオン、レスリーチャン共演。南米アルゼンチンへとやってきた、ウィンとファイ。幾度となく別れを繰り返してきた2人は、ここでも些細な諍いを繰り返し別れてしまう。そして、ファイが働くタンゴ・バーで再会を果たすが...。

  
 

この記事へのコメント

りー
2018年08月14日 20:28
なんて考察の深い感想文!
ブエノスアイレスを見て、あんまり切なくて心の行き場がなかったけど、納得できました!

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