オレンジと太陽 (2010) イギリス

[978]オーストラリアへ強制移民させられた孤児たちを描いた秀作 ★★★★★☆

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イギリスの名監督ケン・ローチの
息子ジム・ローチが撮った記念すべき第1作。

イギリスとオーストラリアの間で1970年まで
いわば秘密裡に行われていた「児童移民」問題を描いたもの。

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主人公のマーガレット・ハンフリーズ…、エミリー・ワトソン。

実在の人物。
ノッティンガムでソーシャルワーカーの仕事をしている。
本編は、彼女の手記『からのゆりかご 大英帝国の迷い子たち』を
映画化したものだという。

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1986年のある日、彼女は
オーストラリアからやってきたシャーロットという女性の相談を受ける。

私は両親が死んで、ノッティンガムの孤児院にいたが、
4歳の時、ほかの数百人の子どもたちと一緒に突然
船でオーストラリアに送られた。
自分が誰か知りたい、と。

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シャーロットが残していったわずかな手がかりをもとに調べると、
彼女の母は生きていた。
しかも母は、孤児院から娘は養子に出されたと聞いていた、
オーストラリアに移民させられたなんて知らなかった、と語る。

ハンフリーズはシャーロットをオーストラリアから呼び寄せ、
母親と再会させる。

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事態を知るため、彼女はオーストラリアへ向かい、
シャーロット同様、本国イギリスから船に乗せられて
オーストラリアへ送られてきたというかつての孤児たちに会う。

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これは現地のある記録所で発見した「児童移民」の1コマ写真。

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ついでながら、
エンドロールで流される「児童移民」フイルムの1コマ。
たぶんほんもの。
うそついたってしょうがないもんね(笑)。

あ、もうひとつついでだが、
タイトルの「オレジと太陽」というのは、
オレンジと太陽の国=オーストラリアという意味だよ。

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帰国したハンフリーズを空港で迎える家族。
夫と二人の子供がいるのだが、
彼女はこの家族の協力のもと、
「児童移民」問題について調査しはじめる。

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公式の記録は一切残っていない。
が、新聞を調べていくと、
イギリスからオーストラリアへの児童移民は、
オーストラリアがまだ植民地だったころの19世紀から
1970年まで続けられていたことがわかる。

しかも慈善団体のフェアブリッジ、教会など巨大な組織が関係し、
どうやら国策の一環として行われていたらしい。

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オーストラリア全土が
イギリスの植民地になったのは1828年だから、
そのあたりからってことなのかな?

にしても、オーストリアは流罪植民地としての歴史を持つから、
政府は孤児=犯罪者とみなしてたってことかい?

1970年まで孤児の集団移民政策をとてたってどういうこつ?
白豪主義ってやつ?
アジア人やアフリカ人は絶対入れないぞお!ってやつ?

フン、イギリス政府のやりそうなこったわい、
とすでに怒り心頭に達している私(笑)。

この映画はそのあたりの事情についてはまったく触れていない。
おらはちょっとまずいと思う(笑)。

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ハンフリーズはオーストラリアに事務所を開き、
孤児として強制移民させられたひとたちの相談に乗り始める。
ほとんどは母親、家族を探してほしいというもので、
イギリス、オーストラリアのハードな往復活動がはじまる。

かれらが母、家族を探してほしいのは、
「自分は誰なのか」知りたいからだ。
俗に言う自己同一性ってやつだよね。

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「道草」を書いてやったばかりなので漱石を思い出す。
漱石には烈しい死への傾斜がみられる。

漱石門下生の芥川龍之介も、
芥川を師と仰いだ太宰治もそれがあった。
結局、二人は自死しちゃったんだけど、
その動因は自分の母親が、両親がいったいなのか誰なのか、
よくわからなかったからだと思う。

実際にはいた訳だけど、
三人ともその両親を自分の両親として獲得しそこなった。
そのため自己同一性が揺らいでいた。それが大きいんだと思う。

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ここに登場する孤児たちもそう。
みんなもう立派なおとななんだけど、
母親や家族を知らないため、いまだに
埋まらない大きな心的不安を抱え込んじゃってるんだよね。

けして声高に描かれていないぶん、
そのあたりは観ていてちょっと胸が苦しくなる。

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支援活動を続けているうちにハンフリーズは、
自分でも予期しなかった事態に陥る。
この男性ら、被害者たちの
オーストラリアでの孤児生活を聞いてから、共感のあまりの
PTSDを発症しはじめたのだ。

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一方で、活動がマスコミを通じて知られるようになると、
国策を強固に支持する者から脅迫されたり、
襲撃を受けたりするようになる。

どこの国にもいるよねえ、こういうどうしようもねえ阿呆。
おらもひでえ脅迫いっぱい受けたことあっけどさ、あん時(笑)。

その彼女の活動を支援するのは、
家族と、「児童移民」させられた当事者たちだけ。
つうのも、観ててなんか腹立ってくるよね。

なんだかんだ言っても結局、一般市民は関心ないんだろうね。

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児童移民のひとり、レン(デヴィッド・ウェナム)は終幕、
ハンフリーズに一緒にビンドゥーンへ行ってほしいと頼む。
強制移民させられた孤児たちが収容された施設のある場所だ。

彼女ははじめ断る。
そこで生活した孤児たちの話を聞いてから
PTSDを発症するようになったからだ。

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が、避けて通ることはできないと思い直し、
レンと一緒にビンドゥーンへ向かう。

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強制移民させられた孤児たちはこの施設に収容された。

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施設とは、じつは教会だ。

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突然現れたレンとハンフリーズの姿に
神父たちの表情が凍りつく。

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収容された子供たちはここで
この神父たちに重労働を強いられ、度重なる暴力を被り、
あげく性的虐待を受け続けてきたのだ。

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ハンフリーズは孤児たちにここで生活の話を聞かされ、
PTSDを発症したのである。

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しかも教会はその事実をいままでひた隠しにしてきた。

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見るからに悪魔って顔の神父。
ということは凄い俳優だってことだけど(笑)。

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教会を出たあと、レンは言う。
「あそこに入ってもおれはなにも感じなかった。
8歳のときから泣き方を忘れた」と。

ハンフリーズは言う。
「すべてが正され、すべての傷が癒される瞬間なんて来ない。
あなたが失ったものを私は返せない」と。

レンは返す。
「あんたはおれたちのために闘ってる。
おれたちの味方だ。それ以外はもういい。
あんたはおれが貰った最高の贈り物だ…」。


個人的な好みで言えば、ダルデンヌ兄弟のように
もう少し突き放して撮ったほうがいいような気もするが、
ほんとうに素晴らしい作品だ。

未見の方にはぜひおすすめします。

あ、これもちなみに、
児童移民の数は13万人を上回ると推計されているそうです。

また、2009年11月、オーストラリア首相が、
2010年2月にイギリス首相が事実を認め、正式に謝罪をしました。
マーガレット・ハンフリーズさんは原作の印税をもとに基金を設立し、
現在も児童移民だった人々の家族を探す活動を
続けているそうです。


■106分 イギリス ドラマ
監督: ジム・ローチ
製作: エミール・シャーマン カミーラ・ブレイ
原作: マーガレット・ハンフリーズ
『からのゆりかご 大英帝国の迷い子たち』
脚本: ロナ・マンロ
撮影: デンソン・ベイカー
音楽: リサ・ジェラルド

出演
エミリー・ワトソン マーガレット・ハンフリーズ
デヴィッド・ウェナム レン
ヒューゴ・ウィーヴィング ジャック
タラ・モーリス
アシュリング・ロフタス
ロレイン・アシュボーン

これが記念すべき長編劇映画デビューとなるイギリスの名匠ケン・ローチの息子ジム・ローチが、イギリスとオーストラリアの間で1970年まで行われていた忌まわしき“児童移民”の実態とそれがもたらした悲劇を描いた社会派ドラマ。英国最大のスキャンダルともいわれる“児童移民”の真実を明らかにし、彼らの親捜しに尽力した実在の女性マーガレット・ハンフリーズの手記を基に映画化。主演は「奇跡の海」のエミリー・ワトソン、共演にデヴィッド・ウェナム、ヒューゴ・ウィーヴィング。
1986年、イギリス、ノッティンガム。ある日、ソーシャルワーカーのマーガレットは、自らのルーツを調べるべくオーストラリアからやって来た女性シャーロットの相談を受ける。ノッティンガムの児童養護施設にいた彼女は、4歳の時に突然ほかの数百人の子どもたちと一緒にオーストラリアに送られたという。養子縁組でもなく、子どもたちだけを船に乗せて送るという、にわかには信じがたい話に衝撃を受け、調査を開始するマーガレット。やがてオーストラリアへと向かった彼女は、シャーロットと同じ境遇の人々が大勢いることを知り、彼らの家族を捜す活動に乗り出すのだったが…。


 

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