嘆きのピエタ (2012) 韓国

[982]ギドク、自分の世界に徹底して引きこもれ。現実なんか相手にすな! ★★★★☆☆

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偏愛するキム・ギドクの最新作。

ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した!
と聞いていたので、めちゃくちゃ期待してたんだけど、
「…………?」 だよねえ。

もう緩くて緩くて…。

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この男、イ・ガンド(イ・ジョンジン)。
チャン社長という男の下で、借金の取立て屋をやっている。
といって並みの取立て屋ではない。

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500があっという間に5000になる高々々高利貸し。
で、返済できないと、借りた男の手を工場の機械で潰す。

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あるいは廃墟のビルから突き落とす、等々。

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でも殺しはしない。
あくまでも重度の「障害者」にして、
債務者たちにおりた保険金をせしめるためだ。

チャン社長の指図ではない。
ガンドがウラで勝手にそうやっているだけだ。

なぜそんな非道を生きるのか。

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生まれてすぐに母親に捨てられたからである。
天涯孤独の、「孤児」の辛苦を舐めてきたから…。

母親に、そして社会に暴力を振るわれた。
だからそうやって対抗暴力を振るい返している訳だ。
すこしばかり熨斗をつけて。

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かれはどこからかよくニワトリやウサギを捕まえてきては、
全身の皮をひん剥き、食らう。

これはそのニワトリだが、
全身をひん剥かれたこのニワトリがじつはかれの姿なのだ。
そしてかれが障害者にしてしまった債務者たちの姿…。

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その彼の前にある日、
自分は若くしてお前を産んだが、怖くて捨てた、
と泣いて謝る女が現れた。

なんの冗談だ、ふざけるなとガンドは追い返すのだが、
女は執拗だ。

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電話をかけてきて、母であることの証しであるかのように
母が子を想う歌をうたい、涙を流す。

 お母さんが島へカキを獲りに行くと、
 赤ちゃんは一人でお留守番
 海が聞かせてくれる子守唄に…。

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ガンドは怒り狂い、
ほんとにおれを捨てた母親ならおれはおまえのここに戻ると、
また訪ねてきた女に跨る。

女は悲しみの余り泣き声をあげる。

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その日を境に女は部屋に居座り、
ガンドと一緒に暮らしはじめる。
母が捨てたわが子に罪滅ぼしでもするかのように。

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女の妙に甲斐甲斐しい姿に、
ガンドはいつしか女に母親を見る。
子としての幸福を味わいはじめる。

が、ある日突然、その女の姿が部屋から消える。

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ガンドは気が狂いそうになる。
女=母親なしの生活はもう考えられなくなっていたからだ。

残された部屋の形跡から、
自分が障害者にしてしまった男の仕業ではないかと疑い、
母親=女の姿を求めて、かれらの間を探しはじめるのだが…、

というお話。

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カンの鋭い人はもうわかったかもしれないね。

そう。
この女、じつはガンドの被害に遭った女。

息子がガンドから金を借りて、
返せなくて、工場のこの鎖で縊死してしまったの。
で、ガンドに復讐しようと、
自分はおまえを捨てた母親だと偽って近づいた訳ね。

なんでそんなややこしい接近を試みたのか?
新作なのでそのあたりは自分の目で確かめてくださいな。

ただねえ。
冒頭で言ったように「………?」だからなあ(笑)。

いかにもギドクらしい物語のようだけど、じつは全然物語がないよね。
あるのは物語の残骸だけ。

頭でこねくりまわされた物語の枠組みがあるだけで、
悲しいかな、ギドクの筆が追っついてないんだよね。全然書けてない。
書けてないから、俳優の演技もうそばっかり(泣)。
いかにも意味ありげにやってるだけ。

実際、観てても、な~んにも身体に入ってこないんだよね。
ギドク・ファンの私はただ泣くしかない。
これだったらまだしも、
「壊れたギドク」を晒してる「プンサンケ」 (2011)のほうが
いかったかも。

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だめな理由をひとつだけ上げておくと、
舞台を現実世界にたいして「閉じる」ことができなくなってるから
なんだよね。

「魚と寝る女」から「春夏秋冬そして春」までのギドクと較べると
すぐわかる。

傑作を生み続けたその頃は、
物語を徹底して現実から閉じてたよね。

閉じることで現実と倒立したギドクのシュールな世界を
構築することができていた。

でも「春夏秋冬」以降、かれは自ら「陸」に上がった。
現実の世界にたいして自分を開きはじめたんだよね。

と、途端に、中にはいい作品もあるけど、おおむねこけた。
現実に侵食されて、
自分の世界を十分に構築することができなくなった。

この作品もそう。

若い頃のギドクみたいに
「現実なんか糞食らえ」にならない。

現実の物語を、自分の世界に引っ張り込んで
なんとか作品を作ろうとしてしまってる。
途端にギドクの世界は砕け散ってしまってる。

なんでそうなるのか?

ここ数年のギドクの言動から推測するしかないんだけど、
結局、現実社会の前に立つと、
かれはあまりにもひ弱すぎるのかもしれない。

そんなに金や名誉が欲しいのかい?

話はすこし違うけど、
そういう意味で言うと、漱石はさすがだね。

書きたいと思うような事件がきえてしまったので
ここ数年、私の原点とも言える漱石を読み返しているんだけど、
ほんと凄い。

ほとんどの作家は歳を重ねるごとにパワーダウンしていくけど、
漱石はまったく逆だもんね。

書くに従ってパワーを増していく。
「小手先」を捨てて全身で書きはじめる。

それこそ現実なんか糞食らえといわぬばかりに、
自分の、あるいは時代の途方もない無意識に体当たりし、
そう言ってよければ無残に砕け散ってみせる。
すごいひとだよねえ。

そうやって、死の間際まで
前を向いて必死に生きてみせた作家って
私の知るかぎり漱石しかいないかも。

ギドク、すこし漱石を見習えよ。
頼むから、天才も歳をとればただの人になるなって(笑)。


■104分 韓国 ドラマ
監督: キム・ギドク
脚本: キム・ギドク
撮影: チョ・ヨンジク
音楽: パク・イニョン
出演
チョ・ミンス チャン・ミソン
イ・ジョンジン イ・ガンド
ウ・ギホン フンチョル
カン・ウンジン ミョンジャ
クォン・セイン ギターの男
チョ・ジェリョン テスン

2012年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したサスペンス・ドラマ。監督は「サマリア」「うつせみ」のキム・ギドク、主演はテレビドラマ「ピアノ」のチョ・ミンスと「マルチュク青春通り」のイ・ジョンジン。十字架から降ろされたイエス・キリストを抱く聖母マリア像であり、慈悲深き母の愛の象徴でもある“ピエタ”をモチーフに、心を失った男とその母を名乗る女の姿を描く。
生まれてすぐに親に捨てられ天涯孤独に生きてきたイ・ガンドは、法外な利息を払えない債務者に重傷を負わせ、その保険金で借金を返済させる取り立て屋をしている。そんなガンドの目の前に、母親を名乗るミソンという女が現れた。ミソンの話を信じられず、彼女を邪険に扱うガンド。しかし彼女は電話で子守歌を歌い、捨てたことをしきりに謝り、ガンドに対し無償の愛を注ぎ続ける。だがガンドが心を開こうとした矢先、姿を消したミソンから助けを求める電話がかかってきた。


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