もうひとりの息子 (2012) フランス

[1038]分離壁がイスラエル・アラブ戦争の絶望的な厳しさを感じさせる ★★★★☆☆

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イスラエル軍の空爆で
ガザ地区の死者が200人を超したという。
イスラエルのほうも初の死者?

書く前からもう気分がドーンと重いよね。
真っ暗。

よって簡単に書く。
DVDの返却時間が迫って画像を拝借できなかったから
でもあるのだが(泣)。

テルアビブで暮らすヨセフは(18歳)は、
兵役検査を受けるが不合格の通知が送られてくる。
血液検査で現在の両親の子供ではないことが判明したからだ。

両親はなにかの間違いだとDNA検査を依頼するが、
DNAも一致しなかった。

ちなみに父親アロンはイスラエル国防軍大佐。
母親は病院に勤めるフランス生まれのイスラエル人。
まだ幼い妹がひとりいる。

考えられる事態はただひとつ。
ヨセフは18年前、
湾岸戦争の混乱の中、ハイファの病院で生まれた。

ハイファはユダヤ人とアラブ人が共存する街で、
入院当時、母親はやはり出産で入院していたアラブ女性と
同室だった。
その女性の産んだ子とわが子とが取り違えられてしまった
可能性である。

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ヨセフの両親はそのハイファの病院を訪れた。
そこには18年前、同室だったアラブ女性夫婦の姿もあった。
そして2組の両親は院長の謝罪を受ける、
混乱の中で病院側が取り違えてしまったと。

左、ヨセフの母親オリット…、エマニュエル・ドゥヴォス。
右、アラブ女性ライラ…、アリーン・オマリ。

2人は、わが子として育ててきた息子の写真を交換する。

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左、オリットの現在の息子ヨセフ…、ジュール・シトリュク
右、ライラの現在の息子ヤシン…、マハディ・ザハビ。
ヤシンはヨルダン川西岸地区に住んでいて、
家族は両親と、兄、妹。

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ちなみにこれはヤシン君が両親とともに
テルアビブの実の両親の家を訪れるシーン。
ただし兄は訪問を拒否。

しかし映画を観てると一瞬混乱するよね。
取り違えてないじゃん。
ヨセフ君は母親同様、フランス系イスラエル人の顔で、
ヤシン君も両親同様、ちゃんとアラブ人の顔してるじゃんて(笑)。

まして18歳になるまでこの二人が血液検査してなかったって
どういうこつ? という違和感も咽喉までこみあげてくる。
まあ、国の事情が違うのかも知れないが。

でも、ま、映画だからいいか(笑)。

いや、そうもいかんなあ。この映画やたら評判いいし…。
ということは、そういう違和感を抱くのは私だけってこと?
やっぱり私は変わってるってこと?

おらがおすぎさんは、
私の中ではこれまで「嘆きのピエータ」が一番だったけど、
これ観たら、これが一番になっちゃったなんて
なんだか訳のわからんこと言ってるしなあ(笑)。
 ⇒コチラを見てたもれ。

ここはひとつ読者の判断を仰ぎたいものだ(爆)。

しかし映画とはいえ、これは大変なことになったぞ。
イスラエル対アラブだもんな。殺し合いでも始まるんかいな。
と心配したら、よかった、そんなに大変でもなかったよ(笑)。

タイトルがさりげなく暗示してるように、
互いの家族がヨセフとヤシンを自分たちの愛する
「もうひとりの息子」として獲得していくんだよね。

で、まあ、親戚同士…、というより
二つの家族がより大きなひとつの家族になっていく
という感動の物語。

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その大きな推進力になったのは、じつはこのヤシン君。
自らの運命を受け入れていくかのように、
もしかしたら歓迎でもするかのように
積極的にテルアビブへ行き、ヨセフ君に接触するんだよね。

当のおれたち自身が変わらんといかん!
みたいな感じで。

しかもこの子、天使みたいに優しくて、無垢な青年なもんだから、
ヨセフ君も次第に兄弟みたいに打ち解けていく。

はじめ、とりわけヨセフの父、
ヤシンの父、兄の戸惑いが激しかったんだけど、
ヤシン君の行動と心がみんなの心をひとつにしていく。
そんな流れになってるよね。

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なんでヤシン君は自らの運命を受け入れるかのように、
もしかしたら歓迎でもするかのように、動いたのか。

たぶん、それがこの映画のキーポイントだと思うんだけど、
考えられる理由はただひとつ。
かれが医師を目指してパリ留学中だったから。

そう。事態が発覚したのはたまたま帰国中のこと。
そして帰国してかれが目にしたのはじつは、
有刺鉄線が張り巡らされた異様な「分離壁」だった。

イスラエル政府がヨルダン川西岸地区に
高さ8m、全長700km近い「テロ対策用防護フェンス」を
建設しはじめたのは2002年だけど、

ヤシン君はその前にパリへ留学し、
帰国したこの時はじめて目にしたという物語設定なんだと思う。

で、ヤバイ!
イスラエルもパレスチナもこのままじゃ終わりだ。
この「分離壁」を乗り越えなきゃ、壊さなきゃと思い、
果敢に「ヨルダン川西岸地区~テルアビブ」の往復をはじめた。
殺し合いをはじめてもおかしくない二つの家族を
一つにしようと動きはじめた?

かれはパリに留学し、すでにフランスの「自由」の空気を
十分吸っていたから!

つうのが、ま、私の解釈なんだわさ。

え? 珍説じゃないと思うよ。自信あるよ(笑)。
だってこの映画を作ったのはフランスの女性監督の
ロレーヌ・レヴィだし、

自分の想いをヤシン君に託して
この物語を描きたかったんじゃないかと思うよ。

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イスラエルが建設している「分離壁」。
「アパルトヘイト・ウォール」。

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壁に描かれたイタズラ描き(アート)。

じつは映画の中で私が一番感動したのは、
帰国したヤシン君が目にしたときの「分離壁」。

その絵を盗りそこなったのが残念なんだけど、
イスラエル・アラブの戦争の絶望的な厳しさを
すごくリアルに感じさせるチカラがあったんだよね。

あとはまあ、楽観的すぎて
ちょっとリアリティには欠けるかなあという感じ。
所詮映画だからまあそれでいいとは思うけどね。

しかしなあ…、と現実の話。

軍事的に優位なはずのイスラエルが、
この先何人パレスチナ人を、あるいはアラブ人を殺そうと、
この戦争はけして終わらないんじゃないかなあ
と私はものすごく悲観してる。

終わるとしたらその時は同時に人類の歴史も終わり?
つまりこの戦いは
人類の歴史のはじまりであると同時に、終着点?
なんだかそんな気がしきりにしている。
ほんと、恐ろしいほど長くず~っと続いてるもんねえ。

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壁。人間の作りもの。つまり文化。
文化はすべて恣意的なもので、じつはそこにはなんの根拠もない。

だからと言ってそれは容易に書き換えられるものではない。
胎児に書き込まれたものが容易に書き換えられないように。

この壁に私はそれを感じるんだよね。
「ベルリンの壁」なんかとは訳の違うものを。

私の思い過ごしであることを祈る。


■101分 フランス ドラマ
監督: ロレーヌ・レヴィ
製作: ラファエル・ベルドゥゴ ヴィルジニー・ラコンブ
原案: ノアン・フィトゥッシ
脚本: ロレーヌ・レヴィ ナタリー・ソージェン ノアン・フィトゥッシ
撮影監督: エマニュエル・ソワイエ
音楽: ダッフェル・ユーセフ
出演
エマニュエル・ドゥヴォス 母オリット
パスカル・エルベ 父アロン
ジュール・シトリュク 息子ヨセフ
マハディ・ザハビ 息子ヤシン
アリーン・オマリ 母ライラ
ハリファ・ナトゥール 父サイード

いまなお根深い対立が続くイスラエルとパレスチナの問題を背景に、それぞれの家族の間で子どもの取り違え事件が発生したら、という衝撃的な題材で描き出す感動の家族ドラマ。子どもの誕生から18年目にあまりにも残酷な事実を突きつけられた憎しみ合う2つの家族の動揺と、幾多の葛藤を重ねながら辿る選択への道のりをリアルな筆致で描き出す。監督は本作が長編3作目となるフランス人女性、ロレーヌ・レヴィ。2012年の東京国際映画祭では、みごとグランプリと最優秀監督賞の2冠に輝いた。
テルアビブに暮らすフランス系イスラエル人家族の18歳になる息子ヨセフ。ある日、兵役検査で両親の実の子ではないことが判明する。18年前、湾岸戦争の混乱の中、病院で別の赤ん坊と取り違えられていたのだ。しかも相手は高い壁の向こうに暮らすパレスチナ人夫婦の息子ヤシンだった。最初は事実を受け止めきれず激しく動揺するヨセフとヤシン、そしてそれぞれの家族たちだったが…。

 

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