恋人たちの食卓 (1994) 台湾

[1051]小津安的な父と娘の香りが漂うアン・リー監督の絶品食 ★★★★★★

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「食卓」を通して家族を描いてみせた、
アン・リー監督の台湾時代の逸品。

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舞台は、台北。
きょうも人々は明日に向かい、がんばって生きている。

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路地にあるつましやかな一軒家。
妻を亡くしたチュ氏は、
この家で適齢期にある娘三人と暮らしている。

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仕事は5つ星ホテルのシェフで、中国料理の達人である。
日曜日…、一家の習わしは、
こうやって父の手料理を前に食卓に座ることだ。

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左、三女ジアニン。
楽天的女子大生。ただいまマックでアルバイト中。
ただし中国食品会社の
期限切れ食肉使用問題はまだ発生していない。安心を(笑)。

中、次女ジアチン。
航空会社勤務の鼻柱強きキャリア・ウーマン。

右、長女ジアチェン。
高校教師、敬虔にして頑固なるクリスチャン。

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次女 「不味い。食えたもんじゃない」(笑)
が、言うと口うるさいので、口に仕舞う。

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パパはその口を見逃さない。「言ってみろ」
次女はうそが言えないタイプだ。「ハムが古い」
とっさに三女と長女が場をとりなそうとする。
「おいしいわ」「味見を忘れたのよ」フォローになってない(笑)。

次女は決定打を放つ。「味覚の衰えよ」
パパは無力化した権力を振るう。「私の舌は正常だ!」

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自覚がある。舌が死んでしまった、と。
頼りは30年来の親友で、家族同然の料理長ウェンさんの舌だ。

ウェンさんに愚痴をこぼす。はやくひとりになりたいよ。
ジアチェン(長女)は男には目もくれん。
ジアチン(次女)の癇癪が気に食わん、と。
「さすがだ。みんなおまえの血をひいてる」とウェンさん。

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ジアチン(次女)は明かす。
あたし家出る。貯金はたいて新築中のマンション買ったの。
パパもあたしのこと嫌いだし、と。
ジアチェン(長女)は老いゆくパパの心配をする。
「パパに必要なのはリャンおばさん」とジアチン(次女)は言う。
「パパはママ以外に愛せないの」とジアニン(三女)。

ジアチェン(長女)とジアチン(次女)の仲はよくない。
ジアニン(三女)はマイペース。
典型的な三姉妹である。私はなぜか嬉しい。楽しい。

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ジンロンが娘シャンシャンを連れて遊びにくる。
近くに住むジアチェン(長女)の家族同然の友人で、
何があったかただいま離婚調停、真最中。
シャンシャンはここのパパ大好きである。

噂のリャンおばさんとは彼女の母だ。
アメリカの娘のところへ行っていたが、
台湾が一番と近く帰国し、ジンロンと暮らすつもりでいる。
当然ジンロンは頭が痛い。

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ジアチンにたいする航空会社社長の信頼はとびきり熱い。
突然、アムステルダム支社の副マネージャーに任命する。
でもマンション買ったし。あ、他人に貸せばいいのか。
と、台北の才色兼備は前途洋洋だ。

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さっそく恋人の家へ行き、料理の腕を振るう。腕は達人級。
ほんとうは料理人になりたかったのだが、
パパに勉強しろと厨房へ入るのを禁止されたのである。
嬉しそうだが内心は頭が痛い。

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アムステルダム行き。
新航路ブロジェクトで組むことになった、渉外の達人リー・ガイ。
好みの色男だし、将来を考えるとかれのほうがいいかも、
妻子持ちだが離婚考えてるみたいだし。
ああ、才色兼備はつらい。とりあえず二股で行こう(笑)。

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日曜は教会で過ごす敬虔なるクリスチャン、ジアチェン。
9年前、初恋の男にフラれ、深手負い、以来男寄せつけず。
とパパや妹たちに公言してるが、じつは真っ赤なうそ。
イエスも微笑む紅バラ色した超うそ。

いまだ初恋の体験なし。教会へ通っているのも、
私に恋のお恵みを、恋のお恵みを、
と神のお慈悲へすがりに行ってるのである(笑)。

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さすがに神も哀れを誘われる。じつは彼女、
母親代わりを務めるのにいっぱいで
これまで遊ぶ暇もなく生きてきたのだ。

突然、ジアチェンの前に男が現れる。
バレーボール・コーチとして新任してきたミンダオ君だ。
庶民派で私向きかもと、婚期を逸しそうな
ジアチェンの心が、生涯初、疼く。

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ジアニンのバイト先の女友だちレイチェルである(左)。
彼女にはグオルンという恋人がいる。
ジアニンは彼女に、好きな男はジラすに限る、と秘策を授ける。
彼女は名案だと喜ぶ。

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結果、グオルン君は来る日も来る日も
店先でレイチェルの帰りを長時間待たされるようになる。
ジアニンは面白がり、ジラされてるかれをイジって遊ぶ(笑)。

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そのうちグオルン君はジアニンに悩みを相談しはじめる。
レイチェルはなぜ愛してる僕を苦しめるのか、と。
ジアニンは言う。「あら、嫌いだって言ってたわよ」(笑)

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毎日話してるうちにグオルン君はとうとう
レイチェルではなくジアニンを待つようになり、
バイト先から出てきた彼女を独り住まいのお屋敷へ誘う(笑)。
両親は海外で仕事してるのだとか。
こんなことになってレイチエルに悪いと思いつつ、
ジアニンはそっとかれの手を握る(笑)。

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パパはパパでじつはただいま恋愛中である。
こうやって毎日、学校に通っている恋人シャンシャンに
豪華な手作りお弁当を持っていくのに忙しい。
鉄人の食をおいしいと言ってくれるのはいまや
この孫娘だけだもん(笑)。

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ある日、シャンシャンのママ、ジンロンに呼び止められる。
「ありがとう。でも私の作ってるお弁当もいつも空なのよ」
「私が全部きれいに食べてる」
「料理の鉄人が私の作ったお弁当を?」
「君の気持ちはおいしいよ」

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突然、家族同然のウェンさんが心臓発作で倒れる。

幸い命をとりとめるが、以来、
一家の上に次第に人生の嵐がしのび寄ってくる。
とくに順風に思えたジアチンの身の上に。

購入した建築中のマンションが建築中止。業者は逃亡。
貯金をすべて失ってしまう。

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パパがこっそり心臓科で診察を受けている姿を目撃し、
人生初、パパのために思わず涙を零してしまう。

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心臓病を抱えたパパは、
嵐とともに帰国したジンロンの母親の襲撃に遭うことになり、
命の危険を感じる。
ピーチクパーチク、まあ、うるさくて適わんのだ。

この二人、前作「ウェディング・バンケット」では
仲睦まじき夫婦だったのだが(笑)。

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日曜日…、恒例の食卓で、三女ジアニンが突然
爆弾告白をする。
「恋人がいるの。かれの家に引っ越すの。
赤ちゃんができてしまったの」(爆)。

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そしてタクシーで迎えに来たグオルンとともにこの家を去る。
この間、パパも姉たちも言葉を失い、
一言も発せず(爆)。

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ジアチンは不倫相手リー・ガイの過去を知り、ショックを受ける。
姉の初恋の相手だったからである。
姉のことで問い詰める。
ガイは、誤解だ、君の姉は当時のぼくの恋人の友だちだ、
会ったこともないと言う。
ジアチンは姉の長年の「作り話」を知り、更にショックを受ける。

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恋人を訪ねると、かれは浮気の真最中。
ガイはガイで、別の女性との結婚を告白する。

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そしてウェン叔父さんの死。
退院して厨房へ現れると、そこで二度目の発作を起こし
そのまま亡くなった。
きっと厨房で死にたかったのだろう(泣)。
パパの悲しみは計り知れない。
ジアチンを襲う度重なるショックも。

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無慈悲な神にジアチェン(長女)がついに切れる。

毎朝、職員室の机に匿名のラブレターが置かれている。
新任コーチ、ミンダオ君からのラブレターだと思いたい。
でもなぜ告白してくれない、と痺れを切らし、

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人生初の真っ赤なセーターを着込み、
全校生徒を前にマイクで怒鳴る。
「毎朝、私の机の前にラブレターを置くのは誰よ。
名乗り出なさい。筆跡を確かめて探しだすわよ」と。
全校生徒は暴挙に出たジアチェン先生にただ茫然となる(笑)。

ジアチェンも茫然とする。
ラブレターはミンダオ君のものではなく、
生徒たちのイタズラだったことがわかり(爆)。

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だが暴挙は神のおかげで革命になった。
ミンダオ君が教室へ慰めに現れてくれたのだ。
ジアチェンは抱きつき、人生初、自らかれの唇を求めた。

ジアチェン、廊下の生徒たちが見てるよ。見てるってばあ(笑)。

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パパはいまのホテルでの仕事を引退すると宣言。

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日曜日…、恒例の食卓。
突然、こんどは長女ジアチェンが爆弾発言する。
「私たち、待てなかったの。今朝、教会で挙式したの」
そう言って外で待ってる新夫を食卓へ(笑)。

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ミンダオ君は、この義父に一言「ハ~イ」とあいさつし(爆)、

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愛車バイクでそのままジアチェンを乗せて
この家を去った。

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ジアチンはアムステルダム行きを断り、
家に残されたパパの面倒をみることにする。
人生、わからないものだ。

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幾日かが過ぎた日曜日…、
パパは恒例の食卓にみんなを呼ぶ。
話しておきたいことがあると言い。

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みながひとしきり食べ終わると、パパは立ち上がり言う。
「この家には思い出が詰まっている。
しかし住人も少なくなったので売ろうと思う。
じつは家も見つけてあり来月には引っ越すつもりだ」

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「私は老いても健康だ。
ここに病院で診てもらった健康診断書もある。
おかあさん、私は命ある限り、ジンロンと
私の娘シャンシャンを路頭に迷わせたりしない。断固しない」

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パパの突然のウルトラ過激告白にみな
一瞬、茫然唖然となる。
当然、酔っ払いめ、と、誰も信じない(爆)。

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そんなみんなにジンロンが謝る。
「打ち明けようと思っていた。
でも離婚手続きに時間がかかって。
私はおじさんと住みたい。そばにいたい。
シャンシャンもおじさんを愛してる」と。

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当然私との婚約を発表するのだ
と思い込んでいたジンロン母は卒倒する、
「鬼、畜生、許さない」と悲鳴をあげながら(爆)。

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ジアチンは訳がわかなくて、ただ涙が溢れた。





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1年後…、
アムステルダムに勤務しているジアチンは
台北のわが家に一時帰国し、料理の腕を振るう。
日曜日の恒例の食卓を催すために。
父が売りだした家は自分が買った、
思い出がいっぱい詰まっている家だから。

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妹のジアニンとグオルンは、
生まれて間もない子の世話であいにく来れなかった。
姉のジアチェンも、
夫ミンダオ君に洗礼を受けさせる日と重なってしまい。

パパだけが来た。
妻ジンロンは臨月ですこし体調が優れず。
娘シャンシャンはおばあちゃんを慰めに(笑)。

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鉄人は娘のスープにだめを出す。「生姜が強すぎる」
例によって娘も負けていない。
「多くないわよ。おかあさんの味よ。パパ、生姜に弱いからよ」(笑)

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「待てよ」と父は呟いた。
「ジアチン、おまえのスープの味がわかるぞ」
「味覚が戻ったの?」
「味がわかった。お代わりをくれ」

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ジアチンがスープのお代わりを差し出すと、
パパはその手を取り、言った。
「娘よ」
ジアチンは答えた。
「おとうさん」
涙がこぼれた…。


じつはこの作品を観るのはじめてだった。
アン・リー監督の作品ではこれまで私には
「ウェディング・バンケット」(1993)が一番のお気に入り
だったのだが、こっちが一番になってしまったかもね。

小津安的な香りが漂う絶品の父と娘の味。
どうぞみなさん召し上がれな。


■125分 台湾 ドラマ
監督: アン・リー
製作: シュー・リーコン
脚本: アン・リー
ジェームズ・シェイマス ワン・フイリン
撮影: ジョン・リン
音楽: メイダー
出演
ロン・ション
ヤン・クイメイ
ワン・ユーウェン
シルヴィア・チャン
ウィンストン・チャオ
ン・シンリン

台湾の大都会、台北。チュ氏は適齢期の3姉妹の父親で、彼女たちと一緒に暮らしている。妻は娘たちが幼い頃に亡くなっており、家事全般は父であるチュ氏が行っていた。日曜日の晩餐は、5つ星ホテルのシェフで中国料理の鉄人だった父の手料理を前に円卓に座るのがこの一家の習わしだ。敬虔なクリスチャンである教師の長女、才色兼備で航空会社勤務のキャリア・ウーマンの次女、女子大生で無邪気な三女--映画は、彼女たちの初恋に不倫、セックスに妊娠、結婚を通し、父と娘、家族などを描いてゆく。単なる家族ドラマではなく、“食”と“性”という人間の根源的な欲求を通して、家族や人間関係、そして“人生”を描きあげた傑作。

 
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