関の弥太ッぺ (1963) 東映

[1068]長谷川伸の人間美学を見事な映像美学として定着してみせた山下耕作の大傑作

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長谷川伸の名作を山下耕作が1963年に映画化。

初めて観たのは高校生の頃。
当時はこんな素晴らしい映画をごく当たり前のように観てたんだよな
と感慨を新たにする。

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原作戯曲は「関の弥太っぺ」だが、この作品では「関の弥太ッぺ」に変更。
喋り言葉の「音」と、田舎者あるいは遊侠者としての弥太郎にこだわったのか。

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長谷川一夫版をはじめ、たくさん映画化されていてどれも面白いが、
極め付けはこの山下耕作作品かも。
長谷川伸文学が人間関係の美学を謳い上げているとすれば、
山下耕作はそれを見事な映像美学として定着させているから。

例によってストーリーに沿いしばしその映像を堪能しようぜい。

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常陸の国結城在・関本に生れた渡世人の弥太郎は、10年前両親に死に別れ、
祭りの晩にはぐれた当時8つの妹お糸を探して旅を続けていた。
ある時、その妹が取手の遊女屋で働いているという噂を耳にし、
取手に向かうのだが、その途中、

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父親と旅をしていた幼い娘・お小夜が川に流されているのを見、
飛び込んで救助する。

この川、凄く広くて大きな、しかも急な流れ。
これ、利根川で撮ったんじゃないの?
と、利根川までわずか数キロ近くの柏に住んでる私は自慢げに思った(笑)。

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右、フンドシ姿の関の弥太ッぺは当時大スターの中村錦之助。
子供の頃、私は錦ちゃんはひばり(美空)と結婚するものと信じてた。
昔の映画は子供たちにそう信じさせる魔力を秘めていた。

左、お小夜の父親・和吉。さて誰でしょう。画像大きくしてもわからないと思うよ。
声を聞くとわかるひとにはわかるが、ここではその声は再生できない。
観るしかない。 

こっそり教えます。「東京物語」の時
大阪弁喋れなくて「秋田志郎に改名しろ」と小津さんに罵声を浴びせられ、
人目憚らず泣きじゃくった私の愛しき大坂志郎さん(笑)。

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和吉親子が立ち去った後、和吉親子を追い、渡世人・箱田の森介が現れる。
和吉親子に金を盗まれたと聞き。弥太ッぺは驚く。
お糸のためにと肌身離さずに持っていた自分の50両が消えていたからだ。
弥太ッぺも慌てて和吉親子を追う。

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街道沿いの林の中。

和吉は、お小夜の腰に盗んだ50両を結び、そして手紙を渡し言う。
下の村へひとりで行き、この手紙を誰かに読んでもらいなさい、と。
お小夜の母親は、実は13年前に誘拐された旅篭「沢井屋」の娘。
その母親が死んだので和吉は娘をひとり沢井屋へ帰そうとしてるのだ。

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お小夜はひとり村の方へ下りるが、手紙を忘れたことに気づく。
箱田の森介が追いつき、お小夜の腰の金を自分のものと思い奪い返す。

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弥太ッぺの方は和吉に追いつき金を返せと迫る。
和吉が逃げようとすると森介が現れ、和吉を背後から斬り捨て
そのまま消える。

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斬られた和吉は弥太ッぺに縋りつき、お小夜を旅篭「沢井屋」へ届けてくれと
言い残し息絶える。

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義理と人情の世界を生きる人のいい若者・弥太ッぺはこうして
事情もわからぬまま天涯孤独の身となったお小夜を沢井屋へ届けることに。
お小夜に生き別れた妹お糸の面影を見ているからである。

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父親の行方を尋ねるお小夜に、沈む夕日を眺めながら言い聞かせるシーン。
「この娑婆には辛い事、悲しい事がたくさんある。だが忘れるこった。
忘れて日が暮れりゃあ明日になる。ああ、明日も天気か」
どう? 名セリフだろう。

画像、人物のアップを避けてるのは、セットを見てほしいから。
そう。これ、全編ほとんどセット撮影なんだよね。
ちなみに前述の林のシーンもセット。
ロケのシーンもあるが、その場合でもそこにセットを作り込んでいる。

美術は桂長四郎。

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旅篭「沢井屋」。

凄いよねえ。金もかけてるし、いまから考えると凄まじい贅沢。
観てると、作品を創るということがどういう事なのかよくわかる。
いまのひとにはこういうセットたぶんもう作れない。
「作る」ということがどういうことなのかもうほとんどわからなくなってるから。

小道具ひとつにしてもナニ作ってと指示すると、サイトで調べて
似たようなもの探し買うだけ。私はただ茫然。
もう言う気力さえ湧いてこない…。

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この子を引き取れと言う弥太ッぺに沢井屋の者は当然困惑する。
弥太ッぺは仕方なく50両で10年間預かってくれと言い残し、

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50両を奪った森介の後を追う。
この間、お小夜の言葉がきっかけでお小夜は、13年前に誘拐された
娘の落し子だとわかり、沢井屋の一家3人は喜ぶ。

あ、上の右端、沢井屋お金は懐かし嬉しの夏川静江さんだよ。
どうだ、綺麗だろう。参ったか(笑)。

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鉄火場にいる森介を見つけると、
森介は俺の勘違いだったと素直に50両を返し、兄貴に惚れたと
義兄弟の契りを交わす。
森介を演じてるのはあの若き日の木村功。
これもちょっと見には絶対わからないよ♬

竹林、塀、柿、遠くの家屋、洗濯物…、イチイチ痺れる。

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弥太ッぺが沢井屋に引っ返すとお小夜が可愛がられていることを知り一安心。
手元に残った45両を約束通り軒裏にそっと置いて立ち去る。
花は、槿(むくげ)の花。

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弥太ッぺは妹お糸が働いているという取手の遊女屋へ。

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だがお糸はすでにこの世にはいなかった。
弥太ッぺはお糸を知っているという女郎・お由良に、
働いて働いたあげくお糸は労咳を患い、半年前に死んだと教えられたのだ。

お由良を演じているのは私の岩崎加根子。
俳優座が生んだ大女優だが、芝居をやっているひとは
このシーンの岩崎加根子さんの真似でもしてみるといいと思うよ。
声をお腹に落として、分かりやすく言えば低い声で、セリフは謳わないこと。
そんなことをするともう嘘臭くて叶わんからね(笑)。

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妹お糸の野の墓に手を合わせる弥太ッぺ。
妹と暮らすことだけを夢見てきた彼は生きる目的を失ってしまう。

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10年後…。

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弥太ッぺはすさんだ日々を送り、若い日の面影をすっかり失っていた。
いまは飯岡の助五郎一家の客人である。
ボケてるけど後ろ、助五郎一家の阿呆男は私の愛する砂塚秀夫さん。(^^♪

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竹林の中で宿敵・笹川の繁蔵一家と合いまみえる助五郎一家。
飯岡の助五郎をやっているのはおらが安部徹。

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弥太ッぺも助五郎一家の客人として赴くが、繁蔵一家の中に

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恩人の田毎の才兵衛と、兄弟分の森介がいることがわかり、
助五郎一家の客人としての足を洗う。
ちなみに恩人の田毎の才兵衛は、
10年前、弥太ッぺに妹お糸を教えてくれた人物なのである。
演じているのは私の月形龍之介。懐かしいよねえ。痺れるよお~♬

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才兵衛は弥太ッぺと森介を料亭に案内する。
そこで二人は旅篭「沢井屋」の孫娘お小夜が10年前の命の恩人を
探していることを聞かされる。

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弥太ッぺは旅篭「沢井屋」へと旅をする。
股旅ものって今風に言えばまさにロード・ムービーだよね。

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そして槿(むくげ)の花の陰から沢井屋の庭を覗くと、

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縁側に成長したお小夜の姿が…。
孫娘として一家とともに幸せに暮らしていることがわかり弥太ッぺは辞す。

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だがこの後沢井屋はとんでもない事態に巻き込まれる。
兄弟分の森介が10年前の恩人は私ですと現れ、
弥太ッぺが預けた金45両を返してくれと懐にするばかりか、長逗留し、
お小夜を嫁にくれとせがみはじめたのだ。

そしてお小夜、沢井屋一家がそれだけは首を横に振ると、こうやって力ずくで
お糸をものにしようする。

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その噂を聞いた弥太ッぺが沢井屋を訪ね、森介を林の中に呼びだす。
森介がお小夜の父親を切り捨てたあの林の中である。
弥太ッぺが10年前の話をし、お小夜から手を引けと言うのだが、
森介が嫌だと刀に手を触れる。
弥太ッぺはついに兄弟分の森介を手にかけてしまう。

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沢井屋を訪ねる途中、弥太ッぺを狙う助五郎一家に出くわす。
弥太ッぺは少しの猶予をくれ、決闘の場に顔を出すと約束し、沢井屋へ向かう。

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弥太ッぺが森介に頼まれたと言い45両を沢井屋へ返し、
辞そうとすると、沢井屋の大おかみに呼び止められる。

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10年前お小夜を助けてくれたのはあなたではないか、と。

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お小夜は弥太ッぺに頼む。
私は父のことが知りたいのです。知っているなら教えてほしい、と。
10年後のお小夜を演じているのはむろんわれらが十朱幸代。

以下、極上の名場面が始まる。

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弥太ッぺは10年前と同じようにうそを言う。
あなたの父は堅気だった、と。

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お小夜は突然聞く。「あなたは私のお兄さんではありませんか」
弥太ッぺは聞き返す。「どうしてそう思いなさる」

「だって他人にしては変なんですもの」
「あっしもお嬢さんを妹と思いてえ」と言い、
弥太ッぺは亡き妹お糸の話をする。

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お小夜がでは兄さんになってくださいと言うと、
弥太ッぺは私は明日の身もわからぬ渡世人ですと答える。
どこに行くのですかとお小夜が尋ねると、
「妹の所へ行くかもしれません」と答え、そうして付け加える。

「一朝の夢」と譬えられる、
10年前と同じに咲き誇るこの槿(むくげ)の花を前に、
10年前と同じあの言葉を…。

「この娑婆には辛い事、悲しい事がたくさんある。だが忘れるこった。
忘れて日が暮れりゃあ明日になる」

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「ああ、明日も天気か」

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お小夜は思い出す。
10年前のあの日、私を助けてくれたのはこのひとだった、と。

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そして「待ってください、旅人さん」と消えた弥太ッぺを追うのだが、
その姿はもうなかった…。

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暮れ六つ時、約束の場所で助五郎一家は弥太ッぺを待つ。

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暮れ六つを告げる鐘が鳴る。
ゴーン、ゴーンと画面いっぱいに。
関の弥太ッぺはまっすぐ助五郎一家のいる一本松へと向かう。

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咲き乱れる赤い彼岸花。天上の花。
弥太ッぺは笠を秋の空に放った…。


別に難しい物語ではないので何も付け加えることはない。
ものを創る、作品を、舞台を作るということがどういうことなのか
わからないひとはこれを何度も繰り返して観るといいと思う。

しかし今になって考えるとアレだな。
なんだよアレって?
この頃長谷川伸が描いた世界が盛んに映画として撮られたのは、
こうした人間の心が次第に崩壊しはじめたことを現わしていたのかも…。


■89分 日本 時代劇/ドラマ
企画 小川貴也 翁長孝雄
原作 長谷川伸
脚本 成沢昌茂
監督 山下耕作
撮影 古谷 伸
録音 野津裕男
照明 井上孝二
美術 桂長四郎
編集 宮本信太郎
音楽 木下忠司

出演
関の弥太郎  中村錦之助
箱田の森介  木村功
お小夜  十朱幸代
お小夜の子供時代  上木三津子
堺の和吉  大坂志郎
沢井屋お金  夏川静江
銀太郎  武内亨
おすみ  鳳八千代
田毎の才兵衛  月形龍之介
飯岡の助五郎  安部徹

十年昔はなかった傷だ、顔も変わった心も荒れた……男彌太ッぺ泣かぬ顔して人を斬る!
日本人の心をゆり動かし、幾多の名作を世におくり出した、長谷川伸の傑作股旅文学の映画化。顔に大きな刀傷、生き別れの妹を探して旅から旅の関の彌太ッぺ。旅の途中、ふとしたことで助けた、親を失くした一人ぼっちの少女に妹の面影を見い出した。――そして10年。再会した少女は美しい娘に成長していた。娘は彌太ッぺの顔の傷から、自分を助けてくれた恩人と知るが、彌太ッぺは娘の幸せを願いつつ、無情の修羅場へと向かって行った……。娘・小夜に十朱幸代、山下耕作が長谷川文学を叙情豊かに描いた股旅映画の傑作。

 

この記事へのコメント

月見草
2014年10月27日 21:53
てつさ~ん「関の弥太っぺ」懐かしいなぁ~
東映時代劇で一番心に残ってるのがこの「関の弥太っぺ」です。てつさん高校生の頃?月見草、小学生の頃と勘違いしてなのかなぁ~中学生だったのかな?
父が東映三人娘の中で丘さとみが大好きで、新吾二十番勝負、一心太助、忠臣蔵、丹下左膳、旗本退屈男、清水の次郎長、森の石松(錦ちゃんのはまり役でぴか一でした!)等々、幼い頃、父に連れられほとんど観てます。紅孔雀からはじまってほとんどです!最近の観た映画は忘れても過去の記憶は鮮明です。てつさんのブログでこんなあらすじだったのかと驚いていますが、とにかく映画館であんまり泣いて父が慌ててた記憶はあります。
なぜか山ほど観た時代劇のなかで、この「関の弥太っぺ」と市川雷蔵の「大菩薩峠」と「薄桜記」がベスト3です。
てつさんは三人娘の中のお気に入りは?
大川恵子、桜町弘子、丘さとみ(名前が調べなくてもスラスラ出てくるところが怖いです)昨日の夕食も思い出せない月見草なのに・・・・・トホホです
月見草
2014年10月27日 22:11
あっそれから、岩崎加根子さんどんな映画に出ても存在感ありましたよね。子供心にもそう思ってました。錦ちゃんもマンネリの三人娘が相手の時より、たまに新劇出とか俳優座の渡辺美佐子さんなんかが相手だとちょっと力が入って張り切って、なんか娯楽作品というより文芸作品のようなそんな感じがしてました。
東映時代劇に反応してちょっと長いコメントでスイマセンでした(^^;)
てつ
2014年10月28日 00:17
懐かしいですよねえ。久しぶりにツタヤへ行ったらコレがあったので即借り即観でした。ビデオ時代にも観たので30年ぶり?私も「紅孔雀」「笛吹童子」に始まって東映の時代劇はほとんど観ています。子供心を一番くすぐったからかも知れないですね。お父さん、コレ観てて大泣きして慌ててた!傑作ですねえ。気持ちはわかります。幼い娘のお小夜さん(月見草さん)がそばにいるんだから(笑)。好きな時代劇のベスト3は難しいですね。ベスト10位にはしてもらわないと(笑)。当然上の3本は入ります。3人娘の中で一番のお気に入りは残念ながら私も丘さとみです(笑)。たぶん一番無垢そうで安心できたから?(^^♪ 錦ちゃん、岩崎さんらとやると力が入って文芸ものに!ははは、言われると確かにそんな感じ。俺だって歌舞伎出身だぞお~と意地見せようとしたのかなあ(笑)。

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