陸軍_1 (1944) 日本

[1072]反戦映画かどうか微妙であることによって反戦映画足りえている傑作

画像



1943年に「花咲く港」で監督デビューした木下恵介は、
戦前4本の作品を手掛けている。

画像

この「陸軍」は1944年に撮られた4本目、戦前最後の作品で、
陸軍省の依頼により「大東亜戦争3周年記念映画」として製作された、
いわゆる国策映画である。

画像

物語は、幕末の1866年(慶応2年)、
九州小倉が長州藩の奇兵隊に攻めこまれるところから始まる。 

画像

小倉で由緒ある質屋を営む高木家が避難の準備をしている所へ、
負傷した藩士の竹内喜左衛門が飛び込んできて、
預けていた水戸光圀の「大日本史」を高木家に寄贈すると言い残し、去る。

画像

1895年(明治28年)、高木家はすでに二代目(?)友之丞の時代。
三国干渉の話を聞いた友之丞は、そんなばかなことがあっていいのかと、
山縣有朋に直談判すべく上京を決意。

右端がその友之丞…、文学座のわれらが三津田健。
右から2人目はその妻せつ…、同じく文学座のわれらが杉村春子。
正面奥の少年は三代目を継ぐことになる息子の友彦。

画像

だが上京した友之丞は狭心症で倒れ、そのまま入院。
息子の友彦が上京して見舞い、宮城(皇居)を参拝して間に、発作を起こして死亡する。
友彦に「軍人になれ」という遺言を残し…。

画像

病室の入口で父の死に泣き崩れる友彦。
この頃の日本の俳優がいかに凄かったか、
この少年・友彦を演じている山崎敏夫(?)を観てもわかる。

画像

日露戦争当時…、1904年(明治37年)2月~1905年(明治38年)9月。
友彦は大尉として出征するが、病気で前線に立つことはできず、
その悔しさを負傷した戦友・仁科に愚痴った。
このことが一層お国のため、天子様のために尽くしたいという友彦の気持ちを強くする。

右、友彦…、九州男児、われらが笠智衆。若い!
左、戦友・仁科…、われらが上原謙。同じく若い!(笑)

画像

10年後、小倉の質屋「高木屋」の座敷に座る友彦。

画像

そしてその妻わか…、日本映画界が誇るわが田中絹代。
ちょっと、騒がない騒がない、騒ぐような映画じゃないんだから。
こらこらこら、騒ぐな言うとるじゃろがあ~! と、ひとりで騒いでる我。

画像

九州男児・友彦の皇国思想は半端でなく、
質屋の立て直しに助力してくれる商人とも軍部に関する雑談で激突。
それがもとで代々続いた質屋を畳み、雑貨商に商売替えすることに。

画像

更に10年後…、歴史を俯瞰する木下恵介らしく時が進むのは早い♬
博多祇園山笠(博多どんたく)。「武勇男児」の文字が踊る。

画像

長男・伸太郎は成長し、次男坊も生まれる。

画像

わが頑固一徹な九州男子は役立たず、
暇を持て余し友人の藤田と碁に明け暮れるばかりだったが、
ある日、その友・藤田がよい話を持ってきた。
工場をやっている櫻木という旧友が、工場の奉公青年団を指導する教官を
探しているので会ってくれというのだ。

画像

友彦は妻の持たす西瓜を手土産にその櫻木に会うのだが、
この櫻木なる男も友彦に勝るとも劣らぬ九州頑固男。
西瓜か昼飯か、昼飯か西瓜かで激しく衝突し、話もせぬうちに喧嘩別れ(笑)。
え、話がわからん? 観てたもれ。笑えるよお、この阿保九州男子二人♬
あ、右の櫻木…、われらが東野英治郎ですねん(笑)。若い♬

画像

妻わかが教科書を踏んづけてしまった長男・伸太郎を激しく叱りつけるシーン。
本はひとの魂なのだ、と。
夫友彦が「まあまあ許してやれ。反省しとるだろ」と笑顔で中に入ろうとすると、
「甘い」と妻に怒られる。
うん。監督、九州男のいい加減さをズバリと描いてみせとるわな(笑)。

画像

ある祭りの夜、友彦は偶然、櫻木という男の優しい一面を目撃し、反省。
教官をぜひやらせてほしいと頭を下げる。
長男伸太郎が、櫻木の息子・常吉と同窓生であることも判明。

画像

そして10年が経ち、

画像

櫻木の息子・常吉は士官学校を卒業し、将校として、

画像

そして長男伸太郎も若干期待外れながらも、
徴兵制の初年兵として陸軍に入隊し、親の期待通り
お国のために戦う身になった。

画像

奉仕青年団を前に教官・友彦の戦意高揚演説はますます熱を帯びる。

画像

が、「元寇」時の神風の話になり、
神風が吹かなければ日本は負けた、いや吹かずとも挙国一致して勝ったと
再び櫻木と激しく衝突し、頑固一徹の友彦は退官。

画像

そして1937年、「大東亜戦争」(支那事変)勃発。

画像

日本兵は次々と大陸へ投入される。

画像

ある日、伸太郎は里帰りし、上等兵に昇進したことを報告する。
そして同窓生、櫻木常吉が出兵したこと、
自分は初年兵の教育係として残されたことを。
病気で出兵できなかった自分のことを思い、友彦は無念がる。

画像

新太郎は母に頼む。
戦友の常吉が出兵したのだから、父を、櫻木の父親と和解させてくれ、と。
自分もいつ出兵するかわからない。
つまらぬことを気にして戦場へ行きたくない。常吉もそうだろうと思う、と。

画像

その頃、櫻木は自ら志願し、下関の兵舎で雑役係として働いていた。
ある日、上官の仁科大尉(友彦の戦友)に
息子・常吉の隊が激戦を戦い、戦死者が多数出たことを聞かされる。
途端に、櫻木はしきりに息子・常吉の安否を尋ね、仁科に一喝される。

画像

友彦は下関に櫻木を訪ね、旧友・仁科に再会。櫻木とも和解する。

画像

そこへ妻のわかから新太郎の出兵が決まったと知らせが入る。
長年の胸のつかえが取れ、友彦は大いに喜ぶ。

画像

出兵前夜、一時帰宅した新太郎は家族とともに食し、母の肩を揉む。
父は息子に言い聞かす。
五か条の教えに殉ぜよ。名を殺し己を空しくしてひたすら大君に仕えよ、と。
母は「からだだけは気をつけて」と言葉をかける。

画像

そして新太郎の出兵当日。
国策に沿った戦意高揚、銃後の意識を静かながらも鼓舞するかのように
描かれてきたこの物語は、突然、意外な方向へ向かって走りはじめる。


画像



監督:木下惠介 ※クレジット上では演出である。
原作:火野葦平
脚色:池田忠雄
撮影:武富善男
美術:本木勇
録音:小尾幸魚
企画:池田一夫
製作担当:安田健一郎
製作:松竹大船撮影所
後援:陸軍省

出演
友助 … 笠智衆
友助の妻 … 信千代
友之丞(友助の息子)… 横山準
友之丞(成長してから)… 三津田健(文学座)
せつ(友之丞の妻)… 杉村春子(文学座)
友彦(友之丞の息子)… 山崎敏夫
友彦(成長してから)… 笠智衆(二役)
わか(友彦の妻)… 田中絹代
伸太郎(友彦の息子)… 星野和正(東童)
竹内喜左衛門 … 原保美
仁科大尉(友彦の戦友)… 上原謙
藤田謙朴 … 長浜藤夫(東宝劇団)
櫻木常三郎 … 東野英治郎

九州・小倉で由緒ある質店を営む高木家は、奇兵隊の侵攻を機に敵方ではあるが軍監の山形有朋の知己を得る。以降、天子の国・日本への奉仕と忠誠を家訓とし、息子の友彦(笠智衆)が後の日露の戦いで出征を果たす。だが、病弱な友彦は前線での活躍が出来ず、その「恥」の汚名を晴らす期待を長男に託す。やがて時は中国出兵、成長した長男の出征に心底喜ぶ友彦だった。妻(田中絹代)もまた天子様からの預かり物である子供を返す事ができたと安堵する。しかし、いざ出征する軍靴の音が聞こえてくるに及び、心が乱れるのであった。陸軍省後援による国策映画で木下恵介の監督4作目。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック