歌行燈_1 (1960) 大映

[1075]名匠・衣笠貞之助が山本富士子と市川雷蔵で綴った名作

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泉鏡花の名作「歌行燈」を名匠・衣笠貞之助が、
山本富士子と市川雷蔵を主演に映画化した作品。
屈指の傑作。雷蔵の作品の中でも私の超お気に入りの作品である。(^^♪

明治30年ころ、伊勢・山田。

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東京の観世流家元・恩地源三郎は嫡子・喜多八らを伴い、
伊勢神宮に能を奉納した。

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地元の盲目の謡曲指南・宗山(荒木忍)は
その舞台を観、何たいしたことはないと恩地を貶す。
恩地の権勢を面白からず思ったからだ。

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その言を耳にした恩地の嫡子・喜多八(市川雷蔵)は素性を隠し、
宗山宅を訪れ、謡を聞かせてほしいと願い出た。

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そうして宗山が謡い始めると、傍にあった鼓を手にし、
謡いに合わせて打った。

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鼓の稽古を重ねていた宗山のひとり娘・お袖(山本富士子)は、
その鼓にただならぬ音色と気配を感じた。

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もとより宗山もそう感じ、ついには謡えなくなった。
「あんまりうぬぼれぬ方がいい。うなぎのほかに鯛もあるんだ」
そう言い捨てて辞す男の足音を耳にし、宗山は娘に叫んだ。
「お袖、その男を帰すな」と。

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玄関に追ってきたお袖に喜多八は言った。
「妾を二人手元に置いて田舎にいれば誰しも天狗になりやすい。
あんたも若い身だ、ひとのおもちゃにならない方がいい」と。

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自分の敗北を感じた宗山は錯乱し、
足を踏み外して裏庭の井戸に落ち、死んだ。

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事態はすぐに恩地源三郎(柳永二郎)の耳にもたらされた。
源三郎は亡き宗山と世間に謝罪し、
芸の道を踏み外した、即刻破門する、今後謡を口にすることも禁ずる
と、嫡子・喜多八を門から追放した。

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喜多八はすぐに宗山家を訪れ、焼香し、詫びる。
そしてお袖が妾でなく娘だと知り、心を話した。
父の悪口を言われてカッとなり、だったら芸を拝見しようと訪ねたが、
あなたの父上はただの田舎天狗ではなく、ほんものだった。
それでつい私も負けるものかという気になってしまった、と。

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お袖は…、父はもと按摩で、
小さい頃から私が手を引いて町を歩いていた。
その頃は本当に優しい父だったが、中途半端な芸を身に付けてしまったばかりに
と言い、

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泣き崩れた。

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喜多八はその日から諸国を門付して歩く身となった。

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家の借金が残っていたお袖は芸妓に身を落とした。

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父のことを思うとどうしても芸事を身につける気になれなかった。
そのためあちこちの町の芸妓屋へとたらい回しにされた。

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そんなお袖だったが肌身離さず手元に置いていたものがあった。
かつて恩地喜多八が写した謡の書だった。

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そして桑名新地…。

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いまは島屋という芸妓屋に籍を置いていた。
相変わらず芸事を身につけようとしないお袖を親方はいびる。
「お袖、おまえ、お座敷満足に務めたことないのに、
飯だけは一人前によう食うな」と。
だがおかみさんも同僚の芸妓娘たちも優しく、まだ生きていけた。

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そんなある日、同僚のおけいとお座敷へ向かう途中、
地回りの男たちに殴られている男を見、お袖の足が止まった。
門付をして歩いている喜多八だった。

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おけいの計らいでお袖は、
喜多八が常宿している安宿へ喜多八を運び手当てした。
喜多八は言った。
放浪の間、芸の恐ろしさに日々追い立てられていたお袖の父・宗山の幻を
しばしば見てきた、と。

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あの日からの互いの見の上を語りおえるとお袖は喜多八に言った。
お願いします、私に謡いと仕舞いを教えてください。
あなたが教えてくれるなら父もきっと喜んでくれます、と。
喜多八は言った。
わかりました。あなたになら私の父もきっと許してくれるでしょう、と。

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翌日の早朝、お袖は技芸屋をこっそりと抜け出し、
約束の裏の森へ向かった。

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お袖と喜多八の、二人だけの謡と仕舞いの稽古が始まった。

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ちなみにここの仕舞いは
能舞台「海人」(あるいは「海士」)の、前段に続く「玉ノ段」である。

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一言でいうと、ひとりの海女が海中の竜宮へ行き、
「面向不背の珠」(釈迦の像が必ず正面にみえる不思議な宝珠)を
取り返してくるというお話。

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お袖はこうやって稽古の日を結んでいった。

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すでにわかるように、
この作品はわれらが衣笠貞之助の徹底した映像美に貫かれている。
お袖の仕舞いのシーンはこのシーンを含め3度あるが、
その仕舞いのシーンが殊更に美しい。
ちなみに私の画像ソフトではその美しさを再現できない。すまねえ。(^^♪

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幾日かが過ぎ、喜多八は言った。
もう教えることはない。明日で終わりにしよう、と。
お袖は頼んだ。
もうどこへも行かないでください。
明日は新しい門出を祝い一緒に舞ってください、と。

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互いの愛を阻むものはもうなかった。

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歓びに包まれたお袖はその夜の座敷で生まれてはじめて
酒を口にした。

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直後、お袖は親方から、
いま座敷で相手をしている馴染みの客・睦屋宗平に
わが身が身請けされた話を聞かされる。

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お袖は明日一日待ってくださいと親方に頼み込み、
翌早暁、約束の森へ走った。

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だが固く約束したはずの喜多八はその日ついに
姿を現わさなかった。


※この項「2」に続く


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■114分 日本 ドラマ
監督 衣笠貞之助
脚色 衣笠貞之助 、 相良準
原作 泉鏡花
企画 中代富士男
製作 永田雅一
撮影 渡辺公夫
美術 下河原友雄
音楽 齋藤一郎
録音 橋本国雄
照明 泉正蔵
出演
お袖 山本富士子
恩地喜多八 市川雷蔵
恩地源三郎 柳永二郎
辺見雪叟 信欣三
宗山 荒木忍
おけい 小野道子
お幸 賀原夏子
お秀 浦辺粂子
今村屋彦七 小沢栄太郎
本田 佐野浅夫
笹野 中条静夫
箕部 武江泰雄
おます 倉田マユミ
おこい 角梨枝子
おしも 町田博子
千代丸 加治夏子
鉄砲松 見明凡太朗
銀次 守田学

時は明治三十年代、所は伊勢の山田に東京から観世流家元恩地源三郎の嫡子喜多八を迎えて家元連中の奉納能が華やかに行われた。
盲目の謡曲指南宗山は昔の娘のお袖と二人町を歩いた按摩だったが、今は妾を二人もつ町一番の師匠だった。恩地親子の権勢を面白からず思う宗山を、旅姿に扮した喜多八が訪ね、田舎天狗の鼻をへし折って立ち去った。自分の芸に自信を失った宗山は古井戸に身を投げて果てた。
源三郎は喜多八を謡曲界から破門して宗山に詑びた。
焼香に来た喜多八は、美しく気性の勝ったお袖を一目で愛したが、その日より諸国を門付して歩く身となった。
芸妓に身をおとしたお袖は、父を思うと一切芸事には身が入らなかった。芸の出来ない芸者は惨めだった。
桑名の島屋に抱えられた或る夜、門付して地廻りに叩きつけられる喜多八に会った。安宿で介抱するお袖は父の仇も忘れて喜多八を愛した。
お袖が仕舞の稽古を頼むと、以来父より謡を禁じられた喜多八は喜んで引受けた。早暁の裏山で二人のきびしい稽古は続いた。そして、お袖の舞う“玉の段”が仕上る時、それは二人の新しい生活の始まる日だった。
お袖に睦屋の旦那の身請け話が起った。地廻りと喧嘩して留置された喜多八は、約束の朝、現われなかった。絶望したお袖は覚悟の殺鼠剤を帯にはさむと睦屋の座敷に出向いた。睦屋は急用で出かけた後だった。
お袖が別の座敷に出たのは、能に関係ある客と聞いたからだった。客は恩地源三郎と小鼓の師匠辺見雪叟の二人だった。喜多八の父と知らず、お袖が“玉の段”を舞った時、その見事さに源三郎は地の謡を、雪叟は鼓をつとめた。
鼓の音に魅入られたように、喜多八の姿が近づいた。
かたくだき合ったお袖と喜多八の体に傍の白梅が散った。

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