笛吹川 (1960) 松竹

驚愕の新事実。カラータッチは松竹側が独断で行い上映していた!

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この作品については実はすでに一度簡単な感想を書いている。
「こんな日は映画を観よう」というブログを始めた頃だ。
とりあえずそのまま以下に再録してみる。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

凄いねえ木下恵介って監督は。
なに考えてんだかさっぱりわかんない(笑)。

この映画シロクロで撮ってあるんだけど、
写真(映像)に時どき色がつけてあるの。カラータッチ。
空の一部に青、篝火の炎のところだけ赤、ゴザのところだけ橙色とかみたく。

普通そんなことしないでしょ。
監督にとって写真は命より大事なものなはずだもん。
しかもみんないい写真なんだよ。そんな細工しなくたってすごい映画なんだよ。

あ~あ、なに考えてんだろう、おらが木下さん、色なんかつけちゃったりして。
天才のやることは凡人にはさっぱりわからん、と悩んじゃうよねえ(笑)。

反骨精神の旺盛な木下さん、
ただ深沢七郎撮ったってつまんないぜ、とばかりにそんなこと
しちゃったのかなあ。
ほかにあまり意味ないように思えるんだけど。

しかし凄い映画だとは思うんだけど、途中で眠くて眠くて。
眠いの我慢して観たせいもあるんだろうけど、
俳優さんたち、ほとんど何なに喋ってんだかわかんないもんだからさ(笑)。

ちゃんと聞こえるのは若き日の染五郎くらい?
うん、さすがって言いたいところなんだけど、
百姓上がりの侍に全然見えなくてちょっと浮いちゃったりして(笑)。

そういう意味じゃ
セリフの聞こえない田村高広 や高峰秀子のほうがいい?
慣れない百姓や方言、一生懸命やってて、らしくは見えるもんなあ。
う~ん、困っちゃうよなあ。
みなさん、深沢七郎に敬意払いすぎてんじゃないの、なんて思っちゃったよ。

この映画、封切当時、映画館で観てるずなんだけどさっぱり憶えてなかった。
もしかしたらその時もセリフ聞こえなくて椅子の上で寝てたのかも(笑)。

なんて言いながらも観ちゃうんだよねえ、最後まで。
観終わるとさすがわれらが木下恵介って拍手したくなっちゃうんだよねえ。
なにがすごいかって、その一貫した冷徹な視線。

合戦に次ぐ合戦。
虫けらのように殺し合い、虫けらのように死んでいく百姓上がりの侍たち。

その合戦の描き方がいいの。
武士というにはあまりにもほど遠い、ど素人の合戦みたいで、
鍬を振りまわす百姓同士のケンカみたいで凄くリアルなの。

実際、突然カメラが超ロングになったりして、
人間が自然の中の虫ケラみたいに見えたりするんだよな。

止めは、ラスト。
合戦に負けた武田側の坊主と武士を寺の二階に閉じ込め、
敵方が火を放って寺ごと焼き殺すんだけど、
木下恵介まったく動じず、てな感じなんだよね。

まったく…、
行く川の流れは絶えずして、ああ、笛吹川の諸行無常
てなもんだよな。

あ、そうか。モノクロに時折カラータッチてのは、
「人間の営みはすべて無常、夢のごとく」って意味なんだ
と突然悟りが訪れちゃったりして(笑)。
色は現実(こっちの世界)、モノクロは夢(あっちの世界)。

ひとつだけ。
流れる川の中から見た舞台の農家をせめて一度くらいは観たかった。
退屈だけど超おすすめだよん(笑)。

(2008/07/22 18:18 記)

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

この頃は肝心のその映像(画像)を貼りつけていない。
著作権上まずいと思っていたし
(あ、いまも思ってるけど映画万歳したいブログなので許してえ(^^♪)
画像の取り方も知らなかったからなのだが、
上の短い感想に「clover」さんという方から以下のようなコメントをもらい、
私は茫然としたのである。
これもそのまま以下に再録させて頂く。


≪私の父は、この映画に出演していた人物です。
父が言うには、それは木下監督自身が望んで施された加工などではなくて、製作中に松竹と木下監督との方向性の食い違いによって、松竹が独断で施してしまった『加工』の結果なのだそうです。
実際、この映画を試写した際、木下監督を含む出演者たちはみな心底落胆の色を隠せなかったようです。製作中、大作と期待を受けていた作品だっただけに、この映画をきっかけに大舞台を夢見ていた若い役者さんたちは涙をぬぐうことしかできなかったそうです。
内部にいた関係者しか知らない事実のようですが、父はよく当時の話をしています。
「by : clover (2008/12/28 16:52)」≫


事実だとしたら、
いや、「clover」さんの文章からして私は間違いなく事実だろうと信じているが、
まさに衝撃の事実というしかない。
私の知る限り、この映画のカラータッチについて「clover」さんのような記述を
読んだことがないからだ。
私同様、誰もが木下恵介自身が施したと信じて疑っていないのである。

長部日出雄はその著「天才監督 木下惠介」で触れてるのかなあ。
ご存じの方があったらぜひ教えてほしいものだ。

ともあれ改めて画像を加え、先の感想を少し補足しておこう。

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この映画、驚くべきことにすでにこの時点でカラータッチが施されている。
いまにして思うと内部事情を悟られたくなかったせいかもしれないが、
松竹側のド根性にも目を瞠るものがある(^^♪

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時は戦国、甲斐(山梨)の国。
武田信虎、信玄、勝頼の治世下、武田家が国内・近隣を統一、
最後には滅亡した時代を背景にしている。

庶民を愛したわが木下恵介らしく、
この戦国時代を武士の側からではなく農民の側から描きたい
というのがこの映画を撮った理由だろう。

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笛吹川の橋のたもとに一件の貧しい農家が建っている。
物語はこの家に暮らす農民のいわば4代にわたるお話。

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右、おじい(1代目)…、加藤嘉。いつも「良し!」だよねえ(^^♪
左、おじいの息子の半平(2代目)…、織田政雄。懐かしの名脇役。

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そして戦から帰ってきたばかりの半平の息子半蔵…、大源寺竜介。
農民にとって戦は迷惑だったが、褒美をもらえたり
時に出世するチャンスがあったりするので子たちはこぞって戦に出たがった。

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3代目を受け継ぐはずだった半蔵は結局、戦で死ぬ。

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代わりに受け継いだのは、
半蔵の姉(?)ミツが嫁ぎ先で産んだ、この定平。
半平が引き取り育てたのだ。

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定平は成人し、嫁を貰う。
足は引きずっているが働きもので美しか女、おけい。

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わが高峰秀子だよ(^^♪

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成人した定平を演じているのはご存じ田村高廣。
と書きながら私は高峰秀子さんしか見てないのだが。
諦めろ高廣(^^♪

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二人は10年ほどボコ(子)に恵まれなかったが、
ようやく男の子が生まれると、次から次にと4人の子持ちになった。
子は、惣蔵、安蔵、平吉、ウメと名付けられた。

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はやン10年、子らも成人近くになる。
正面の若者が長男・惣蔵…、若き日の松本幸四郎(9代目)。
左が父定平…、老けたなあ高廣(^^♪

侍・虎吉は百姓出身、一家との関係は観ててもようわからんが(笑)、
お屋形様(信玄)が死んだことをこっそり伝えに来たのだ。
演じてるのは渡辺文雄。みんな若い時代があったのだ(^^♪

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間もなく、その惣蔵が家から姿を消した。
戦へ出たのだ。

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惣蔵が戦から帰って来る。
父定平は、戦の様子を自慢げに喋る息子に思わず期待を抱く。
アホだから(^^♪
老いた母おけいは夫を叱り、ほかの息子たちに戦にはけして行くなと
釘を刺す。

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が、次男・安蔵も姿を消す。
おけいが探し歩きようやく石切り場で働いているのを発見。
連れ戻すのだが、まだドロン。

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ばかりか、ウメも虎吉に城で奉公しろと呼ばれ、惣蔵と一緒に城へ。

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だが、勝頼武田軍は敗走につぐ敗走、
ついには天目山に立て籠もり戦うことになる。
この頃すでに次男・安蔵も武田軍に加わっていた。

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おけいは三人を連れ戻してきてと三男・平吉に頼むのだが、

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ミイラ取りがミイラに…。

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ある日、
惣蔵がお屋形様の行列の中にいたと村人から聞かされ、
おけいは足を引きずりひとり行列を追った。

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一行の中にわが子四人を発見し、家へ帰るよう説得するが
子供たちが耳に貸さない。

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中には孫(ウメの子)までいた。

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老母おけいは孫の手を引き、一行を追う。
と、今度は子供たちの方が一緒にいては危険だからと母を諭すのだが…。

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一行はついに敵方に追いつかれ戦いに。

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惣蔵が敵方の手に斃れる。

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そしておけいも、ウメも、まだ幼い孫も…。
なんだけど、ここなんだよね、前回おらが悲鳴をあげたのは(^^♪

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え~、木下恵介が高峰秀子や子供の顔にこんなことする~?って。
ここで私は完全に「なに考えてんだかさっぱりわからん」となった訳だが、
加工したのが作品に不満を抱いた松竹側だとすると納得。
高峰秀子は木下監督の大事なパートナーだった訳だから。

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安蔵と平吉は、お屋形様一行が立て籠もった恵林寺へ行くのだが、
敵方がその恵林寺に火を放つ。

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安蔵と平吉は恵林寺の中で自害。

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結局、一家には老いた父・定平だけが残された…、
というのがお話の大筋。

野心は買うが、
作品的には木下監督にしては珍しく失敗してるよね(^^♪

脚本の問題で言うと、
農民の側から描こうとしているはずなのに、
肝心のその農民の姿がまったく描けていない。「暮らし」が描けていない。

この時代、農民の暮らしは大変なはずなのに、
この一家、生活補助金や国民年金もらいながら暮らしてるのかなあ(^^♪
と疑いたくなるほど働かないんだよね。働かないのに食ってる(笑)。

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つまり田畑を耕しながら食い物を収穫していくシーンが描かれないから、
農民にはとても思えないし、暮らすことの大変さも伝わってこない訳。
じゃあ、何をしてるかと言えばほとんどが
お屋形様や合戦、あるいは知り合いが合戦で死んでいった噂話。

そんな話など要らん!
合戦に子供たちを奪われても、田畑を武士らに踏みつぶされても、
生活の糧を得るべくただただひたすら黙々と田畑を耕す農民の姿だけを描けえ!
と私は言いたくなるよね(^^♪
でないと、母おけいの悲しみも、ひとり残された定平の心も伝わってこない。
この世の無常感も。

だいたい4代に亘らなくても、
そういうのは定平・おけい家族を描くだけで描けるはず。
監督、原作に遠慮したのかなあなんて私は勘ぐっちゃったよね。

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これは成人したウメなんだけど誰かわかるかなあ?
若き日の岩下志麻さんだよん(^^♪

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これだけの俳優を揃えながら演技に関してもまったくだめ(笑)。
改めて観ると合格点は、
お屋形様に恨みを抱き、武田家を呪うタツを演じている荒木道子(写真上)と、
おじいを演じている加藤嘉くらいかな(^^♪

台詞が会話台詞ではなくて説明台詞になってるからだ
いうのがたぶん一番大きな理由だと思うけど、
みんな台詞を謳ってしまってる。

つまり私がよく言うように、
自分の内側と言葉(台詞)の間の距離が取れてないんだよね。
内側と外側が同じ。
なので演じる側に「緊張感」が持てない訳だ。
それを誤魔化すために「わあ~っ!」と怒鳴ったり、
いかにもそれらしくやったりすることで何とか凌ごうとしている(^^♪

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木下作品で俳優がこういう演技をしてるのも珍しいよね。
信じがたいことに高峰さんまでそんなことをしてるもんなあ。

考えられる理由はたぶんひとつだよね。
これだけたくさんの俳優を使ったため、
木下監督も統御(演出)できなくなったんじゃないかということ。

あるいは合戦のシーンを撮るのに精いっぱいで
さすがの木下さんも疲れちゃったとか(^^♪

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話を最初に戻そう。

松竹側が独断でカラータッチの加工をしたとすれば
本当に許しがたい行為である。
しかしこういう形であれ、松竹は上映を敢行した訳だし、
私たちも観ることができた訳だ。

そう考えると、
この作品に私たちが読み取らなければいけないのは、
作品の出来不出来よりも、
現場の側と、会社(松竹)側との闘いなのかもしれない。

この時代、いずれも熱き闘いをまだ繰り広げていたのだ(^^♪
そのことを忘れずにおこう。


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■123分 日本 時代劇
監督 木下惠介
脚色 木下惠介
原作 深沢七郎
製作 細谷辰雄
制作 補脇田茂
撮影 楠田浩之
美術 伊藤熹朔 江崎孝坪
音楽 木下忠司
録音 大野久男
照明 豊島良三
編集 杉原よし
出演
加藤嘉 おじい
織田政雄 半平
大源寺竜介 半蔵
山岡久乃 ミツ
青木三知子 タケ(14歳)
矢吹寿子 タケ(成人)
内野しげみ ヒサ(12歳)
小林トシ子 ヒサ(成人)
斎木新太 郎定平(9歳)
田村登志麿 定平(16歳)
田村高廣 定平(成人)
高峰秀子 おけい
大谷正行 惣蔵(4・5歳)
高宝財 惣蔵(8歳)
松本幸四郎(9代目) 惣蔵(16歳-)
亀谷雅敬 安蔵(7歳)
中村万之助 安蔵(15歳-)
岡本和久 平吉(5歳)
永幡洋 平吉(13歳)
田中晋二 平吉(17歳-)
岩井京子 ウメ(14・5歳)
岩下志麻 ウメ(20歳-)
渡辺文雄 虎吉
荒木道子 タツ
伊藤弘子 ノブ
川津祐介 次郎
伊藤茂信 久蔵(5歳)
初代松本白鸚 上杉謙信
中村勘三郎(17代目) 武田信玄
武内亨 武田勝頼
浜田寅彦 武田勝頼 聖道
井川邦子 御寮人様
山根七郎治 快川
小笠原章二郎 方丈
安部徹 勝やん
原泉 老女
小瀬朗 茂平
市原悦子 黒駒の嫁
小林十九二 権さん

深沢七郎の同名小説を木下恵介が脚色し監督した時代劇。戦国時代を舞台にしているものの、武将や合戦が中心ではなく、市井の人々を取り上げた異色作となっている。モノクロ映像に着色したパートカラーについては評価が分かれた。

甲斐国の笛吹橋のたもとに住む百姓のおじいは、孫の半蔵が合戦で手柄を立て、お屋形様である武田信虎のお役に立てたと大喜び。おじいはお屋形様の子の後産を埋める大役を仰せつかるが、御胞衣を血で汚し斬られてしまう。半蔵も戦で討ち死に、ミツは嫁ぎ先で焼き討ちにあうなど、次々と武田家に命を奪われていく。深沢七郎の同名小説を木下恵介が脚色し監督した時代劇。戦国時代を舞台にしているものの、武将や合戦が中心ではなく、市井の人々を取り上げた異色作となっている。モノクロ映像に着色したパートカラーについては評価が分かれた。甲斐国の笛吹橋のたもとに住む百姓のおじいは、孫の半蔵が合戦で手柄を立て、お屋形様である武田信虎のお役に立てたと大喜び。おじいはお屋形様の子の後産を埋める大役を仰せつかるが、御胞衣を血で汚し斬られてしまう。半蔵も戦で討ち死に、ミツは嫁ぎ先で焼き討ちにあうなど、次々と武田家に命を奪われていく。

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