夕やけ雲_2 (1956) 日本

[1097]ここに描かれた家族像、人物像はいまや「理念」としてしかありえない

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その足で洋一はそのまま友達の誠二を訪ねるが、
かれはまだ学校から帰っていなかった。
おまけに母親(山田五十鈴)から意外な話を聞かされた。
近く父親の転勤で北海道へ引っ越すというのだ。

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山田五十鈴さんの夫は中村伸郎さん。
中村伸郎さんはこのシーンで初めて登場するのだが、
その姿が目に入った瞬間、私はひどく目頭が熱くなってしまった(^^♪
NHKドラマを書いた時、誰かひとり好きな人を選んでいいよ
とディレクターの三枝健起さんに言われ、
即座に中村伸郎さんを指名させてもらったことがあった。
スタジオもご一緒させていただいたのだが、
その時の中村伸郎さんの姿を不意に思いだしたのだ。
理由はよくわからない。
この前のシーンで私の涙腺が緩んでいたせいなのかなあ(^^♪

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家へ戻る途中、洋一は誠二にばったり会った。
誠二は引っ越すのは嫌だ、君の家に下宿させてくれと言った。
洋一は断った。家族は一緒の方がいいと思ったのだ。
そして魚屋になるんだ、学校止めてしばらく魚屋奉公へ行くんだ、

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「今度君が東京来たら、俺が刺身の旨いの食わしてやる」
と言い、別れを告げた。

洋一は家路についた。

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人物の姿そのものがロングショットになっていく姿を
ワンカットで撮るこのシーンも木下恵介独特の映像だ(^^♪
私は役者をよく舞台の四隅を使ってグルグルと歩かせるのだが、
あれ、もしかしたら木下恵介の影響なのかもしれんなあ(^^♪

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それから四年後、
叔父が出してくれた金で改装された実家の魚屋には
洋一が立ち、賑わいをみせていた。

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相変わらずアプレゲールをやっている姉豊子も
相変わらず実家を避難場所にしていた。
須藤とはまだ続いているのだろうか(^^♪

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洋一は二階の窓からよく眺めた街並みに目をやりながら
言った。
「さよなら。遠めがねの女も、妹も、友達も、
船乗りに憧れていた青春の夢も、さよなら」と…(^^♪

久しぶりにこの映画を観ていて思いだした言葉がある。
私の師、唐(十郎)さんが若い頃に書いた科白である。

「カエルが鳴くから帰るなら
帰るうちのない子にカエルはなんて鳴くんだろ
やっぱり帰ろう帰ろうと鳴いてらあ」

カエルが鳴いて帰る子は、帰る家のある子である。
家族が自分の帰れる場所になっている子である。
反対に帰る家のない子というのは、家族がなかったり、
たとえあっても家族が自分の帰れる場所になっていない子である。

この映画で描かれている家族は、
洋一にとっても、アプレで破天荒な豊子にとっても
帰れる家族になっている。帰りたい家になっている。
そういう意味で言うと、洋一も豊子も、
「行く道」だけでなく「帰る道」もちゃんと持っているのだ。

この映画はいわば青春映画なのだが、
観ていてそうしたことを否応なく気にしてしまうのは
やはりこの30年、私が「帰る家のない子」をあまりにもたくさん
見てきたからだろうなと少し寂しかったよ。

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もうひとつ。
木下恵介はここに描かれたような庶民の姿を
一貫して描いてきた訳だが、
あるいは大衆、労働者と言ってもいいかも知れないが、
そうした者はすでにこの日本にはいないなと思う。

すでに少し触れたが、高度成長期以降、
日本人はこうした庶民を脱すべくやってきたからだ。
庶民あるいは大衆から「市民」へと。

そのことは、この頃の家屋が開放的なこと、
屋内が通りへと吹き抜けていることに対して、
現在の家屋が密室的なこと、
通りから切り離されて「個的」であることからもわかる。

芝居をやらせるともっとわかる。
こうした家族のありよう、人間のありようを演じることはもう
ほとんどできないからだ(^^♪

実際、ここの登場する東野英治郎や望月優子、
あるいは久我美子、中村伸郎、山田五十鈴らのような
父親、母親、あるいは兄弟を演じられる俳優など
私にはもう想像できない。

じゃあ、木下恵介が描いた家族像や人物像は死んだのか
と言うと、私はそうとも思っていない。
むしろいまや「理念」として多くの日本人の中に
思い抱かれているような気がしているのである(^^♪


※「夕やけ雲_1」
※「夕やけ雲_2」


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■77分 松竹 ドラマ
監督: 木下恵介
製作: 久保光三
脚本: 楠田芳子
撮影: 楠田浩之
美術: 平高主計
音楽: 木下忠司
出演
秋本洋一  田中晋二
父源吉  東野英治郎
母お新  望月優子
姉豊子  久我美子
妹和枝  菊沖典子
須藤  田村高廣
秋本幸造  日守新一
原田誠二  大野良平
父春夫  中村伸郎
母喜代  山田五十鈴
雑貨屋のお神さん  野辺かほる
菓子屋のお神さん  岸輝子
遠メガネの少女文子  有田紀子
遠メガネの少女の父  高木信夫

木下恵介が監督した青春映画。オリジナル脚本は木下の実妹である楠田芳子が、音楽は木下の実弟である木下忠司が担当。久我美子がブルーリボン賞助演女優賞を受賞した。
下町の魚屋の長男である秋本洋一は、魚屋ではなく船乗りになりたいと思っていた。親戚からもらった双眼鏡で遠くを見るのが日課だった。しかし父の源吉が心臓病で倒れてしまい、洋一は魚屋を継ぐことにする。洋一は双眼鏡で見かける少女を一目見ようと、友人とその家を探し当てた。しかしその少女は、病気の身でありながら、これから嫁ぎに行くところだった。洋一の姉の豊子は五十歳で金持ちの男の後妻となるが、前に付き合っていた若い男と箱根旅行へ出かけていた。豊子の夫からの電話を受けた源吉は、その場で倒れ亡くなってしまう。

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