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zoom RSS 絞殺 (1979) 日本

<<   作成日時 : 2015/05/28 04:20   >>

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[1102]開成高校生殺害事件を下敷きに
核家族の崩壊を描いた新藤兼人の記憶すべき作品


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「犯罪フィールドノート」と称して
実際に起きた事件を下敷きに作品を書き始めてから
すでに40年近くの時間が流れた。
ちなみに書き始めは、友人の流山児祥がやっていた演劇団に書いた
「犬の町」という作品だ。
警官が女子大生を殺害した事件で、1978年だったと思う。

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ね、あれはどこの街の劇場だったっけ、祥ちゃん。
唐さんもテクテクと歩いてわざわざ観に来てくれたぞ(^^♪

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「犯罪フィールドノート」を書こうと思ったきっかけは、
実は1977年10月30日に東京都北区で起きた
「開成高校生絞殺事件」にあった。
当時、進学校として知られていた開成高校に通う少年が
家庭内暴力を振るい、
思い余って父親が殺害(絞殺)してしまった事件である。

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当時、私は言いようのない衝撃を受けた。
一言でいえば私にとってあまりにも不可解な、
あまりにも未知な事件だったからである。
そうしてその不可解さは、
当時、私が時代にたいして抱き始めていた不可解さと
どこか通底しているように感じられた。

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なので頻発する不可解な事件を追っていけば、
時代の不可解さが少しは見えてくるかもしれないと思ったのだ。
当時、私はそれほど自分の危機の中にいた。
最初の劇団「つんぼさじき」を解散したのもそのせいだった。

この「絞殺」は、精力旺盛なわが新藤兼人が
その開成高校生殺害事件を下敷きに描いたATG作品で、
当時評判になった記憶がある。
私は内容的にはかなり異和感を覚えたものだが、
高度成長期から消費社会へ移行する過程で、
家族が崩壊していく様の一端を確実に捉えていたと思う。

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狩場保三・良子夫婦に勉という息子が生まれた。
一人っ子ということもあったのか、
母良子は子供の頃から勉を可愛がった、異常とも言えるほど。
父保三はある駅前でスナックを経営していた。

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勉強のできる子で、夫婦は勉を一流高校に入れるため、
その校区に転居した。

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父保三(西村晃)は息子にいつも、東大へ行け、
エリートコースを踏みはずすなと言い聞かせていた。
これは私の言葉で言えば、
家族の中に社会的な価値観が侵入したことを表わしている。
つまり、本来倒立しているはずの社会と家族が
限りなく近接してしまった訳だ。

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勉(狩場勉)は念願の進学高校に入学した。

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2年になり、クラスメートの森川初子(会田初子)を好きになった。
ある日河原へ散歩に誘い、押し倒して抱こうとしたが、
彼女は拒んで逃げた。

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初子は母を亡くし、義父との二人暮らしだった。
ある日、勉が彼女の家へ忍び込んでみると、
彼女は義父に抱かれていた。

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その頃から彼は父親はむろん
あんなに仲のよかった母親ともクチをきかなくなった。

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ある日、彼は友達と一泊旅行に行くと嘘をつき蓼科へ向かった。
初子に、蓼科にいる、会いに来てほしいと電話をもらったのだ。

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彼女は以前から義父に犯されていること、
その義父を殺害して蓼科へ逃げてきたことなど
すべてを勉に打ち明けた。

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二人は高原の雪の上で愛し合った。
そうして初子はこれから自首すると言い、勉を帰した。

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その日に帰ってきた勉を母親は問い詰めた、
誰と蓼科へ行ったのかと。
勉が怒ると、階下から大変だと父保三の声がした。

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テレビから女子高生初子自殺のニュースが流れていた。
夕刊には「義父との情痴の果てに殺害、自殺」とあった。
義父・森川義夫を演じているのは岡田英次である。

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この事件を契機に勉の性格は一変したかのように、
両親に暴力を振るい始めた。
母良子を階段から突き落としたり、犯そうとしたり。

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「おまえは下等だ、汚い、弱い者いじめをする」などと言って
父保三を殴ったり。

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そしてついにはバットで家の中のものを滅茶苦茶に破壊した。
そう言ってよければ彼は、初子-義父の関係を
自分と両親の関係に転移した訳だ。

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二人は勤が精神を病んだのではないかと思い、
精神科を訪れるが、医師(森本レオ)はほとんど無反応(^^♪

実際の事件でも両親はあちこちの精神科へ連れて行っている。
だが精神科医はたいてい「なまけ病」の診断を下している。
当時、精神医学界に「家庭内暴力」という
思春期の病いは存在しなかったのだ。

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暴力は止まず、父保三は耐えかねて
もう息子を殺して自分たちも後を追うしかないと、

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酔って寝ている勉を絞殺した。
そして二人は心中しようと小田原の海へ向かうのだが、
死ぬことが出来ず自首した。

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東京地裁は懲役3年・執行猶予4年という温情判決を下した。
眠る裁判長を演じるのはご存じ観世栄夫だが(^^♪、
この公判中から母良子に異変が現れ始めた。

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傍聴の時ばかりか外出時にはサングラスをかけた。
家の中でもそれを外さないことがあった。
勉が生きているかのように見えない勉と話したり、
絞殺された勉のベッドで寝たり、
タクシーの中で勉の好きだった「鳳仙花」を歌ったりした。

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保三が保釈されて家へ帰ってきた。
息子を殺害したにも関わらず、いけしゃあしゃあと酒を飲み、
留置所での出来事を喋った。

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良子は勤の部屋から
「この男の七つの大罪」と書かれたノートを発見した。
そこには
「この男は政治とか文化とかやたらくちばしるが、
この男の頭の中は空っぽである。ハチの巣のように穴があいている」
などと父保三にたいする罵詈雑言が書かれていた。

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良子は保三を寄せ付けず、
いつも仲良くそばいた頃の勉を思いだしながら、
勉のベッドで自慰をした。

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そんなある日、良子はついに保三に言った。
「勉を返しなさい。返してくれないと私は勤の所に行きます」と。
それから頻繁に外出を始めた。
死に場所を探していたのだが、

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ある夜、保三が店から聞くすると、
良子は勉の後を追い、勉の部屋で縊死していた。

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机の上には
「勉がやったことは私にはよくわかります」
と一言記された書置きが残されていた…、
というのが大筋である。


私の違和感は一言でいえば、この映画には
私が感じた事件にたいする不可解さが少しも描かれていないことだった。
昔ながらに家父長的な父保三の横暴。
高度成長期、消費社会の中で家庭の中に侵入し、
子や親を囲い込んでしまった学歴至上主義、競争原理主義。

夫に捨て置かれたためにわが子を抱きしめて育て、子離れできない母親。
結果、子は…、勉は自立しそこなったという構図である。

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ある意味わかりやすくて
そうした側面は間違いなくあると思うのだが、
この事件の報道に接したとき、
そうした連続性と同時に、どこか歴史の断絶と飛躍があり、
それが不可解として表れているのではないか。
そこがどうも描かれていないような気がしたのだった。

物語に即して言えば、父親と母親は描かれているが、
肝心の勉が、彼の振るう暴力の様態が描かれているようには
思えなかったのだ。
後に思春期の新しい病いとみなされるようになった
「家庭内暴力」の様態が。

私はそれを観たかったのである。
この少年の振るう家庭内暴力が何よりも私には不可解なもの
として映っていたからだ。

余談だがその願いは数年後叶った。
映画ではなくテレビドラマだったが、
テレビ朝日で放送された恩地日出夫監督の
「子供たちの復讐」(1983)である。

少年を坂上忍、父親を石橋蓮司が演じていたが、
そこには間違いなく私の知らない
少年の凄まじい家庭内暴力の様子が描かれていて、戦慄した。

息子の暴力に晒された父親は、息子が言うように、
息子は本当に誰かを殺してしまうかもしれないと思い、
仕方なく息子を絞殺し、妻と心中しようとするのだが、
その追いつめられ方にはこの映画にはない説得力があった。

原作は開成高校生殺害事件のルポ、本多勝一の「子供たちの復讐」で、
この「絞殺」と同じ1979年に出版されているのだが、
新藤監督もこの本を読めれば違う描き方をしたのかもしれない。

ちなみに本多勝一の同書には
森川初子を思わせるようなガールフレンドは登場しない。

また勉が書き遺したノート「この男の七つの大罪」は、
この事件に影響を受けて1979年1月、東京・世田谷区砧の自宅で
祖母を殺害、飛び下り自殺した早稲田大学高等学院の
朝倉泉少年(16)が遺したノートに発想を得たものだと思う。

これも余談だが元オウム真理教の上祐史浩氏は、
朝倉少年と同じ歳で、同じ早稲田大学高等学院に在学していた。

私は芹沢俊介との共著「子どもたちの犯罪と死」、
および「<物語>近代日本殺人史」でこの事件について書いたので
事件についての私見は書かないが、
この作品がいち早く日本の家族崩壊の姿を描いてみせたことは
記憶に値する。
ぜひ一度は観てほしい作品だと思う。

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そう言えばこの作品の2年後だったことになる。
新藤監督がイエスの方舟事件を描いた私の「漂流家族」を、
代田橋の小さな劇場まで観に来てくださったのは(^^♪
監督、その節は本当にありがとうございました。

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■1979年 ATG 116分
監督 新藤兼人
脚本 新藤兼人
企画 多賀祥介 、 能登節雄
製作 新藤兼人
撮影 三宅義行
美術 大谷和正
音楽 林光
録音 奥山秀夫
照明 岡本健一
編集 戸嶋志津子
助監督 松井稔
スチール 新藤次郎
出演
狩場保三 西村晃
狩場良子 乙羽信子
狩場勉 狩場勉(7歳時:小林優生)
森川初子 会田初子
森川義夫 岡田英次
男 殿山泰司、小松方正、草野大悟
女 渡辺とく子、根岸明美
先隣の主婦 初井言榮
裁判長 観世栄夫
教師 戸浦六宏
医師 森本レオ
運転手 横沢祐一
山内 鈴木三博
道江 春むつみ
高校生 木下政志
警官 船木英治
テレビアナウンサー 藤村義美
喫茶店の女 大矢木美恵子
インタビューの学生 原田さなえ、岡本光夫、佐久間敬嘉、山本哲也
女事務員 大口浩世
保三の父(遺影) 西村真琴

新藤兼人が製作・監督・脚本を担当した、崩壊していく家庭を描いたドラマ。
狩場勉は就寝中、父の保三に絞殺された。母の良子は息子の首を絞める夫を見つめるだけだった。二人は一人息子を東大に入れるため、一流高校の学区まで転居してきた。勉は同級生の初子に恋をするが、彼女は実の母を亡くし義父に犯され続けていた。勉は初子から呼び出されて蓼科を訪れ、義父を刺し殺したという初子を抱いた。一人で自首するという初子と別れた勉は、その後のニュースで彼女が投身自殺したことを知る。それからというもの、勉は両親に暴力をふるうようになり、さらには母親を犯そうとするのだった。思いあまった保三は勉を絞殺し、懲役三年・執行猶予四年の刑を受けてしまう。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
初めてコメントさせていただきます。名著「犯罪の向こう側へ」を読んで以来、山崎さんのファンです。昔、僕もこの映画を観ましたが、同じ題材を扱った「七人の刑事・三人家族」のほうが印象的です。まあ、アプローチの違いなのでしょうが。これからもご活躍を楽しみにしております。乱文乱筆、お許しくださいませ。
明日死能
2018/09/23 03:15
お読みいただきありがとうございます。その「七人の刑事・三人家族」、何かで観れますかね。調べてみます(^^♪
てつ
2018/09/23 13:00

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