主婦マリーがしたこと (1988) フランス

[1104]彼は言った、フランスは巨大な鶏小屋だと

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フランス最後のギロチン女性処刑者、
マリー=ルイーズを描いた映画。
監督はクロード・シャブロル。

実はこの映画が日本で公開された時、
感想原稿を依頼されて書いたのだが、
何の雑誌に書いたか、何を書いたか忘れた(^^♪
パンフレットだったような記憶もあるが、この映画で
イザベル・ユペールの名が私の脳裏に刻まれることになった。

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舞台はナチ占領下の北フランス、ノルマンディ。
主婦のマリー(イザベル・ユペール)は
まだ幼い二人の子を抱えながら暮らしていた。
夫が出兵し、生活は貧しかった。

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ある日突然、親友のラシェル(ミリアム・ダヴィッド)が
ユダヤ人狩りにあい町から消えた。
彼女は悲嘆に暮れた。

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隣に住むジネット(マリー・ブネル)はお腹にいる児を堕した。
恋人が強制労働でドイツに連行されてしまったからだ。

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マリーは彼女の堕胎を手伝い、お礼に蓄音機をもらった。

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夫ポール(フランンワ・クリュゼ)が傷痍軍人として復員してきた。
彼はなぜ手紙の一つもくれないかとマリーを責めた。
彼女は「字は苦手なの」と答えた。
マリーの夫に対する愛はすでに冷えていた。

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彼女はある日偶然、
娼婦のリュシー(マリー・トランティニャン)と知りあった。
リュシーは言った、
女を馬鹿にするのはドイツの男もフランスの男も同じだと。
マリーも言った、私はただの主婦じゃない、
お腹に児ができたら手伝うわ、と。

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彼女は貧乏に耐えかねていた。
一方で歌手になることを夢見ていた。

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ある日、二人の女がリュシーに話を聞いたと訪ねてきた。
児を堕してほしい、1000フラン払う、と。
マリーは前金を貰い、薬局で薬を買い、女の児を堕した。

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思わぬ収入に彼女は有頂天になった。

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マリーの闇商売を知った女たちが訪ねてくるようになった。
主婦マリーは、夫が仕事に行っている昼間、
部屋で女たちの子を堕ろし、稼ぎ始めた。

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そして貧しいアパートから引っ越すと、
自分の部屋を友人・娼婦リュシーの仕事に貸した。

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体の不自由な夫ポールは仕事を首になった。
マリーのポールに対する態度は相変わらず冷淡だった。
ポールは彼女の行動に不審を抱き始めた。

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祭日の日、彼女はリューシの常連客の
リュシアン(ニルス・タヴェルニエ)に声をかけられた。
彼はヤクザ者でドイツ軍のスパイをしていた。

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彼女はすぐに彼と深い関係になった。

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ある日、ジャスミンという主婦が訪ねてきた。
結婚7年目で子供が6人いる。もうウンザリだ。
子供は嫌いだ。幸せは16歳の時のひと夏だった、と言い。
マリーは彼女の子を堕胎した。

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ラジオではフランスの元帥が訴えていた。
国の危機において大事なことは家庭の強化だと。

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数日後、子供を二人抱えた女がやってきた。
彼女はマリーに金を渡し、言った。
ジャスミンは死んだ、夫は後を追って自殺した。
残された6人は私が育てる、私が神に与えた試練だ、と。
マリーはこれまで失敗した例はないと言うのだったが。

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彼女はそのまま愛人リュシアンに会いに行き、
彼から夫の仕事を貰って帰ってきた。

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リュシーに会い、聞いた。
お腹の子供にも魂があると思うか、と。
リュシーは返した、「母親にもないのに?」と。

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マリーは家政婦を雇い、
口止して堕胎の仕事を手伝わせるようになった。
夫が港へ働きに行っている昼間、
愛人リュシアンを呼び部屋で寝ることもあった。

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家政婦はマリーが出かけるとポールを誘惑した。
マリーにそうしろと言われたのだ。

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そんなある日、ポールは
部屋で愛人と寝ている妻マリーの姿を目撃した。

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その夜、彼はついに当局へマリーを密告した。
子供の口を通じて知った彼女の闇堕胎のこと、
娼婦に部屋を貸していることなどを認めて。

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歌手を目指して音楽院を訪ねた日だった。

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マリーはアパートへ帰ったところを逮捕された。

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地元収監所へ収監された後、
国家裁判になるとパリ収監所へ移送された。

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マリーは事態がよく飲み込めなかった。
女囚は「運のないひとね」と呟いた。

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弁護士は説明した。
厳しい裁判になる、いつも以上に。
彼らはあなたを見せしめにするつもりだ。
国はドイツ占領下にあるため道徳の育成に必死だ。
道徳に反する行為は国家反逆罪に等しいと言うだろう。
堕胎が出産を上回れば国は亡びるから、と。

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マリーは女囚に言った。
ここに来て4ケ月。裁くのは金持ち。男。
私たちのことなんて何もわかっちゃいないんだ、と。

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弁護士は大佐に会い訴えた。
彼女の無知から罪を犯した。いまは深く反省していると。
大佐は返した、国家は危機にある、腐敗は断ち切る、と。

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国家裁判が行われた。
2年にわたり23人もの女性の堕胎を行った罪として
国家は容赦なくマリーに斬首刑を言い渡した。

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彼女は同房の女囚たちに別れを告げ、

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刑場へ向かった。

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掃除婦は彼女を見ると、右手で自分の首を切ってみせ、
ニヤリと笑った。

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最後に会ったのは弁護士ではなく、
彼の代わりに来た見習い弁護士だった。
マリーは彼に聞いた、「あなた、子供は」と。
彼は答えた、「まだです」と。

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マリーは髪を切られ、処刑場へ運ばれた。

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その頃、弁護士は同僚に吐いた、
「フランスは巨大な鶏小屋だ」と。

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後年、マリーの子供は述懐した。
「1943年7月30日の朝は晴天だったと思う。
近所の子供が言った、おまえのママが処刑されたと。
私にはうまく理解できず、ただ体の中に暗い穴が開いた」

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主婦マリーはギロチンで斬首された。
フランスの最後のギロチン女性処刑者だった。

国家権力のやることは、
いつだって、どんな国だって、所詮こんなものだろう。
国家の危機を建前に何だってやるのだ。
法を守っていては生きていけない時だってあるのに。
そんな人間もいるのに容赦することなどない。

児を堕ろさないと生きて行けない女性たちの声を聞いたのは
結局、彼女だけ。

おい、誰か、占領下でユダヤ人狩りにいそんしんだ
フランス人どもをギロチンにかけろ!
と言いたくなるよな(^^♪

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ちなみにこの主婦マリーを観るたびに私が思いだすのは、
戦後三人目の女性死刑囚者だった「ホテル日本閣殺人事件」の
小林カウである。
彼女は知人の男性らと夫、旅館経営者夫婦の三人を殺害したが、
殺人を犯すと裁判されるということも知らなかったのだ。
法とは無縁の世界でただ地を這う虫のように生きていたのだ。

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この主婦マリーもそう。
当時七歳だった息子さんは、
「母の心も私と同じくらい幼かったと思う」と述懐しているが、
無知だけど男に頼らず地を這って逞しく生きていた。

その主婦マリーをまた
イザベル・ユペールが見事に演じてみせているんだよね。
拍手(^^♪


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■108分 フランス ドラマ
監督: クロード・シャブロル
製作: マラン・カルミッツ
脚本: クロード・シャブロル コロ・タヴェルニエ・オアガン
撮影: ジャン・ラビエ
音楽: マチュー・シャブロル
出演
イザベル・ユペール
フランソワ・クリュゼ
マリー・トランティニャン
ドミニク・ブラン

第二次世界大戦中、ナチ占領下のノルマンディで、子育てしながら夫の帰りを待っている平凡な主婦マリー(ユペール)。暮らしは当然裕福とは程遠い生活をしていたが、ある日彼女に転機が訪れる。隣の奥さんの当時は違法とされていた堕胎を手伝った事からお礼に蓄音機を貰い、マリーは自分の隠れていた意外な能力を見出し、仕事にしようと決める。それからしばらくして、戦地から負傷した夫(クリュゼ)が戻って来るも夫婦仲は冷え切っていた・・・。ある日ふとしたきっかけで娼婦であるリュシー"ルル"(トランティニャン)と知り合い、彼女曰く部屋を貸して欲しいという。その日を境にそれまでの貧乏生活をから一変、マリーの生活は変わり、夫に一切頼ることなく収入を得て、どんどん生活力を付けていき裕福になっていく。マリーが輝いていく一方で、夫はヒモ状態に陥る・・・。だが、その家庭内自立がマリーを思わぬ悲劇へと招いていく。

この記事へのコメント

けんぼう
2015年08月10日 23:11
このようなショッキングな映画があるとは
初めて知りました。
驚きました。
事実に基づく映画なんですね。
解説も分かりやすく、筆者に感服です。
有難うございますの一言です。

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