もず (1961) 日本

[1109]この映画の淡島千景を日本の俳優は鑑にすべし(^^♪

画像


邦画全盛期の傑作、続々嬉しいYouTube(^^♪

村の子どもだった時代、
映画好きの私は日曜日になると
隣町の清武までひとりでよく映画を観に行ったものだ。

歩いて1時間程だったが、
清武町に1軒だけあったその映画館は松竹系で、
この映画もそこで初めて観たのだったと思う。

村の餓鬼が生意気にこんな映画をと叩かれるかも知れないが、
スクリーンで写真が活動してるのを観てるだけで
嬉しかったのだから仕方あるめえ(^^♪

画像

1960年に放送された水木洋子の
書き下ろしテレビドラマ「もず」を渋谷実が映画化したもので、
母と娘を中心に女たちの世界を描いた作品。

テレビの方はまったく記憶にないが、
いま思うと、テレビでよくこんなドラマをやっていたものだと
ちょっと驚くかも(^^♪

画像

東京の小路にある料亭「一福」。
右、一福のおかみ…、山田五十鈴。
要注意。下手に料理を注文するとどやしつけられそうで怖い(^^♪
左は一福の主人…、深見泰三。

画像

右、女中おてる…、懐かしの桜むつ子(^^♪  
左、女中おなか…、乙羽信子。
頭のてっぺんから甲高い声を発する、陽気で笑える女。
これまた音羽さんにしては珍しい役だがや(^^♪

画像

そして住み込み女中の岡田すが子…、吾輩の美しき淡島千景(^^♪
住み込みといっても女中部屋などない。客が帰った後の座敷で
仮寝するだけの暮らし。

画像

ある晩、そのすが子を田舎娘が訪ねてくる。
この娘、実は松山時代のすが子の実娘・さち子…、有馬稲子(^^♪
結婚していたのだが夫の暴力に耐えられず3年前に離婚、
美容師を目指して上京してきたのだ。
母娘の再会はなんと20年ぶりで話は一時盛り上がるのだが、

画像

馴染み客の藤村(永井智雄)がやって来ると、
すが子は娘をほったらかして座敷でベタベタ。
娘に気づいてこちら藤村レンズの社長さんと紹介するが、
さち子はなんだか母に幻滅し、黙って店から消える。

画像

後日、藤村はそのさち子にばったり銀座で出会い、
飯に誘い、ナイトクラブへ誘い、挙句キスまでして別れやがった(怒)。

画像

一福へやって来た夜、それをすが子に自慢したから堪らない。
あの娘は私の娘よ、手を出さないでとすが子が怒りだし、
結局、10年付き合った藤村と別れることに。
よしよし、そんな下衆な男に構うんじゃないと吾輩は当然喜ぶ(^^♪

画像

すが子はさち子の働いている江戸川のルミ美容室を探し出し、
訪ねるのだが、

画像

お母さんには幻滅したわと言い出す娘に、何よ、あんたこそ、
田舎の純朴な娘ばかりと思ってたのにと言い返す母。
挙句、二人して泣き出す始末だが、覆水盆に戻らず、
元気でおやりよとすが子は帰って行くのだった。

画像

一方、一福のおかみは、馴染みの客・藤村を切ったり、
体の調子が悪いと休んだりしがちなすが子に堪忍袋の緒を切り、
すが子を解雇した。
仕方なくすが子は浅草にいるおてるの叔母・一恵の家へ。

画像

さち来はさち子で銀座の美容室の面接を受けたことがバレ、
ルミ美容室を解雇され、結局、一恵の家で母と暮らすことに。
あ、左の眼鏡マスターは佐藤慶ね。
さち子の美容モデルを務めてるのはアヤ子…、岩崎加根子。
俳優座が生んだ三大新劇女優の一人、吾輩は舞台も観てるよ。

画像

はい、その一恵…、吾輩の大好き、高橋とよさん。
出てくるだけでどうしても笑っちゃうよなあ(^^♪

画像

休日を利用しておてるとおなかが
床に伏せっているすが子を見舞いにやってきた。
「医者は何だって」「男性ホルモンの欠乏だって」「ギャハハハ」
「おなかさ、男を咥えて一福辞めたのよ」「どこかの社長さん?」
「白タクの運転手。月給15万も稼ぐんだって」
さすが悪食の「もず」、獲物を捕らえたら食らいついて離さない(^^♪
しかし何だろうなあ、女たちのこの見事なまでの囀り。
吾輩には依然謎だべ(笑)。

画像

そこへ私も仲間に入れてと一恵おばさんが加わり、爆弾発言。
おめでとうございます、
私の口利きでさち子さんの縁談がめでたく成立しました。
相手は二廻り年上、乾物屋の爺ですが、何じき死ぬでしょうから
死んだら爺の家を乗っ取ればいいんです、と(笑)。

画像

結局、三人にボロクソ言われ、部屋を出て泣きながら
廊下でひとり鍋焼きうどんを食らう一恵おばさん(^^♪

画像

この縁談話が元でその夜、母と娘は些細な事でまた大喧嘩。
こんな家にいるからおかしくなるんだとの結論に達し、
二人はさち子の同僚・アヤ子が紹介してくれた
阿部ツネの家へと引っ越す。

画像

はい、左がそのツネさん…、我等が清川虹子はん。
しかしこの頃はホント豪華だよねえ。
豪華はいいねえ。観てるだけで気持ちが豊かになる(^^♪

画像

この女ツネはうって変わって性格も豪華絢爛。
すが子を引っ張り回して花屋敷の木馬に乗ったり、
プールで泳いだり、船橋ヘルスセンターで騒ぎ捲ったり。

画像

かと思えば一方で、30円で買った大根とリンゴを
129円で母娘に売りつけたり(^^♪

画像

すが子とツネが気晴らしに出かけている時、
故郷・松山から青年会でも仲良しだった年下の酒田が
ひよっこり訪ねてきた。
さち子は良い機会だ、友人のアヤ子を紹介しようと思ったら
何の事はない、酒田はさち子に求愛しに上京してきたのである。
が、さち子に母もいるし、当分結婚なんてしたくないと
にべもなく断られた。

画像

すが子とツネが良い気分で帰宅するとさち子がいない。
部屋には宴会の跡。

画像

さち子が帰ってきたので客は誰かと聞くと
松山の友達よと言うだけ。
さち子の下着の肩ヒモが切れているのに気づき、何をされたんだ
と心配し、挙句、黒のブラジャーなんか着てとまた小言。
さち子も負けていない。今日簡易保険が来たわ。
私の掛け金の方が多いわね。いつも死ぬ死ぬと言っているくせに、
陰では保険を受け取る算段をしてるなんてと返す始末(^^♪

画像

翌朝、すが子はちょっとした騒ぎを起こす。
起こしても起きないので医者を呼んだのだ。
すが子がいつもより薬を飲み過ぎたせいだったが、さち子が言う。
母さんは退屈なのよ、私のために自分を殺してるのよ。
この際別々に暮らそうか、と。

画像

さあ、大変。そんな話を男と相談してたのかい!と、
すが子は癇癪を起こし、雨の中、家を出て行ってしまう(^^♪

画像

さち子、さすがに心配し方々探すが見つからない。
途中、酒田にバッタリ出会い、つい零す。
私も田舎に帰ろうかな、疲れちゃった、と。
酒田は慌ててさち子に自分の切符を渡した。

画像

家へ戻ると母の笑い声が聞こえてきた。
ツネが笑う。一日中、デパートや映画館にいたんだって。
あんたのために、ほら、前掛けや草履など買ってきたんだってさ、と。
すが子も言う。
「どこへ行くったって、私にはさち子の所しかありゃしないんだよ」

画像

さち子は諦めて酒田から貰った切符を破り捨てる。

画像

と、突然、気分が悪いと言い、すが子が倒れた。

画像

結核性の脳炎だった。

画像

さち子は病院に詰めているツネからその知らせを受け、
茫然となる。

画像

さち子は入院費を借りるため藤村を訪ねる。
3000円位ならともかく金を出す筋合いはないと断られたが、
今を逃したら母に孝行することができないとさち子は懇願する。

画像

その頃すが子は病院の窓に目をやり、
「さち子かい、良く来たねえ、よしよし良い子だねえ」などと
譫言を言い、子守唄を歌っていた。

画像

さち子は急いで病院に駈けつけたが間に合わなかった。
すが子はすでに息を引き取っていた。

画像

ベッドの下にはすが子が遺したさち子名義の通帳とお守りがあり、
通帳には62,800円のお金が入っていた。
さち子は母に縋りつくと、声を限りに泣いた。

画像

さち子のコートのポケットには、
藤原に体を与えて借りた数万の金が入っていた…。


この作品を傑作と評する理由は至極単純。
男の作家には絶対に描けない母娘と、それを囲む女たち
特有の世界が見事に描かれているからだ(^^♪

漱石がこれを観たら、だから女はだめなんだ、
俺は嫌いだと零して書斎に閉じこもったかも知れんが(爆)。

画像

物語もさることながら、
久しぶりに観て目を瞠ったのは淡島千景の演技である。
特に科白の喋り方、その声の発し方が
これ以上はありえないと言うほど完璧なのである。

ほかの女優陣も凄いのだが、その凄い女優陣と較べてもよくわかる。
声がしっかりと肚に落ちていて、その声にまた「くぐもり」が
一点もないのである。
すべての言葉が、一字一句が見事に聞こえてくるのである。
もちろんごく自然な感じで。

私は50年以上、映画や舞台を観、一方でまた演出をしてきたが、
これ以上完璧な科白を吐いた俳優は記憶にない。
どんなに優れた俳優でも一瞬声がくぐもったり、
言葉が聞こえてこない瞬間があったりするものなのだが、
この映画での淡島千景にはまったくそれがないのである。

これはまったく奇跡に等しい(^^♪
日本の俳優はこの淡島千景さんを鑑にすべきだと思うよ。
特に今の俳優は酷いからね、
声は肚に落ちない、言葉は喋れないで。

画像

たまたま資料をと例によってサイトを探していたら
嬉しいサイトにぶつかった。

<映画「もず」上映会と女優・淡島千景のトークイベント>
というタイトルページで、以下、ちょっと引用紹介する。

秋山:「もず」を会場で観られていかがでしたか。
淡島:実は、今日の映画「もず」を観るのは初めてでした。試写会では一度観ましたが、この映画が出来上がって劇場で観るのは、今日が初めてでした。
今日観て、俳優は上手だな、と思いました。
この映画を撮影するまでにテレビも舞台も観ていなかったのですが、シナリオをもらって読んだら(すが子役が)自分の役だとは思わず、もっと先輩がやる役だと思いました。母親役は、この映画が初めてだったのです。

秋山:「もず」の撮影中、渋谷実監督はどのような演技指導をされましたか。
淡島:なにもなかったです。ただ、渋谷先生は、気に入らないシーンを「つまんないね」と口癖のようにおっしゃいました。だから、セリフをどう言ってどう表現するかは、自分で考えなければなりませんでした。


イベントが行われたのは2007年4月28日のようだが、
「今日観て、俳優は上手だな、と思いました」と語る淡島さんの言葉の
裏面には、今の俳優に対する批評が隠されてるのだと
と私は思うなあ(^^♪

画像

もうひとつ。

初めに言ったようにこの映画の製作は1962年で、
もともとテレビドラマだったものを映画化したんだよね。
天下の松竹ともあろうものがどうしたのよ
と思うかも知れないが、
実はこの頃から家族ドラマ、メロドラマを主体にしてきた松竹の
凋落が始まったんだよね。

で、松竹はテレビドラマを借りて映画を作り始めた。
やがて主体を映画からテリビドラマに移さざるを得なくなったんだよね。
その流れの中で生まれたのが64年から始まった
「木下恵介アワー」(当初は「木下恵介劇場」)。

なぜ松竹が凋落し始めたのか。
1050年代半ばあたりから日本が高度経済成長時代へと
入っていったからなんだよね。

一言でいうと、家族は核家族化し始め、
日本人は家族よりも経済社会に価値を置きはじめた。
で、松竹映画が日本人の嗜好に合わなくなっていったんだよね。
これはこの映画と共に記憶しておいた方がいいと思うよ(^^♪


画像


■95分 日本 ドラマ
監督: 渋谷実
製作: 若槻繁 渋谷実
企画: 佐々木孟
原作: 水木洋子
脚本: 水木洋子
撮影: 長岡博之
美術: 松山崇
音楽: 武満徹
出演
淡島千景  岡田すが子  
有馬稲子 岡田さち子  
永井智雄 藤村  
山田五十鈴 一福のおかみ 
深見泰三 一福の主人  
桜むつ子 おてる  
乙羽信子 おなか  
高橋とよ 一恵  
清川虹子 阿部ツネ  
川津祐介 酒田  
岩崎加根子 アヤ子  
辻伊万里 増子  
柏木優子 チエ子  
日高澄子 波子  
佐藤慶 マスター  
町田祥子 ナミ美容院の見習  

脚本家の水木洋子が、自身のテレビドラマ用台本を脚色。20年ぶりに再会した母と娘の愛憎と嫉妬を描く。渋谷実が監督、武満徹が音楽を担当した。
松山での結婚生活に失敗したさち子は、美容師を目指すため上京。新橋の小料理屋で女中として働く母すが子を訪ねた。二十年ぶりの再会だったが、すっかり水商売に染まった母に対し、さち子は嫌悪感を覚える。またすが子は、自分に対してよそよそしい態度のさち子に反感を覚える。さち子の美容院への就職が決まった日、すが子が倒れた。すが子はさち子と一緒に暮らすことになり、二人の仲は良くなりつつあった。さち子は、松山から上京した酒田という青年と知り合い、彼からプロポーズされる。パトロンと手を切ったすが子は、酒田の出現に嫉妬を覚えるのだった。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック