野菊の如き君なりき_1 (1955) 日本

[1105]少年政夫と民子の初恋を無常の下に描きだした木下恵介の名作

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伊藤左千夫の小説「野菊の墓」を木下恵介が映画化。
公開は1955年。初めて観たのは巡回映画だったのかなあ。
さすがに記憶が遠すぎて憶えてないよ(^^♪

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富士山。ごめん、最近、富士山に凝ってるもんだからさ(笑)。
なんでか? 私のフェイスブック見て(^^♪

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私が撮った富士山…、ではなくて、
お「友達」の菅井京子さんが撮った富士山。綺麗だろう(^^♪

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ちなみにこっちは青森の富士山…、岩木山(^^♪
これはブログのお「友達」で弘前在住のsinoさんが撮ったもの。
この富士もいいだろう。なんかさ、
自然に触れると、大きなものに触れると心が洗われる気がしない?
この映画、そんな映画(笑)。

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「野菊の墓」が発表されたのは1906年1月、掲載誌は「ホトトギス」。
すでに100年以上も前。あの頃は私も若かった(笑)。
子規が提唱した写生文に即して書かれた短編小説で、
私の師・漱石が絶賛したのをよく憶えてるよ(^^♪

物語はわが国の全国民が知っているように、
15歳の少年・政夫と2歳年上の従姉・民子の淡い恋を描いたもの。
えっ、知らないの?大変だ、日本国民の籍を剥奪されるかも。
誰だよ、そこで俺は安倍政権が続くなら剥奪されたい
なんて言ってるの(笑)。

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秋、善光寺平、千曲川。
老齢の男がひとり渡し船に乗り、故郷へ向かう。
男が歌を詠い、風景の中に刻まれる。
「待つ人も待たるゝ人もかぎりなき思ひ忍ばむ北の秋風に」

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男の名は斎藤政夫という。
政夫を知る船頭と政夫が話をしている。
「生まれた時は親だの兄弟だのと言ってみても、
いずれは別れ別れになるのがこの世の定めです」
「儚いもんですなあ。生きてるうちは泣いたり笑ったり、
いろんな苦労を散々して」
「しまいはどうでもこうでもお墓に入らにゃならん。
金持ちも貧乏人もみんな同じや」

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老人政夫は
「老い先短い年寄りには昔の夢しか残っていない」と言い、
詠う。

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「世にありき一度(ひとたび)逢いし君と云へど
吾が胸のとに君は消えずも」
そうして彼は語り始める、
忘れ事のできない少年の日の遠い思い出を。

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15歳の秋の日、政夫は
従姉の民子を迎えに渡し場へと走った。

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母の具合が少し悪く、家の手伝いに来てくれたのだ。

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民子は政夫より2歳年上だったが、
小さい頃から姉弟のように仲良く育ち、
政夫は彼女が大好きだった。そして民子も政夫を(^^♪

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政夫を演じているは木下恵介に可愛がられた田中晋二君。
民子を演じているのはやはり木下映画の常連だった有田紀子ちゃん。
ちなみに彼女は中野区出身で、学習院女子中等科に在学中、
映画に出たい、女優になりたいと木下宛てに手紙を書いて、
それで木下がこの映画にいきなり大抜擢したんだよ。
いい話だろう(^^♪
見てごらん、二代目高峰秀子になれたんじゃないかと
思うほど素晴らしいから。
残念なことに64年に結婚して引退しちゃったんだよな💛
あ、笠さん、ごめんなさい。老人政夫はご存じ私の笠智衆。

以下、木下の絵と伊藤左千夫の文とで物語を紹介しよう。

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…勿論僕とは大の仲好しで、座敷を掃くと云っては僕の所をのぞく、
障子をはたくと云っては僕の座敷へ這入ってくる、
私も本が読みたいの手習がしたいのと云う、たまにはハタキの柄で
僕の背中を突いたり、僕の耳を摘まんだりして逃げてゆく。
僕も民子の姿を見れば来い来いと云うて二人で遊ぶのが何より
面白かった。

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…(民子は)母からいつでも叱られる。
「また民やは政の所へ這入ってるナ。コラァさっさと掃除をやってしまえ。
これからは政の読書の邪魔などしてはいけません。
民やは年上の癖に…」などと頻に小言を云うけれど、その実
母も民子をば非常に可愛がって居るのだから、一向に小言がきかない。
私にも少し手習をさして…などと時々民子はだだをいう。
そういう時の母の小言もきまっている。
「お前は手習よか裁縫です。着物が満足に縫えなくては
女一人前として嫁にゆかれません」

政夫の母を演じているのは天才・わが杉村春子(^^♪

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二人は農作業をしている兄夫婦らにお茶を持って行く。
私の大好きな、木下お得意の歩くシーン。
「人生は歩くものだ。歩むものだ」という
木下のメーッセージを感じるよな(^^♪
いまは車、車は絵にならん。

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土手に座っているのは右から政夫の兄栄造…、田村高廣。
嫂さだ…、山本和子。奉公人のお増…、小林トシ子。

…そういう次第だから、作おんなのお増などは、
無上むしょうと民子を小面こづら憎がって、何かというと、
「民子さんは政夫さんとこへ許り行きたがる、
隙ひまさえあれば政夫さんにこびりついている」
などと頻りに云いはやしたらしく、隣のお仙や向うのお浜等まで
かれこれ噂をする。

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…これを聞いてか嫂が母に注意したらしく、或日
母は常になくむずかしい顔をして、二人を枕もとへ呼びつけ
意味有り気な小言を云うた。
「男も女も十五六になればもはや児供ではない。
お前等二人が余り仲が好過ぎるとて人がかれこれ云うそうじゃ。
気をつけなくてはいけない。民子が年かさの癖によくない。
これからはもう決して政の所へなど行くことはならぬ。
吾子こを許すではないが政は未だ児供だ。民やは十七ではないか。
つまらぬ噂をされるとお前の体に疵がつく」

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母はあらぬ噂を恐れ、心から二人のことを心配しているのだ。
兄栄造も奉公人たちに注意する。
が、彼女たちの民子・政夫に対する陰口、噂は止まらない。
嫂もそれに乗じる。
子供たちのいじめでも男の子たちの場合はカラッとしてるが、
女の子たちは陰湿で、時にそのいじめかたは想像を絶するものがある。
その集団性と生理は男の私には結構いまだに謎だ(^^♪

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当時を思い、老いた政夫は歌を詠む。
「燈火のほやにうづまくねたみ風ねたむことありなきにしもあらず」

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原作にはこうした歌は挿入されていないのだが、
木下はこうした歌を挟むことによって
「野菊の墓」を歌物語として再構成していることになる。
主題は相聞で、その裏面の心を描いているから
歌物語であると同時に日記文学にもなっている。
そうすることで本来歌人だった作者・伊藤左千夫の姿をも
映し出している訳だ。

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翌朝、子に手を引かれた盲目の門付女が三味を弾き歌う。
礼を渡し、民子と政夫は二人を見送る。

先に言っておけば、
一見、感傷的な初恋物語のように思えるかもしれないが、
老政夫と船頭の冒頭のやりとりやこの挿入シーンなどから窺えるように、
この相聞物語を支えているのは「源氏物語」などと同じように
もののあわれ、あるいは無常観である。
舐めてはいけない。
ここまで知的に演出してみせる作家はザラにはいない。
長部日出雄が看破したごとく木下恵介はやはり天才だと
私も言わざるをえない。

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母に注意された後、民子の様子がガラリと変わる。
「(僕の部屋の)掃除くらいしてくれたっていいじゃないか」
「いいえ。自分でなすってください」(^^♪

…民子はその後僕の所へは一切顔出ししないばかりでなく、
座敷の内で行逢っても、人のいる前などでは容易に物も云わない。
何となく極きまりわるそうに、まぶしい様な風で急いで通り過ぎて終う。
拠処なく物を云うにも、今までの無遠慮に隔てのない風はなく、
いやに丁寧に改まって口をきくのである。
時には僕が余り俄に改まったのを可笑がって笑えば、
民子も遂には袖で笑いを隠して逃げてしまうという風で、
とにかく一重の垣が二人の間に結ばれた様な気合になった。

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…母の云いつけで僕が背戸の茄子畑に茄子をもいで居ると、
いつのまにか民子が笊を手に持って、僕の後にきていた。
「政夫さん……」 出し抜けに呼んで笑っている。
「私もお母さんから云いつかって来たのよ。今日の縫物は肩が凝ったろう、
少し休みながら茄子をもいできてくれ。明日麹漬をつけるからって、
お母さんがそう云うから、私飛んできました」
民子は非常に嬉しそうに元気一パイで、僕が、
「それでは僕が先にきているのを民さんは知らないで来たの」
と云うと民子は、 「知らなくてサ」 にこにこしながら茄子を採り始める。

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母は二人の心を察し、密かに二人を遭わせたのだ。
杉村春子、こんなに優しい母の役もちと珍しいよな(^^♪

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途中、陽が落ち、政夫と民子はその美しい陽を眺めた。

…僕はここで白状するが、この時の僕は慥に十日以前の僕ではなかった。
二人は決してこの時無邪気な友達ではなかった。
いつの間にそういう心持が起って居たか、自分には少しも判らなかったが、
やはり母に叱られた頃から、僕の胸の中にも小さな恋の卵が幾個か
湧きそめて居ったに違いない。僕の精神状態がいつの間にか
変化してきたは、隠すことの出来ない事実である。
この日初めて民子を女として思ったのが、僕に邪念の萌芽しありし
何よりの証拠じゃ。

政夫だけではない。二人は他人にあらぬ噂を立てられたり、
母に注意されたりすることで、自分の相手に対する気持ちが
仄かな恋であることに気づかされたのだ。

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その晩、民子は久しぶりに政夫の部屋を訪ねる。
民子が「お増さん、私に突き当たるような事ばかり言って、
私を憎んでいるのよ」と言うと、政夫が「お増さん、やきもちを焼くんだよ、
僕たちがあまり仲がいいんもんだから」と大人ぶったように諭すものだから
民子はつい笑った。

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と、お増がそれを襖越しに盗み聞きし、奉公人たちに告げて
皆で笑いだした。
民子は堪らず家の外に走り出た。

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その後を追い政夫は言った。
「僕たち、しばらく会うのはもう止そう」と。
陰口、噂に民子が傷つくのが嫌で、仕方なくそう言ったのだが。

…僕の方から言い出したばかりに、民子は妙に鬱ぎ込んで、
まるで元気がなくなり、悄然としているのである。
それを見ると僕もまたたまらなく気の毒になる。
感情の一進一退はこんな風にもつれつつ危くなるのである。

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「世のなかに光も立てず星屑の落ちては消ゆるあはれ星屑」

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稲刈り。子供の頃
私も手伝ったものだが、当然こんな初恋はなかった(^^♪

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…陰暦の九月十三日、今夜が豆の月だという日の朝、
露霜が降りたと思うほどつめたい。その代り天気はきらきらしている。
十五日がこの村の祭で明日は宵祭という訣故、
野の仕事も今日一渡り極りをつけねばならぬ所から、
家中手分けをして野へ出ることになった。
それで甘露的恩命が僕等両人に下ったのである。兄夫婦とお増と
外に男一人とは中稲(なかて)の刈残りを是非刈って終しまわねばならぬ。
民子は僕を手伝いとして山畑の棉を採ってくることになった。
これはもとより母の指図で誰にも異議は云えない。
「マアあの二人を山の畑へ遣るッて、親というものよッぽどお目出たいものだ」
奥底のないお増と意地曲りの嫂とは口を揃えてそう云ったに違いない。

凄い、「甘露的恩命」だってさ(笑)。
日本の文化が壊れたのは日本人の言葉が壊れたせいだ。
それがこの30年、私の感じてきたこと。大学生なのに
書かせると、文法崩壊、言葉能力小学生程度にもないのはザラだ。

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翌日、政夫と民子は山畑の棉を採りに出かけた。

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…村のものらもかれこれいうと聞いてるので、
二人揃うてゆくも人前恥かしく、急いで村を通抜けようとの考えから、
僕は一足先になって出掛ける。村はずれの坂の降口の
大きな銀杏の樹の根で民子のくるのを待った。

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そこには野菊が咲いていた(^^♪

…「まア綺麗な野菊、政夫さん、
私に半分おくれッたら、私ほんとうに野菊が好き」
「僕はもとから野菊がだい好き。民さんも野菊が好き…」
「私なんでも野菊の生れ返りよ。
野菊の花を見ると身振いの出るほど好もしいの。
どうしてこんなかと、自分でも思う位」
「民さんはそんなに野菊が好き…
道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」
民子は分けてやった半分の野菊を顔に押しあてて嬉しがった。

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…二人は歩きだす。


※「野菊の如き君なりき_1」
※「野菊の如き君なりき_2」
※「野菊の如き君なりき_3」


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■92分 日本 ドラマ/ロマンス
監督: 木下恵介
製作: 久保光三
原作: 伊藤左千夫 (『野菊の墓』)
脚本: 木下恵介
撮影: 楠田浩之
美術: 伊藤憙朔
音楽: 木下忠司
出演
老人 笠智衆
船頭 松本克平
政夫 田中晋二
民子 有田紀子
政夫の母 杉村春子
兄栄造 田村高廣
嫂さだ 山本和子
お増 小林トシ子
民子の祖母 浦辺粂子
民子の父 高木信夫
民子の母 本橋和子
民子の姉 雪代敬子
常吉 渡辺鉄弥
お浜 谷よしの
お仙 松島恭子
庄さん 小林十九二

河の流れに秋のけしきが色濃い。渡し舟の客、斎藤政夫翁は老船頭に、遠くすぎ去った想い出を語った…。
この渡し場に程近い村の旧家の次男として政夫は育った。十五歳の秋のこと、母が病弱のため、近くの町家の娘で母の姪に当る民子が政夫の家に手伝いにきていた。政夫は二つ年上の民子とは幼い頃から仲がよかった。それが嫂のさだや作女お増の口の端にのって、本人同志もいつか稚いながら恋といったものを意識するようになって行った。
祭を明日に控えた日、母の吩咐で山の畑に綿を採りに出かけ二人は、このとき初めて相手の心に恋を感じ合ったが、同時にそれ以来、仲を裂かれなければならなかった。母の言葉で追われるように中学校の寮に入れられた政夫が、冬の休みに帰省すると、渡し場に迎えてくれるはずの民子の姿はなかった。お増の口から、民子がさだの中傷で実家へ追い帰されたと聞かされ、政夫は早々に学校へ帰った。二人の仲を心配した母や民子の両親のすすめで、民子は政夫への心をおさえて他家へ嫁いだ。ただ祖母だけが民子を不愍に思った。
やがて授業中に電報で呼び戻された政夫は、民子の死を知った。彼女の祖父の話によると、民子は政夫の手紙を抱きしめながら息を引きとったという。政夫の名は一言もいわずに。渡し船をおりた翁は民子が好きだった野菊の花を摘んで、墓前に供えるのであった。

この記事へのコメント

sino
2015年06月08日 17:25
こらこら、青森の山がなんで「岩手山(^^♪」なのよ~。
この山は「岩木山」でございます。
つつしんで訂正申し上げます。
sino
2015年06月09日 08:24
さっそくの訂正ありがとうございま~す。
コメントは削除してくださいね。(^^♪

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