野菊の如き君なりき_3 (1955) 日本

[1105]少年政夫と民子の初恋を無常の下に描きだした木下恵介の名作

画像

画像

民子に縁談が持ち込まれた。
民子は頑なに首を縦に振らなかった。

画像

民子の両親は政夫の母に説得を頼んだ。

画像

母は民子に言った。
「政夫の所に来たいのかも知れないけど、
それは私が不承知だからね」と。
民子は声をあげて泣いた。

画像

母は民子の両親に、民子が承知したことを伝えた。
民子の祖母はひとり呟いた、「そうかのう、そうかのう」と。
祖母を演じているのはわれらが浦辺粂子さんだよ(^^♪

画像

民子が階下へ降りてきた。

画像

「おばさん、心配かけてすみません」
と、民子は細い声で政夫の母に謝った。
政夫の母は「わかってくれてありがとう」と礼を言い、泣いた。

画像

民子の祖母は民子に声をかけた。
「民子、政夫の事は忘れるんだな。わしがよう知ってるからな」と。
「はい」 民子の瞳から涙が零れた。

画像

民子はひとりまた二階へ消えた。

画像

喜んでいる民子の両親らを前に祖母は、
「少しは民子の身にもなってやれ。わしは60になるがな、
60まで生きて来た中で何が一番嬉しかったかと言うとな、
死んだおじいさんと一緒になれと時くらい嬉しかったことはないよ」
と言い、席を立った。

画像
画像
画像

民子は村人に見送られながら他所の村へ嫁に行った。
月の射す夜の事だった。

画像

お増は嫂の傍にいられないと暇を貰い東京へ出ることにした。
途中、政夫の学校へ立ち寄り民子が結婚した事を伝えると、
どうぞお元気で政夫に別れを告げた。

画像

お増は、民子に政夫の言葉を聞かされて以来、
しっかりと気持ちを入れ替えていたのだった。

画像

…嫁にいこうがどうしようが、民子は依然民子で、
僕が民子を思う心に寸分の変りない様に民子にも決して
変りない様に思われて、その観念は殆ど大石の上に坐して居る様で
毛の先ほどの危惧心もない。(略)以前は勉めて人中へ這入って、
苦悶を紛らそうとしたけれど、今度はなるべく人を避けて、
一人で民子の上に思いを馳はせて楽しんで居った。

画像

ここの長廻し移動カメラも木下らしく見惚れてしまう(^^♪

画像

そして秋。(原作上は6月である)

画像

一台の人力車が斎藤家へ向かい走った。

画像

降りたのは政夫の母だった。
母は車夫に支えられなが屋敷の中へと消えた。

画像

政夫は授業中に小使いさんから一通の電報を受け取った。

画像

…例のスグカエレであるから、早速舎監に話をして即日帰省した。

画像

…何事が起ったかと胸に動悸をはずませて帰って見ると、
宵闇よいやみの家の有様は意外に静かだ。
台所で家中夕飯時であったが、ただそこに母が見えない許り、
何の変った様子もない。僕は台所へは顔も出さず、直ぐと母の寝所へきた。
行燈あんどんの灯ひも薄暗く、母はひったり枕に就いて臥ふせって居る。

画像

政夫の顔を見ると母は喜び、夕飯を食べてこいと言った。
立つと民子が嫁に行ったことは知ってるかと聞くので、
政夫は素直に「はい」と言い残した。

画像

食事処へ行き、嫂さだの差し出すご飯に箸をつけた。
と、兄栄造が言った、「政夫、民さん死んじゃったよ」と。

画像

政夫は一瞬、その言葉が呑み込めなかった。

画像

さだが言った、「あたしがどうした訳じゃないじゃないか」
栄造は言った、「自分の心に聞いてみろ」
政夫は堪らず自室へ飛び込んだ。

画像

政夫は泣いた。声をあげて。

画像

母が現れた。母は手をついて涙ながらに謝った。
…「政夫、堪忍してくれ…民子は死んでしまった…
私が殺した様なものだ…」

画像

「始終をきいたら、定めし非度ひどい親だと思うだろうが、
こらえてくれ、政夫…お前に一言の話もせず、たっていやだと言う民子を
無理に勧めて嫁にやったのが、こういうことになってしまった…
たとい女の方が年上であろうとも本人同志が得心であらば、
何も親だからとて余計な口出しをせなくもよいのに、
この母が年甲斐がいもなく親だてらにいらぬお世話を焼いて、
取返しのつかぬことをしてしまった。民子は私が手を掛けて殺したも同じ。
どうぞ堪忍してくれ、政夫…私は民子の跡追ってゆきたい…」

画像

政夫は聞いた。「民さん、いつ死んだの」
母は答えた。「四日前じゃ」
政夫は責めた。「死ぬ前に一目くら会せてくれていいじゃないか」

画像

政夫の事ばかり思っていた民子は嫁ぎ先で嫌がられた。
妊娠したがそのせいで流産、実家へ帰され病に伏せた。

画像

知らせを受けた母は民子の実家へ駈けつけ、励ました。
「民や、あたしだよ。決して気を弱く持っちゃいかんよ」
民子は母を見ると笑み、弱い声で言った。
「おばさん、色々ありがとうございました」
「何を言うんだい、お前は」
「長々、可愛がっていただいて」
「そんな事言わないでくれ」

画像

「私、もう長いことないんですもの」
「そんな気の弱いこと言って」
「おばさん、私、死ぬほうがいい」
そう言い、民子は息を引き取ったのだった。

画像

政夫は民子の実家を訪れた。
民子の祖母が言った。
「民子はな、お前の名前を一言も言わなんだ。だもんでな、
諦め切ってるものと思って、一目も会わさなんで許してくれや。
だけどな、息を引き取って枕を直そうと思ったら、左の手にな、
樅の布に包んだものをしっかりと握って、その手を胸に乗せてたんじゃ。
樅の切れに包んであったのはな、お前の手紙と、
りんどうの花じゃった」

画像

政夫は堪らず泣いた。人目を憚らず。

画像

「待たるゝ人」は「待つ人」のもとへと急いだ。

画像

そうして樅の木の下で待つ人の前へ来ると、
想いを馳せ、ひとり静かに手を合わせた。

画像

「秋更けて野も寂びゆけばみ葉陰に鳴くかこおろぎ遠い人もなく」


原作の舞台は言うまでもなく
私の近所とも言える千葉県松戸市矢切付近である。

画像
画像

これが現在だとはいえ絵にならない。

画像

そこで木下は舞台を善光寺平、千曲川に移したのである(^^♪
いつものように大自然の側から人間と、人間の物語を眺めようと。
ちなみに写真は、ロケ地になった山王島の千曲川岸辺である。

画像

この映画を観ているうちに唐(十郎)さんのことがまた思い出された。
もう30年以上も前のことだが、ある日、唐さんは私にこう言った。
「テツ、どっちが感傷的なものを書けるか勝負しようじゃないか」と。
「よし。勝負しましょう」と私は言い、唐さんの手を握り返したものだ(^^♪
唐さんも私も感傷的なものがある意味好きだったからだが、
木下のこうした作品を観ると私は自信を失くし、引き下がるしかない。
唐さんはどうなんだろうなあ(^^♪


※「野菊の如き君なりき_1」
※「野菊の如き君なりき_2」
※「野菊の如き君なりき_3」


画像



■92分 日本 ドラマ/ロマンス
監督: 木下恵介
製作: 久保光三
原作: 伊藤左千夫 (『野菊の墓』)
脚本: 木下恵介
撮影: 楠田浩之
美術: 伊藤憙朔
音楽: 木下忠司
出演
老人 笠智衆
船頭 松本克平
政夫 田中晋二
民子 有田紀子
政夫の母 杉村春子
兄栄造 田村高廣
嫂さだ 山本和子
お増 小林トシ子
民子の祖母 浦辺粂子
民子の父 高木信夫
民子の母 本橋和子
民子の姉 雪代敬子
常吉 渡辺鉄弥
お浜 谷よしの
お仙 松島恭子
庄さん 小林十九二

河の流れに秋のけしきが色濃い。渡し舟の客、斎藤政夫翁は老船頭に、遠くすぎ去った想い出を語った…。
この渡し場に程近い村の旧家の次男として政夫は育った。十五歳の秋のこと、母が病弱のため、近くの町家の娘で母の姪に当る民子が政夫の家に手伝いにきていた。政夫は二つ年上の民子とは幼い頃から仲がよかった。それが嫂のさだや作女お増の口の端にのって、本人同志もいつか稚いながら恋といったものを意識するようになって行った。
祭を明日に控えた日、母の吩咐で山の畑に綿を採りに出かけ二人は、このとき初めて相手の心に恋を感じ合ったが、同時にそれ以来、仲を裂かれなければならなかった。母の言葉で追われるように中学校の寮に入れられた政夫が、冬の休みに帰省すると、渡し場に迎えてくれるはずの民子の姿はなかった。お増の口から、民子がさだの中傷で実家へ追い帰されたと聞かされ、政夫は早々に学校へ帰った。二人の仲を心配した母や民子の両親のすすめで、民子は政夫への心をおさえて他家へ嫁いだ。ただ祖母だけが民子を不愍に思った。
やがて授業中に電報で呼び戻された政夫は、民子の死を知った。彼女の祖父の話によると、民子は政夫の手紙を抱きしめながら息を引きとったという。政夫の名は一言もいわずに。渡し船をおりた翁は民子が好きだった野菊の花を摘んで、墓前に供えるのであった。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック