月よりの使者_1 (1954) 日本

[1108]この映画がメロドラマの古典になりえたその訳は

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♪白樺ゆれる 高原に
  りんどう咲いて 恋を知る
  男の胸の 切なさを
  啼け啼け 山鳩幾声も

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結核文学の聖地にして、
メロドラマの聖地でもある富士見高原療養所。

高校生の頃、私は将来必ずやこの療養所へ行き、
小説を書き、恋愛をする運命にあると信じていた。
病弱で、痩身で、コホンコホンとよく咳をしていたからなあ。
ほんとだよ。 咳?うん、まあ、いま考えると
単に結核文学にたいする憧れで咳してたみたい(笑)。

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療養所が設立されたのは1926年(大正15)。
初代院長は作家でもある正木不如丘、本名・俊二。

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「風立ちぬ、いざ生きめやも」

堀辰雄は婚約者・矢野綾子(写真)と共にこの療養所に入院、療養。
綾子はそのまま昭和10年12月にそこで死去したんだよね。
「美しい村」「風立ちぬ」は高校生の頃、私の聖典でさ。
一日も早くこういう美しい文章が書けるようになりたものだ
と思ったもんだよな、原稿用紙を前にして(笑)。

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これは当時の長野県富士見と八ケ岳。

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竹久夢二がここで死去したのは昭和9年9月。
同じ頃、横溝正史もここで療養していたんだよ。
あ、ちなみに富士見高原療養所資料館のいまの理事長は
私もよく知っている荒川じんぺいさん。
ギョッ、なんたる偶然にしてなんたるわが運命よ!
だよねえ(^^♪



♪夜霧の駅に 待つ君の
  おもかげ強く ふり捨てて
  はかなや月に 泣き濡れし
  白衣の袖よ いつ乾く

この映画の原作は久米正雄。おらが漱石の門下生。
出版されたのは1934年。

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漱石の長女の夏目筆子。
久米はこの筆子さんに恋をして結婚を申し込んだんだけど、
筆子さんはやはり漱石門下生の松岡譲が好きで松岡と結婚した。
久米は松岡に嫉妬し、二人が結婚すると恨みをこめた文章を
あちこちに書いて、女性読者の同情を集めた。
それがきっかけで以後、通俗的なメロドラマを書きはじめるようになった。
この「月よりの使者」もそのひとつな訳(^^♪

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原作は三度映画化されている。
1度目は1934年、監督は田坂具隆、
主演は当時人気絶頂にあった入江たか子と、高田稔。
無念ながら私はこっちは観ていない。

2度目は1949年で、主演は花柳小菊と上原謙。
これも観てない。

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3度目は1954年、監督、田中重雄。主演、山本富士子・菅原謙二。
これはそっち版で観たのは初公開以来だから何十年ぶり?
数えたくないなあ。君、数えてよ(笑)。
これもYouTubeで発見し、狂喜して観たんだわさ。
狂喜した理由? 実は私も好きだし、唐(十郎)さんも好きだから。
唐さん、書いてるほどなんだよ、唐版「月よりの使者」を(^^♪

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富士見高原のサナトリウムに、
療養者たちから「月よりの使者」と呼ばれる看護婦がいた。
野々宮道子その女だった…、山本富士子(^^♪

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月よりの使者だって、ダセ~なんて言ってると笑われるよ。
八ケ岳に富士だよ。日本で一番お月さまに近い訳だよね。
当時、不治の病と言われた結核を患う人たちにすれば、
もうじき死んで月に行くとみんな覚悟していた。
その月から日本一の美女・山本富士子扮する道子が来た訳だから、
当然、あ、お月さんが自分のためにかぐや姫を、
美貌の使者を使わしてくれたんだと思った。

という事はとどのつまり、これはかぐや姫物語だ、
竹取物語だ、説話物語だって事なんだよね。
ダセ~なんて言う人は
その事がわからないんだあって事になるんだわさ(^^♪

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実際、この物語には竹取物語同様、
野々宮道子に求婚するに等しい5人の男たちが登場する訳よ。
まずこの患者、若き詩人の橋田…、根上淳。若い(^^♪

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次にこの池内医師…、根が助平で
道子が欲しくて欲しくて堪らないわが高松英郎(^^♪

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院長の浅木…、信欣三(^^♪
「君は私のものになりなさい。というのは冗談だが」
などと本音を冗談にして誤魔化す、よくいるタイプ(^^♪

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そして右の画家・戸塚(船越英二)と、左の弘田(菅原謙二)。
ただしこの戸塚は友人ということもあり、
早く道子さんに結婚を申し込め、でないと俺が貰うぞと
弘田に一歩譲る良い男(^^♪
弘田は全快したが、俺はこの先どうなるかわからんしな
という気持ちもあるんだろうね。

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弘田は戸塚の援護射撃を受けてついに決心、
退院を前に道子に愛を告白し、結婚を申し込む。
道子は弘田が好きなんだけど、一瞬戸惑う。
実は以前婚約者がいたのだが、その婚約者が結核で他界した。
その婚約者が忘れられず、結核患者たちに尽くそうと決心し、
看護婦資格を取ってこの富士見高原療養所へやってきた
という経緯があったからなんだよね。

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それにもうひとつ。弘田には弓子という婚約者がいた。
弘田が療養生活に入ると、親が勝手に婚約を破棄、
弘田の心はすでに道子に移っていたのだが、
道子は婚約者弓子の気持ちを考えずにはいられなかったのだ。

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弘田が退院する日、その弓子(沢村美智子)が突然迎えにやってくる。
弘田の妹・晴子(八潮悠子)が彼女の気持ちを知り、連れてきたのだ。
さすがおらが菅原謙二、美女にモテるのだあ~(^^♪

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どちらかと言うと優柔不断な弘田の背中を、
それでも男か、許さないわよとドンと突き飛ばす看護婦がいた。
いつも道子の味方の天真爛漫な看護婦・よう子…、
若き日のおらが若尾文子だった(^^♪

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そうなんだよねえ。これまで彼女に一度も触れる機会がなくてさ、
うわっ、チャンスだ!と思ってこの映画を紹介してるのも
紛れなき真実ね(^^♪
絶対観るのよ、めちゃ可愛いから、この映画の若尾さん(笑)。

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弘田は道子を林に呼び出して言う。
僕は妹に内緒で今夜12時の汽車で発つ、絶対来てください、と。
道子は弘田の強い愛情に負け、頷く。

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だがその夜、予期せぬ事態が起きる。
道子に愛を激白したあの若き詩人橋田が自殺を図ったのだ。
道子は懸命に彼の看護に当たる。

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そうとは知らず駅で道子を待つ弘田の前に現れたのは、
弘子と妹の晴子だった。
道子は婚約者弘子のことを思い、
妹・晴子に弘田が今夜の汽車で発つと教えたのだ(^^♪
結局、弘田は東京に帰ると弘子と結婚する。

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一方、詩人橋田もそのまま他界する。
「我は蔭の国へ行く 永への月の光を求めて
君は月よりの使者 地上にては余りに麗しく 余りに又冷たかりしも
今は仄かながら 遂にわがもの 我その微かなる光を抱きていく」
という歌を遺して。

この橋田、後世の者からすると、
どことなく堀辰雄を彷彿させられるようなとこあるよな。
そして画家・戸塚は夢二を。
それもまたこの映画が繰り返し映画化、ドラマ化されて
愛された理由のひとつかも(^^♪

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それから1年後…、
道子の方も富士見高原療養所にいられなくなり、
院長の世話で逗子にある湘南サナトリウム(岡田病院)で働いていた。

余談が多いけど、この湘南サナトリウムは
横光利一が同棲していた小島キミが入院、死去した病院で、
その死を弔った「春は馬車に乗って」の舞台にもなってるんだよ(^^♪

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ある日、道子は副院長に、鎌倉笹目の
病人の家へ自宅看護に行くようにと命じられる。
美人で献身的なため彼女はとかく患者たちの注目の的になる。
迷惑だってんで副院長の野郎、所払いした訳さね。

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病人はこの家の若奥様で、この人はその母親。
築地小劇場の時代から舞台に立ち、
戦後は民芸で大活躍したわれらが先輩細川ちか子さん。
知らない人が多いかも知れないが、どうだ参ったか、美女だろう(^^♪
この頃の新劇の俳優さんたち、芝居もほんと上手い。いまと桁違い。

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道子は心臓病の若奥様を献身的に介護する。
母親は娘夫婦に冷たくほとんどこの家に近づかない。
夫は夫で若奥様に冷淡でしょっちゅう家を空けている
てな事をお手伝いさんに聞かされたからなんだよね。
そんな道子に若奥様も深く信頼を寄せるようになるのだが、

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ジャン…、その若奥様とは実は弘田の妻・弓子だったのだ!
こういうのを運命のイタズラと言うんだよ(^^♪
が、道子は富士見高原療養所では彼女に会っていないので
そのことをまだ知らない。

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で、ある日、家へ帰ってきた彼女の夫を見て茫然とする。

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もちろんこっちも唖然、茫然、心臓が止まりそうになる(^^♪

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弘田が弓子にあまり近づかなかったのは、
道子の事を忘れられなかったからなんだよね。
弘田は道子に再会して苦悩が一層深くなる。
そんな弘田に道子は言う、
私の事はもう忘れて奥様を愛してあげてください。
優しくしてあげて下さい。
あなた様の心ひとつで奥様は幸せになれるんです、と。

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弘子は弘子で自分の苦悩を道子に告白する。
富士見高原療養所で療養していた頃、夫には愛する女性がいたの。
りんどうの花に似た人よ。私はその人から夫を奪ってしまったの。
本当に申し訳ないことをした。私には幸せになる資格などないのです、と。
そんな事を言われると道子は泣くしかない。
観てる日本の全女性たちも弘子と道子の悲恋にただ涙するしかない(^^♪

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弘子はりんどうの花のような人に申し訳ないと思いながらも、
一方で私は富士見高原のりんどうの花に負けたくないと
激しくピアノを叩き、倒れる。
このシーンはなかなかいいよ(^^♪

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道子だって本当は逗子の海辺に咲く薔薇の花に負けたくないのだが、
その心をすべて犠牲にして懸命に弘子を励まし、介護する。
さすが己が悲恋を経験した久米正雄、
このあたり女性の心を掴むの上手いんだよねえ。
弘子がただの嫉妬深い、質の悪い女だったら
日本の全女性は泣かないって(^^♪

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悲恋の男・弘田は、病も全快して東京にいる友人の画家・
戸塚を訪ね、すべてを話す。
戸塚は悩む弘田に進言する、
道子さんのお蔭で君の暗夜行路は解決したんだ、
鎌倉に戻って弘子さんに尽くせ、努力しろ、と。
「暗夜行路」が出てきて私は思わず自宅近くの手賀沼の方を
見遣ってしまった(^^♪
なんか己の宿縁を感じるよなあ、私の妻は鎌倉出だし(爆)。

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弘田は己の優柔不断さを反省、決意し、
雷雨轟く嵐の中、鎌倉へ戻り、弘子に愛情を向け始める。

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弘子は夫・弘田の優しさに触れ、結婚して初めて喜びと
幸せを感じる。

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翌朝は静かな快晴だった。
弘子の部屋へ介護に入った道子は悲鳴を上げそうになる。
彼女の心臓がすでに止まっていたからだ。

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知らせを受けた岡田病院から医師が検死にやってくる。
と、その医師は富士見高原療養所にいた時、
道子に振られた助平医師・池内だった。
アチャ~、ヤバイよねえ、これ(^^♪


※「月よりの使者_1」
※「月よりの使者_2」


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■94分  大映 メロドラマ
監督 田中重雄
脚本 八住利雄
原作 久米正雄
製作 永田雅一
撮影 高橋通夫
美術 柴田篤二
音楽 齋藤一郎
録音 長谷川光雄
照明 久保田行一
出演
弘田進 菅原謙二
野々宮道子 山本富士子
戸塚一郎 船越英二
小谷よう子 若尾文子
橋田広 根上淳
池内医師 高松英郎
前島弓子 沢村美智子
弘田晴子(進の妹) 八潮悠子
大下婦長 村田知栄子
浅木院長 信欣三
成田弁護士 花布辰男
岡田院長 見明凡太朗
佐々副院長 丸山修
前島みつ 細川ちか子
取調主任坂田 夏木章
おふさ 響令子
桐生きよ 及川千代
検事 石黒達也

米正雄の同名小説を八住利雄が脚色し田中重雄が監督した。1934年と1949年にそれぞれ映画化されている作品のリメイク版。またテレビドラマ版としても何度かリメイクされている。
長野の療養所で働く野々宮道子は、温かく献身的に看護をすることから「月よりの使者」と呼ばれていた。転地療養中の弘田と橋田は、ともに道子に惹かれていた。道子は弘田からプロポーズされ一緒に療養所を出る約束をするが、橋田の容態が急変したため実現しなかった。一年後、道子は弘田の妻である弓子を看護するため、療養所から派遣される。弘田はかつての婚約者だった弓子と結婚していたのだ。道子は献身的に弓子の看護にあたるが、弓子は弘田と道子との関係に気づいていた。

この記事へのコメント

日々草
2018年05月13日 22:51
見たいです。若き日の若尾文子さん、もちろん山本富士子さんも。💕
レンタル店にもないと思います。Amazonにもないみたい---。トホホ(*_*;
てつ
2018年06月08日 21:04
この作品、私はユーチューブで観たんですが、いまは削除されてるみたいですね(´;ω;`)ウゥゥ
オタク
2018年08月26日 17:43
私持っています
オタク
2018年08月26日 17:43
私持っています
日々草
2018年12月29日 23:15
いいですね。うらやましい。見たい。(*'▽'*)

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