約束_3 (1972) 日本

[1169]ここには高度成長期に「裏日本」で起きていた事が描かれている

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改札を出ると監視員と女は刑務所へと向かった。
年下男は二人の後について行った。

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歩道橋の階段を上り詰めた時、一瞬、男の足が止まった。

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巨大な壁に囲まれた刑務所が目に入ったのだ。

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監視員と女はその壁沿いを歩いた。

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刑務所の門の前へ来た時、男は屋台を見つけて言った。
「おい、ラーメン食って行こう。
まだ時間あるだろ。体温まるよ。
小母さん、俺、もうこれ以上何も言わねえからよ。
八時までに入りゃいいんだろ」

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女監視員は黙って屋台に向かい歩き始めた。
男も女の肩に手を置き、屋台へ歩いた。

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男は「おじさん、一番高い奴を三つくれ」とラーメンを頼んだ。

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主人は出来上がったラーメンを差し出した。
監視員はその一つを黙って食べた。黙々と。
そうすれば女も食べると思ったのだろう。

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だが女は箸をつけなかった。つけられなかった。
胸が苦しくて。男も…。
監視員は食べ終わると「幾ら?」と尋ね、金を払った。

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女は小さな声で男に礼を言った。
「ありがとう」

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そうして監視員と一緒に門の中へ入った。

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瞬間、男は門へ走った。

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そして女の背中に大声をかけた。
「おい、体には気をつけろよ!」

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女は振り返ると堪らず門へ引き返し、胸の中を吐き出した。

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「あなたの名前、聞いてなかった」
「中原朗てんだよ」
「中原アキラ?」
「でもよ、アキラつても朗らかって字書くんだ」
「朗らか?」
男は子供みたいに泣きじゃくった。
女は言った。
「二年経ったら出られるの。
二年経ったら、あの公園で待ってて」
「二年経ったら?」
「そう。二年後の今日よ。今日よ。約束して!」

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「嫌だあ…」
年下男は言葉が出ず、ただ子供のように駄々をこねた。
女は監視員の後を追った。

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男は急に町の方へ取って返した。

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そして開店前の洋品店を見つけると
ドアを叩いて開けて貰い、

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女の着る物で暖かそうなものをくれと頼んだ、
何でも良いからと。

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と、そこへ山室刑事が若い刑事と一緒に入ってきた。
客のフリをして。

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年下男が金を払い急いで出ようとした瞬間、
山室らは「朗っ」と言って男を背後から羽交い絞めにし、
逮捕した。

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男は子供のように必死に抵抗した。
抵抗し、泣きながら頼んだ。
「嫌だ。女に差し入れさしてくれって言ってんだよ」と。

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「嫌だあ~!」
男の子供のような悲鳴が空に消えた。

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そして二年後、羽越…。

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二年前のあの公園に出所した女の姿があった。

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女は待った、彼がやって来るのを。

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女は知らなかった、彼が逮捕された事を。

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女の目の前の、故郷の海は荒かった。
彼はまだ現れない。
だが女はきっと待ち続けるに違いない。
彼が…、中原朗がやって来るまで何年でも。約束通り。
この地を、この公園を離れることなく…。

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ショーケーンの出世作と言われている作品だが、
もともと彼は監督になりたくて、
助監督としてこの作品に関わっていた。
が、主役が降板し、急遽代役として出演したのだった。

封切時にこれを観て私は熱狂し、
以後ショーケーンの大ファンになった。
結局スキャンダルが多すぎて私の期待通りにはなかなか
行ってくれなかったが、それでも私の中では
最後の映画スター(男優)として燦然と輝いている(^^♪

最後の映画スターとして感じられるのは、
一言でいえば戦後を生きたスター・岸惠子と
見事に心が通い合い、愛の、あるいは家族の物語を紡いで
みせているからだ。

戦後生まれの男優でそれが出来たのはショーケンと、
根津甚八くらいなものだと私は思っている。
その器(心)を含めての事だが。

意図的に物語と映像を少し詳細に紹介したのはそのせいだ。
このロケセットの前に立たせて見るとわかる。
戦後的な色濃いこのセット、風景によく似合い、
よく生きてみせているである。
ちなみに書いたばかりの「キャタピラー」に出演した
俳優たちと較べてみれば一目瞭然だろう。

実際に映画を見ると、ショーケン、よくもこう
手足がバタバタ赤ちゃんみたいにバタつく奴だと笑ってしまうのだが、
にもかかわらずそのバタ付き感までこの戦後的な物語、風景に
ピタリと嵌ってるから凄い(^^♪(笑)

「風景」という言葉に関して少し言っておくと、
私たちが見ている風景は自然をも含めて人間の、
あるいはこの社会の「集合的無意識」が作りだしたものである。

なのでその風景をピタリと生きる事のできる俳優は、
人間の、あるいはこの社会の集合的無意識を
見事に体でピタリと分かっている者という事になる。
当然、そこが凄い!という事になる訳だ。

もっともいま問題にしているのは戦後生まれの俳優の事で、
戦中・戦前生まれの俳優のほとんどは
それが当たり前のように皆分かってたんだよなあ。凄いよなあ(^^♪

もうひとつ言っておきたい。
封切時には全く思いもしなかった事だが、
いま改めて観るとこの物語、
高度成長期の下で失われていったもの、
壊れていったものを見事に表現してるなあという事だ。

「表日本」が「裏日本」へ追いやってしまったもの、
と言っても良いんだろうけどさ。
それは何かって?
さあ、何なんだろう。この映画を観て考えてみよう(^^♪

あ、ユーチューブで観れるので観てない人には是非観てほしい。
ごらんのように映像が粗くて話にならないと思うかも知れないけど、
この映画に限っては何故か私は全然気にならなかった。
というよりその荒い映像に感動したと言った方がいいかな。

「裏日本」大好き人間、集まれ~!(笑)


※「約束_1」
※「約束_2」
※「約束_3」


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■87分 松竹 ドラマ
監督 斎藤耕一
製作 斎藤節子 樋口清
原案 金志軒 斎藤耕一
脚本 石森史郎
撮影 坂本典隆
音楽 宮川泰
美術 芳野尹孝
出演
松宮螢子 岸惠子
中原朗 萩原健一
島本房江 南美江
村井の女 姫ゆり子
村井晋吉 殿山泰司
護送犯 中山仁
老刑事 土田桂
若い刑事 大久保敏男
山室刑事 三國連太郎

仮出所の女囚と逃亡中の強盗犯の決して成就することのない哀しい愛の結末を描く。監督は「津軽じょんがら節」の斎藤耕一。主演は岸恵子と萩原健一。悲劇を宿命づけられた二人だからこそ、束の間の心の交歓がなんとも愛おしく切ない。日本海を北上する列車の中。若い男は前の座席に座る年上の女性にしつこく迫る。やがて、男の真剣さに心を開いた女は静かに身の上を語り始める。自分が受刑囚で、母の墓参に仮出所させてもらい、明朝8時までに刑務所へ戻らなければならない身であると…。

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