雪之丞変化_1 (1934) 日本

[1177]虚実の皮膜で演じられる天才・衣笠貞之助の世界最高峰のチャンバラ前衛劇

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庶民の味方、我等がYouTube名作劇場(^^♪

衣笠貞之助+長谷川一夫コンビの作品。
作品は三編から成っている。
「雪之丞変化 第一篇」 (1935)
「雪之丞変化 第二篇」 (1935)
「雪之丞変化 解決篇」 (1936)
但しこの三編はすでになく、YouTubeにUPされている
「雪之丞変化 総集編 98分」版しか存在しないようだ(泣)。

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原作は1934年(昭10)から翌年にかけて
朝日新聞に連載された三上於菟吉(おときち)の時代小説で、
シナリオは「第一篇」を伊藤大輔、「第二篇」「解決篇」を
衣笠貞之助が書いている。

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ちなみに三上於菟吉は、
ジョンストン・マッカレーの「双生児の復讐」を下敷きにし、
歌舞伎「白浪五人男」の弁天小僧や「三人吉三」のお嬢吉三
などからヒントを得て翻案したのだそうだ。
私は生憎その小説の方は読んでいない。

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新感覚派映画、日本初のアヴァンギャルド映画と評される
「狂つた一頁」は1926年(大正15)の作品で、
この「雪之丞変化」はその凡そ10年後に撮られた訳だが、
映像・物語構成は後退するどころか勝るとも劣らない
空恐ろしい映画だ。
(上の写真は「狂った一頁」の一場面)

物語をかい摘んで紹介しながら
その空恐ろしさの一端について語ってみたい。あ、
音声が少し聞き取りくい所、総集編のために話の飛躍等があって、
物語は100%この通りだ!と言う自信はないよ。
間違ってたら怒らずに教えてね(^^♪

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物語は、上方の人気一座「市村座」が江戸・中村座に招かれ、
江戸初日の幕開きから始まるのだが、ストーリー上、
まず小屋へ集まった登場人物を紹介しよう。

あ、その前に主題歌だな。
我等が東海林太郎の「むらさき小唄」。




🎵流す涙が お芝居ならば
 なんの苦労も あるまいに
 濡れて燕の 泣く声は
 あわれ浮き名の女形(おんながた)

懐かしいよねえ。ちゃんと聴かなきゃだめよ(^^♪

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市村座の座長(親方)の中村菊之丞…、六代目・嵐徳三郎。

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市村座の超人気役者、女形・中村雪之丞…、
我等が林長二郎(長谷川一夫)。

長崎の海産問屋・松浦屋の息子として生まれたが、
14年前、両親が無念の死を遂げた為、
松浦屋に出入りしていた市村座の親方・菊之丞に
引き取られたのである。

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我が世の春を謳う元長崎奉行・土部三斎…、高堂国典。
その腹心・門倉平馬…、山路義人。

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土部三斎の娘・浪路、将軍の側室…、千早晶子。
三斎が権勢を振えるはこの娘のお蔭なのだが、浪路は
今や身の上を忘れてすっかり雪之丞に入れ上げている。
今風に言えば「ミーハー」。

因みにミーハーの語源は、
若い女性が大好きな「つまめ」と、
やし長二郎大好き人間」から来ている。
そう。文字通り林長二郎ファンのために生まれた言葉だったのだ!
ギエ~、オラは今日まで全く知らなかったよお~(^^♪

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商人・廣海屋…、志賀靖郎。 
商人・長崎屋…、高松錦之助。

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代官・浜川…、日下部龍馬。
代官・横山…、南光明。

雪之丞の両親の死には実はこれらの人物が絡んでいた。
廣海屋は、隆盛を誇る雪之丞の生家・松浦屋を妬み、
松浦屋の使用人・長崎を唆し、共謀して
時の長崎奉行・土部三斎、腹心・門倉平馬、代官・浜川、
横川と結んで松浦屋を破滅のどん底に突き落としたのだ。

雪之丞の父は憶えのない抜け荷(密輸)の罪に問われ縊死、
母は土部三斎の屋敷に幽閉された挙句、舌を噛み切って
死んだのである。

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菊之丞は遺子・雪太郎(雪之丞)を引き取ると、
文武を習わせ、雪太郎に復讐させる機会を狙ってきた。
物語は謂わばその「長崎の敵を江戸で討つ」という時代物、
そして白波物(世話物)なのだ。

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はい、桟敷に女盗賊のお初…、伏見直江(^^♪
手下のムク犬…、永井柳太郎。

このお初も浪路同様、
雪之丞に一目惚れして雪之丞に言い寄るのだが、
袖にされて逆恨みし、何やかやと雪之丞の邪魔をする訳よ(^^♪

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そしてもう一人、悪党お初に目を光らせる我等が庶民の味方、
義賊・闇太郎の姿も…、林長二郎、二役。
白(雪之丞)に黒(闇太郎)でさあ(^^♪
ね、「白波五人男」風でしょう。

こっちは陰ながらに雪之丞の復讐を手伝う訳だけど、
舞台初日に一同が会するこの人物構成だけで
「お、良く出来てるなあ」と思わないカニ?(^^♪

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オッと、幕が開きましたぜ、旦那。
ん?こんなにサービスして良いのか知らん(^^♪

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出番を待っていた雪之丞は奈落を潜り抜け、
舞台へ上がろうとする。

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と、この時、奈落の片隅に亡き父の亡霊が現れる。
首を縄に掛けた父が言う。
「雪太郎、忘れるな、この父・母を欺き陥れた者達を。
必ず恨みを晴らしてくれ」と。

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そして傍に母の亡霊も現れ恨めしやと怨み言を。
母を演じるは我等が林長二郎、三役目(^^♪

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雪之丞は「必ず晴らしておみせします。
家を失い、父を失い、母を失い、いまは役者風情に身を落として。
おのれ、怨敵」と奈落から桟敷にいる土部三斎らに声を上げ、
そして迫り出しに乗り舞台へと登場する。




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しかも上がった所は「花道」のド真ん中!

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その雪之丞の顔、姿形を目にした瞬間、
土部三斎はドキリとして思わず身を乗り出す。
まだ誰か思いだす事はできないんだけど、
見た事がある、誰かに似ていると思ったんだよね。

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その艶やかな姿と登場にドキリとしたのは私も同様、
思わず凄え!まさに歌舞伎だ、演劇だ!
と身が震え、総毛立っちまったよねえ(^^♪

近松(門左衛門)は、
芸=劇は虚実の皮膜の間にあるとした。

「芸といふものは実と虚との皮膜の間にあるもの也」
「虚(うそ)にして虚にあらず、実にして実にあらず、
この間に慰(なぐさみ)が有るもの也」

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歌舞伎の舞台に即して言えば、
実=現実は本舞台を指し、虚=虚構は花道の奥にある
あの世の事を指す。
そしてその虚と実の間にあるのが「花道」なのである。

歌舞伎は町人と遊女の心中が物語の基本である。
現実(本舞台)で敗残した男女が、
現実では愛を成就する事が出来なかった男女が、
あの世で愛を成就する事が、心中する事が物語の基本である。

愛が成就する訳だから男女は嬉々として、
陶然として死地へ赴く事になる。花道を往く事になる。
そこでは既に忌まわしい現実世界は消え、
男女は夢の世界=理念の世界へと入っている。
虚実の間にいる訳だが、そこで一転して
現実では敗残者だった筈の男女は勝利者となる。
で、桟敷の観客もやんやと拍手喝采する事になる訳だ。

歌舞伎が「花道芝居」「道行芝居」と呼ばれるのも
まさにそれ故なのである。
現実と虚構の間、生と死の間、それが「花道」なのだ。

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だが死ぬ者はつねに勝利者な訳ではない。
無念の思いで死んだ者もいる。雪之丞の両親のように。
そう言ってよければ彼等は花道の中途で
真っ逆さまに奈落へと、地獄へと落ちたのである。

彼らは三途の川を渡る事も出来ずに河原に蹲っている。
蹲り、徘徊し、自分を突き落とした者への怨念を醸成する。
その怨念は増大し、化身する。それが亡霊という奴だ。
生者でもなければ死者でもない、その狭間にある者=亡霊。
亡霊もまた虚実の間にあるものと言って良い。

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役者は小屋の裏口から入り、楽屋で異装をする。
異装をして人間以外のもの、神あるいは死者となる訳だ。
そうして奈落を潜り舞台へと上がる、
つまり「逆路」を通って生者であり、現実を生きる者たち(観客)の前へ
姿を現わす訳だ。

神あるいは死者が立つイタの上は、舞台は、
折口信夫が看破したように「賽の河原」となる。
つまり死者が立つ事によって瞬時に賽の河原へと変貌する訳だ。

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目の前の桟敷には現実を引き摺る観客がいる訳だから、
死者の謂われである役者、あるいは
物語という虚構を生きている役者が立つ事によって、
芝居小屋は瞬く間に「あの世とこの世の間」「死と生の間」
「虚と実の間」と化す訳である。

もちろん役者自身も虚実の被膜の間にいる。
演じる自分(虚)と、それを背後の方から見ている自分(実)、
その間にいる訳である。
世阿弥はそれを称して「離見の見」と言った。
能役者は観客に「仮面」(虚)を見せ、
その仮面の後ろで「素の自分」(実)は演じている自分と
観客を見ている訳だ。どうだ、怖いカニ?(^^♪

カブキ者は能面の代わりに白塗りをした。
何故か聞く?
河原乞食は貧乏で銭がねえからに決まってらあ(笑)。
お蔭で虚実の皮膜は能・狂言より遙かに薄く、
薄~くなってしまった次第でさあ(^^♪

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さて我等が雪之丞の場合はもっと複雑怪奇になる。
何故なら雪之丞は「女形」だからである。
男の癖に女を演じているからである。いや正確ではない。
雪之丞は生活場面(現実)に於いて既に
果たして男なのか女か定かではないからだ。
男と女の間を生きている存在だからだ。

この物語に即して言えば父と母が死んだ事によって、
父と母が無念の死に追いやられた事によって、
雪太郎は男になる事も女になる事も出来ずに
現在を迎えてしまったのだと言って良いかも知れない。
言ってみれば雪太郎は
「ブリキの太鼓」のオスカルなのだあ~(^^♪

その雪之丞が楽屋で異装をし、奈落から舞台へ上がろうとする。
と、まさにその時、奈落で怨霊と化していた父と母が
雪之丞に憑依し、そのまま奈落への穴となった
花道の中途へと上がり、舞い踊る。

この時雪之丞は既に雪之丞であると同時に
怨霊である父・母でもある訳だ。
雪之丞は雪之丞(実)と怨霊(虚)の狭間を生きている訳だ。

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土部三斎は登場した雪之丞を見て
誰かに似ていると思ったが、似ているのではなく、
かつて自分が手籠めしようして死んだ
雪之丞の母親自身の姿を今そこに、眼前に見たのだ(^^♪

既に冒頭に於いて放たれるこうした劇の複雑怪奇さに
私がドヒャ~と驚き、これぞまさに演劇だ!と
この全身が総毛だった次第もこれでお分かり頂けたに違いない。
ん?分からん?そんなん知らんわい(笑)。




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※「雪之丞変化_2」に続く


■98分 日本 時代劇
製作: 松竹キネマ
監督: 衣笠貞之助
脚本: 伊藤大輔 衣笠貞之助
主題歌: 東海林太郎 「むらさき小唄」
出演
林長二郎  雪之丞・闇太郎・母親
嵐徳三郎  菊之丞
高堂国典  土部三斎
千早晶子  娘 浪路
伏見直江  お初
山路義人  門倉平馬
志賀靖郎  廣海屋
高松錦之助  長崎屋
南光明  浜川
日下部龍馬  横山
原健作  法印
中川芳江  おさん婆
高松栄子  浪路の乳母

長崎の大店の主人の子・雪太郎は、父親はじめ家族一同を、あらぬ抜け荷の濡れ衣を着せられ処刑される。放浪の孤児となった雪太郎は旅芸人の一座に拾われ、やがて女形の看板役者・中村雪之丞となって江戸に現れるが、そのもう一つの顔は親の敵を討つべく剣術を磨きあげた復讐の鬼だった。狙うは今や我が世の春を謳う元長崎奉行・土部三斎とその一味。義賊・闇太郎の助けをうけて、「長崎の敵を江戸で討つ」波乱万丈の物語が繰り広げられる。

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