雲がちぎれる時_3 (1961) 日本

[1180]戦争の傷跡と戦中の「美しかった時間」を抱えた市枝と三崎の行く先は

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病院のベッドで加江子が目を覚ます。
付き添う窪津が目に入り三崎の事を尋ねる。
「大丈夫だ」と窪津は嘘を突く。
「私たち結婚するんです」
と加江子は微笑んで報告する。

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1ケ月後、窪津の運転するバスに乗り、
伊豆田峠の新道を走る加江子の姿があった。

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峠から谷底を眺め下ろす加江子の耳に、
彼女を助けようとする三崎の最後の声が聞こえる。

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バスは開通した伊豆田峠のトンネルに入る。

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トンネルを抜け、峠の新道を下り始めた…。

このラストシーンも凄い。
物語上は確かに起承転結の構成がなされている。
それもしっかりと。
だが何も終わった感じがしなくて怖いのである。

戦争の傷を受けて市枝と三崎は、
このバスのように、
断崖絶壁と落石の危険に囲まれた峠道を、
七曲り八曲りの「戦後」を生きていた。

と同様に窪津も加江子も、
いつ転落に遭うか分からない危険に晒された
この峠の細い道を走り続けなければいけない
かのような暗示に満ちているからである。

全く、この道のあの曲り角の先には何が待っているか、
誰にも分かりやしないとでも言うかのように。

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だいたいあの転落は本当に事故かよ
と私は疑う。

三崎はこの映画の冒頭から恰も
崖下に突っ込むかのようにバスを走らせていたじゃないか。
いずれ最後はこの谷底に突っ込もうと思ってたんじゃないの、
で、最後に突っ込んで行っただけじゃないの、
開通したと言うトンネルを潜り抜けたくなくて…、と私は思う(^^♪

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大阪へ帰ると船に乗った市枝だって
本当に大阪へ帰ったのかどうか甚だ怪しい。途中、
海底に向かって自分の身を投げたんじゃないのかとも疑う。

娘ユリの墓を建て終わった時、
「これでもう何も思い残す事はない」と言ったが、
市枝はあの墓に娘と一緒に自分の骨も埋めたんじゃないのか
とも思えるからだ。

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市枝は最後、三崎に別れを告げて加江子の元へ向かう。
降り始めた小雨の中、天を仰いで。

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三崎は慌てて走り出て市枝の姿を追うのだが
またも見失ってしまう。
大阪で彼女の姿を見失ったように。

あの時と同じように、
三崎も私同様、市枝は海底に消えたと思い、
自分も谷底に身を投げ市枝の後を追ったのだ。
そう言ったとて全く誰がそれを否定できると言うのか。

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これは兄と両親を喪った市枝と、
祖母を喪った三崎とが中浜の市枝の家で
二人きりで過ごした最後のシーンだ。

この時二人は「戦争」を共有した訳だ。
市枝の言う、二人の悲しくも「美しかった時間」。
市枝も三崎もここへ帰りたかった訳だが、
生きねばならぬ戦後の中で二人は汚れていく。
しかも時はその戦後を離れ、「高度経済成長」の時代へと向かう。

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そう。この伊豆田峠に開通したトンネルと新道が
その時代への突入を告げている訳だよね。

戦争の傷跡と戦中の「美しかった時間」、
そして戦後を抱え、あてもなくうろついた二人に
このトンネルを潜る事など出来る筈がないのである。
まして田宮虎彦が描いた人物に。

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映画の原作は 「赤い椿の花」。
学生時分読んだ筈なのだが物語はすっかり忘れていて、
思い出したのは「足摺岬」(^^♪
自殺したくなったた「私」が足摺岬を訪れるのだが、
みたいなお話なんだけど、
田宮虎彦の作品にこんなに戦後が色濃く描かれていたのかと
改めて吃驚したよね。

私、戦後文学を専攻してたんだけど、
当時、田宮虎彦は私の中では戦後文学派の中に
入れてなかったもんだからさ(^^♪

ついでに梅崎春生の「風化」も思い出していた。
戦争中、鹿児島の基地にいた主人公が、
戦後、枕崎や坊津をあてどなく彷徨するお話なんだけど、
その主人公の心は死へと傾斜している。
この映画の主人公たちにもそれと似たものを感じたから。

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恋愛映画には違いないんだけど、
ただ恋愛映画として観るとつまんないかもよ(笑)。
実際、この映画にはそう観る人が多いみたいだからさ、
サイトに書き込まれたコメント読むと。

しかし凄いよなあ。
この頃、こういう文学映画が何の抵抗もなく
大衆映画として作って上映し、お客さんもそれ観てた訳だから。
恐るべし、昔の日本映画(^^♪

いつもの事だが俳優もホントに良いよね。
仲代達矢は私がどうしても好きになれない珍しい俳優なんだけど、
中村是好は大好きよ。
中村是好さん、愛してるぜえ~(^^♪(笑)


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■93分 松竹 文芸
監督: 五所平之助
製作: 月森仙之助 五所平之助
原作: 田宮虎彦 「赤い椿の花」
脚本: 新藤兼人
撮影: 竹野治夫
美術: 平川透徹
音楽: 芥川也寸志
出演
佐田啓二
有馬稲子
倍賞千恵子
伊藤雄之助
渡辺文雄
仲代達矢
中村是好

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