雪之丞変化_4 (1934) 日本

[1177]虚実の皮膜で演じられる天才・衣笠貞之助の世界最高峰のチャンバラ前衛劇

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そして舞台近くには、

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芝居が止まった混乱に乗じて雪之丞を
亡き者にしようと企む、弱っちい代官・浜川と横山が(^^♪




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さあ、雪之丞の見得が決まった!

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世紀の女盗賊・お初が美しい手を上げ、
桟敷にいる一味にニッコリと合図を送った。

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ムク犬が立ち上がって「止めろ!」と
舞台に野次を入れようとすると、

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オッと、すかさず「止めろ」と脇腹にドスが突きつけられた!
んだんだ。闇太郎がお初の企みを察し、
仲間を桟敷の闇に配していた訳だべ(^^♪

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こっちも。

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こっちも。

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そしてホラ、代官・浜川と横山の傍には闇太郎が現れて、
「ちょっくら顔を貸しておくんなせえ」(^^♪

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それに気づいたお初は「アチャー~!」(笑)




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雪之丞の怨霊劇は佳境に入る。

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画像が悪いが髪をグルグルと回している(^^♪

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雪之丞と武者は舞台中央奥へ。

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二人の見得が決まり、

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そのまま二人はセリで奈落へ消える。
と同時に正面の囃子方も上下へと左右に別れて消え、

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瞬く間に舞台は次の場面へと早変わりし、柝(き)が入る。
「強盗返し」あるいは「ドンデン返し」と呼ばれる舞台転換だ。
ヒャー、凄い凄い!と私はついに立ちあがる(笑)。
その訳は読めば分かる(^^♪

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同時に我等がお初も立ち上がり、

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桟敷から消えた仲間を探し回る。

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廊下に浜川と横川がいた!
が、どうも様子がおかしいと恐る恐る近づき、悲鳴を上げる。
二人は既に死んでいたのだ。

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と、そこへ「お初、神妙にせい」と目明しらが現れて、
我等が悪党・お初の出番は呆気なく幕を閉じた。

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と、一座の裏方がその捕物の見物に現れて、
背中がかくの如く舞台の引幕と相成り
場面は素早く廊下から奈落へと転換する。

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奈落へ退いた雪之丞の元へ闇太郎が現れて言う。
「太夫、今日は浪路さんの弔いの日だ。
ご焼香には伺いなさるんでしょうね」
「はい。伺うつもりでおりました」
「このご焼香を逃すと後にはちょいといい機会が見っかりやせんぜ」
雪之丞は答える、「はい。必ず」と。
と、闇太郎は承知と言わぬばかりにニヤリと笑い、付け加えた。
「横山と浜川の旦那、さっき、あっしが殺っつけやしたぜ」と(^^♪

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「えっ」と雪之丞が驚くとそこへ
今度は一座の裏方が左手から道具を運んで現れ、

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雪之丞を遮って右手へ消えた。
と思ったら、何とそこは既に土部三斎の屋敷で、
折しも娘・浪路のお通夜が営まれている最中である(^^♪

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そう。ここでも舞台転換。
先の舞台上の「ドンデン返し」による場面転換が
そのまま「現実」の方にも次々と持ちこまれている訳だ。

これは一体何を意味するのか。
言うまでもなく雪之丞と衣笠貞之助が結託して(笑)、
「現実」である筈の土部三斎の屋敷を演劇の
背景として撮り込んでしまってる事を意味する(^^♪
赤テント(状況劇場)がかつてテントを捲る事で
向こうに見える新宿の街を一瞬にして
舞台(劇)の背景として取り込んでみせたように。

言いかえると、劇が虚構であるなら同様に、
この現実もまた人間の作り出した「虚構」(フィクション)に過ぎない、
と雪之丞+衣笠コンビは言っているのである。
そう。雪之丞と衣笠貞之助も赤テント派だったのだ。
我等が同志だったのだあ~!(^^♪

この事は実は、この物語で描かれる「現実」も舞台同様、
冒頭からオール・セットである事からも分かる。
そして役者=河原乞食ではない筈の登場人物たちが
恰も役者であるかのような喋り方を一貫して通す事からも。

出演している俳優の多くが元々舞台俳優だから
その喋り方は皆ほんとに見事な訳だが、
この作品は実は、予め現実もまた演劇同様
虚構に過ぎないという前提を下に始められていた訳だ(^^♪

ではちょっと訊ねたい。
虚構ではない現実はあるのか。
あるとすればそれは一体何処にあるのか。
どんな顔をしているのか、どんな世界なのか。
それは人間には分からん。動物か自然に聞いてくれ。
と、私の敬愛する岸田秀さんならそう言いそうだなあ(^^♪(笑)

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家臣が現れ三斎に、代官の浜川と横川が
中村座で何者かに殺害されたと伝える。
そして雪之丞が息女・浪路のご焼香に現れた事を。

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雪之丞は客間に案内される。

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三斎は隠し部屋へ行き、吊り天井の仕掛けを準備する。
既に何もかもが雪之丞の所為だと分かったのだ。

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天井がギシリと響く。
雪之丞は部屋の吊り天井に気づいた。

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屋敷の庭では忍び込んだ我等が闇太郎が
事の成り行きを密かに見守っている(^^♪

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大詰め。三斎が部屋へ現れ、雪之丞の前に座った。
そして雪之丞の顔を眺め言う。
「成程。こいつ似ている。よくも似ている」
雪之丞は聞く、「誰に私がそれ程までに」

「死んだ貴様の母に。まるで生き写しだ。
わしは今迄どうしてもそれが思い出せなかった」
「では舌を噛み切らせて責め殺した母の面差しに生き写しだと
仰せられまするか」
「ああ、言うな!わしは何もそなたの母は責め殺した訳ではない。
わしはそなたの母が好きであった。
どうしても我が物にしたかったのだ」

三斎の娘・浪路が雪之丞に心奪われたのもいわば宿業。
そして雪之丞の母が
三斎の横恋慕に遭って非業の死を遂げたように、
浪路も門倉平馬の横恋慕に遭って非業の死を遂げた事になる。
お~、まさに仏教の世界。
見事、仏教の理念に基づいた物語という事になる。

「母は父親の妻という事もご存じの上で」
「えゝい、何事も申すな。
貴様のその呪いで長崎以来の一党は滅亡したかも知らんが、
わしは負けん。このわしは貴様に負けんぞ」
「左様で御座りましょうとも。父を、母を、狂い死にまでさせた上、
松浦屋の骨をしゃぶり、血を吸った土部のご隠居。
その子供に、この雪之丞にお負けになる筈は御座りませぬ」

雪之丞が懐の短刀を抜く。
「えゝい、黙れ」と三斎はお膳を引っくり返す。

「この三斎は駿河の三歳から業を吹く一方、
押されも懸念も知らずに押し通して来た人間だ」
と立ち上がり、

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部屋の壁にある吊り天井の仕掛けに手を掛け、
「見ろ。貴様の躰は木端微塵だ」と三斎は声を荒げた。

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「あ」と雪之丞は短刀を抜き、三斎目がけて放る。

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仕掛けを手にした三斎の手首に刃が刺さる。

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三斎が吊り天井の仕掛けに手を掛けたまま倒れる。

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仕掛けが作動する。

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天井が音を立てて落ちる。

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「しまった!」と闇太郎が立ち上がる。

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だが吊り天井の下敷きになったのは雪之丞ではない。

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土部三斎だった。
いや、天井の下敷きになったと言うより、
あの世とこの世の間にある床が抜けて三斎は
奈落へ、灼熱の地獄へ墜ちたと言うのが正しい。

こうして雪之丞は、自ら手を下す事なく見事に仇を討った(^^♪




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中村座千秋楽、舞台の上には
桟敷に詰めかけた観客に挨拶する雪之丞の姿があった(^^♪

「この度、当江戸初お目見えの念願叶い、
各ご好評のうちに首尾よく多年の宿望を達せられましたるは、
これ偏に皆様のお力添えの賜物と、有り難涙に暮れておりまする。
つきましてはまたまたご当地お目見えの節には
これに倍しましたるお引き立ての程偏に願い上げ奉りまする」

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桟敷には「お力添え」の一人、闇太郎の姿もあったが、
この闇太郎(黒)が、
もう一人の雪之丞(白)であった事を誰が知ろう(^^♪

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日本文学に於いて、
人間の人間に対する負の感情・負の心が、
心の「裏面」が描かれるようになったのは平安期の
日記文学以降である。

それまでは文学は万葉集の相聞歌のように、
心の裏面にある感情・心を癒すべく、補償すべく、
本来ありうるべき感情・心を、つまりは願望・夢を詠ったり
綴ったりしていた訳だが、

相聞を主題とする日記文学の流れは
やがて登場する演劇、能・狂言にも受け継がれていく。

そして世阿弥の影響の下、
人形浄瑠璃を書き始めた近松(門左衛門)ほか
歌舞伎戯作者たちによって、
地上の人間関係は地上と「煉獄」の関係にまで下降していく。
仏教の理念がすっかり日本人に浸透したからだが、
歌舞伎は道行を描くと同時に
そうした煉獄の世界を好んで描いていくようになったのだ。

その代表的な作品が「東海道四谷怪談」だと言っても良いが、
衣笠監督のこの「雪之丞変化」も只の仇討活劇ではなく、
そうした地上と煉獄の関係を描いた歌舞伎的な作品である。

だけでなく既に前半で言ったように、
演劇とは何かを基底に於いて鋭く捉えた作品である。
悪いけど外国にこんなに深く、鋭く演劇を捉えた人間など
おらんのよ(^^♪

ついでながら私は日本の映画監督で
天才は木下恵介ただ一人と言ってきたが、間違ってた(^^♪
衣笠貞之助も間違いなく天才だあ~!と訂正して詫びたい。
本当に申し訳ありませんでした、衣笠貞之助様(^^♪

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この映画を撮った頃の我等が長谷川一夫。

YouTubeの画像は低画像で粗いが
間違いなく世界遺産にすべき世界最高峰の作品です。
絶対観ないと人生丸損するよ!


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※「雪之丞変化_3」に続く


■98分 日本 時代劇
製作: 松竹キネマ
監督: 衣笠貞之助
脚本: 伊藤大輔 衣笠貞之助
主題歌: 東海林太郎 「むらさき小唄」
出演
林長二郎  雪之丞・闇太郎・母親
嵐徳三郎  菊之丞
高堂国典  土部三斎
千早晶子  娘 浪路
伏見直江  お初
山路義人  門倉平馬
志賀靖郎  廣海屋
高松錦之助  長崎屋
南光明  浜川
日下部龍馬  横山
原健作  法印
中川芳江  おさん婆
高松栄子  浪路の乳母

長崎の大店の主人の子・雪太郎は、父親はじめ家族一同を、あらぬ抜け荷の濡れ衣を着せられ処刑される。放浪の孤児となった雪太郎は旅芸人の一座に拾われ、やがて女形の看板役者・中村雪之丞となって江戸に現れるが、そのもう一つの顔は親の敵を討つべく剣術を磨きあげた復讐の鬼だった。狙うは今や我が世の春を謳う元長崎奉行・土部三斎とその一味。義賊・闇太郎の助けをうけて、「長崎の敵を江戸で討つ」波乱万丈の物語が繰り広げられる。

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