失踪_(後) (2009)

[688]共生する母と息子の姿をホラーとして描いた傑作だよ
★★★★★☆

画像


ヒントは、署長が若巡査に喋った話にある…。

画像

「バンゴンは女運の悪い男だ。
結婚していたが、数年前、奥さんが逃げ出した。
浮気したのか、バンゴンがイヤだったのか…。
あのときは大騒ぎだった。
探してくれと大泣きしていた」…。

この署長、バンゴンは
大泣きしたからきっといいやつなんだと信じ込んでるんだよね。
ま、フツウはそう思うか…(笑)。

バンゴンはヒョナを犯すとき、
「どうだ、あいつよりオレのほうがいいだろ」と言うんだけど、
あいつというのは、ホン監督のことじゃなくて、
自分の女房と浮気した男のことだろうね。

ホン監督とヒョナが、
家出した女房と、女房の相手の男(間男)のように見えた。
で、間男(=ホン監督)を殺して、女房(=ヒョナ)を取り戻して、
二度と逃げ出さないように「調教」をはじめた。
「飼育」をはじめた…。

ということかな…?

前述した「ある出来事」というのは、その出来事…、
妻が家から逃げ出したことを指してるんだけどね。

以来、飼育しないと、女とは恐くてセックスできなくなっていた。
ヒョナの前にも2、3人、飼育していた女がいるみたいなんだけど…。

いや、もっと正確に言わないとだめだね。

妻が浮気して家出したのは、
バンゴンのオトコが役立たずだったから…。
少なくとも、フツウにはできなかったから…?

そしてその原因はじつはバンゴンの「母親」にあった…。

先に言うけど、
ラスト、バンゴンはボソッと告白するんだよね、
「オレはな、16歳のときはじめて父親を殺した」って。

なんで殺したのか。
映画の中の一言二言を繋いで想像するしかないんだけど、
父親が母親にすさまじい暴力を振るい続けていたから…。
父親の暴力から母親を助けだすため…。

そういう意味では、
バンゴンの暴力は、父親の暴力のコピーなんだよね。

画像

しかし母親と息子の関係は、じつは尋常ではなかった。
母親とバンゴンは「共生関係」にあった…。

ま、そりゃそうなるわね。
夫に暴力を振るい続けられると、
妻はどうしてもわが子と共生しちゃうようになるよね。

なので、息子が…、バンゴンが結婚すると、
母親が息子を取られたくないと嫁イビリをはじめた。
嫁は、それに耐えられず、男を作り、家を出た…。

バンゴンは妻の家出は母親のせいだと、
母親に暴力を振るい、母親を「飼育」しはじめた。
そう考えると、バンゴンが母親に言った言葉のナゾが解けるよね。

「息子が幸せに暮らすのがそんなにイヤか。
絶対に死んだりしちゃダメだ。
最後まで生きておれが幸せになるのを見ろ」…。

たぶん、それがバンゴンのすべて。

自分がいまみたいになったのは、すべてこの母親のせいだ。
この母親に復讐するために、女を調教(飼育)して…、
自分の思うままにして…、幸せになって…、
その幸せになった男と女の姿を…、自分たちの姿を
母親に見せつけたい…!

という欲望…、母親への復讐心…。

その復讐のためにはどんな暴力も辞さない…。

画像
画像

実際、このあと、こうやって…、
パンゴンのやってることに勘づいて恐喝にやってきた
犬商人の脳天に斧をぶち込み…、

画像
画像

バンゴンを怪しんだ若巡査がヒョンジョンを助けに現れると、
平然とその脳天をカチ割る…。

画像
画像

妹を殺したのは許せないと反抗してくるヒョンジョンも、
とうぜん許せない。

「共生」で心を作られたものは、
自分と共生するものをしか受け入れられないからだ。
この心は言ってみれば、母親の心のコピー…。

バンゴンは、母親を責めるが、
かれだって家出した妻に自分との「共生」を
知らず知らず強制していたはずだ。

妻にしてみれば、
母親との「共生」から逃れられないバンゴンに嫌気がさして
間男をし、家を出たのかもしれない…。

人間の心は複雑怪奇だよね…、ホント、ホラーそのもの…(笑)。

画像
画像

ヒョンジョンは、若巡査の腰の拳銃を手にし、
危うく一命をとりとめた…。

画像

弾丸を胸にぶち込まれたバンゴンは、ほくそえむ。
間違っても「悪魔を見た」のギョンチョル(チェ・ミンシク)のように、
命乞いなどしない…(笑)。

「おれは誰かに殺してほしかったんだ。
殺せ」と言う…。

画像

「あの粉砕機を見ろ。
おまえの妹は、あれで潰してやったよ。
ニワトリの餌にしてやった。
おまえが尋ねてきたときはまだ生きていたんだ」と…。

画像

自分が来たときはまだ生きていた…?
自分が尋ねてきたから殺したってこと、妹を…?
しかも粉砕機にかけて…、生きたまま…?
ニワトリの餌にした…?

想像を超えたバンゴンの残酷さに、
ヒョンジョンの心は絶叫する。

画像

狂う…。
狂って残りの銃弾をすべてバンゴンにぶち込む…。

だが、これも「自分を殺してほしい」という
バンゴンの策略に落ちただけかもしれない…(怯)。

なぜバンゴンは「誰かに殺されたい」と思っていたのか。
答えはひとつしかない。
自分で自分を殺したいと思っているのだが、殺せないから…。

なぜ…?
バンゴンの心身はもう、バンゴンですら
自分の思い通りにならないところにあったから…。

だがじつを言うと、
バンゴンはたぶん放っておいても生きられなかった。
なぜ…?

母親が息絶えたから…。

画像

ヒョンジョンとの格闘の最中に、
母親は床を抜け出して電話へ這っていく。
警察に電話をするため…?

画像

でも受話器を手にした瞬間、ガクッと息絶えてしまうのね。
この瞬間、バンゴンの死はもう決定してるよね。
「共生」している相手を亡くしたんだから、
もう生きられないに決まってるの…。

ということは、バンゴンは、
たんに自分たちの幸せな姿を見せつけるために
母親を生かしておいたんじゃなくて、
母親が死ぬと自分も生きられないことを知ってて
生かしてたってこと…。

本人が気づいたのかどうかは知らないけど…。

ほら、どうみたってホラーだろう、人間の心って…(笑)。

画像

後日、拘置所の面会室。

弁護士がヒョンジョンに会い、言う。

バンゴンを殺したことは正当防衛になるが、
そのあと粉砕機にかけたことには正当性が認められない。
情状酌量を得るために、そのときは精神が錯乱していたと
主張しなさい、と…。

画像

ヒョンジョンはきっぱりと答える。

弁護士さん、殺したときは夢中でしたが、
粉砕機に入れたときは正気でした。
なんどあいつに会おうが、千回でも万回でもそうしてやる、と…。

そして去り際、弁護士に聞く。
あなたに娘さんはいらっしゃいますか、と…。

これは…、
あなたも娘さんがあいつに殺されたとしたら、
私と同じことをするでしょう、という意味だろうね。

でもたぶんそれだけではない。
殺したことはバンゴンの策略に嵌まったとも言えるが、
粉砕機にかけたのはまったく私自身の復讐心からだ。
バンゴンの策略から逃れ出るにはそれしかなかったからだ…、
ということでもある…。

画像

どう、傑作だろう…!

いや、ホント、大傑作なんだって。
「悪魔を見た」「アジョン」「ベストセラー」なんか目じゃないんだって。

ただ音楽がねえ(笑)。
ずっと生音だけで来てたのに、ラスト、
バンゴンがヒョンジョンを追うシーンでちょっと音楽入れてるの。
それがちょっとダサイかな…?(笑)

それからエピローグはまったく余計。

画像

若い女の子二人が漁師のオジサンに舟に乗せてと言う。
と、このオジサンが「乗れ」と言ったあと呟くの。
「バカな女め」…(笑)。

これはだめ、絶対だめ、情状酌量じゃすませらんないよ(笑)。
これやると、バンゴン見たいな男はどこにでもいるんだよ、
赤頭巾ちゃん気をつけろ、に、なっちゃう。

そんなアホな!

バンゴンみたいな男はどこにでもいるわけじゃないよ。
そりゃ、男が「タマゴ」のときに大きな失敗をすると
誰でもバンゴンみたいになっちゃう可能性はあるけどさ。

そうでもない限りバンゴンみたいにはならないよ。

バンゴンはあくまで特殊なケース。
特殊だけど、人間、「タマゴ」の時期に育て方間違えられると、
こうなっちゃうよねえというお話なんだよ。

そうしないと、これ、アホみたいな物語になっちゃうぜ…!

で、誰だよ、こんな傑作作ったの? と思って後で調べたら…、
オー、ノー!

な、なんと、あの大傑作
「新装開店」を撮ったキム・ソンホン監督だったのよ!
だよねえ、あれも人肉を粉砕する話だったもんねえ…(笑)。

それはまあ冗談にしても、ホント、すごい傑作。
バンゴンの心も、ヒョンジョンの心も、ズシーンと来るよ。
観て!

ムン・ソングンとチュ・ジャヒョンにも大拍手…!

いやあ、韓国にもいいホラーあるじゃんか、たま~には…!(笑)


追伸)
稽古場で改めて音を大きくして観たら、前半から音楽けっこう使ってたよ。
小さく、あまり邪魔にならないように…。
その音楽も最後まで統一がとれてていいなとは思うんだけど、
それでも映像の雰囲気とは若干ズレてるような気がするかな…?


●ミントさん
プレッシャーを感じます(笑)。
ハズレたら、あのひとの趣味ってヘンなのねと
笑ってお許しいただけると幸いです(笑)。
はい、たけし似のムン・ソングン、「秘花 オー・スジョン!」に
出てましたね! 「ネオンの中へ陽が沈む」でも主役やってて、
すごくよかったです。
なんか俳優らしくない俳優だよなあと思ってたら、
元大企業の課長で、職を捨てて俳優になったひとみたいです(笑)。
「豚が井戸に落ちた日」をごらんになってる!
観たい観たいと渇望してたんですが、日本では発売されて
ないんですよね。
とにかくタイトルが大好きなんです! キム・ギドクの「魚と寝る女」
と、この「豚が井戸に落ちた日」は、韓国映画二大名タイトルだと
思ってます(笑)。原題は知らないのですが…。
それにホン・サンス監督の作品ですものねえ!
いつも考えに考えて作りますよねえ、そこがもう大好きな監督です。
考えたからといっていつも傑作になるわけじゃないけど、
観てると、ホン・サンスの中のドラマが見えてきて、
それに比べれば傑作がなんぼのもんじゃ!
と思わせてくれる、そんな名監督だと思ってます(笑)。
あの、もしかして「豚が井戸に落ちた日」を…?
まさか…、うそですよね?
あの、うそでもかまいませんので、住所書いておきます!(笑)
ブログ拝見したんですが、「別宅が本宅に」というアレ…、
あの山は日本の山ですか?(笑) まさかあの山の麓にあのお家が…?
なんだかビックリしました…(笑)。

ありがとうございました。


■98分 韓国 ミステリー/サスペンス
監督:キム・ソンホン
脚本:キム・ヨンオク
撮影:チョン・ハンチョル
出演:
ムン・ソングン チャン・パンゴン 養鶏業者
チュ・ジャヒョン カン・ヒョンジョン デザイナー
チョン・セホン カン・ヒョナ ヒョンジョンの妹 女子大生
オ・ソンス キム・サンウ 巡査 ソルソン(雪星)派出所 
ナム・ムンチョル トック 犬商人
ファン・ウンジョン ミジャ ピョンタバン(喫茶)ホステス
ソン・ゴヌ ホン監督
イ・ボンギュ 所長 イ・ボンギュ ソルソン(雪星)派出所
ソン・ヨンスン 老婆 

殺人本能を持っている連続殺人犯と彼の行為に無防備な女性たちを描いた衝撃リアリティースリラー。
何日も消息がない妹の連絡を待つ姉のヒョンジョンは,妹の携帯電話の位置を追跡した結果,ある田舎の村にいることを知る。
ヒョンジョンは,近隣の派出所に妹の失踪事実を知らせて捜査を依頼するが,証拠不充分で拒否され,単独で村の所々を歩きながら,消えた妹の行跡を探し始める。
ある目撃者を通して,村で老母の面倒を見ながら暮らすパンゴンの家の近所で妹を見たという話を聞くようになったヒョンジョンは,パンゴンの家を訪ねる。
なんだかわからない怪しさに警察と同行しようとするが,村の人々は,パンゴンはそんな人でないと肩を持ち,ヒョンジョンも思い直す。
去ろうとするヒョンジョンの前に現れたパンゴンは,ヒョンジョンが見せた写真の妹のネックレスを拾ったという話をし,ヒョンジョンは,もう一度パンゴンの家について行く。そして,そこで痕跡もなく消えた妹の事件を聞くようになり,彼女もぞっとする現場に出会うようになる。

 

山の手形成クリニック
マイティーサーバーの専用サーバー

ブログランキング・にほんブログ村へ  ブログん家

"失踪_(後) (2009)" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント